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農業と環境 No.129 (2011年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 15N および 18O トレーサーを用いた土壌からの亜酸化窒素発生経路の解析

Nitrifier denitrification can be a source of N2O from soil: a revised approach to the dual-isotope labelling method
D. M. Kool et al.
European Journal of Soil Science, 61, 759-772 (2010)

亜酸化窒素(N2O)は農耕地から発生する主要な温室効果ガスのひとつであり、農耕地土壌からの N2O 発生量は地球全体の人為的発生量の24%を占めると推測されている。

NH4+、NH2OH、NO2-、NO3-などからN2Oが生じるまでの過程 (化学反応式)

図 土壌からの N2O 発生に関与する主要な過程

土壌からの N2O 発生には、これまで、硝化細菌による硝化 (Nitrifier Nitrification)(NN) と脱窒細菌による脱窒(肥料由来の脱窒 (Fertilizer Denitrification) (FD)あるいは硝化に伴う脱窒 (Nitrification-Coupled Denitrification)(NCD) )という二つの過程がおもに関与していると考えられてきた。しかし、近年になって硝化細菌による脱窒 (Nitrifier Denitrification)(ND)の重要性が指摘されてきている。

実際、単離された硝化細菌のなかには、亜硝酸イオン(NO2- )から N2O を生成する能力をもつものや、NO2- 還元酵素や NO 還元酵素をコードする遺伝子配列をもつものが存在する。しかし、土壌中でNDが実際にどの程度関与しているかについては、アセチレン阻害法を用いた研究や 15N トレーサーを用いた研究が行われているものの、いくつかの欠点を抱えており、これまで信頼できる証拠が得られていなかった。

ここで紹介する論文は、近年著者らによって開発された 15N および 18O トレーサーを用いた手法にさらに改良を加え、土壌からの N2O 発生を経路別に(半)定量化し、NDがどの程度関与しているかを調査したものである。

研究グループは、森林、草地、耕地それぞれ4地点、計12地点から採取した風乾土壌を1サンプルにつき4セット用意し、18O で標識した 水(H2O)、18O で標識した硝酸イオン (NO3-)、15N で標識したNO3-15N で標識したアンモニウムイオン (NH4+) をそれぞれ別の土壌に加え、さらに最終的なイオン濃度が等しくなるように H2O、NH4+、NO3- を添加し、密閉容器で培養した。28時間後にヘッドスペースガスおよび土壌を採取し、N2O、NH4+、NO3- 濃度および安定同位体比を測定した。

N2O 発生の経路ごとの定量は以下の方法で行った。まず、15N で標識した NO3- あるいは NH4+ から発生した N2O の濃度と同位体比から、NO3- に由来する N2O (= N2O (NO3-) = N2O(FD) ) と NH4+ に由来する N2O (= N2O (NH4+ ) = N2O (NN) + N2O (ND)+ N2O (NCD)) の比を算出する。次に、H2O から N2O への O の取り込みの比率が経路によって異なることを利用し、N2O(NN)、N2O(ND)、N2O(NCD)を区別する。

解析の結果、NH4+ に由来する N2O 発生量は森林土壌ではほとんど無視できる量であったが、草地および耕地土壌では 20-30 μg N2O-N kg-1 soil と一定の範囲に収まっていた。一方、NO3- に由来する N2O 発生量は 0.3-1005 μg N2O-N kg-1 soil と土壌サンプルによって大きく異なっていた。また、草地および耕地土壌の NH4+ に由来する N2O 発生のうち、ND経路によるものの割合の理論上の最大値は1サンプルを除けば100%となりえる。また少なくとも5つのサンプルについてはND経路による N2O 発生が確かに起こっていることが確認された。一方、NN経路による N2O 発生の総 N2O 発生に占める割合は最大でも10%未満であった。

土壌からの N2O 発生プロセスに関する研究は、発生抑制技術の開発と密接なかかわりがあるために以前から盛んに研究が進められているが、いまだに解明されていない部分を数多く残している。今回紹介した N と O のトレーサーを用いた解析手法は、発生経路ごとの推定値を一定の範囲でしか表せない(理論上の最大値と最小値しか求められない)などの欠点を残すものの、今後のプロセス研究を進めていく上で強力なツールとなるかもしれない。

(物質循環研究領域 中島泰弘)

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