著者は、京都大学農学部で長く教鞭(きょうべん)をとり、日本土壌肥料学会長や日本ペドロジー(土壌生成・分類学)学会長、国際イネ研究所の理事などを務めた土壌研究者である。
この間、著者は土壌学の教科書だけでなく、「土とは何だろうか?」(京都大学学術出版会,2005)などの土壌についての一般向け解説書、「代替農業−永続可能な農業をもとめて」(自然農法国際研究開発センター,1992)、「農業と環境」(富民協会,1995)、「東アジア四千年の永続農業−中国、朝鮮、日本」(農文協,2009)など、土壌学にとどまらず農業や環境に関する著作に関与してきた。
経歴や著作からも分かるように、土壌生成・分類学を基本としながら、熱帯土壌学や水田土壌学を専門とし、環境保全型農業や農業史にも深く関わり、幅広い知識と現場での豊富な経験の持ち主でもある。その著者が、現在の世界の土が置かれている危機的な状況を憂えて、農家や学生だけでなく、農業に縁のない人々にも気軽に手にとってもらえるよう新書の形で出版した本である。
副題は少々思わせぶりだが、本文では、土のでき方、土をすみかとしている生物とその役割、土が持っているさまざまな機能について解説したのち、土を利用してきた農業の歴史、土の危機の現状と環境保全型農業による地力維持の取り組みに続き、こどもたちへの教育に土を取り入れることを提案して締めくくっている。借り物の知識を並べたものではない、自身の経験にもとづく分かりやすく迫力のある文が随所にある。また、多くの土に関係するカラー写真がこの本の分かりやすさを助けている。
普段、土に触れる機会の少ない方々に一読をお勧めしたい。
目次
第1章 土とつながるいのち
第2章 呼吸する土
第3章 土はどうやってできたのだろう
第4章 モンスーンアジアの水田とその土
第5章 日本の畑の土が水田を広めた?
第6章 いま土が危ない
第7章 土の中の生きものたち
第8章 土を肥やす
第9章 土を生かす