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農業と環境 No.130 (2011年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

アジア太平洋地域における持続可能な食料生産のための機能的生物多様性の増強に関する MARCO−FFTC 国際セミナー が開催された

作物害虫に対する天敵類のはたらきや訪花昆虫による花粉媒介は、農業が生物多様性から受けている重要な生態系サービスのひとつです。近年、生物多様性の急速な損失が懸念されていますが、持続的に食料を生産するためには、天敵や花粉媒介虫など、農業にとって有用な機能的生物多様性の維持・増進が不可欠です。

そこで、農環研、果樹研究所、アジア太平洋食料肥料技術センター (FFTC) は、2010年11月、つくば国際会議場(茨城県つくば市)において、「アジア太平洋地域における持続可能な食料生産のための機能的生物多様性の増強に関するMARCO(モンスーンアジア農業環境研究コンソーシアム)-FFTC国際セミナー」 を開催し、アジア太平洋地域において機能的生物多様性の増強をはかるための問題点と解決策を討議しました。

基調講演 (セッション1) では、まず英国生態学・水文学センターの M. S. Heard 博士から、農業生態系における生物多様性保全の取り組みに関する英国の先進的な事例についての紹介があり、次いで、埼玉県農林総合研究センターの根本博士から、日本における天敵利用の現状として、生息地管理による土着天敵の利用例が紹介されました。

その後2日間にわたり、3つのセッションで合計19題の講演が行われました。セッション2では、「農業生態系における機能的生物多様性の増強」 というテーマで、ミツバチ、ハナバチ類の減少や新たな野生種の利用の試みなど花粉媒介虫に関する7題と各国の生物的防除の事例など天敵利用に関する5題の話題提供がありました。セッション3 「農業環境における機能的生物多様性」 では、景観構造と生物多様性の関係や微生物の多様性などに関する4題、セッション4 「機能的生物多様性を評価する指標の選抜と利用」 では、わが国で現在実施されている農林水産省委託プロジェクト 「農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発」 の成果を中心に生物多様性の指標生物の開発とその利用に関する3題の話題提供がありました。

総合討論では、指標開発の必要性や温暖化影響の解明など、今後取り組むべき問題点について討議し、最後に、生物多様性研究の推進に向けた協力体制を築いていくことを合意して閉会しました。

参加者は、海外から25名、国内から38名、合計63名でした。

開催日: 2010年11月9日(火曜日) 〜 10日(水曜日)

場所: つくば国際会議場 202会議室

主催: 農業環境技術研究所、 果樹研究所、 アジア太平洋食料肥料技術センター(FFTC)

プログラム

11月9日(火曜日)

  9:40 開会挨拶

農環研理事長、 果樹研所長、 FFTC 副所長

10:40 Session 1 基調講演

農地における生物多様性の増強

Matthew S. Heard(英国生態学・水文学センター)

日本における天敵と害虫防除のための生息地管理の現状

根本 久(埼玉県農林研究センター)

13:00 Session 2 農業生態系における機能的生物多様性の増強

(A:花粉媒介虫)

周辺の多様な生態系と花粉媒介虫が作物の受粉に及ぼす効果

滝 久智 (森林総研)

マレーシアの農業生態系における花粉媒介サービスのためのハリナシバチの保全と持続的利用

Mohd Norowi Hamid (MARDI、マレーシア)

台湾の熱帯・亜熱帯における先進的なミツバチの健康管理と養蜂

Yue-Wen Chen(国立宜欄大学)

ミツバチの行動と生理に及ぼす殺虫剤の影響

En-Chen Yang(国立台湾大学)

韓国における花粉媒介虫の研究の現状と農業利用

Hyung-Joo Yoon(韓国農業科学院)

花粉媒介虫の多様性喪失の影響―台湾の事例―

Jung-Tai Chao(台湾林業試験所)

台湾における作物の花粉媒介虫としての野生ハナバチ

I-Hsin Sung(台南区農業改良場)

(B:天敵の多様性と増強)

台湾の生物的防除における天敵とその利用

Chi-Feng Lee(台湾農業研究所)

11月10日(水曜日)

  9:00 ベトナム紅河デルタにおけるトビイロウンカの大発生と関連する害虫および天敵の種多様性

Ho Thi Thy Gian(ハノイ農業大学)

タイにおける重要害虫の天敵と生物的防除手段としての利用

Wiwat Suasaard(カセサート大学)

在来天敵を利用したバナナ害虫 バショウゾウムシの古典的生物的防除

Ahsol Hasyim(インドネシア野菜研究所)

ミャンマーにおけるインゲンモグリバエの天敵

Thi Tar Oo(イエジン農業大学)

11:20 Session 3 農業環境における機能的生物多様性

景観構造が機能的生物多様性に及ぼす影響

山本勝利(農環研)

害虫管理におけるS&T技術移転の様式

Jocelyn A. Eusebio-Eusebio
(フィリピン農業資源研究会開発協議会)

土壌微生物の多様性と機能に対するメタゲノム的アプローチ

藤井 毅(農環研)

韓国における食糞性生物(無脊椎動物)の多様性と土壌生態系における役割

Hea-son Bang(韓国農業科学院)

14:30 Session 4 機能的生物多様性を評価する指標の選抜と利用

日本における水田生態系の機能的生物多様性を評価するための指標生物の選抜

田中幸一(農環研)

日本における畑圃場の機能的生物多様性を評価するための指標生物の選抜

井原史雄(果樹研)

下草栽培による果樹園における多様性指標となる天敵の維持

三代浩二(果樹研)

16:20‐17:00 総合討論

11月11日(木曜日)

現地視察(食と農の科学館、果樹研ほ場 ほか)

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