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農業と環境 No.125 (2010年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

気候変動に対応したコメ生産の最新技術に関するFAO/IRRI合同ワークショップ(6月 フィリピン(ロスバニョス))参加報告

2010年6月23日から25日まで、フィリピンの国際稲研究所(IRRI)で開催された 「気候変動に対応したコメ生産の最新技術に関する FAO/IRRI 合同ワークショップ (FAO/IRRI Joint Workshop on Advanced Technology of Rice Production for Coping with Climate Change) 」 に参加しました。国際稲研究所は1960年の設立から50周年を迎え、所内のいたる所に記念の幟(のぼり)が立てられ、過去の研究を紹介するパネルが展示されるなど、少しお祭りムードの漂う雰囲気でした。

このワークショップは、コメ生産における気候変動の適応策と緩和策に関する最新の知見を集約することを目的として、国連食糧計画(FAO)と IRRI が共催したものです。ワークショップのタイトルには、副題として 「適応と緩和の “後悔しない“ オプションとそれらの活用可能性 (‘No regret’ options for adaptation and mitigation and their potential uptake)」 がつけられており、地球温暖化対策として 「使える」 方策が現在どのくらいあるのか、また、今後、そのような方策を見出し、実際の農業の場で活用するにはどのような努力が必要か、という本ワークショップのテーマをうまく表していると思います。

3日間の会期のうち、最初の2日間はおもに適応策を、最終日は緩和策をテーマとして、それぞれ、最新の研究成果に関する話題提供と研究課題の抽出に関する議論が行われました。

適応策については、高温、渇水、洪水などに対応する品種選抜やそれらの影響を予測するためのモデル研究が紹介されたほか、各国の適応策に関する行動計画 (NAPA:National Adaptation Programmes of Action) の策定の重要性、農家への普及の方法や農民のトレーニング方法について、話題提供と議論が行われました。また、森林の減少・劣化からの温室効果ガス排出の削減 (REDD:Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation) に関する話題提供では、コスト、モニタリング、農家の権利など、その問題点が紹介されるとともに、REDD に炭素ストックの積極的な増加を加えた拡張概念である REDD+、さらに農業土地利用の問題も加えた REDD++ (またはREALU: Reduced Emissions from Agricultural Land Use) への拡張の必要性が示されました。

緩和策については、中国科学院南京土壌研究所の蔡 祖聰博士による稲わら管理、JIRCAS/IRRIの宝川主任研究員による節水栽培 (AWD: alternate wetting and drying) とともに、私が “Potentials and Uncertainties of the Options for Mitigating Methane Emissions from Paddy Fields” と題する講演を行い、地球規模での発生量推定の不確実性やわが国の水管理によるメタン発生抑制に関する事業の成果を報告し、水田における温室効果ガス排出緩和策を展開する場合の問題点を論じました。

そのほか、IRRI の研究者から、IRRI における適応策、緩和策に関する研究報告がありました。最終セッションでは、出席者全員で今後の研究課題の優先度に関する議論を行い、適応策については高温および干ばつ耐性品種の育成、緩和策については水管理方策について、高い優先度が示されるとともに、今後の研究ネットワークの維持・発展の重要性が認識されました。

農業環境技術研究所における水稲耕作に伴う温暖化適応策および緩和策研究は、IRRI における研究目標や実際の活動と一致する点が多く、引き続き、可能な連携を探っていくことが重要であると思われます。とくに、IRRI が中心となって、今後の推進が計画されている CGIAR グループの GRiSP (Global Rice Science Partnership) プロジェクトへの関与を検討する必要があると思われます。なお、今回のワークショップのコーディネーターである IRRI 気候変動研究コンソーシアムリーダーの Dr. Reiner Wassmann には、9月1−3日につくばで開催する 「水田管理と温室効果ガス発生・吸収に関する MARCO/GRA 合同ワークショップ」 への参加と基調講演をお願いしています。

八木一行(研究コーディネータ)

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