農業環境技術研究所は2月14日(金曜日)に丸ビル・カンファレンススクウェア (東京都千代田区丸の内) において、生態系計測研究ワークショップ 「リモートセンシングの食糧インテリジェンスへの戦略的利用に向けて」 を開催しました。
世界の人口は今世紀末には100億人に到達すると予測されていますが、地球規模の温暖化や異常気象の増加による食糧生産への影響が深刻化しています。しかも、市場経済のグローバル化にともなって、主要作物の生産力の変動は世界の作物需給の不安定化、価格の乱高下に直結しています。
このような背景のなか、主要作物の広域的な生産力の実態に関する正確かつタイムリーな情報の重要性はますます高まっており、地球観測衛星群によるリモートセンシングへの期待はきわめて大きくなっています。
そこで、このワークショップでは、食糧安全保障や作物統計、被害査定などにかかわるインテリジェンスの根幹となる広域的な作物生産情報の収集に向けて、地球観測衛星群を高度かつ持続的に利用するため、センサ、データ、研究、利用などにおける今後の課題を議論しました。
開催日時:2014年2月14日(金曜日) 13:00 〜 17:00
開催場所:丸ビル・カンファレンススクウェア Room 5(東京都千代田区丸の内2-4-1)
主催:独立行政法人 農業環境技術研究所
後援:日本農業気象学会、 日本作物学会、 日本土壌肥料学会
参加者:107名
内訳: 国・県行政部局 8名、公設試験・普及機関 6名、独立行政法人研究機関 29名、大学 14名、民間企業 47名、ほか 3名
プログラム:
開会の挨拶
(独) 農業環境技術研究所理事長 宮下 C貴
趣旨説明
(独) 農業環境技術研究所 鳥谷 均
食糧インテリジェンスに向けたリモートセンシング手法
(独) 農業環境技術研究所 井上吉雄
高頻度観測衛星データ(MODIS)を用いた作物生育の広域評価
(独) 農業環境技術研究所 坂本利弘
衛星SAR データを用いた水田作付面積の高精度評価
(独) 農業環境技術研究所 石塚直樹
我が国の衛星と食糧生産評価への応用
(独) 宇宙航空研究開発機構 大吉 慶
食糧生産情報への国際ニーズと衛星画像の利用
(株) 日立製作所中央研究所 風間頼子
食料安全保障の基礎となる情報の収集と利用
農林水産省大臣官房食料安全保障課 大塚美智也
農業共済における被害査定の手順と広域情報ニーズ
(公) 全国農業共済協会 徳井和久
総合討論 「食糧インテリジェンスへのリモートセンシング高度利用に向けた方策、協力体制等について」
開会の挨拶と趣旨説明の後、井上上席研究員が食糧インテリジェンスにかかわるリモートセンシング技術を紹介しました。この後,坂本主任研究員は高頻度観測衛星データ (MODIS) を用いた作物生育の広域評価に関する研究事例を、石塚主任研究員は合成開口レーダ (SAR) を用いた水稲作付面積の把握手法を発表しました。
続いて、宇宙航空研究開発機構の大吉氏からは人工衛星による世界規模の農業監視システムの枠組みとその活用事例、日立製作所中央研究所の風間氏からは民間企業における食糧生産情報の活用事例に関する話題提供をいただきました。さらに、農林水産省大臣官房食料安全保障課の大塚氏からは農林水産省における食糧需給情報の収集・分析・発信時での、また、全国農業共済協会の徳井氏からは農業共済の被害算定時で の、リモートセンシングデータの利用への期待が述べられました。
総合討論では、リモートセンシングの利用によって広域的な作物生育・収量を把握・診断・予測するためのニーズが整理され、これに対する技術的な要件や、今後、開発すべき地球観測衛星群の仕様などが検討されました。また、食糧インテリジェンスに向けたリモートセンシング技術を高いレベルで持続的に維持ために必要な、政府、研究・公設機関、民間のセクター間での連携協力体制について議論しました。
本ワークショップは、昨年(2013年)10月に秋葉原で開催したワークショップ 「作物産地インテリジェンスへの空間情報技術の戦略的利用に向けて」 とは異なる場面でのリモートセンシング技術の応用に関するものです。これら2つのワークショップにより、耕地スケールから地球スケールまでのリモートセンシングデータの利用に関する問題点と今後の展望に関して、データ供給者とデータ利用者、手法開発者とデータ分析・判断者が一堂に介して議論したことになりましたが、これは、今後のリモートセンシング技術の発展と社会実装にとってたいへん有意義なものであったと考えられます。