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農業と環境 No.131 (2011年3月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

天野達也 生物多様性研究領域研究員: 日本生態学会宮地賞を受賞

農業環境技術研究所の 天野達也 生物多様性研究領域研究員が、第15回日本生態学会宮地賞を受賞します。

この賞は、生態学に大きな貢献をしている日本生態学会の若手会員に対して、その研究業績を表彰し、日本の生態学の一層の活性化を図ることを目的とするものです。

2011年3月8日から札幌で開催される 日本生態学会第58回大会 において、授賞式および受賞記念講演が行われます。

受賞記念講演の要旨は次のとおりです。

階層的な生物動態の理解・予測に挑むモデリング

天野達也
(農業環境技術研究所)

近年、生態学においてモデリングが果たす役割の重要性が高まっている。生態学が対象とする生物の動態は、しばしば幅広い時空間スケールで多くの要因から影響を受ける。そのため実験的アプローチを適用できないことも多く、生物の動態を模倣することでメカニズムを推測するモデリングが、強力な研究アプローチとなり得る。特に、あらゆる時空間スケールで人類が環境を改変している現在、その生物多様性に与える影響を理解し予測するためにも、生物動態のモデリングは必須である。

多くの生物動態は、時空間スケールによって異なる生態学的プロセスに支配されており、また異なる時空間スケールでは得られるデータがもつ情報量やその質も異なる。このような条件下で生物動態を包括的に理解するためには、スケールの階層構造を意識したモデリングアプローチが必要不可欠となる。

私はこれまで主に農地に生息する生物を対象とし、プロセスモデルと統計モデルを取捨選択することで、個体群・群集の動態を階層的スケールの視点から包括的に明らかにする研究に取り組んできた。局所・数分〜数ヶ月というスケールでは調査で得られる情報量も多く、プロセスモデルの構築が有効となる。そこで、個体の意思決定を基盤とした個体ベースモデルを構築し、農地環境の変化が鳥類個体群の動態に及ぼす過程を明らかにした。一方で、景観〜国土・数年〜数百年というスケールで多種を対象とする場合、詳細なプロセスの解明は一般に困難である。そこで、景観要素と鳥類の空間分布との関係や、広域・長期での個体群や群集の動態といったパターンを統計モデルで定量化し、生態的特性との関係を検証することで、農業活動や気候変動といった生物多様性の駆動要因が及ぼす影響を推測した。これら一連の研究では、対象となる事象やスケールによって異なるモデリング手法を適用し、生物の時空間動態とその駆動要因について包括的な理解を深めることができた。

生態学のモデリングが今後追求すべき目標の一つは、複雑で多様な生物動態を如何に予測するかであろう。特に地球規模で環境の改変が進む近年、広域・長期スケールでの生物動態を限られた情報量で予測するプロセスモデルの開発は、挑戦的な課題であると言えよう。様々な時空間スケールで生物動態を支配するプロセスの抽出と、それを効率的にモデリングする手法の探求は、今後も生態学の重要な課題であり続けるに違いない。

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