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農業と環境 No.173 (2014年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 下水灰に由来するリン酸肥料中のクロムの化学形態

Chemical state of chromium in sewage sludge ash based phosphorus-fertilisers
Christian Vogel et al.
Chemosphere, 103, 250-255 (2014)

下水灰は、下水処理場で発生する有機物主体の汚泥を焼却した灰である。下水灰は、リン酸(P2O5)を20%程度以上含み、リン鉱石並みのリン資源といえる。しかし、カルシウム主体のリン鉱石に対し、ケイ酸が主体でアルミニウム含量の高い下水灰は、そのままでは肥料への利用が難しい。また、微量ながら重金属を含むことも肥料利用を阻む要因となりうる。

下水灰中のリン酸を肥料に適した形態に変換すると同時に、重金属を除去する処理方法として、塩素ガスの中での加熱処理が提案されている1),2)。この方法によると、カドミウム、鉛などが効率よく除去できるが、クロムはほぼ全量が残留し、経済的な処理条件でクロムを除去することは困難と考えられた。

そこで本論文の著者らは、ラマン分光法、放射光源のX線分析法などによって、加熱処理前後の下水灰に含まれるクロムの化学形態を解析して、植物に吸収されにくく、毒性も低い3価のクロムの形態が保たれるような加熱処理条件を検討している。

まず、下水灰に含まれる炭酸塩(炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウム)と3価の酸化クロムとの反応が調べられた。ラマン分光法で解析した結果、炭酸カルシウムとの加熱処理では6価のクロムの生成が認められたが、炭酸マグネシウムとの加熱処理では6価のクロムの生成は認められず、マグネシウムの共存によって6価のクロムの生成を抑制できることが示唆された。

下水灰中のクロムの化学形態が、放射光源のX線分析によって解析された。下水灰のクロムはほとんどが Cr(OH)3 として存在し、わずかに CaCr2O4 または MgCr2O4 が含まれていた。これらはすべて3価のクロムである。下水灰に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、または塩化ナトリウムを添加して加熱処理した場合、処理後のクロムの形態はすべて3価であり、CaCr2O4 がわずかに水溶性を示すが、クロムのほとんどは水に不溶であった。一方、リン酸の可溶化を促進する目的で炭酸ナトリウムを添加して加熱処理した場合、処理後のクロムの 10〜15%が6価のクロム(おもな形態は CaCrO4)に変化し、水溶性のクロムが全クロムの約 16%に増加した。

これらのことから、著者らは、下水灰を塩化物共存下で加熱加工したとき、クロムを揮散(きさん)させることはできないが、その形態は3価であり、水に対する溶解度も低いと結論している。

下水灰を加熱加工して重金属を除去し、肥料として利用する研究が、わが国においても進められている。農業環境技術研究所では、加熱加工された下水灰を土壌に施用したときの重金属の可給性評価法について担当し、カドミウムについては同位体希釈法による評価法を検討した。

参考文献

1) Vogel, C., Adam, C., 2011. Heavy metal removal from sewage sludge ash by thermochemical treatment with gaseous hydrochloric acid. Environ. Sci. Technol. 45 (17), 7445-7450.

2) Vogel, C. et al., 2013. Heavy metal removal from sewage sludge ash by thermochemical treatment with polyvinylchloride. Environ. Sci. Technol. 47 (1), 563-567.

川崎 晃 (土壌環境研究領域)

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