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農業と環境 No.171 (2014年7月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(2014−7):農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRP

私たちが毎日生きていくために必要な食料を生産する農業は、人間によるおもな土地利用の一つとして世界中で広く営まれています。また、水や大気ガスや土壌栄養素といった物質は、農業が営まれる生態系の中を、世界中に広がる多様な大地を介して私たちのまわりに循環しています。すなわち、農業環境は私たちの食生活を直接支えているだけでなく、地球全体の大気循環と陸域生態系にも深くかかわっています。そして、私たちはそうした生態系の恩恵を受けながら生活しているということになります。

生態系の恩恵を「生態系サービス」ということもあります。そんな生態系サービスを守りながら人間の生活を持続するためには、まず農業環境を取り巻く大地の変動を把握する必要があります。それには、常に変化する広い地球の地表面の状態を効率よく正確に評価することが不可欠です。

とくに農業は場所が変わればその土地土地で作物や作付け体系も異なります。また、近年の気候や社会の変化によって農業を取り巻く環境は激しく変動しています。温暖化や干ばつなどによって食料生産が不安定になり、価格が乱高下することもあります。都市化や耕作放棄によって農業環境における土地利用も激変しています。さらに、温室効果ガスなど、農地から発生する環境負荷の軽減が求められています。

そこで、当リサーチプロジェクトでは、農業生態系の空間的・時間的な変動をリモートセンシングと地理情報解析(GIS)やガスフラックス観測ネットワークによって広域的に観測し、農業環境資源を情報化して広域的に評価するための先進的な手法や監視・予測システムの開発をめざしています。

(1)農業生態系の情報化と広域評価手法の開発

宇宙から地球を撮影する地球観測衛星に代表されるリモートセンシングは、広域的に地表面情報を把握する最強の技術です。新しい地球観測衛星が世界各国によって次々と打ち上げられる中、当リサーチプロジェクトでは、さまざまな画像情報を駆使する新規なリモートセンシング手法を開発しています。

地球と9台(シリーズ)の観測衛星(写真)

地球環境を監視する数々の地球観測衛星

たとえば、植生を的確に感知する多波長光学センサー画像や、雲の影響を受けないレーダー画像や、毎日画像を取得する高頻度撮影衛星データを駆使してあらゆる状況において必要な情報を把握する手法を追求しています。また、衛星画像だけではなく、センサーを航空機に搭載して得られた画像や、地上にセンサーを設置する連続観測データなどを解析することにより、ほ場から地域にまたがるさまざまなスケールで、土地利用、作物の生長、土壌の特性などの農業生態系についての情報をより精度よく広域的に評価する手法を探求しています。さらに、地図情報と組み合わせて、地図情報の更新や長期にわたる土地利用変動の把握手法を開発しています。

センサー・画像の例:地上センサーによるモニタリングデータ、航空写真、衛星レーダー画像、高解像度衛星画像、土地利用図、広域衛星画像

農業生態系を観測するさまざまなセンサーや画像の例

(2) 農業生態系のガスフラックス動態の定量評価

大気を構成するガス類は地球の大地と深いかかわりを持っています。大気中のガスは植物や地表面から放出されることもあれば、吸収されることもあります。このガスの交換をフラックスといいますが、当リサーチプロジェクトでは、農地における二酸化炭素、メタン、水蒸気などのガスフラックスを精密かつ連続的に計測する方法をより高度化するとともに、生態系のスケールでのガスフラックスの変化を解明し、広域的な評価に結びつけるためのモデル開発を進めています。

土壌ガス代謝自動測定システム(写真)

土壌ガス代謝自動測定システム

水田ガスフラックス観測サイト(つくば市真瀬)(周辺の航空写真と観測機器の写真)

水田におけるガスフラックス観測の拠点サイト(つくば市真瀬)

また、植物や地表面からのガス交換量を実験的に解明するために、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素などについて多様な土壌と作物品種におけるガス交換能力と実交換量についての高精度データをガス交換分析装置で収集しています。環境因子などとの因果関係を解明するとともに、広域評価のためのモデル開発を進めています。

(3) 広域的監視・予測システムの構築

リモートセンシング手法、フラックスの地上観測ネットワーク、気象や土壌についての基盤的なデータベース、ならびに地球観測衛星による定期/緊急観測データを体系的に収集整備・利用し、農地、作物、ガスフラックスなどの農業生態系情報を広域的・動的かつ恒常的に監視すると同時に、WEB を介してこれら有用な情報を広く迅速に提供するシステムを構築することをめざしています。

研究の成果は、農学、生態学、地球観測等の研究分野で活用されるとともに、内外の公的農業関係機関、宇宙開発関係機関や民間機関など地球観測インフラ整備・データ流通にかかわる機関、さらには食料安全保障・地球環境施策にかかわる行政機関においては下記のような役割を果たします。

  1. 生態系機能・環境資源等の変動解明と診断、それにかかわる施策の最適化
  2. 広域的な農業生産情報の収集による国内外の生産動向把握の迅速化・高度化
  3. 作物生産管理技術の情報化による生産体系の省力化・効率化
  4. 将来の観測センサー開発の基礎
[さまざまな情報・画像]→[広域 時空間・要因モデル]→[広域的監視・予測](概念図)

農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRPの研究の概要

(農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRPリーダー デイビッド・スプレイグ

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(平成26年度)

温暖化緩和策RP

作物応答影響予測RP

食料生産変動予測RP

生物多様性評価RP

遺伝子組換え生物・外来生物影響評価RP

情報化学物質・生態機能RP

有害化学物質リスク管理RP

化学物質環境動態・影響評価RP

農業空間情報・ガスフラックスモニタリングRP

農業環境情報・資源分類RP

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