独立行政法人農業環境技術研究所は筑波農林研究交流センターとの共催により、6月11日(水曜日)から6月13日(金曜日)まで、第181回農林交流センターワークショップ 「栽培試験における気温の観測技法と利用」 を開催しました。
近年、農業試験研究の現場では、夏季の異常高温などによって生じる農作物の生育障害への対応を迫られています。しかし、研究に際して、不適切な方法で観測・収集された気温データを説明変数として栽培試験の解析を行うと、結果の汎用性が失われたり、誤った解釈を導いたりしかねません。
そこで、気象を専門としない農業研究者を対象として、作物の栽培試験において気温を正しく観測して利用するために必要な一連の知識と技法を総合的に習得できる機会を提供するため、本ワークショップを開催し、企業、県農試および独立行政法人研究機関から、合わせて15名の参加を得ました。
NIAES-09S型強制通風筒の製作
ほ場での観測実習
温室での観測実習
解析実習での班発表
講義と実習内容
2014年6月11日 (水曜日)
10:00-10:05
[挨拶]
農林水産省農林水産技術会議事務局筑波事務所 研究交流課長 池田仁
10:05-10:30
[講義] NIAES-09S型強制通風筒の紹介
農業環境技術研究所 福岡峰彦
10:30-15:30
[屋内実習] NIAES-09S型強制通風筒の製作
農業環境技術研究所 福岡峰彦
15:30-17:00
[屋外実習] 測器の設置
◇ほ場コース:農環研ほ場
◇温室コース:花き研温室
2014年6月12日(木曜日)
8:30-9:30
[講義] 気温・湿度観測の理論と注意点
農業環境技術研究所 桑形恒男
9:30-10:30
[講義] 作物栽培試験における気温・湿度の観測技法
農業環境技術研究所 福岡峰彦
10:30-11:30
[講義・屋内実習] 気象観測データのまとめ方
農業環境技術研究所 石郷岡康史
13:00-14:00
[講義] 微気象モデルを用いた群落内気温と植物体温の推定
農業環境技術研究所 吉本真由美
14:00-15:00
[講義・屋内実習] メッシュ気象値の利用方法と注意点
農業環境技術研究所 石郷岡康史
15:00-16:00
[講義・屋内実習] モデル結合型作物気象データベースによる水稲生産の変動要因解析
農業環境技術研究所 桑形恒男
16:00-16:30
[屋外実習] 総合気象観測装置の見学(農環研気象観測露場)
農業環境技術研究所 桑形恒男
16:30-17:00
[屋外実習] 観測データの回収
◇ほ場コース:農環研ほ場
◇温室コース:花き研温室
2014年6月13日(金曜日)
9:00-11:00
[屋内実習] 観測データの解析
農業環境技術研究所 福岡峰彦
11:00-12:00
[質疑] 質疑討論
農業環境技術研究所 桑形恒男、吉本真由美、石郷岡康史、福岡峰彦
参加者らはまず、屋外において気温を観測する際に日射熱がセンサーに及ぼす影響をさえぎるために必要となる強制通風式の放射よけとして、農環研が開発した安価で自作可能な 強制通風筒「NIAES-09S」をそれぞれ1台ずつ製作しました。続く観測実習では、前回と同様のほ場コースに加えて、今回から(独)農研機構 花き研究所の協力を得て温室コースを設定しました。参加者らは2つのコースに分かれ、製作した強制通風筒を農環研のほ場や花き研の温室に設置して、気温観測の技法を実地に習得しました。
また講義と実習により、気温観測の理論やデータのまとめ方、微気象モデルを用いた群落内気温と植物体温の推定、面的な気象分布を推定したメッシュ気象値の利用方法と注意点、さらに気象官署やアメダスで観測された気象データと物理環境モデル、生育モデルを組み合わせた 「モデル結合型作物気象データベース」 を利用した水稲生産の変動要因の解析法をそれぞれ学びました。
ワークショップの最後には、実際に観測した気温データの解析実習を行いました。同じほ場や温室内であっても、観測方法が違うと得られる値が大きく違ってくることを目の当たりにした参加者らは、正しい観測方法の重要性について認識を新たにしていたようです。
本ワークショップで製作した強制通風筒は参加者らがそれぞれ持ち帰り、実際の研究現場で役立てていただいています。
気象を専門としない農業研究者が気温の観測手法を体系的に学ぶ機会がこれまでほとんどなかったなかで、本ワークショップは昨年度から始まった新たな取り組みです。コーディネーターを務めた福岡、講師を務めた桑形と吉本、石郷岡(いずれも大気環境研究領域)は、今後もさまざまな機会を活用して、より良い気象観測手法の啓発と普及に努めていきたいと考えています。
なお、本ワークショップは、農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト」および作物応答影響予測リサーチプロジェクトのアウトリーチ活動として実施されました。