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農業と環境 No.170 (2014年6月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

オランダ・ワーヘニンゲンUR訪問報告 (1)

農業環境技術研究所では、研究開発評価を国際水準で行うため、同様の研究対象、規模を有する海外の研究機関との総合的な比較分析 (ベンチマーキング調査) を行っています。これまでに、中国科学院南京土壌研究所とのベンチマーキング調査を行いましたが、平成25年度は、オランダ国ワーヘニンゲン大学・リサーチセンター (ワーヘニンゲンUR: Wageningen UR) とその内部研究機関である環境研究所 (Alterra) に対象機関を絞り込み、その情報収集と分析を行いました。その一環として、平成26年2月に訪問調査を行いました。

ワーヘニンゲンUR

ワーヘニンゲンURは、ワーヘニンゲン農業大学 (1876年設立、オランダにおける農業分野の研究教育の中核) と DLO 研究財団 (1877年設立、オランダにおける農業分野の試験研究の中核) との統合により、1998年に設立された共同機関 (コンソーシアム) です。

ワーヘニンゲンURは、現在でこそ世界的に注目を集めていますが、組織統合前の1990年代初めは、大学では農業に対する関心の低下による学生数の減少、28の研究機関では専門領域に閉じこもるという問題を抱えていたとのことです。そのため、外部有識者を長とする組織再編のための委員会が立ち上げられ、その検討の結果、大学と研究機関の統合によるコンソーシアムとしてのワーヘニンゲンURが設立されました。

現在、ワーヘニンゲンURは、「生活の質の改善のために自然の潜在能力を探求すること」 をミッションとし、2020年までに 「健全な食品と生活環境」 の領域において欧州トップクラスの研究機関として世界中の研究機関をリードするという目標を着実に達成しつつある組織にまで発展しています。

ワーヘニンゲンURの組織と戦略

ワーヘニンゲンURは、農業工学・食品科学、動物科学、環境科学、植物科学、社会科学の5つの独立した科学グループにより組織されており、各科学グループは、ワーヘニンゲン大学(WU)の各学部と、これに関連する1つまたは2つの DLO 財団研究機関からなっています。ワーヘニンゲンURの組織図はこちらをご参照ください

ワーヘニンゲンURの経営戦略のなかで注目すべき特徴として、企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点があげられます。そのために、各研究機関の管理部門に民間出身者をおいて、産学官の連携を図っています。そもそも、1998年のワーヘニンゲンURの設立に際し、顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく、産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積するという国家戦略が立てられ、そのなかで、ワーヘニンゲンURはこのオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域 (通称: フードバレー) の中核として位置づけられました。また、専門性の高い研究所と大学の力が一体となることにより、科学的成果の迅速な実用化や教育への導入を可能としており、その結果、現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示しています。

この取り組みは、特に、フードテクノロジーの領域で高い競争力を保持するに至っています。食品関連企業にとっては、ワーヘニンゲンURの持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の1つとなっています。また、このように研究機関と大学、食品関連企業などが密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するため、その解決を提案するベンチャー企業が生まれています。ワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくないそうです。

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ワーヘニンゲンの町の郊外にある広大なキャンパスに、ユニークなデザインの研究教育棟がゆとりを持って配置されています。

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キャンパス内にある 「未来のレストラン(Restaurant of the Future)」 は、URの職員や学生でにぎわっていました。 健康食品を積極的に取り入れ、その販売データを詳細に分析するとともに、来客の行動をカメラでモニターし、レストラン経営戦略の研究に活用しているとのことでした。

今回の訪問では、ワーヘニンゲンUR全体の国際的対外窓口であるワーヘニンゲン・インターナショナルのアジア担当 (アジア・デスク) 主任、ヤン・フォンゲルス (Jan Fongers) 氏に対応していただきました。フォンゲルス氏は、コミック雑誌「モーニング」(講談社)に連載中の 「会長 島耕作(弘兼憲史 作)」 において、オランダのフードビジネスを視察に訪れた総合電機メーカー 「テコット」 の島耕作会長のインタビューを受けたそうで、そのようすが2014年4月3日発売の 「モーニング」 No.18 に掲載されています。さらに、フォンゲルス氏は、この5月23日には農環研を訪問され、農環研とワーヘニンゲンURとの今後の連携について意見交換を行いました。

「農業と環境」 次号では、ワーヘニンゲンUR内の環境研究所 (Alterra) への訪問について報告する予定です。

八木一行(研究コーディネータ)

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