「環境とは、自然と人間との関係に関わるものである。 だから、環境が人間と離れてそれ自身で善し悪しが問われるわけではない。 ・・・環境とは人間の生き様そのものである。 すなわち、環境を保全するとか改善するということは、とりもなおさず、われわれ自身を保全するとか改善することにほかならない」。
陽捷行(みなみかつゆき)氏は本書の序章でこのように語っている。われわれ日本人の生き方や心の豊かさと「この国の環境」とは密接に結びついている。さまざまな人物の紹介や環境問題の解説を通じて、それがくり返し述べられている。
第1章では、農業とわが国の土・国土の歴史との関係が語られる。農業生産によってさまざまな環境機能が維持されてきた一方で、環境の汚染や循環機能の破壊が問題となっており、農業と環境の調和が求められている。
第2章では、農事試験場(農業環境技術研究所の前身)の場長であった古在由直など、この国の環境を保全するために情熱を傾けた8人の行跡が紹介され、現在とのかかわりが述べられている。第3章では、温暖化など近年の地球規模の環境変化によって、わが国の農業・食料、自然、健康、水資源、防災にどのような影響が生じているかが解説される。
第4章「この国の地殻変動・地震・津波」は、巨大な環境変動といえる地震と津波の被害について3月11日以降に加筆された。日本列島付近の地震の発生要因と津波被害の歴史などを解説している。
陽 捷行氏は、独立行政法人農業環境技術研究所の初代理事長などを経て、現在は北里大学副学長をされている。ASAHI ECO BOOKS (アサヒエコブックス)ではこれまでに3冊(「地球の悲鳴 −環境問題の本100選−」と「農と環境と健康」、「地球変動研究の最前線を訪ねる ―人間と大気・生物・水・土壌の環境」)を執筆している。
目次
序章 人類の履歴書
はたして不変か?
20世紀から21世紀へ
環境とは?
第1章 この国の成りたち
農村空間の成りたち
水田の働き
国土と土壌を守ってきた水田農業
農業は土壌をつくる
ガイアと農業の共生
地球意識と地域意識
生命倫理か、環境倫理か?
第2章 環境問題に心して取りくんだ人びと
熊澤蕃山(くまざわばんざん): 1619〜1691年
上杉鷹山(うえすぎようざん): 1751〜1822年
栗田定之丞(くりたさだのじょう): 1767〜1827年
ヨハネス・デ・レーケ: 1842〜1913年
古在由直(こざいよしなお): 1864〜1934年
外山八郎(そとやまはちろう): 1913〜1996年
司馬遼太郎(しばりょうたろう): 1923〜1996年
岸本良一(きしもとりょういち): 1929年〜現在
第3章 いま、この国の環境は?
温暖化による永久凍土の後退―真白き富士の嶺は?
続出する猛暑日
巨大クラゲの大発生―津軽海峡を越えて―
漂着・漂流ゴミの国際化
サンゴの白化現象と死滅
第4章 この国の地殻変動・地震・津波
3月11日午後2時46分
地殻変動で起こる列島の地震
地震による津波の歴史
破壊・絆・甦生: 東日本大震災―小さな体験から―
日本人の美質との邂逅
おわりに