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農業と環境 No.161 (2013年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

新しい土壌の生物性の解析技術 (日本農民新聞連載 「明日の元気な農業への注目の技術」 より)

土の中の微生物

土壌には「細菌」や「カビ」さらには「線虫」など、肉眼ではなかなか捉えることのできない多数の小さな生物(微生物)が生息しています。これら微生物は、体は小さいですが、土壌の生成や生態系の維持にとても大きな役割を果たしています。たとえば、地表面に落ちた落ち葉や倒木は微生物によって分解され、窒素養分として別の植物の生育に利用されたり、土壌有機物として土の団粒形成の促進に役立ったりします。ですから、土の中にどのような微生物がいて、どのような役割を果たしているかを調べることは、農地を管理する上でともて重要です。

では、農地などの土壌にはいったいどのくらいの微生物がいるのでしょうか。細菌を例にあげると、土壌の細菌数は土壌1g当たり100億匹 (1010匹) 以上いるといわれています。小指の先ほどの小さな土壌の塊の中に、これほど多くの細菌がいるのですから、畑全体でみると大変な数の細菌がいることが想像できるかと思います。

これまでの生物性の解析とその課題は

土壌中の微生物を解析するには、たとえば細菌なら、寒天培地 (寒天で固めた培地) に培養して、他の細菌と混ざりのない細菌の塊 (コロニー) を取り出し、分類したり土壌中での役割を調べてきました。しかしこれまでの研究から、このように培養して調べることができる細菌 (培養可能細菌) は、土の中の全細菌の1%程度に過ぎないことがわかってきました。つまり細菌の多くは「培養できない細菌」で、この方法で土壌の全細菌を調べることは難しいのです。

その上、冒頭で述べたように、土の中には細菌以外にもカビや線虫など多くの微生物がいます。これらの微生物は形も大きさも異なるため、それぞれの専門家が独自の手法で解析を行なってきました。このため、培養や生物ごとの特殊な手法を用いない、「新たな生物性の解析法」 が必要でした。

新しい生物性の解析技術 ―DNAを直接解析―

最近、生物が共通にもつDNAを環境中から直接抽出、解析することによって、農耕地土壌の生物性を調べる手法が開発されました。この技術の特長は、「同一手法で、土の中のすべての微生物を解析できる」 ことです。わたしたちは、この手法を用いて、土の種類や肥培管理、作物の種類などが、細菌、カビ、線虫の多様性にどのような影響を及ぼしているかを調べています。ここでは、わたしたちが解析に用いている PCR-DGGE 法の原理を簡単に紹介します。

DNAで生物多様性を調べる場合、生物の分類に利用されているDNA領域、つまり種によって塩基配列が異なっている部分を取り出して比較します。わたしたちは、リボゾームDNA(rDNA)という領域を対象としています。

まず土壌中に存在するDNAの中から、rDNA領域だけを PCR (polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応) という方法により増やします。この方法により、土壌中のすべての微生物のrDNA断片を細菌、カビ、線虫ごとに回収することができます。しかし、このままでは、どのような微生物由来のrDNAかわかりません。この領域は種によって塩基配列が異なっているので、増やしたrDNA断片を塩基配列の違いによって分けることができれば、種の多様性を視覚化することができます。これを行うのが、DGGE (Denaturing gradient gel electrophoresis: 変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)です。

PCR-DGGE解析(イメージ写真)と解析結果(例)

図に、DGGEの解析の様子と結果の例を示しました。結果にはバンドと呼ばれる短い横線が並んでいますが、この線の一つ一つが異なる微生物由来のrDNAと考えることができます。ですから、バンドパターンの違いは、土壌中の微生物の多様性の違いということになります。

この手法は、比較的低コストで、大まかに多数の土の多様性を比較するのに適しています。これまでの試験から、有機物などが多様性に及ぼす影響などがわかってきました。また、農薬の残効性を多様性で評価することもできそうです。農薬のさらなる有効利用も可能かもしれません。

土壌の中の微生物は膨大です。これら微生物の役割を調べるには多くのデータと智恵が必要です。私たちが解析したデータ(DNA、肥培管理、土壌理学性情報を含む)をWebで公開しています。ユーザー登録すれば誰でもみることができますので、多くの方に活用していただき、さらに議論が深まればと考えています。

*農耕地eDNAデータベース(eDDASs)
http://eddass.niaes3.affrc.go.jp/hp/
(システムのアップデートのため休止中)

農業環境インベントリーセンター長 對馬 誠也

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年(2011年)9月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

もっと知りたい方は、以下の関連情報をご覧ください。

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