4月11日、平成23年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者が文部科学省から公表され、当研究所生態系計測研究領域の井上吉雄上席研究員が「植物生理生態情報及び生態系動態の遠隔計測手法に関する研究」 で 科学技術賞(研究部門) を受賞しました。
受賞業績の概要は次のとおりです。
植物生理生態情報及び生態系動態の遠隔計測手法に関する研究
農業管理や作物生産の予測、炭素循環など、食糧・環境施策の基礎となる情報を地域から地球までの規模で把握するため、植物や生態系の動態を広域的かつ定量的に計測・評価する方法の開拓が大きな研究課題となっていました。
この研究では、可視光からマイクロ波にわたる広範囲の電磁波を計測することにより、植物の環境ストレス、窒素含有量、光合成効率、CO2 フラックスなど、生理生態的な機能や成分に関わる特性を評価するための基礎知見を解明しました。また、航空機センサや地球観測衛星によるリモートセンシングデータを用いた作物の診断・管理のための情報計測手法を確立するとともに、生態系規模の炭素貯留量などを解明しました。
この研究によって、植物の生育量・成分・生理機能ならびに生態系動態のリモートセンシング手法の開発に重要なブレークスルーがもたらされたことは、農業情報収集の高精度化と大幅な省力化や、地球観測衛星などによる地球生態系の広域的・恒常的な監視システム構築を支える新機軸となります。
また、この成果は、産地規模での作物管理の効率化や生産物の付加価値向上、生態系管理を通した温暖化の軽減対策や適応対策などの意思決定において重要な役割を果たし、今後さらに、食糧生産と環境保全における施策などに対しても、大きく寄与することが期待されます。
主要論文:
1) Normalized difference spectral indices for estimating photosynthetic efficiency and capacity at a canopy scale derived from hyperspectral and CO2 flux measurements in rice.
(植物の光合成容量と光利用効率を遠隔評価するための正規化分光指数−水稲群落におけるハイパースペクトラとCO2 フラックス計測データに基づいた解析−)、
Remote Sensing of Environment、Vol.112、p.156-172、2008年4月発表
2) Season-long daily measurements of multi-frequency (Ka, Ku, X, C, and L) and full-polarization backscatter signatures over paddy-rice field and their relationship with biological variables.
(イネ群落における多周波全偏波後方散乱信号の長期連続計測および群落の生物学的変量との関係)、
Remote Sensing of Environment、Vol.81、p.194-204、2002年8月発表