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農業と環境 No.129 (2011年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第11回遺伝子組換え作物のバイオセーフティ国際シンポジウム(2010年11月 アルゼンチン(ブエノスアイレス)) 参加報告

第11回 遺伝子組換え生物の安全性に関する国際シンポジウム (11th International Symposium on the Biosafety of Genetically Modified Organisms (ISBGMO)) に参加しましたので報告します。

シンポジウムが行われたGareria Pacifico(写真)

写真1 シンポジウムが行われた Gareria Pacifico

このシンポジウムは、1990年から2年に一度開催されており、遺伝子組換え作物や動物の安全性をどのように評価するのか、安全に管理するためにどのような規則を作るのかなどについて議論する、世界で唯一の国際シンポジウムです。大規模な遺伝子組換え作物の栽培を行っている南・北アメリカ、組換え作物と組換えでない作物の共存政策が進んでいるヨーロッパの国々、これから遺伝子組換え作物の栽培が本格化されるであろうアジアやアフリカの国々、あわせて27か国から、200人以上の参加者がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの Gareria Pacifico (写真1) に集いました。会場に着いてびっくりしたのですが、日本でいえば銀座のデパートの中に会場があるような立地で、同じ建物の中にブランドショップやファッション系のショップ、フードコートなどがあり、隣接する通りは多くの観光客やサラリーマン、若者で賑(にぎ)わっていました。

今回は南米で初めての開催ということで、南米でGMダイズを大規模に行っているブラジルやアルゼンチンだけでなく、パナマやコスタリカ、パラグアイ、ウルグアイ、コロンピアからも参加があり、スペイン語でのセッションも開かれました(英語の同時通訳あり)。11月15日から20日までの開催期間は、季節が春から夏になる時期で、公園や道路脇にアルゼンチンの国花であるアメリカデイゴや紫色のジャカランダ(写真2)が咲いていました。

アメリカデイコ(左)とジャカランダ(右)(写真)

写真2 アメリカデイゴ(左)とジャカランダ(右)

このシンポジウムの特徴の一つは、特定分野の専門家、研究者だけでなく、EUの機関、各国の農業関係の行政担当者も参加するという点にあり、今回のシンポジウムでは、その両者をつなぐテーマとして 「政策決定過程における組換え生物の安全性研究の役割」 が掲げられました。これは、遺伝子組換え生物をあつかう行政担当者と研究者にとって、じつはたいへん切実なテーマです。研究者は、科学的に意味のある(有意な)結果が得られると、これで研究は終了と考えるのですが、政策を決定する行政担当者のほうは政策に反映するためのデータを求めるため、両者の間にしばしば乖離(かいり)ができてしまう場合があります。われわれ農林水産省所管の研究者にとっても、得られた知見をどのような形で行政担当者に受け渡すかは、重要なポイントです。

今回、私は、「遺伝子浸透、定着性、侵入性」 のセッションで、雑草リスク評価の手法を遺伝子組換え作物に適用し、遺伝子組換え作物が日本の生物多様性に与える影響を評価する試みについて発表しました。オーストラリアの研究者も口頭発表の中で、雑草リスク評価の考え方はGMにも適用可能であると述べていましたし、ヨーロッパの研究者からもこの手法についてはよいアイデアであり、自分の国でも使えそうなので、関連文献を送ってほしいと言われ、たいへんうれしく思いました。

私にとってこのシンポジウムへの参加は、フランス、韓国、ニュージーランドでの開催に続いて4回目になりますが、「主要作物の遺伝子流動などに関する科学的な知見」 は、2年前に開催されたこのシンポジウムまでにすでに収集され、今回の開催では「マイナークロップでの遺伝子組換え流動」、「環境に耐性をもつ新しいGM作物についての評価への取り組み」という研究が多く、この分野の研究は新しい段階に入った感がありました。

ほ場見学のようす(写真)

写真3 ほ場見学のようす(奥の緑色の畑はヒヨコマメ)

シンポジウムの最終日には、ほ場見学があり、アルゼンチンの郊外を訪問しました。広がる草原はパンパと呼ばれ、関東平野の約60倍の広さがあり、どこまでも地平線が広がっています(写真3)。そこで放牧される牛たち、脂(あぶら)の少ない歯ごたえのある牛肉のおいしさ、安さを考えると、日本とはまったく違う畜産のシステムが確立されていることがわかります。また、アルゼンチンの遺伝子組換え作物の栽培面積はアメリカ、ブラジルに次ぐ世界3位で、とくに遺伝子組換えダイズの不/低耕起栽培を採用した大生産地ですが、われわれが訪れた時期には、ダイズのは種には時期が早く、残念ながらダイズ畑を見ることはできませんでした。しかしながら、コムギや豆類、トウモロコシなどの作物のほ場は、1区画が数ヘクタールもあり、日本ではみられない機械類、散水装置の大きさにも圧倒されました。

最後に、私にとって初めての南米の感想ですが、渡航前はなにかしら危ないイメージがありました。ホテルの近くには、ケチャップ強盗が出るので行かないほうがよいと言われたサン・マルティン広場がありましたし、シンポジウム会場ではカメラの盗難が発生しました。近郊にはスラム街、公園にはホームレスも多く、車が信号で停車すると花やコーラを売りに来る人々もいて、低所得者が多いことがわかります。また、インフレ率は毎年20%以上と、アルゼンチンの経済は悪い状態です。しかしながら、街は、ヨーロッパ調のレトロな建物が立ち並び、さすが南米のパリという雰囲気(ふんいき)でした。また、歩道でのりのりでタンゴを踊るおじさんや、ところ構わず抱擁(ほうよう)するカップル、夜遅くまで騒いでいる若者たち、街頭のテレビのサッカー観戦で声をあげる人たちを見ていると、そこで暮らす人たちは、人生の楽しみ方を日本人よりよっぽど知っていると思えました。日本からブエノスアイレスまでは、乗り継ぎ時間も含めると24時間以上かかり、昼夜が完全に逆転する時差で苦労も多かったのですが、興味のあるセッションも多かったシンポジウムに参加できたことは、とても有意義でしたし、陽気でたくましく暮らす人たちからたくさんのパワーをもらった気がしました。

次回、「第12回遺伝子組換え生物の安全性に関する国際シンポジウム」 は、2012年に米国・セントルイスで開催される予定です。

(生物多様性研究領域 吉村 泰幸)

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