前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.169 (2014年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

国際ワークショップ 「農地N2Oに関する観測とモデリング」(2014年3月 フランス) 参加報告

2014年3月17日から21日まで、フランスのパリ市内で開催された、農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)が主催する ワークショップ 「農地NOに関する観測とモデリング」 (リンク先ページのURLを修正しました。2015年1月) に参加したので、その概要を報告します。GRAについては 「農業と環境」 の No.133No. 134No. 135 を参照してください。

本ワークショップは、GRAの農地グループの炭素・窒素モデルの担当チーム ( Sylvain Pellerin 博士ほか) と炭素窒素循環ワーキンググループ ( Jean-Francois Soussana 博士ほか) が共同で開催しました。両博士がフランス国立農業研究所(INRA)の研究者であることから、ワークショップの会場がパリにある INRA 本部となったと推測されます。GRAの枠組みの中でモデルによる緩和策効果の評価をより高度化するため、農耕地から発生する温室効果ガスの評価についてモデル間の相互比較 (intercomparison) が企画されていましたが、そのモデル間比較を実現させるための、観測とモデルの両方の専門家によるワークショップも開催されました。

パリ市内の風景/INRA のロビーとワークショップ会場(写真)

写真: Eiffel 塔が見えるパリ中心に位置する INRA と会場

Workshop I: Experimental Databases and Model of N2O Emissions by Croplands: Do we have what is needed to explore mitigation options? (3月17-19日)

おもに農耕地土壌からのNO排出に関する観測とモデルの連携をテーマとして、21か国から62名の研究者が参加しました。世界のトップレベル研究者による包括的なキーノート講演や、各国のNO研究を反映した口頭・ポスター発表 (日本からは、Kishimoto et al. Field data reveal potential N2O emission linking to decomposed CO2 and N inputs ) があり、モデルの専門家を交えた活発かつ実務的な議論は、たいへん充実していましした。これらの講演の発表ファイルは、講演者の同意後に、GRAのホームページ で公開される予定です。

キーノート講演の講演者とタイトルは以下の通りです。

3月17日

Opening section

Introductory lecture: Basic processes of nitrous oxide emissions from agricultural soils

Klaus Butterbach-Bahl, KIT, Germany

Introductory lecture: State of the art of nitrous oxide emission models

Pete Smith, Univ. of Aberdeen, UK

Section 1: Fertilisation techniques

Keynote lecture: Fertilisation techniques and N2O emissions

Philippe Rochette, AAC, Canada

Section 2: Soil Tillage

Key note lecture: Soil tillage and N2O emissions

Bruno Mary, INRA, France

3月18日

Section 3: Cover crops

Keynote lecture: Cover crops, legumes and N2O emissions at rotation scale

Bob Rees, SRUC, UK

Section 4: Other

Key note lecture: Other management practices and N2O emissions

Per Ambus, DTU, Denmark

Cross-cutting section

Key note lecture: What are the key compartments and/or key processes which must be considered to account for the effect of management practices on N2O emissions?

Steve Del Grosso, USDA, USA

ワークショップの運営方式は効率的で、各セクションに Chair(1名)と Co-chair(1、2名)が配され、Chair はそのセクションの司会進行を、Co-chair は記録を分担しました。そのため、総合討論前の要点まとめなどもスムーズにできます。19日午前には、まず各セクションのまとめと問題点を10分間で報告してから総合討論 "How can we improve the ability of N2O emission models to account for the effect of management practices?" に入り、たいへん充実した内容の議論ができました。

キーノート講演の中でも、ドイツの Klaus Butterbach-Bahl 博士による 「農耕地土壌からのNO発生プロセス 」 の講演は、包括的かつ最新のプロセスや、時空間での理解、NO削減緩和策のためのモデルへの提案など、今後の研究展開への多くのヒントが得られました (参考文献:Butterbach-Bahl et al. (2013) Nitrous oxide emissions from soils: how well do we understand the processes and their controls? Phil. Trans. R. Soc. B. 368: 20130122.)。

Workshop II: Model Intercomparion on Agricultural GHG Emissions (3月19-21日)

24か国から74名が参加して、おもに農業分野の温室効果ガスのモデル間比較に関する実務的な議論が行われました。このワークショップには、欧米国際ファンド FACCE-JPI が研究資金を提供した3つのプロジェクト (ともに草地・畜産を含む温暖化緩和策のモデル評価やWebツールの開発など) が関わっています: CN-MIP (Sylvie Recous, France)、Models4pastures (Val Snow, UK)、COMET-Global (Mark Easter, USA) (括弧内はプロジェクトリーダー)。3つのプロジェクトのメンバーは欧米が中心で、内容はモデルによる温室効果ガスの評価やモデル間の比較などがメインです。このワークショップにもプロジェクト関係者が多く参加していました。

ワークショップの冒頭には、‘Why intercompare and benchmark models?’ と題して、Pete Smith 博士がモデル間比較の趣旨を紹介しました。その後、各国から18のモデルと、草地4サイト・コムギ畑3サイトのデータによる、作物生産、土壌炭素、N2O、渦相関法CO2などについての Blind Test を行うための方法や手順を確認しました。今回は水田以外のモデルが対象のため、日本は参加していませんでしたが、モデル間比較の意義について勉強できました。

モデル間比較は、GRAの炭素窒素循環ワーキンググループの workplan であるため、水田や湿地からのCHの排出も、今後、対象に含まれる予定です。そのため、ワークショップの最終日に、パラレルセッションとしてCHモデルに関する議論が行われました (議論に参加した国はフランス、日本、インド、バングラデシュ)。水田・湿地のCH排出に関するモデルとしては、農環研が開発した DNDC-rice に加えて、DayCent や DNDC-wetland、インドの独自のモデルなどがあります。今後各国に打診して、CHモデル間比較を進めるための議論(タイムラインの提示などを含む)を、6月に開催されるGRA理事会の際に行う予定です。

パリ市内の風景/INRA のロビーとワークショップ会場(写真)

写真: INRA の建物内部と会議室、ポスターの掲示までおしゃれでした

岸本文紅 (物質循環研究領域)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事