当研究所の稲生圭哉 農業環境インベントリーセンター主任研究員、與語靖洋 有機化学物質研究領域長らの共著論文が、平成23年度日本農薬学会論文賞を受賞しました。
この賞は、日本農薬学会の会誌に掲載された報文の中から、農薬の科学・技術の面で優れた研究論文に授与し表彰するものです。
受賞論文の概要は以下のとおりです。
Improved PADDY model including photoisomerization and metabolic pathways for predicting pesticide behavior in paddy fields:
Application to the herbicide pyriminobac-methyl
(光異性化および代謝分解を考慮した水田における農薬挙動予測モデル(PADDY)の開発: 除草剤ピリミノバックメチルへの適用)
稲生圭哉、水谷浩之、與語靖洋、池田光政
日本農薬学会誌 34, 273-282 (2009)
(概要)
水田雑草であるノビエに卓効を示す水稲用除草剤ピリミノバックメチルは、有効成分である2種類の異性体( E 体と Z 体)の混合物であり、農薬製剤中には、E 体と Z 体がほぼ5対1の割合で含まれる。水中のピリミノバックメチルは、太陽光による構造変化(光異性化)が速やかに起こり、E 体と Z 体はほぼ1対 1.35 の割合で平衡に達する。また、土壌中の微生物により E 体と Z 体のそれぞれから生成される2種類の主要な分解物が認められている。
本研究ではピリミノバックメチルを対象とし、水田における光異性化および代謝分解を考慮した挙動予測が行えるように PADDY モデル(水田一筆の中での農薬濃度を予測するモデル:稲生 2004 年 (最新のURLに修正しました。2012年1月))を改良した。田面水(でんめんすい)中における E 体と Z 体間の異性化は、紫外線(波長 280 〜 315 nm)によって進行する可逆的反応として表現した。改良したモデルの検証を行うため、水田ライシメータや水田ほ場におけるピリミノバックメチルおよび主要な代謝分解物の消長を実測した。
田面水中における E 体の実測値は、散布直後に最高濃度に達したのち減少したが、Z 体は散布後1日から3日で最高濃度に達した。これは、光異性化反応により E 体が Z 体に速やかに変化したことによると考えられた。改良型 PADDY モデルは、光異性化反応を考慮することにより、田面水中におけるピリミノバックメチルの挙動を精度よく予測することができた。また、土壌中で生成される主要な代謝分解物についても予測できることが示された。