2010年6月16〜19日にイタリアのピサで開催された 「環境汚染とバイオ/ファイトレメディエーションによる環境浄化に関する国際集会(International Conference on ENVIRONMENTAL POLLUTION AND CLEAN BIO/PHYTOREMEDIATION)」に参加し、研究成果を発表しましたので報告します。
この研究集会は、ヨーロッパ各国で共同研究を行うための枠組みである COST (European CO-operation in the field of Scientific and Technical Research) の一環として、2004〜2009年に 「植物技術を利用した持続的土地利用と食品安全性の向上」 というテーマで行われた COST Action 859 を発展させ、生物機能を利用した環境修復 (植物:ファイトレメディエーション、微生物:バイオレメディエーション) に関する研究を行っている研究者の情報交換を継続させていこうという趣旨で開催されています。したがって、国際集会と言っても、発表者の大部分がヨーロッパの研究者であり、アジアからは私が1人だけ、ほかにはカナダ1、オセアニアが数人といった具合で、実質的にはEU域内の研究会という感じでした。
プログラムは、セッション1「有機・無機汚染物質に対する植物応答」、セッション2「植物利用による環境修復」、セッション3「根と土壌の相互作用」、セッション4「土壌微生物利用による環境修復」の4つのセッションに分けられ、セッションごとに基調講演、口頭発表、ポスター発表が行われました。私は、セッション2で「ズッキーニによる土壌中のディルドリン除去効果」に関する発表を行いました。
全体として、重金属(カドミウム、銅、ニッケルなど)とヒ素の植物吸収に関する発表が大部分を占め、ヨーロッパにおける「環境汚染」の当面の対象物質は、日本と同様に重金属であるようです。有機汚染物質に関しては、PCB や多環芳香族(PAHs)を対象とした植物共生によるバイオレメディエーションの発表が数題あった程度でした。今回は研究成果の発表と同時に、「ヨーロッパにおける有機汚染物質による作物汚染の状況」 についての情報収集にも期待して、いろいろな国の研究者に聞いて回ったのですが、重金属の研究者が多く、私たちが対象としている POPs(残留性有機汚染物質)の問題は、少なくとも一般的には注目されていないようです。
上に述べたように、“International Conference” を名乗っているわりには、こぢんまりとした研究集会で、イメージとしては国内学会の分科会といった感じでした。その分、ほとんどの研究者が顔見知りのようで、和気あいあいな雰囲気でした。EUという枠組みは、政治や経済の統合といった社会的な面だけではなく、研究交流という形で科学技術の面にも派生しているようです。アジアにおいても、このようなテーマを絞った「気楽な」研究集会を定期的に開催する枠組みがあると良いのにな、と思いました。
ピサと言えば「斜塔」ですが、食事でもしようと思って中心街に向かって歩いていくと、唐突に見えてきます。説明書きを読むと、建築中にすでに傾きはじめ、いったん工事を中断した後、中心軸をずらしてさらに上層を積んだところ、ますます傾いてきたのを無理くり作り上げてしまったようです。下層と上層で軸がずれているのが、写真でおわかりいただけるでしょうか。現在は、これ以上傾かないように地盤を固めてあり、最上層に登れるようになっています。
写真 ピサの斜塔
大谷 卓 (有機化学物質研究領域)