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農業と環境 No.164 (2013年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第13回有機化学物質研究会
「野菜における POPs 農薬残留リスク低減技術の開発」
開催報告

農業環境技術研究所は、10月30日、つくば国際会議場 (エポカルつくば) において、第13回有機化学物質研究会 「野菜における POPs 農薬残留リスク低減技術の開発」 を開催しました。

残留性有機汚染物質(POPs)は、国際条約により削減や廃絶の取り組みが義務づけられている物質群です。対象とされる22物質のうち7物質は過去に日本で農薬として登録され、農地に施用されました。このうちドリン系農薬やヘプタクロル類が、ウリ科野菜から残留基準値を超過して検出され、「食の安全」 を揺るがす問題として社会的な関心を集めました。産地では生産の自粛、広範な土壌・作物検査などの対応を余儀なくされています。この問題を解決するため、農林水産省の委託研究プロジェクト 「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」 において、土壌中に残留する POPs による農作物の汚染を防止・低減し、基準値の超過を未然に防止するための技術開発に取り組んできました。

この研究会では、ウリ科野菜の POPs 農薬残留リスク低減技術に関する研究成果を、7名の講演者に紹介していただき、土壌残留性農薬にかかわる問題の課題と展望について議論を深めました。また、今年は農業環境技術研究所の設立30周年に当たるため、 農環研における有機化学研究30年の歩みについても紹介しました。

開催日時: 2013年10月30日(水曜日) 13:00 〜 17:45

開催場所: つくば国際会議場(エポカルつくば) 中ホール200

プログラム:

(1) 農業環境研究における有機化学研究の歩み

(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域  大谷 卓

(2) なぜウリ科は POPs を吸収してしまうのか? −メカニズムと変動要因−

(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域  大谷 卓

(3) 栽培前に果実中 POPs 濃度を推定する −土壌診断法の確立と残された課題−

(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域 清家 伸康

(4) 鉄資材を利用した POPs のケミカルレメディエーション技術の開発

愛媛大学 農学部       上田 祐子

(5) POPs の微生物分解研究はどこまで進展したか? −分解代謝経路から土壌汚染汚染土壌修復まで−

(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域 高木 和広

(6) ズッキーニによる土壌残留ディルドリンのファイトレメディエーション

福島県農業総合センター       齋藤 隆

(7) 活性炭を利用したキュウリの POPs 吸収抑制及び活性炭施用時の土壌処理殺虫剤利用技術の開発

新潟県農業総合研究所 園芸研究センター  松澤清二郎

(8) カボチャの POPs 吸収に関わる遺伝はどのようになっているか?

(独)農研機構 北海道農業研究センター  杉山 慶太

研究会には、独法等研究機関、都道府県公設試、大学、行政部局、民間企業、関連団体(JAなど)、一般と、多岐にわたる方面から105名の方々が参加し、7氏による講演に熱心に耳を傾けるとともに、活発な質疑およびコメントをいただきました。

総合討論においても、「基礎研究の更なる深化」 と 「実用化研究のより一層の進展」 について、今後の展望への期待や問題点の指摘など、活発な意見交換がありました。参加者からアンケートをとったところ、「POPs 残留問題について多方面からのアプローチの内容が聴けて良かった」 という感想が多く寄せられています。

POPs 農薬の残留問題のような環境上の 「負の遺産」 の解消は現代社会の責務として重要なテーマですが、世界的にも見ても解決困難で厄介な問題でもあります。この研究会を通じて、POPs 農薬対策技術の現状を広くご理解いただくとともに、私たちにとっても今後の実用化に向けた課題を整理することができ、有意義な研究会であったと思います。

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