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農業と環境 No.170 (2014年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

クイーンズ大学(カナダ)での在外研究

筆者(山中)は、2013年11月から2014年5月までの約半年間、OECD が提供する研究協力プログラム ( http://www.s.affrc.go.jp/docs/research_international/oecd_crp2015.htm ) のフェローとして、カナダのオンタリオ州にあるクイーンズ大学で、在外研究を行いました。クイーンズ大学は、カナダでもっとも古い名門大学で、学部生・大学院生、その他の学生を含めて約 25,000 人が籍を置いています。クイーンズ大学の生物学科は、湖沼学を中心に植物生態学、分子生物学、動物生理生態学などを広くカバーする、生物学の一大拠点です ( http://www.queensu.ca/biology/ )。

私が滞在したネルソン・ラボ ( http://nelsonlab.ca/ ) では、若いネルソン准教授を筆頭に、個体から群集まで、動物生態学の研究を広く行っています。具体的には、個体が持つ成長段階や生理状態などの特性が個体群全体の挙動にどのような影響を与えるか、さらに個体群が組み合わさって群集を形成したときにはどのようにふるまうのか、さまざまな動物を使って野外調査と室内実験、数理モデルとシミュレーションを組み合わせた研究が行われています。

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写真 (左)クイーンズ大学生物学部のエントランス。この地方で産出される石灰岩をふんだんに使って建築されたモダンな建物です。(右)ネルソン博士のオフィス。毎日休みなく学生・院生との打ち合わせに明け暮れます。

ホストであるネルソン博士とは、鹿児島県の茶害虫データの個体群動態解析についての共同研究を、7年前から行っていました。今回の在外研究のテーマは、これをさらに発展させて、日本全国7か所の茶害虫データを解析して、害虫の地域適応と温暖化の影響を明らかにすることでした。まず、各地のデータについて周期性解析をしてみると、個体群の種内競争を示す世代分割現象がすべての地点で観察されました。さらに各地点の周期の移り変わりをシミュレーションモデルと比較したところ、分布の北限に近い埼玉県・静岡県の個体群は、気温上昇に伴って生長期間を長くすることで、冬の到来に備えていることがわかりました。一方、鹿児島県、福岡県、三重県などの個体群では、気温上昇に伴うこうした環境適応の影響がはっきりとは認められませんでした。冬の厳しさが、急速な環境適応を促す要因になっていると考えられます。今後、さらに解析を進めて国際シンポジウムで発表し、学術誌の論文にまとめる予定です。

在外研究に取り組むにあたって、研究以外の目標として、「ラボで積極的に自分の意見を主張すること」と、「セミナーで自由に議論すること」を自分に課しました。というのも、筆者は、ここ数年、さまざまな国際的な研究会議やワーキンググループに参加する機会がありましたが、自由な議論が中心となるこうした会合では、どうしても言葉の壁を超えることができませんでした。そのため自分なりの意見があっても、議論のコアな部分には貢献することができないでいました。これを払拭するため、今回の在外派遣中の半年間は、セミナーでの発表を積極的に行いました (ラボセミナー3回、学科が主催する環境生態生物学セミナー1回、数理生物学ミーティングでの発表1回、米国 Duke 大学での招待セミナー1回、合計6回!)。どの発表でも皆さん、私のつたない英語を一生懸命聴いてくださり、さまざまなアドバイスをもらいました。また発表がきっかけとなって、いくつか新しい研究の種が生まれました。結局、英語自体はあまり上達しませんでしたが、質疑応答で相手の意図を確認しながら答える間合いをつかんだり、自分の意見が話の流れと一致していなくても気にしない度胸がついたり、場慣れだけはしたと思います。

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写真 (左)学科主催の環境生態生物学セミナーのようす。学内外の研究者が毎週木曜日のランチタイム1時間枠で講演し、活発な議論が繰り広げられます( http://www.k-state.edu/ungererlab/EEBSeminar/2014-2015.html (対応するページが見つかりません。2015年6月) )。(右)セミナーを前に笑顔がこわばる筆者。

クイーンズ大学があるオンタリオ州キングストン市は、カナダ国内でも人気の高い風光明媚な港町です。夏には、オンタリオ湖に面するシーポートにカナダ、米国の各地から大型クルーザーやヨットが集い、ダウンタウンはバカンスを過ごす観光客でにぎわうそうです。ただし私が滞在した冬の間は、名所旧跡やオープンカフェなど観光スポットは、シーズンオフのためほとんど閉まっていました。

さらに2013年から2014年にかけての冬は、北米を襲った30年ぶりとも40年ぶりともいわれる大寒波の影響で、日によってはマイナス30℃近くになる極寒の毎日でした。キングストン市のような大きな町では雪が積もった翌日に徹底的に除雪がされるため、積雪自体は大きな問題はないのですが、12月中に2回あったアイスストームという気象現象は、経験したことのないものでした。マイナス10℃から20℃の外気温の中に液体の雨が降り、地面に着くと同時に凍りつくので、木々は氷で覆われ、道路はスケートリンクのようにつるつるに凍りつきます。慎重に運転していても車は坂道をずるずる滑り、空港は閉鎖され、多くの学校・スーパーがお休みになります。

毎日がびっくりの極寒のカナダ生活でしたが、近所の公園ではスケートリンクが無料で開放されているので、毎日夕方には家族でスケートを楽しみました。また、週末には、近くの州立公園までカントリースキーにも出かけました。

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写真 (左)アイスストームの翌日。木々がシャンデリアのように垂れ下がり、きれいです。(右)首都オタワまでは車で2時間です。有名なリドー運河での運河スケートを楽しみました。

多くの業務を抱える日本の忙しい毎日から飛び出して、わざわざ外国へ出かけて研究をするのは、気苦労も多く、生活環境の整備に多くの労力が取られます。そんな苦労はあっても、新しい土地で多くの研究者と交流することは、マンネリ化しがちな日常の研究に新しいアイデアを取り入れる絶好の機会となります。また日本国内とは違った国際標準の研究を体感することも重要だと思います。また、厳しい冬のカナダで生活することで、米国人とは違うカナダ人の国民性、大らかさや優しさ、忍耐力をしみじみと感じました。多くのカナダの友人に支えられて、楽しいカナダ生活を送ることができたと思います。機会があれば、ぜひ冬のカナダを訪問してみてください。もちろんさわやかな夏はさらにお勧めでしょう。

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写真 ネルソン・ラボのメンバーと会食。こぢんまりとしたラボは和気藹々(わきあいあい)としていて、家族ぐるみでパーティやスケートを楽しみました。

農業環境インベントリーセンター 山中武彦

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