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農業と環境 No.171 (2014年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(2014−5):食料生産変動予測RP

将来の気候変化とそれにともなって発生する異常気象や気象災害 (干ばつや洪水など) は、食料の生産にどのような影響をおよぼすのでしょうか、今後も安定した食料供給は可能なのでしょうか?

食料生産変動予測リサーチプロジェクト(RP)では、おもに収量を指標とする作物生産性の、気候・環境変化に対する応答・影響を明らかにするための広域スケールのモデルを作成するとともに、最新の気候変化予測を利用し、異常気象の発生場所や発生頻度の変化に基づいて、わが国および世界の食料生産の安定性評価を通じて、上の疑問に答えることを目標に、研究を行っています。

気候変化と農業生産との関連の研究は、これまで、おもに気候の平均的な変化に対する影響に注目して進められてきました。しかし、いうまでもなく気候は年々変動しており、気候変化や温暖化にともなって気候・気象の変動も大きくなる可能性が指摘されています。気候環境の変化がおよぼす農業への影響を考えるときには、このような突発的な変化、あるいは年々の変動に着目する必要があります。

また、わが国は多くの食料を輸入しており、世界の貿易用食料生産の動向は価格変動を通してわれわれの生活に密接に関連しています。最近でも、オーストラリアのコムギやアメリカ合衆国のダイズ不作の影響で世界市場価格が高騰したことは記憶に新しいところです。

とくにトウモロコシとダイズは中国、アメリカ、ブラジルが世界総生産量のおよそ80%以上を生産しており、地域がかたよっています。異常気象がこれらの主要生産地域に同期して発生すれば、食料供給の世界的な不安定化が起きる危険性も否定できません。

このような問題意識のもとで、本RPは、

「地球規模環境変動下における食料生産量変動の広域評価手法の開発と将来見通し」

つまり、

わが国およびアジア地域において、主要作物を対象に、気候変動に対する脆弱性(ぜいじゃくせい)を評価する手法の開発および食料生産量の変動予測を行うこと

をミッションとして調査研究を行っています。

そして、ミッションを達成するために、次の3つのサブテーマ課題を実施しています。ここでは、中間的な成果も含めて、私たちの研究を紹介していきます。

サブテーマ1 日本における食料生産変動評価

将来予測される気候変化が、日本において栽培される主要な作物に対して、どのような影響をおよぼすのか、また影響軽減のためにどのような適応技術がオプションとして導入できるのかを、地方や県単位の広域で評価するために、日本におけるコメ、およびコムギなどコメ以外の主要作物の生産性環境応答モデルを作成し、気候変化のもとでのシミュレーション結果に基づく影響予測と適応策に関する評価を、不確実性を考慮しながら行います。

これまでの研究の結果、コメについては、夏の高温を避けるために移植(田植え)日をずらす適応策により、日本全国では高温による品質低下のリスクを避けることが可能と考えられます。

図1 約20の気候シナリオを入力して、日本全国で20年ごとの平均収穫量(メッシュごとの単収×水田面積)を計算した結果
上は現行の品種と移植日を用いた、高温による品質低下リスクが少ない収穫量、下は同じ品種により、高温品質低下リスクを回避する最適移植日による収穫量です。

サブテーマ2 気候変化シナリオのダウンスケール

将来の気候変化の特性を明らかにするために、今世紀末までを対象として気候・気象状況ならびに農業気候資源量の変化傾向を解析しています。また近年、無視できないところまで来ている、耕作放棄などの土地利用の変化が周辺の気象環境に与える影響にも着目しています。

このように、さまざまな統計的手法に加え、領域気候モデルも用いたダウンスケーリング手法を用いて、日本と世界における詳細な気候変化シナリオデータセットを整備しています。

図2 1987年の時点で水田を含む地域を「稲作地域」、それ以外の地域を「非稲作地域」とし、これらの地域の過去20年間の土地利用変化による気温上昇を、領域気候モデルを用いて比較

サブテーマ3 世界における食料生産変動評価

主要作物 (コメ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ) を対象として、世界のおもな生産地域における将来の生産性(収量)を広域で評価する手法を開発しています。研究対象は、農業に関する統計データと人工衛星からのデータをあわせた世界作物データベースの開発、不確実性を考慮できる広域作物モデルおよび水資源変動の作物への影響を評価するシミュレーションモデルの開発です。

これらのデータベースとモデルを用いて、数10年先の気候、水資源および土地利用変化による食料生産のリスクを評価するとともに、農業現場や政策立案者に関心の高い、エルニーニョ/ラニーニャ現象などによる収量影響の見通しを行っています。

図3 エルニーニョ年(7年分)とラニーニャ年(6年分)におけるコムギ収量を、通常年(8年分)と比較

(食料生産変動予測RPリーダー 西森基貴)

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(平成26年度)

温暖化緩和策RP

作物応答影響予測RP

食料生産変動予測RP

生物多様性評価RP

遺伝子組換え生物・外来生物影響評価RP

情報化学物質・生態機能RP

有害化学物質リスク管理RP

化学物質環境動態・影響評価RP

農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRP

農業環境情報・資源分類RP

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