前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.122 (2010年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

リモートセンシング:宇宙から田んぼを見つめる科学の目
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

お米を主食にしている私たち日本人にとって、その年に水稲をどのくらい植えたかという情報 (作付け面積) を把握することは大切です。現在は、一部の田んぼを調査して日本全体の作付け面積を推定していますが、それでも全国の田んぼを調査するには多くの人手が必要です。そこで農業環境技術研究所では、衛星画像を使って水稲の作付けされた水田を見つけ出し、少ない労力で精度良く面積を把握する方法を開発しました。

水面で反射するマイクロ波(図)
水面はマイクロ波を鏡面反射する
イネの植物体で散乱するマイクロ波(図)
成長した水稲はマイクロ波を強く散乱する
田植期と水稲生長期のマイクロ波衛星画像の比較
田植期(左)と水稲生長期(右)のマイクロ波散乱の違いを利用して、作付けされた水田を検出する

最近は天気予報やニュースなどで人工衛星からの画像を見ることが多くなりました。人工衛星は、宇宙から、かなり広い範囲の写真を一瞬で撮ることができます。ただ、雲よりずっと高い所から撮るので、曇りや雨の時には雲の写真しか撮れません。これでは梅雨の時期などは地表の田んぼの状態は見えず、作付け面積を調べることはできません。

ところで医者は、レントゲンや超音波を使って体の中を調べることができます。同じように人工衛星の中には、雲を突き抜けてその下にある地表の様子を見ることのできる、レーダーと呼ばれるセンサーを持っているものがあります。このレーダーは、衛星からマイクロ波 (波長1ミリメートル〜1メートル) という目に見えない電磁波を出して、それが地表面で散乱して戻ってくる強さを観測します。

ただ、私たちがレントゲンの画像を見てもどこが病気なのか説明されないとわからないように、レーダーの画像も専門家でないと読み取ることが難しいのです。研究所ではこのレーダーの画像から水稲の作付け面積を調べる方法を開発しました。

衛星から出て田んぼに当ったマイクロ波は、田植のころには水面で鏡のように反射して衛星には戻らないため、衛星画像では黒っぽく写ります。一方、水稲が生長すると植物体で散乱されたマイクロ波の一部が衛星に戻るため、白っぽく写ります。この二つの時期の画像を比較することで、水稲の作付けされた水田を検出できるのです。また、開発した方法には、地理情報を組み合わせて精度を高める工夫がしてあります。

みなさんが安心しておいしいお米を食べ続けることができるよう、宇宙から科学の目を使うための研究が続けられています。

(農業環境技術研究所 生態系計測研究領域 石塚直樹)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成20年10月29日に掲載されたものです。

もっと知りたい方は・・・

前の記事 ページの先頭へ 次の記事