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農業と環境 No.154 (2013年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

牛の餌からバイオエタノールを作る
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

◆ 自然エネルギーの地産地消

原子力発電所の事故が起きてから、再生可能な自然エネルギーの利用に対する期待が以前にも増して高まっています。また、小麦やトウモロコシなどの穀物・飼料価格が高騰しており、食糧の安定供給とエネルギーの生産を両立するために、新しい発想が必要とされています。自然エネルギーの利用効率がそれほど高くなくても、例えば太陽光発電のように、地域で必要なエネルギーを現地で生産することができれば、輸送によるロスがなく、エネルギーを使いきることができます。

ガソリンの代替燃料として、近年、バイオエタノールが注目されています。ブラジルや米国などでは、広大な農地一面に栽培したサトウキビやトウモロコシを原料に、大規模な工場でバイオエタノール生産が行われています。日本では原料代が高く、ブラジルや米国に対抗できる低コストのエタノール生産は困難な状況です。

そこで、独立行政法人農業環境技術研究所では、現在ある技術をうまく組み合わせることで、バイオマスの生産現場近くでエネルギー(エタノール)を作り、残さもその場ですべて有効活用してゴミを出さない、地産地消型かつ安価なバイオエタノール生産方法を開発しようと研究しています。

まだ研究段階ですが、一部ご紹介します。

◆ 牛の餌からバイオエタノール

この方法では、牛の餌である 「サイレージ」 の発酵を利用します。空気が入らないように密閉した容器に牧草を詰め込むと、草に付着していた乳酸菌が、草の糖分から乳酸を作り、その殺菌力で貯蔵性の高いサイレージができます。

私たちは、草のデンプンや繊維を分解する酵素と酵母菌を加えてサイレージを作ると、乳酸発酵後も草が分解されて糖ができ、その糖から酵母菌がエタノールを生産すると考えました。この発酵のしくみは、乳酸菌と酵母の力で日本酒を造っていた日本古来の方法を応用しています。これを「バイオマス固体発酵」と名付けました。発酵後エタノールを回収したら、残さは牛の餌として利用します。

バイオマス固体発酵では、サイレージ調製用の機械や施設をそのまま、または一部を改造して利用でき、通常のバイオエタノール生産で必要な、発酵用の特殊な施設は必要ありません。原料を分解するための粉砕、熱、薬品などの処理をせずに、サイレージと同様の方法で、材料草に蓄えられた糖分を発酵の原料にできます。

また、処理工程で多量の水を加える必要がないので、材料草を完全に分解しなくても、エタノールが高濃度で蓄積され、比較的高濃度のエタノールが一度に回収できると考えられます。

発酵残さには未分解の栄養分や繊維が残るので、牛の餌としてそのまま利用でき、エタノール回収後の廃液の処理が必要ありません。飼料に残る未分解の栄養分と作られるエタノールの量は、酵素や酵母菌の添加量を加減することで調節できます。

[飼料イネなど材料草](植物体・分解酵素)→乳酸菌の働きで乳酸ができる/酵母の働きで[エタノール]ができる→乳酸発酵でできたサイレージ(飼料)は牛のエサになる/エタノールは農業地域の燃料として作物生産と生活に使用する)(模式図)

バイオエタノール固体発酵法のしくみ

◆ 実用化に向けて

農環研では、バイオマス固体発酵の実用化に向けた試験を進めています。現在政府により、国内各地の休耕田で飼料イネの栽培が推進されています。そこで、飼料イネを使って、250g程度の小規模な発酵実験を行ったところ、現物中に8%程度のエタノールが蓄積しました。

これを300kgのロールベールサイレージに換算すると、1個あたり24リットルのエタノールが得られる計算になります。発酵した草から効率よくエタノールを取り出す方法と、残さの家畜の餌としての評価は、引き続き検討が必要です。しかし、エタノール回収後の残さには、タンパク質や脂質など、牛の栄養に必要な成分がそのまま残っており、餌の価値は充分あるものと期待できます。

私たちは引き続き、日本の農業地域に合ったバイオエタノール生産の研究を進めていきますので、今後に期待ください。

北本宏子・堀田光生(生物生態機能研究領域)

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年8月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

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