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農業と環境 No.154 (2013年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 331: 文明を変えた植物たち ―コロンブスが遺した種子(NHKブックス)、 酒井伸雄 著、 NHK出版(2011年8月) ISBN978-4-14-091183-9 C1320

毎日、私たちはコメやコムギの他に、多くの形や彩り、栄養豊かな野菜や果物、肉や魚を食材に食事を楽しんでいる。時には、食卓に並ぶこうした一つひとつの穀類や野菜、果物、家畜のルーツのことを思いめぐらすこともある。目で楽しむ花々も含めて、日本で栽培、飼育される有用な植物や家畜のほとんどは、数千年の長い年月に人々が日本に携え、その栽培や調理・加工法とともに国内に広がり定着したものである。

中尾佐助先生の古典的名著 「栽培植物と農耕の起源」(岩波新書、1966年) の出版以来、穀類や野菜、果樹など栽培植物の起源とその伝播(でんぱん)について書かれた多種の本が著され、いま私たちは多くを手にすることができる。同書によると、世界にはこうした栽培植物の起源の中心となったいくつかの地域があるという。地中海地域、アフリカ中央部、中央アジア、東南アジア、中南米などがその中心地域。野菜の多くは地中海が起源、リンゴは中央アジア、ジャガイモ、トウモロコシは中南米を原産とする作物だ。初めに書いたように、日本の私たちに身近なほとんどの栽培植物は、世界各地の原産地から届いた贈り物だということだ。

ここに紹介する本書は、コロンブスの新大陸発見と結びつけて、中南米から世界の人々に贈られた貴重な有用植物についての物語である。中南米から世界に広がった6つの有用植物が紹介されている。ゴムの木、チョコレートになるカカオの木、辛いトウガラシ、愛煙家のタバコ、そして世界で最も重要作物となったジャガイモとトウモロコシ。

そのいくつかの物語を簡単に紹介してみよう。第二章 「車社会を支えるゴム」 は、メソポタミアで生まれた車輪の話から始まる。車輪の発見と世界各地へと広がった車輪の歴史は、ゴムの加工技術の発達とともにゴムと結びついたタイヤの話へと展開する。第三章は 「お菓子の王様チョコレート」。カカオの原産地、アマゾン上流では現地人の飲み物であった。ヨーロッパに渡った後も、やはり煎った(いった)実の粉に水や湯を注いだ飲むチョコレートであったが、1828年オランダのバン・ホーテンが、粉末チョコレート (ココア) の製造法を考案した。この粉を食べるチョコレートに変えたのは、イギリス西部の港町ブリストルにあるフライ・アンド・サンズ社、1849年のことだ。植物分類学者のリンネは、カカオの学名を、「神様の食べもの」という意味のテオブロマ・カカオと命名している。「お菓子の王様」 と呼ばれるチョコレートにふさわしい学名だと著者はいう。他の世界を制したメキシコ産のトウガラシのこと、タバコ文化のこと、そして食用作物として重要なジャガイモとトウモロコシには、さらに壮大な物語が描かれている。

終章の 「コロンブスの新大陸発見の光と影」 では、著者は新大陸の発見後に起こった多くの悲劇を紹介しながらも、コロンブスが遺(のこ)した種子が、世界に広がり、食文化と文明を支えたことに、謝辞を述べている。南米からの貴重な贈り物となった多くの有用な植物の物語は、食卓での話題をもっと豊かにすることであろう。

目次

第一章 ヨーロッパの発展の原動力ジャガイモ

1 ジャガイモの原産地はアンデス高地

2 ヨーロッパの食卓に上がるまで

3 ジャガイモによって向上したヨーロッパの国力

第二章 車社会を支えるゴム

1 メソポタミア生まれの車輪の進化

2 扱いにくい生ゴムからタイヤへ

3 アマゾンの森林から東南アジアへ

第三章 お菓子の王様チョコレート

1 チョコレートは飲み物だった

2 飲み物からお菓子の王様へ

3 チョコレートの健康効果は昔も今も

第四章 世界の調味料になったトウガラシ

1 辛味の発信基地はメキシコ

2 トウガラシを受け入れた国

3 日本の食文化を変えたトウガラシ

第五章 生活の句読点だったタバコの行方

1 コロンブス以前のタバコ

2 ヨーロッパにおける喫煙の風習

3 独自の発達をした日本のタバコ文化

第六章 肉食社会を支えるトウモロコシ

1 新大陸の主穀物トウモロコシ

2 世界中に広まったトウモロコシ

3 トウモロコシが支える現代の肉食

終章  コロンブスの光と影と

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