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農業と環境 No.161 (2013年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 高温によってトウモロコシ収量が減収するメカニズム

The critical role of extreme heat for maize production in the United States
David B. Lobell et al.,
Nature Climate Change 3, 497-501 (2013)

高温によってトウモロコシ収量が減収するメカニズムを、プロセスベース・モデルを使って検証している論文を紹介する。高温による乾燥で作物の水分要求量が増え、その結果乾燥ストレスを強く受けることが減収の主要な原因であると主張している。

背景

温室効果ガスによって引き起こされ得る将来の気温の上昇によって、作物はいったいどのような影響を受けるのだろうか? 高温は作物に対してさまざまな弊害を起こす可能性があるので、この問題は、将来の食料の安定供給を考える上で非常に重要な課題である。

世界の重要な穀物であるトウモロコシでも、高温によって収量が減少する可能性が高まることが知られている。過去の収量統計と気象データを解析した研究では、平均気温が高いシーズンには収量が減少していたことが、アメリカやブラジル、中国、アフリカなどの多くの生産地域において明らかにされている。また、30℃という気温がひとつの閾値(いきち)であり、この気温を超えた日数がどの程度かという指標 (extreme degree days: EDD) (単位は度日 (注1) ) がとても重要で、この指標が収量の減少と強く相関していることがわかっている。

だが、なぜ高温によって収量が減少するのか、そのメカニズムはよく分かっていない。もちろん、過去のさまざまな植物生理学的な研究から、その潜在的な要因がいくつか考えられている。たとえば 、A) 高温になると光合成速度があまり増加しないにもかかわらず、呼吸速度は非常に増大するため、結果として二酸化炭素の同化速度 (注2) が下がる、 B) タッセリング (雄花から穂を出すこと) から受粉までの期間の高温によって受粉率などが低下する、 C) 高温によって作物の成長速度 (注3) が早まり、植物体量を十分に増加させることができないなどが考えられる。また、 D) 高温によって vapour pressure deficit (VPD) が増加してしまうことも問題となる可能性がある。VPD は大気の乾燥の度合いを示す指標であるが (注4) 、この値が高いと植物の気孔から水分が逃げていき、乾燥ストレスが大きくなってしまう。

以上の4つの要因は、どれも収量の減少につながり得るのだが、どの要因がもっとも影響が大きいのかが、よく分かっていなかった。

研究のねらい

この研究では、作物の成長をシミュレートするプロセスベース・モデルの一つである APSIM (注5) を使って、その要因を探っている。対象とした地域は米国のアイオワ州である。検証のポイントは次の3つである。まず、EDD の増加による過去の収量の減少を APSIM がどの程度再現できるかを検証している。次に、APSIM のシミュレーション結果から、どの要因がもっとも影響しているのか、最後に、将来の大気中の二酸化炭素濃度増加によって、高温の収量への影響がどのように変わるのかを検証している。

以下に、一つ一つの検証結果を見ていく。

結果と考察

APSIM を使ってアイオワ州の約47年分の収量を推定したところ、過去の EDD と収量の減少の関係が再現できた。まず、このことが重要なポイントである。なぜなら、APSIM には、受粉率低下などの効果 (要因 B ) がモデルとしてそもそも組み込まれていないからである。にもかかわらず、EDD の収量への影響をきちんと再現できるということは、高温による過去の収量減少をその他の要因 (要因 A、C、D ) のどれかで説明できるだろうということである。

次に、シミュレーションの結果が細かく解析された。その結果、高い気温は、直接にではなく、乾燥ストレスを通して間接的に、植物体量の日々の増加速度を減少させていたことが分かった。また、とくに7月の EDD がもっとも強く関わっていることも分かった。高温になることで潜在的な二酸化炭素の同化速度が減少する (要因 A ) のではなく、高温による VPD の増加によって植物の水分要求量が増え、その結果乾燥ストレスを強く受けるようになった (要因 D ) ことが分かった。高温によって蒸発散が増えることで土壌が乾燥しやすくなるという副次的効果も、高温の効果を増大させていた。また、成長速度の増加 (要因 C ) はそれほど収量の減少には影響していなかった。つまり、高温による乾燥 (要因 D ) が収量に対してもっとも大きな影響を持っているということを示している。これがこの論文の重要な主張である。

なお、著者らは、気温を実験的に2℃上昇させた場合と、降水量を20%減少させた場合のシミュレーションをしているが、おもしろいことに、気温を2℃上昇させた方が降水量を減少させるよりもずっと乾燥ストレスが大きくなるという結果が得られている。

最後に著者らは、大気中の二酸化炭素濃度を増加させるシミュレーション実験を行っている。将来予想される気温上昇は、おもに二酸化炭素濃度の増加によって引き起こされるわけだが、二酸化炭素濃度の増加は、高温による収量減少の効果とどのような交互作用をするのだろうか? シミュレーションの結果、大気中の二酸化炭素濃度が増加すると、植物は気孔を閉じやすくなるため、高温による乾燥ストレスで生じる収量の減少を約25%抑えられることが分かった。ただし、蒸散量低下によって作物のまわりの気温が上昇することは考慮していないため、この結果に関しては、さらに議論が必要である。

最後に

この論文では、高温によるトウモロコシ収量の減収のメカニズムを、モデルを利用して解明しようという試みを報告している。最初に述べたとおり、これまでの気温上昇がどの程度作物収量に影響を与えたかは徐々に明らかにされているが、そのメカニズムはよく分かっていなかった。このような研究は、将来の二酸化炭素濃度の増加によって予見される気温の増加に対する適応策を考える上で、非常に重要であると考えられる。

(大気環境研究領域 櫻井 玄)

注1:一般的には、「 degree days 」と言った場合、以下のように計算される。
DD = Σ max(気温 − 閾値, 0)

つまり、たとえば閾値が30℃だとして、1日めの平均気温が32℃で、2日めが33℃であった場合、2日間の DD は5である。しかし、2日めの平均気温が28℃の場合は、閾値以下はカウントされないので、2日間の DD は2になる。ただし、この論文では、少しだけ違う方法で計算している。つまり、時間ごとの平均気温を使って計算しており、
EDD = Σ max(気温 − 閾値, 0) / 24
としている。たとえばある日の2時間だけが30℃を超え、それぞれ32℃と34℃だったとすると、その日の EDD は (4 + 2) / 24 = 0.25 となる。これを対象の期間で足し合わせていくことになる。

注2:植物の総光合成量に伴う二酸化炭素の吸収量から植物呼吸を引いた値である。この量の炭素が植物内で同化、つまり蓄積されていくことになる。

注3:ここで定義する成長速度は、植物体量の増加速度のことではなく、植物が成熟するまでの時間に関係する速度である。トウモロコシの成長は気温とよく関係していることがわかっており、気温が高いほど発芽からタッセリング、成熟にいたるまでの時間が短くなることが分かっている。つまり、次のステージに移るまでの時間が短くなる。

注4:ある状態での蒸気圧とそのある状態の温度での飽和水蒸気圧との差を示す。相対湿度と同じく乾燥度合いの指標として使われるが、VPDの方が蒸発散量とほぼ直線的な関係を示すため、乾燥度合いが植物に与える影響を見る指標としては、より直接的である。

注5:APSIM とは、Agricultural Production Systems sIMulator の略である。作物の成長をシミュレートするモデルはいくつもあるが、このモデルはオーストラリアのグループを中心として作られたもので、世界的にもその性能が高く認められているモデルの一つである ( http://www.apsim.info )。

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