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農業と環境 No.132 (2011年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

横山淳史 有機化学物質研究領域研究員:平成23年度 日本農薬学会奨励賞を受賞

農業環境技術研究所の 横山淳史 有機化学物質研究領域研究員が、平成23年度 日本農薬学会奨励賞を受賞しました。

この賞は、日本農薬学会会員の中から、農薬の科学・技術の面で優れた研究をなし,なお将来の発展を期待し得る満40歳以下の日本農薬学会会員に授与し表彰するものです。

なお、授賞式および受賞記念講演が、3月16日から玉川大学(東京都)で開催予定だった 日本農薬学会第36回大会 (リンク先ページのURLを修正しました。2015年1月) の中で行なわれる予定でしたが、3月11日に発生した「東北関東大震災」により、大会の開催が中止されています。

受賞理由と研究内容は以下のとおりです。

河川水生昆虫に対する農薬の影響評価法に関する研究

横山淳史
(農業環境技術研究所)

受賞理由

わが国の河川生態系の代表的一次消費者である水生昆虫に対する農薬の生態影響評価法を初めて開発し、コガタシマトビケラを試験生物化した。それに基づいて蓄積したデータおよび解析結果は、科学的価値に加えて、行政的にも注目を浴びた。さらに、この研究成果は国内外の学会や学術雑誌で公表されるだけでなく、その試験法の一部はマニュアル化してWeb公開している点が高く評価され、日本農薬学会で奨励賞を受賞した。

河川生態系は、様々な生物種が、空間的・季節的に複雑に絡み合って成立している。また、そこに流れ込む物質も様々である。今後本研究が、農薬だけでなく、農業が河川生態系に及ぼす影響の評価に貢献することを期待する。

研究内容

わが国の農薬登録制度では、OECD テストガイドラインに準拠して、水産動植物への生態影響評価が導入されているが、この影響評価は主に湖沼に生息する水生生物を対象としている。一方、わが国の農耕地の半分は水田であり、水田に直接つながっている河川では流水に適応した水生昆虫が重要な水生生物となっている。現在、この水生昆虫に対して農薬の影響を適切に評価できないのではないかと懸念されている。

しかし、流水に生息する水生昆虫は、室内飼育が難しく、毒性試験法も複雑になる等、これらを用いた影響評価法の開発は国内外で進んでいない。

そこで、以下に示すようにわが国の河川に生息する水生昆虫の代表種であるコガタシマトビケラ ( Cheumatopsyche brevilineata、以下トビケラと略す) の室内飼育法と簡便な急性毒性試験法を開発した。

1.回転流水式飼育装置や人工飼料を開発・検討して、トビケラの室内累代(るいだい)飼育(人工環境で連続的に繁殖させること)に成功した。これにより試験個体の安定的な供給が可能となった(論文1)。

2.さまざまな物理化学的性質を持つ農薬のトビケラへの影響を調べるために、簡便な1齢幼虫の急性毒性試験法を開発した。また、これらの感受性データを OECD テストガイドラインの標準試験生物種であるミジンコ類と比較し、トビケラがミジンコ類とは異なる薬剤感受性を示すことを明らかにした(論文2,3)。

3. 成長段階(1〜5齢幼虫)ごとの急性毒性試験法を開発し、殺虫剤に対する感受性が幼虫の成長にともなって変化することを明らかにした(論文4)。

4. 各地から集めたトビケラの毒性試験の結果から、殺虫剤感受性が他のトビケラ類と同程度であることを示した。また、文献調査から、トビケラは、ミジンコ類に比べ水生昆虫に対する代表性が高く、有用な試験生物種であることを示した(論文2)。

以上のことから、トビケラを用いた本評価法を活用することにより、わが国の河川環境を反映した生態影響評価が可能となり、環境保全と両立した安定的・持続可能な農業生産活動に貢献できると考えられる。

文献リスト

1) Yokoyama, A., K. Hamaguchi, K. Ohtsu, S. Ishihara, Y. Kobara, T. Horio, S. Endo (2009) A method for mass-rearing caddisfly, Cheumatopsyche brevilineata (Iwata) (Trichoptera: Hydropsychidae), as a new test organism for assessing the impact of insecticides on riverine insects, Applied Entomology and Zoology, 44(2), 195-201

2) Yokoyama, A., K. Ohtsu, T. Iwafune, T. Nagai, S. Ishihara, Y. Kobara, T. Horio, S. Endo (2009) A useful new insecticide bioassay using first-instar larvae of a net-spinning caddisfly, Cheumatopsyche brevilineata (Trichoptera: Hydropsychidae), Journal of Pesticide Science , 34(1), 13-20

3) 横山淳史 (2009) 農薬の生態影響を評価する新しい試験生物種コガタシマトビケラ, 農業技術, (財)農業技術協会, 64(7), 311-316

4) Yokoyama, A.,K. Ohtsu, T. Iwafune, T. Nagai, S. Ishihara, Y. Kobara, T. Horio, S. Endo (2009) Sensitivity difference to insecticides of a riverine caddisfly, Cheumatopsyche brevilineata (Trichoptera: Hydropsychidae), depending on the larval stages and strains, Journal of Pesticide Science, 34(1), 21-26

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