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農業と環境 No.164 (2013年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

ワークショップ「作物産地インテリジェンスへの空間情報技術の戦略的利用について」
開催報告

独立行政法人農業環境技術研究所は、10月31日 (木曜日)、秋葉原コンベンションホール・カンファレンスフロア5A(秋葉原ダイビル5階)において、農業環境技術研究所30周年記念ワークショップ 「作物産地インテリジェンスへの空間情報技術の戦略的利用に向けて」 を開催しました。

近年、作物産地では、高温障害による作物品質の劣化が進行しつつあり、その激化が懸念されています。また、農業従事者が高齢化し担い手が減少するなかで、軽労化・高付加価値化・強靭(きょうじん)化への要請はますます高まっています。これらの問題に対応するためには、地域ごとに作物生育の実態に基づいた適確な診断や作業管理の適正化が重要となります。

わが国では、伝統的にきめ細かな生産管理を行ういわゆる 「日本型精密農業」 が実施されてきています。このような技術を最大限に活かして、多様な圃場(ほじょう)群の管理を地域ごとに最適化し、軽労化・ブランド化を進めることは、現実的かつ高度な産地戦略のひとつになると考えられます。空間的に多様性をもった圃場群を適確に診断し、適切に管理するためには、リモートセンシングを主とする空間情報技術を活用した地域スケールでのインテリジェンス (情報収集・分析・監視・予測および意思決定支援) が欠かせません。

そこで、本ワークショップでは、空間情報技術の最新動向を紹介するとともに、全国の作物産地で空間情報技術を基盤としたインテリジェンス化を進めるに当たっての方策や協力体制等について議論しました。

開催日時: 平成25年(2013年)10月31日(木曜日) 13:00 〜 16:50

開催場所: 秋葉原コンベンションホール/カンファレンスフロア5A
(秋葉原ダイビル5階)

主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所

会場のようす(2013年10月31日農環研公開ワークショップ)(写真)

会場のようす

プログラム:

農業環境分野における空間情報技術研究の歩み

(独)農業環境技術研究所 鳥谷 均

作物産地インテリジェンスのためのリモートセンシング手法

(独)農業環境技術研究所 井上 吉雄

作物産地での空間情報技術へのニーズとその実践的利用例

(1)リモートセンシングを活用した青森県産米の品質向上

(地独)青森県産業技術センター 境谷栄二

(2)北海道農業におけるリモートセンシングの実利用事例と課題

北海道立総合研究機構 安積 大治

空間情報利用ビジネスにおける現状と課題

(1)良食味・高品質米の安定生産への利用のためのビジネスモデル

(株)ビジョンテック 原 政直

(2)リモートセンシングを利用した食・農業をささえるソリューション

地球観測データ利用ビジネスコミュニティ BizEarth 井上淳一

総合討論:「作物産地におけるインテリジェンス化を進めるための方策と協力体制について」

話題提供 (1) 山形県農業における診断技術と空間情報利用ニーズ

山形県農林水産部 中野 憲司

(2) 土地利用型作物生産技術と空間情報利用ニーズ

(独)農業研究機構・中央農研 大下 泰生

このワークショップには、国・県行政部局、公設試験・普及機関、独立行政法人研究機関、大学、民間企業等から94名の方々の参加をいただきました。このうち、約半数は空間情報の利用に関係する民間企業等の方々でしたが、これは空間情報技術の民間利用に関心が高いことを表しています。

話題提供では、(地独)青森県産業技術センターの境谷氏から航空機リモートセンシングを利用した米の刈取り適期の推定を用いたブランド米生産のお話を、北海道立総合研究機構の安積氏からは小麦の収穫適期推定などのお話をしていただきました。また、(株)ビジョンテックの原氏と地球観測データ利用ビジネスコミュニティ BizEarth の井上氏からは、民間の空間情報利用例に関するお話がありました。

総合討論では、(1) 産地における空間情報ニーズの実情、(2) ニーズに即したセンサの要件とその利用手法、(3) 産地で戦略的に利用するために必要な空間情報技術の要件、(4) 空間情報技術の開発と利用を進めるための連携協力体制のあり方 の4つのポイントに関して議論し、現場での空間情報技術の活用に関する具体的な問題点とそれを解決するための方策を、参加者の間で共有しました。また、空間情報技術の利用を進めるためには、独法・公設研究機関、普及機関、官・民の衛星運用機関がどのような役割を担えばいいのかを議論しました。最後に、空間情報技術によって産地のインテリジェンスを形成するための具体的な戦略策定に向けて情報や意見を交換する場として、メーリングリストを開設することが提案され、その準備を行うことになりました。

このワークシップを通して、農業環境技術研究所が空間情報技術の共通基盤研究に貢献することに対して大きな期待が寄せられていると感じました。

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