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農業と環境 No.152 (2012年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

MARCOシンポジウム2012 「モンスーンアジアにおける農業環境研究の課題と連携強化」 開催報告

MARCOシンポジウム2012ロゴ

独立行政法人農業環境技術研究所は、9月24日から27日まで、つくば国際会議場(茨城県つくば市)ほかにおいて、MARCOシンポジウム2012 「モンスーンアジアにおける農業環境研究の課題と連携強化」MARCO Symposium 2012 “Strengthening Collaboration to meet Agro-Environmental Challenges in Monsoon Asia” ) を開催しました。

開催期間: 2012年9月24日(月曜日) 〜 27日(木曜日)

開催場所: つくば国際会議場(エポカルつくば) ほか

開催趣旨:

モンスーンアジアの農業環境は、その恵まれた気候条件から水田耕作を中心とした高い持続的生産性と豊富な生物多様性を維持してきました。しかし、地域の急速な人口増加と経済発展に伴って、農業環境に関するさまざまな問題が顕在化しています。

これに対し、2006年の農環研国際シンポジウムにおいて、モンスーンアジア農業環境研究コンソーシアム(MARCO)が形成され、定期的な国際シンポジウム等の開催、情報交換のための Web サイトの開設、研究者の招へい・派遣等人材育成などが図られ、MARCO のもとでの国際的な連携が推進されて来ました。

MARCO シンポジウム 2012 では、これまでの MARCO の活動を基盤に、関係する国内外研究機関から専門家を招へいし、重要研究課題に関する最新の情報交換と議論を行いました。同時に、モンスーンアジアにおける農業環境研究のさらなる連携強化のための方策を議論しました。

主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所 (NIAES)

後援: 農林水産省、茨城大学農学部

参加者: 合計213名 (海外から23名(12か国・3国際機関)、行政9名、大学等34名、企業等12名、独法120名(うち農環研61名)、公設試験研究機関11名、一般4名)

シンポジウム参加者の集合写真(9月25日の全体会合)
シンポジウム参加者の集合写真(9月25日の全体会合)

日程と議論等の概要:

24日 (エクスカーション)

つくばみらい FACE(開放系大気 CO2 増加)実験施設および茨城大学農学部実験圃場を見学しました。

FACE 実験施設の見学のようす(写真)

FACE 実験施設の見学

茨城大学農学部にて(集合写真)

茨城大学農学部で

25日 (全体会合)

宮下 農環研理事長、農林水産技術会議事務局 西郷 研究総務官のご挨拶の後、ニューハンプシャー大学 Li 教授による基調講演と9題の研究報告を行いました(うち農環研研究者から5題)。研究報告は地球環境研究における国際連携、化学物質汚染、生物多様性と遺伝子組換え作物、および東日本大震災と放射能汚染に関するもので、モンスーンアジアにおける農業環境研究の最新成果が報告されました。

全体のプログラム、アブストラクト、ポスター、および講演スライドなどが MARCO シンポジウム 2012 のページ から閲覧できます。

ニューハンプシャー大学 Li 教授による基調講演(写真)

ニューハンプシャー大学 Li 教授による基調講演

座長による質疑応答の司会(写真)

座長による質疑応答の司会

全体会合の会場風景(写真)

全体会合の会場風景

全体会合の会場風景(写真)

 

26日 および27日午前(ワークショップ)

(スナップ写真)

(スナップ写真)

(スナップ写真)

(スナップ写真)

ワークショップ1:
「モンスーンアジアの農業と気候変動−適応策・緩和策・将来予測」

ワークショップ1では17件の口頭発表と7件のポスター発表が実施されました。26日午前中のセッションでは8件の口頭発表があり、主として気候変動とそれに対する適応策に関する話題が提供されました。このうち6件の口頭発表は、文部科学省の 「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)」 事業 (環境情報分野) の実施計画の一つである 「アジアモンスーン地域における気候変動とその農業への影響評価」 の参加メンバーからの発表で、具体的な研究計画の内容とその成果が紹介されました。またその他の2件の口頭発表においては、フィリピンにおける適応策・緩和策に関する取り組みと、南アジア (スリランカ、インド、バングラディシュ) における農業生態系の気候変動に対する適応の具体例が紹介されました。

