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農業と環境 No.136 (2011年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 気候と栽培技術の変化が米国の作物収量にもたらす影響

Climate and management contributions to recent trends in U.S. agricultural yields
David B. Lobell and Gregory P. Asner,
Science, 299, 1032 (2003)

本論文の結論は、1980年代から1990年代にかけての気温上昇が、すでに米国のトウモロコシとダイズの収量増加トレンドに無視できないほどの影響を与えているというものである。

将来における世界の食料需要を満たすためには作物収量の大幅な増加が必要だが、気候変化と栽培技術の向上による増収効果の頭打ちは、多くの地域で必要な穀物を生産する能力を制約するかもしれない。

この研究では、1982年から1998年までを対象に、郡レベルの作物収量と生育期間に相当する6〜8月の平均の気象条件(気温・降水量・日射量)との関係を統計解析した。増加トレンドを差し引いた収量と生育期間平均気温の偏差(=長期平均からの差)との相関解析により、作物収量は、米国中西部の西側(グレートプレーンズ北部付近)のいくつかの郡で高温・乾燥年に例外的に増加したのを除いて、大部分の郡では低温・湿潤年に増加したことが示された。この結果は、収量の偏差と気象条件の年々変動との連動を空間的に明らかな形で示しているが、解析した期間の気候の10年規模振動や栽培技術の変化が収量に与えた影響は明らかではない。

そこで、緩やかな気候変化の収量への影響を調べるため、収量偏差と生育期間の平均気温偏差との間に統計的に有意な負の相関があった 618 郡( 444 郡)をトウモロコシ(ダイズ)について抽出した。ここでは、気候の長期変動に対する収量の応答は年々変動の場合と同じと仮定している。これらの郡を合わせると、それぞれの作物について米国の総生産量の約半分に相当する量を生産しており、米国をおおむね代表していると見なせる。

相関解析の結果、気温の上昇トレンドが顕著な郡では、どちらの作物の収量についても、増加トレンドが相対的に低いことが明らかとなった。こうした収量増加トレンドの地域的なばらつきのうち、トウモロコシでは25%、ダイズでは32%を、生育期間の平均気温トレンドのみで説明できた(降水量や日射量のトレンドと収量トレンドとの有意な関係は示されなかった)。

上で得られた気温上昇トレンドと収量増加トレンドとの関係に基づいて、気温上昇の影響を考慮した場合の収量増加トレンドを計算した。その結果、それぞれ 1.34 ブッシェル/年と 0.51 ブッシェル/年の収量増加トレンドが、トウモロコシとダイズについて得られた。これらの値は、どちらの作物でも米国の総生産量の増加トレンドの約80%に相当する。このことは、栽培技術の向上や二酸化炭素の施肥効果など、気候以外の要因による収量増加率は、過去の研究が想定していた値よりも20%ほど低いことを意味する。したがって、過去の収量増加トレンドに基づく将来の世界の作物生産量の予測はおそらく過大評価となっていると示唆される。

将来の栽培技術を正確に予測することは非常に困難である。しかしながら、将来の気候変化が食料生産に及ぼす影響を評価するためには、想定される栽培技術の変化をシナリオとして考慮する必要がある。その意味で、栽培技術の向上が過去の収量増加に寄与した割合を見積もることや、この研究のように、収量増加トレンドに対する気温上昇の影響を示唆することは意義深い。

しかしながら、作物収量は生育期間の平均的な気候条件に加えて、洪水や干ばつ、熱波などの極端現象にも大きく左右される。統計解析は、経験的な気候と収量の関係を推定するための有用な手法だが、極端現象の影響を評価する、あるいは、どういった生物物理過程が収量に影響しているかを説明する場合には不適当である。こうした統計解析から得られた知見を検証・補強するために、機構的な広域作物モデルを用いて、過去の気候変化と栽培管理技術の向上が収量に及ぼした影響を再解析することが重要である。

(大気環境研究領域 飯泉仁之直)

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