この賞は、『土壌・肥料・植物栄養学及びこれらに関する環境科学の研究の進歩に寄与するすぐれた業績を会誌、欧文誌又はこれに準ずるものに発表し、更に将来の発展を期待しうる』40歳未満の日本土壌肥料学会会員を対象とするものです。2011年8月に開催される同学会2011つくば大会において授賞式と記念講演が行われます。
農耕地土壌における微生物群集構造解析のための分子生態的手法の開発
星野(高田)裕子
(農業環境技術研究所)
研究内容
土壌中の大部分の微生物は培養が困難であるため、その研究には限界があった。しかし土壌から直接 DNA や RNA を抽出精製し解析する分子生態的手法の開発により、新たな研究が進展している。しかし国内の農耕地土壌に広く分布する火山灰性土壌では、アロフェンや腐植の影響で解析可能な純度の DNA や RNA を調製することは困難であった。星野氏はこの問題を解決する方法の開発に取り組み、独自の DNA および RNA 調製方法を確立した(論文1,2)。これらの開発した手法を用いて、クロルピクリンくん蒸が細菌の群集構造に及ぼす影響を PCR-DGGE を用いて明らかにすることにより、これらの実験手法が土壌微生物群集の評価と診断に応用できることを示した(論文2)。次いで、分子生態的手法の開発が遅れていた土壌糸状菌の多様性解析法の研究に着手し、18S rRNA 遺伝子を標的とした PCR-DGGE 法を活用し、土壌くん蒸剤の糸状菌に及ぼす影響を明らかにした(論文3)。さらにこれらの研究成果を発展させ土壌糸状菌群集の評価・診断に利用するための PCR-DGGE 条件について多角的に検討し、最適な解析条件を確立した(論文4,5)。これらの PCR-DGGE 法は農林水産省のプロジェクト研究において標準化され現在普及が進められている。以上の数々の成果は、土壌微生物研究分野で多くの研究者により広く活用されており、土壌微生物研究の発展に貢献している。
参考文献
- Hoshino, T. Y., and Matsumoto, N. 2004. An improved DNA extraction methods using skimmed milk from soils that strongly adsorb DNA. Microbes Environ., 19, 13-19.
- Hoshino, T. Y., and Matsumoto, N. 2007. DNA- versus RNA-based denaturing gradient gel electrophoresis profiles of a bacterial community during replenishment after soil fumigation. Soil Biol. Biochem., 39, 434-444.
- Hoshino, T. Y., and Matsumoto, N. 2007. Changes in fungal community structure in bulk soil and spinach rhizosphere soil after chemical fumigation as revealed by 18S rDNA PCR-DGGE. Soil Sci. Plant Nutr., 53, 40-55.
- Hoshino, T. Y., and Morimoto, S. 2008. Comparison of 18S rDNA primers for estimating fungal diversity in agricultural soils using polymerase chain reaction?denaturing gradient gel electrophoresis. Soil Sci. Plant Nutr., 54, 701-710.
- Hoshino, T. Y., and Morimoto, S. 2010. Soil clone library analyses to evaluate specificity and selectivity of PCR primers targeting fungal 18S rDNA for denaturing-gradient gel electrophoresis (DGGE). Microbes Environ., 25, 281-287