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農業と環境 No.137 (2011年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 313: 世界食料農業白書 2009年報告、 国際連合食糧農業機関(FAO)編集、 国際農林業協働協会(JAICAF) 翻訳・発行 (2010年10月)

本書は、国連食糧農業機関(FAO)が毎年発行する世界食料農業白書の2009年版 (The State of Food and Agriculture 2009) の翻訳書である。この白書では、毎年、食料と農業、人口を基調にした「食料援助は食料安全保障に役立っているか?」「バイオ燃料の見通し、リスク、および機会」「環境便益に対する農家への支払い」などをテーマとした特集が組まれてきた。2009年版の本書は、第 I 部に 「重要な局面に立つ世界の畜産」 を特集として取り上げ、第II部には 「世界の食料と農業の動向」 が例年の報告として掲載されている。

まず、第 I 部特集の「全体要約」をここに引用し、“畜産と環境” の章にも注目して紹介する。

“畜産部門は、世界経済の変化と社会の期待の変化に呼応して急速に変化しつつある。社会は、畜産部門に、増加し続ける都市人口には安全で豊富な食料や繊維を、また、10億を超える貧困な生産者や交易業者には食料の安全保障、環境の持続性および動物起源の病気に関する全世界的な公共財とともに、生計を支える手立てを提供することを期待している。しかし、急激な変化はこの部門の成長を不均衡なものにしている。このことは、生産の規模、集約度および効率性という意味で、また、予見できない社会、栄養、動物衛生および環境への影響という点で、この部門内部における二分化の拡大として明らかに示されている。進行しつつあるこれらの変化とそのスピードは、人々の暮らし、人や動物の保健衛生およびそれらの環境に連鎖的なリスクを生み出している。21世紀の課題と制約に対応するために、動物部門は、この部門内部の多様性とこの部門に課せられている多種多様な要求を反映した適切な制度、研究、開発政策および統治を必要としている。”

畜産部門は、他の農業分野と同様、土地、水および生物多様性の劣化をもたらす一方で、生態系の悪化による影響を受けている。このフィードバックの代表的な現象は、畜産と気象変動にも見ることができる。地球温暖化に現れる気象変動への懸念が広がる中で、気象変動に及ぼす畜産の影響と、気象変動による畜産への影響の両面が強く認識されるようになった。

畜産の影響(インパクト)は、直接的にメタンと亜酸化窒素が腸内発酵や厩肥(きゅうひ)から排出され、間接的には飼料生産活動、放牧地造成のための森林伐採などによって多くの温暖化ガスを排出して、気候変動に加担している。一方、気候変動のインパクトも、直接的、間接的である。気象変動の直接的で最大のインパクトは、乾燥・半乾燥地域、とくに低緯度の放牧地帯における顕著な温度の上昇と降雨の減少による放牧地の縮小・劣化である。間接的インパクトは、畜舎で家畜を飼う非放牧システムにおいて、飼料、水、エネルギーなど生産資源の高騰(こうとう)として現れる。また、気象変動は生物媒介性の疾病(しっぺい)や寄生虫の拡散にも影響して、熱帯地域ではぜい弱な畜産経営に大きなインパクトを与えている。

本報告では、こうした畜産と気象変動の両面からのインパクトに対する解決策として、 1)新しい緩和技術に関する研究と開発、 2)資金投入のための効果的な手段、 3)温暖化ガス排出量を低減する技術、 4)排出量を監視・検証する能力の強化を、メッセージとして提案している。

食料と農業を扱った第II部では、世界の食料価格の高騰がキーワードになっている。食料価格が高騰する中、2008年7月に日本で開かれたG8サミットでは、“世界の食料価格の高騰が、多くの開発途上国の食料確保問題と相まって、世界全体の食料安全保障に脅威を与えている” とし、深い懸念が表明された。その急激な高騰の影響は、世界各地で食料が不足して飢えに苦しむ人々を増加させ、世界の食料安全保障の問題をより深刻にした。慢性的な飢餓に苦しむ10億を超える人口と食料の安全保障、さらに2050年までに予想される92億の人口を養うための安定した食料増産の課題は大きい。こうした報告から、2007年から08年にかけて、アメリカ発のバイオエタノール生産と投機マネーが引き起こしたトウモロコシや小麦の大幅な価格高騰と主要生産国の輸出規制に、数年前、大きな危機感を抱いたことが思い出される。

2011年の現在、世界では食料の高騰が続いている。FAOによると、2010年度における穀物価格の上昇は、小麦で65%、トウモロコシ110%、大豆50%にもなったという。身近なコーヒーの豆は80%、資材価格への影響が大きい原油も20%上昇して、穀物価格の上昇に拍車をかけた。こうして、FAOが今年6月7日に発表した5月の世界の食料価格指数は、232(2002〜04年=100)にまで高まり、過去最高値の水準で推移している。

20世紀後半の半世紀に、化学肥料・農薬の多投や農業用水の確保、高収量品種の導入による著しい単収増を通じて、世界の穀物総生産は2.5倍に増加した。しかし、今世紀に入ると単収の増加率は年1%台にまで低下し、アースポリシー研究所のレスターブラウン所長が指摘するように、土壌・土地や水など基本資源の劣化や枯渇が顕在化している。

国内においては、天候不順が原因で2年連続して食料自給率は低下し、2010年のカロリーベースの自給率は38.5%まで下降した。穀物価格の世界的な上昇の影響が国内の食卓に及び始めたことを感じながらも、東日本大震災と原発事故の混乱と、最近の急激な円高の中で、世界の食料価格指数が史上最高水準にあることを見落としているのではないだろうか。

毎年、FAOが責任編集して、時を得たテーマで特集を組み、食料・農業の動向を紹介する本白書から、読者は多くの重要な情報を入手し、特集報告から学ぶことは多い。また、本文中に「Box」として掲載する21のコラムは、食料と農業の問題を読み解くキーワードの貴重な解説記事になっている。このコラムを読むだけでも、適切な情報と理解が得られる。

本白書のPDFファイルは 国際農林業協働協会(JAICAF)のページ( http://www.jaicaf.or.jp/fao/publication/shoseki_2010_5.htm ) からダウンロードして読むことができる。最後に、毎年、本白書を翻訳して発行される JAICAF の労に、改めて敬意を表したい。

目次

第 I 部 重要な局面に経つ世界の畜産

第1章 畜産の課題

第2章 畜産部門における変革

第3章 畜産と食料安全保障および貧困削減

第4章 畜産と環境

第5章 畜産と人および動物の保健衛生

第6章 結論:畜産に対する社会の要請に応える

第II部 世界の食料と農業の概観

世界の食料と農業の概観

全世界的な食料安全保障の動向

農産物価格の動向―基本食料価格の大きな変動性

開発途上国における国内食料価格

国際農産品価格の中期展望

農業生産

農産物貿易

食料価格の上昇に対する政策対応とその農産物市場への影響

政策対応の世界市場への影響

第III部 付属統

図表

参考文献

Box

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