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農業と環境 No.145 (2012年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第1回アジアモンスーン域における気候変化とその農業への影響に関する国際ワークショップ (3月 タイ(バンコク)) 参加報告

2012年3月3日から5日までの3日間、「第1回アジアモンスーン域における気候変化とその農業への影響に関する国際ワークショップ (The First International Workshop of Climatic Changes and Their Effects on Agriculture in Asian Monsoon Region)」 が、タイのバンコクで開催されました。

このワークショップは、文部科学省の 「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)」 事業 (環境情報分野) の実施計画の一つである 「アジアモンスーン地域における気候変動とその農業への影響評価」 のキックオフミーティングを兼ねており、同事業の具体的な研究計画と今後のアジアモンスーン各国との連携について議論することを目的としています。

GRENE 事業 (環境情報分野) においては、環境情報を活用して気候変動への適応などの課題に取り組む大学・研究機関が 「データ統合・解析システム」 を中核基盤とするネットワークを構築し、課題解決に向けた環境情報の利活用の促進と、そのための人材育成を図ることを目的として、2011年度から5年間の予定で実施されています。

実施計画の一つである 「アジアモンスーン地域における気候変動とその農業への影響評価」 には、東京大学院農業生命研究科 (代表研究者:溝口 勝 教授) を中心として、首都大学東京、海洋研究開発機構、農業・食品産業技術総合研究機構(中央農業総合研究センター)、農業環境技術研究所の4つの大学と研究機関が参画しています。

この実施計画の特徴は、気象・気候の研究者と農業の研究者が協力して研究に取り組むという点にあります。具体的には、アジアモンスーン地域の将来の気候変動に関する予測の信頼度を高め、気候変動に対する農業の適応策・緩和策のための基盤情報を構築することを通して、同地域の農業に貢献することをめざしています。アジアモンスーン地域を研究対象とする気象・気候の研究者と農業の研究者が互いに協力して研究を行う機会は、これまで少なかったため、両者が密に連携して研究を推進することで、大きな成果が期待されます。また現地の研究者や技術者との交流も、同地域における農業活動や農業生産を考える上できわめて重要です。

今回の会議には、この実施計画の担当者と現地関係者を中心に44名 (日本人18名、外国人26名) の研究者が集まりました。農業環境技術研究所からは5名 (桑形恒男、須藤重人、南川和則、滝本貴弘、松浦江里) が参加しました。バンコクでは2011年の10月から11月にかけて記録的な大洪水に見舞われており、一時はワークショップの開催が危ぶまれましたが、年が明けてからは洪水も収まり、無事に開催の運びとなりました。

3月3日・4日の会議では、東南アジア各国 (タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム) からの招待研究者および GRENE 事業の関係研究者による19件の研究発表があり、今後の研究の進め方と国内外の連携について議論しました。農業環境技術研究所のグループは、実施計画のサブテーマ 「アジアモンスーン地域の地域的気候変動に対する主要農作物の適応・緩和策の策定のための基盤情報の構築」 を担当しており、桑形、南川、滝本、須藤が分担して、今後5年間の研究計画を紹介しました。

招待研究者からは、アジアモンスーン各国における近年の気候変動の特徴や、農業に対する気候変動の影響などに関する話題提供がありました。地球温暖化は、どの国でも大きな問題と考えられており、温暖化が将来の農業生産におよぼす影響の予測や、そのための適応策の研究に取り組み始めていることを知ることができました。

ワークショップ参加者(集合写真)
写真 ワークショップの参加者

ワークショップ最終日の3月5日には、バンコク近郊のラーチャブリにある JGSEE/KMUTT 大学 (エネルギー・環境に関する連合大学院大学/キングモンクット工科大学トンブリ校) の現地試験サイトを視察しました。森林や水田・畑地などが混在した変化に富んだ場所です。各試験担当者から、気象データや作物データなどを取得するための観測体制や得られた成果について説明を受け、GRENE 事業における具体的な研究連携の方法について議論しました。私たち農業環境技術研究所のグループは JGSEE/KMUTT 大学のメンバーと共同で、農耕地から放出される温室効果ガス(メタン、亜酸化窒素など)測定を同試験サイトで実施し、温室効果ガス放出の抑制を考慮した適切な農地管理について検討する予定です。

現地試験サイト(天水田)と気象観測タワー(写真)
写真 現地試験サイト(天水田)の気象観測タワー

地球環境問題や食糧問題を考える上で、世界の人口の6割以上が生活しているアジアモンスーン地域における持続的な農業の発展はきわめて重要なテーマです。水田を中心とした農耕地はメタンなどの温室効果ガスの放出源にもなっているため、今後予想される気候変動のもとで温室効果ガスの放出も抑制した持続的な農業生産が求められます。これらの実現に向けて、現地の研究者や技術者とも連携し、微力ながらも貢献できればと考えています。

なお、次回の第2回国際ワークショップは、2012年度中にフィリピンで開催される予定です。

※ データ統合・解析システム(DIAS)は、大気、陸域、海洋、人間圏などに関する観測や気候変動予測などによって得られる多種多様で大容量のデータを統合解析し、科学的・社会的に有用な情報を創出するための研究インフラ(基盤)です。2011年度から文部科学省においてデータ統合・解析システムの高度化・拡張の取り組みが実施されています。

(大気環境研究領域 桑形 恒男、滝本 貴弘)
(物質循環研究領域 須藤 重人、南川 和則、松浦 江里)

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