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農業と環境 No.138 (2011年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 水田土壌に添加された放射性セシウム137 のイネへの移行

Transfer of 137Cs to rice plants from various paddy soils contaminated under flooded conditions at different growth stages
Choi Y. H. et al.,
Journal of Environmental Radioactivity, 80, 45-58 (2005)

2011年3月11日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、環境中に大量の放射性セシウム137 ( 137Cs;半減期30年) が放出され、深刻な問題を引き起こしている。わが国では主要な食品中のセシウム137 の暫定基準値は1kg当たり 500 ベクレル(Bq)であり、農林水産省は4月8日に、水稲の作付けの可否を判断する基準として、土壌中のセシウム137 の玄米への移行の指標( 0.1 )を発表し、土壌1kg当たり 5000 Bq を超える水田においては、今年度のイネの作付けは行わない方針を提示した。また、現在、収穫期を迎え、コメのセシウム137 を収穫前と収穫後の2段階で測定し、暫定基準値 500 Bq 以上のコメが流通しないように対策が取られている。

ここで紹介する論文は、2005年に発表されたものである。韓国の沿岸部に設置された3か所の原子力発電所から半径5km圏内にある18の水田から不撹乱の状態で採取した土壌を、小型ライシメーター(0.3 m × 0.3 m × 0.43 m)に移し、キャリアーフリーの 137CsCl 溶液(74000-93000 Bq/mL)を田面水に1mL ずつ25か所に添加する実験を行った。イネの品種は “ドンジン(Dongjin-byeo)” というジャポニカ種であり、すべて温室で栽培した。たい肥や化成肥料を基肥として施肥した後、137CsCl 溶液を水稲移植前、分げつ期、穂ばらみ期の生育段階ごとに添加し、収穫された茎葉部と玄米中の 137Cs 濃度を測定して、移行係数を求めた。

一般には、土壌から農作物への 137Cs の移行係数(TFm)は、次式で表されることが多い。すなわち、単位重量当たりの土壌中 137Cs 濃度と農作物中 137Cs 濃度との比を意味している。

移行係数 (TFm) = 農作物中の 137Cs 濃度 (新鮮重または乾物重当たり Bq/kg) / 土壌中の 137Cs 濃度 (乾土当たり Bq/kg)

一方、本論文では、移行係数(TFa)を以下のように定義している。

移行係数 (TFa)(m2/kg) = 収穫時の植物体中 137Cs 濃度 (乾物重あたり Bq/kg) / 収穫日に壊変補正した添加 137Cs の単位面積当たり放射能 (Bq/m2)

このようにして算出した移行係数(TFa)は、土壌によって異なる傾向が認められたが、原子力発電所周辺の3地点の平均値に有意な差は認められなかった。わらの TFa は、もみの TFa と比較して2〜3倍高かった。分げつ期および穂ばらみ期に 137Cs を添加した土壌で収穫したイネでは、移植前に 137Cs を添加した土壌で栽培したイネと比べて、TFa は平均して、わらでは2倍、16倍、玄米では3倍、25倍の高い値を示した。また、土壌の理化学的性質と 137Cs のイネへの移行の関係を解析した結果、土壌の pH とは負の相関が、土壌有機物含量とは正の相関があった。著者らは、今回得られた 137Cs のイネへの移行係数(TFa)は、韓国における代表値として使用できると、最終的に結論付けている。

この論文で提案されている移行係数(TFa)は、一般に使用されている単位重量あたりの移行係数(TFm)と異なるため、値を相互に比較することはできない。しかし、水稲栽培期間中に放射性物質で汚染された場合、水稲は経根吸収に加えて、茎葉部に沈着した放射性物質を直接吸収することになる。このような場合、従来の移行係数(TFm)では過小評価してしまう恐れがある。また、従来の移行係数(TFm)は土壌が均一に耕起されて、一様に放射性物質で汚染されていることを前提として算出する。しかし、137Cs は土壌撹乱のない場合、表層数cmに蓄積し、また、時間の経過とともにエージングして非交換態 Cs の割合が増加することも考慮する必要がある。

最後に、わが国で生じた今回の事故は、イネ移植前であったため、単位重量あたりの移行係数(TFm)を基準としているが、将来不測の事態に備えて本論文で提案されているような移行係数(TFa)やその他の解析方法やモデル化も検討していく必要があると考えられる。

(土壌環境研究領域 前島 勇治)

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