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農業と環境 No.171 (2014年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

マギル大学(カナダ)での在外研究

筆者(飯泉)は、2013年10月から2014年6月までの約8か月間、カナダ東部のモントリオール (ケベック州) にある McGill 大学で、客員研究員として在外研究を行う機会に恵まれました。モントリオールはセントローレンス川沿いに発達した街で 「北米のパリ」 とも呼ばれています。ケベック州の公用語はフランス語ですが、McGill 大学の構内ではほぼすべて英語です。McGill は英語では 「マギル」、フランス語だと 「マクジル」 と発音します。

マギル大学のキャンパス
イギリス人の毛皮商人ジェームス・マギルの寄付により設立されたため、建物はイギリス調です。

大学の裏山から見たダウンタウン
 
 

私が滞在した LUGE (Land Use and Global Environment、「ルージ」) ラボ(リンク先URLが見つかりません。2015年5月)は地理学部に属し、ナビン・ラマンクッテイ准教授の指導のもとで、農業土地利用と環境負荷、食料安全保障などについて、おもに全世界を対象とする研究が行われています。全世界の耕作地と牧草地の地理分布とその歴史的な変遷は、ラマンクッテイ教授の有名な業績の一つで、現在もこのテーマに関連する研究が続けられています。また、近年は、作物の収量や栽培暦、肥料投入量についても全世界を対象とするデータベースを整備し、「増え続ける世界の食糧需要をどのように満たすか?」 という問いに対して、米国ミネソタ大学の GLI (Global Language Institute) ラボ と共同で刺激的な議論を展開しています(この議論の要約は 『National Geographic』 誌のカバーストーリー 「Feeding 9 Billions」 になっています)。私の滞在中にも GLI ラボのメンバーの訪問があり、1週間にわたって相互の最新の結果をシェアし、新しいプロジェクトについて議論しました。

農環研で筆者が所属する 食料生産変動予測リサーチプロジェクト では、21世紀半ばころ(今から約30〜40年後)に想定される気候や水資源、土地利用の変化に対する世界の作物生産の脆弱(ぜいじゃく)性を見積もろうとしています。今から30年後の未来を見通すためには、少なくとも過去30年間に起こった変化とその要因について知る必要があります。しかしながら、農業分野ではデータは国別に管理されており、世界の全体像を把握することは容易ではありません。世界の全体像を把握するためには、農業統計データや衛星プロダクト、数値モデルの出力値、文献情報など様々な情報源から得られる、期間や単位、記録形式がバラバラなデータを一つにまとめる必要があります。今回の在外研究では、とくに世界の主要作物の栽培暦に焦点を当てて、この作業を進めました。

実は、在外研究に行くまでラマンクッテイ教授には会ったことがありませんでした。実際に会ってみると、とても気さくで親切な方で、私の研究と関連する研究者をたくさん紹介してくれ、お忙しいにも関わらず、相当の時間を私との議論にさいてくれました。また、同じ年齢の子供がいることもあり、ご自宅に何度も家族でおじゃまさせていただきました。

ラマンクッテイ教授のお宅で
 
 

LUGEラボのメンバーとのディナー
 
 

モントリオールで過ごした約8か月の大半は冬でした。モントリオールに到着してから1か月ほどたったころ(11月半ば)から雪が降りはじめ、4月半ばまで雪が残っていました。1〜2月には氷点下20℃を下回る日もありました。北米では年末・年始は日本のようには休暇を取らないと思い込んでいたので、年末に大学に行ったところ、IDカードを読み取る機器が動作せず、セキュリティに掛け合っても中に入れてもらえませんでした。その日は氷点下23℃で、大学からアパートの間にある店も年末のためほとんど閉まっており、凍えながらトボトボと帰宅しました。後日、ラマンクッテイ教授にこのことを話したところ、カナダでは大学をはじめオフィスは年末年始には完全に閉まるため、カナダ人はこの時期は真剣に休暇を取るのだと教えてもらいました。

晴れた冬の朝は一段と冷え込みます
 
 

5月半ばになると急激に花々が咲き始め、公園は多くの人でにぎわいます。

5月になるとようやく春がやってきます。モントリオールは、人口が横浜市とほぼ同じ約380万人の大都市ですが、至るところに公園があり、花々が咲き乱れます。週末になると公園の芝生では多くの人々が水着のような格好で寝転んで日光浴を楽しみます。人々は楽しい春を待ちきれないらしく、3月になって、相対的に暖かい日があると、先を争うように薄着になります。気温が約2℃まで上がったある日、オフィスに行くと同室のカナダ人のポスドクはタンクトップでした。私の感覚ではセーターを着る気温だったのですが。しかしながら、モントリオールの7か月に及ぶ長い冬を経験すると、暖かくなると気分がついつい舞い上がってしまう現地の人の気持ちがよく分かります。筆者は冬の間をモントリオールで過ごし、現地の人にとっては最高の季節である夏が来る前に帰国しました。ラマンクッテイ教授が7月からバンクーバーにあるブリテッシュコロンビア大学にマギル大学から異動するというやむを得ない事情のためですが、残念です。

在外研究中は多くの方々にお世話になりました。ラマンクッテイ教授とラボのメンバーはもちろんのこと、農環研の方々、とりわけ食料生産変動予測RPの方々にお世話になりました。農環研の多くの方々の支援があったおかげで在外研究ができたことを心より感謝しています。

大気環境研究領域 飯泉仁之直

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