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農業と環境 No.133 (2011年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

對馬誠也 農業環境インベントリーセンター長: 日本植物病理学会賞を受賞

農業環境技術研究所の 對馬誠也 農業環境インベントリーセンター長が、平成23年度日本植物病理学会賞を受賞しました。

この賞は、日本植物病理学会員のうち、植物病理学上顕著な業績を挙げた者、または顕著な功績のあった者に贈られるものです。

3月27日から開催される平成23年度日本植物病理学会定期大会で、授賞式と受賞者講演が行われる予定でしたが、3月11日に東日本大震災が起きたため、大会の開催は中止されました。

受賞理由と研究内容は以下のとおりです。

イネもみ枯細菌病の発生生態と防除に関する研究

對馬誠也
(農業環境技術研究所)

受賞理由

あなたはイネもみ枯細菌病について 病原細菌の選択培地を開発し 穂や籾単位での発病検定法を開発することにより イネにおける病原菌の感染閾値および経時的変動に基づく発病条件を明らかにしました

また水田群落での病原細菌による発病機構ならびに伝染経路を解明し ミクロフローラの解析を活用した生物的防除研究による 総合的防除戦略の確立に貢献されました

これらの業績は学術上 応用上寄与するところ多大であります

よって日本植物病理学会は会則第3条の規定により日本植物病理学会賞ならびに記念品を贈呈します

研究内容

氏は、西南暖地で問題となっていたイネもみ枯細菌病について、本田での発病機構(一次伝染、二次伝染)を明らかにし、栽培品種・雄性不稔系統の抵抗性、病原菌数/発病株を指標とした発生予察法、生物防除の有効性を示した。同時に、研究遂行のため、継代培養に伴う病原菌の病原性低下要因を解明し、さらに選択培地や、籾(もみ)・穂を用いた精度の高い発病検定法を開発した。IPMや環境保全型農業の推進では、発生状況に応じた効率的防除が求められ、そのためには病害の発生生態や感染閾値(いきち)などに基づいた防除戦略が必要である。本成果は単に本病の防除に役立つだけでなく、こうした取り組みのモデルケースとしても意義がある。また本成果は国内以外にフィリピン、韓国、米国など諸外国での生態・基礎研究で広く引用されている。その他、現在、菌密度と発病の関係や変異菌の出現の成果は本病原菌のクオラムセンシング機構の研究に、抵抗性系統(雄性不稔系統)は、本病の育種事業に役立っている。

1) イネもみ枯細菌病菌の継代培養に伴う病原力低下の原因解明

本病原菌はジャガイモ半合成培地で継代すると病原力が低下し、その原因として培養菌液中のコロニー形態変異菌(R1、R2型)の出現が関与していることを明らかにした。R1、R2型菌単独接種及び野生株S型菌との混合液接種区の発病程度はいずれもS型菌単独接種区より低下し、R1、R2型菌培養液中にS型菌の病原力低下因子が含まれることを示唆した。これらの試験の結果、病原力検定や抵抗性検定の際にはS型菌を供試する必要があることを提案した。

2) イネもみ枯細菌病菌の選択培地の開発

イネ体から病原菌を特異的に分離する選択培地(S−PG培地)を開発した。S−PG培地で本病原菌はA型、B型の2種に分かれ、A型は主に西南暖地、B型は関東、北陸に多い傾向が見られた。本選択培地は国内外の本病の生態研究の推進に貢献した。

3) 発病要因の解析と発病検定法の開発

品種抵抗性試験の結果が地域等で異なる理由を解明するため、発病に及ぼす要因(病原菌の病原力・菌数、イネの感受性、気象要因)を詳細に調べ、それに基づき精度の高い発病検定法を開発した。この検定法等を用い、本病の感染域値(約 103〜104 cfu/g)、病原菌の増殖様式(開花後に小穂の内側基部で急激に増殖して 109 cfu/g で病徴を発現)を明らかにし、さらに抵抗性弱品種、抵抗性強系統(雄性不念系統)があることを初めて報告した。この成果は抵抗性育種に現在に使われている。

4) 生物防除の有効性提案

感染時期がきわめて限られていることを利用して、病原菌に拮抗性の強い微生物の活用が有効であると考え、実際に、微生物資材を発見して有効性を明らかにした。

5) 本田でのイネ体での菌密度、発病機構及び防除戦略

ポット・ほ場試験により葉鞘での病原菌数の経時的変動、群落内の発病株の分布様式を明らかにした。この結果と感染域値(前述)から、止葉葉鞘の病原菌(数)が穂の一次発病に重要であること、最高分げつ期の葉鞘の病原菌数が止葉葉鞘保菌率に影響すること、葉鞘単位の菌数調査により群落内の止葉葉鞘保菌率が推定できることを示した。更にイネ群落の感受性の推移と伝染試験結果から一次発病穂の発生時期・程度が「坪形成」(二次発病)に関与することを明らかにした。この結果、本田発生要因として「菌の止葉葉鞘への移行条件」、「一次伝染条件」、「二次伝染条件」が重要であり、節間伸長期の栽培管理や、止葉葉鞘保菌率と重症穂数による一次・二次発病の予測に基づく対策が防除に役立つことを提案した。小穂基部での病原菌の増殖( 109 /g葉鞘で発病)抑制が防除に有効と考え、小穂基部で増殖可能な拮抗菌を選抜し、発病を顕著に抑制する拮抗菌 Kyu891 株を発見した。これにより、もみ枯症の生物防除剤の有効性をはじめて紹介した。

6) 微生物インベントリーからみた防除戦略の提言

2000年代には、イネ、ムギ、いちごなど作物の葉面微生物相の解析研究から、作物には優占菌群が存在することを示し、作物によって、生物防除材の選抜の際には葉面微生物として定着できるかどうかを考える必要があることを示した。また、イネの穂の病原菌にもイネ葉鞘・穂に定着しにくいものと常在的に生息しているものがあることを明らかにし、その程度によって防除戦略を考える必要があることを示した。具体的には、イネ(品種 コシヒカリ)の葉面細菌相を 16SrDNA により3年間解析した結果、本病原菌が属する Burkhorderia 属細菌は穂から全く分離されなかったのに対して、別の病原菌であるイネ内頴褐変病菌の属する細菌群は穂の優占菌群であることが明らかになった。この結果と、これまでのイネもみ枯細菌病菌に関する研究結果から、イネもみ枯細菌病はイネの上位葉鞘、穂への移行抑制が防除に有効であること、逆にイネ内頴褐変病菌は穂に常在していることを前提にした防除戦略が必要であることを示した。

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