午後のセッションでは、温暖化緩和策および将来予測・広域評価について下記のような研究が報告され、それに対する討論が行われました。

(1) 水田でのプラスチックフィルムマルチ、中干し時期の選択、System of Rice Intensification 等の技術による温室効果ガス排出抑制

(2) 温室効果ガス排出予測モデルであるDNDCの拡張と改良

(3) 人工衛星データによる全球水田マップの作成

(4) インドおよびベトナムの農業における温暖化緩和ポテンシャルの広域評価

また、27日午前には、科学技術振興機構 「戦略的国際科学技術協力推進事業」(JST-MOST) および GRENE 参加メンバーによるビジネスミーティングを開催し、それぞれのプロジェクトの進め方を検討しました。

ワークショップ2:
「モンスーンアジアにおける遺伝子組換え作物のバイオセーフティーと開発:現状と将来の展望」

ワークショップ2では、日本を含むアジアの7か国 (中国、韓国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア) から、遺伝子組換え(GM)生物の安全性評価、管理・承認システムに関する専門家を招へいし、各国の状況を報告して情報の共有と意見の交換を行いました。中国は、アジアではインドに次ぐ GM 作物栽培国であり、その栽培状況や開発状況などの紹介がありました。フィリピンは GM トウモロコシ栽培国です。韓国の状況は日本と似ており、GM 作物の輸入国として、こぼれ落ち種子に由来する状況に関する研究などが報告されました。また、ベトナム、マレーシア、インドネシアの東南アジア3国では、小規模な GM 作物栽培や今後の実験栽培に向けて、政府の強い支援により承認システムの構築や評価システムの構築が進んでいることが報告されました。そして、多くの国々が日本の研究などに関心を示すとともに今後の支援や情報の共有化や交換などの体制作りに期待する要望等が述べられました。

ワークショップ3:
「アジアにおける土壌情報利活用の新たな局面」

ワークショップ3は、首都大学東京の小崎先生の基調講演にはじまり、3つのセッションが行われました。26日午前の 「モンスーンアジアにおける土壌情報」 では、中国、韓国、台湾、タイおよび農環研から、各国の土壌情報と温暖化対策に関係する話題が提供され、各国の現状に関する相互理解が得られました。26日午後の 「地球温暖化対策へ向けた土壌情報の利用」 では、日本における土壌炭素モニタリングに関する最新の情報、農地からの温室効果ガス発生抑制策の関連成果、RothC モデルを用いた農耕地の土壌炭素シミュレーションに関する話題提供があり、日本の優れた成果が発信されました。27日午前の 「 MARCO−FAO−南京土壌学研究所共催:アジア土壌パートナーシップの立ち上げへ向けての会合」 では、東北大学の南條先生を座長に、FAO が2011年から取り組みはじめた世界土壌パートナーシップ(GSP)と、そのアジア地区版であるアジア土壌パートナーシップ(ASP)について話し合われました。その結果、今後の ASP の基本構造・進め方について参加者の同意が得られ、農環研が提案した Tsukuba Statement が採択されました。当初50名程度の参加者を予定していましたが、予備席が必要なほど予想を上回る参加者があり、盛況でした。

ワークショップ4:

27日午前には、MARCO 参画機関(候補を含む)の代表者による円卓会議として、ワークショップ4が開催されました。各機関への事前のアンケートをもとに、MARCO で取り上げるべき研究課題と MARCO の活用方法など、連携強化のための方策が検討されました。

27日午後(全体会合):

ワークショップとサテライトワークショップの報告が行われ、ワークショップ4の報告をもとに、連携強化のための方策がさらに検討されました。その議論において、これまでの MARCO の活動を評価する意見とともに、目標の明確化や MARCO が主導する研究プロジェクトの策定など、さらなる強化を求める意見もありました。これに対し、MARCO は地域の連携推進における自発的な取り組みを支援するためのプラットフォームであることを確認しました。最後に、本シンポジウムのロゴをもとにした MARCO ロゴと、シンポジウム声明 を採択しました。

八木一行(研究コーディネータ)

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