農業環境技術研究所は、「環境報告書 2014」 を刊行・公開しました。農環研の10冊目の環境報告書となるこの冊子では、2013年度の実績を中心に、研究所における環境負荷低減の取り組みや、農業環境の安全性と持続性を確保するためのさまざまな研究活動を報告しています。
今回の報告書では、農耕地土壌から発生する温室効果ガスを自動システムによって連続的に測定することのできる 「温室効果ガス発生制御施設」 を、とくに紹介しています。
報告書冒頭の農業環境技術研究所理事長からの「ごあいさつ」と目次を、以下にご紹介します。
農業環境技術研究所 環境報告書 2014 「ごあいさつ」
独立行政法人 農業環境技術研究所
理事長
宮下清貴現在72億人を超えた世界の人口は今世紀半ばには92億人以上に達し、新興国等における食の改善を考えると、世界の農業生産はそれまでに倍増する必要があるとされています。その一方で、地球温暖化の問題に象徴されるように、人為的活動による環境への負荷は様々な点で限界に達しているとされ、農業においても環境への影響を如何に軽減していくかが問われています。食料問題と環境問題は、今世紀人類に突き付けられた大変大きな課題です。
農業環境技術研究所(以下、農環研)のルーツは、1893年(明治26年)に国の最初の農業研究機関として東京の北区西ヶ原に設立された農商務省農事試験場に遡ります。戦後1950年(昭和25年)には農業技術研究所となり、それからつくば移転後間もない1983年(昭和58年)に、日本で最初に「環境」を冠した国立の研究機関として農林水産省農業環境技術研究所が設立されました。2013年は、農環研として30年、最初の農事試験場設立から120年の節目となる、記念すべき年にあたりました。
設立以来農環研は、農業を巡る環境問題が世界でも国内でも重要性を増し、環境の保全や食の安全に対する国民の関心が高まるなか、自然と社会と人間の調和をめざした高い水準の研究活動によって世界の食料と環境問題の克服に貢献することを基本理念に掲げて研究を推進しています。現在の第3期中期目標期間(5年間)では、地球規模環境変動、生物多様性、環境中の化学物質、それに農業環境インベントリーの高度化の4課題を重点課題とし、第2期までの成果の上に立ちながら、さらなる研究の深化と成果の社会への還元を目指しています。
2013年度は、農環研の創立30周年を記念して様々な研究会、セミナーを開催しました。多くを東京で開催し、一般市民を初め様々な業種に渡る多数の聴衆の参加を得、農環研の成果を広く広報するとともに、農業環境問題への理解の増進に努めました。
例年4月の科学技術週間に研究所の一般公開を開催していますが、2013年は、初めての試みとして、小中学生を対象とする「農環研夏休み公開」を7月に開催しました。次世代を担う子供たちに環境と科学に対する関心を持ってもらうことを目的に、農環研が所蔵する標本類や、創意工夫を凝らした体験型展示など、大変好評で、1日で1,700人を越える来場者がキャンパスにあふれました。
2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故による農地及び農産物の放射性物質汚染問題に対し、研究所の長年の研究蓄積を生かして引き続き総力を挙げて対応しました。福島県産のコメの全袋調査の結果、放射性セシウムの基準値超過はゼロになるなど、汚染対策は進んでいますが、沈着した放射性セシウムが今後環境中でどのように移行していくかなど、予測と監視が必要です。このため農環研では、環境モニタリングなどを中心に、汚染対策研究を実施しました。
農環研が開発した低カドミウムコシヒカリ品種は、コメ中のカドミウム濃度がほとんどゼロであるだけでなく、土壌環境条件を巡ってカドミウムとトレードオフ関係にあるコメ中のヒ素の低減対策の切り札としても期待されています。低カドミウムコシヒカリを品種登録出願(コシヒカリ環1号)するとともに、低カドミウムの原因遺伝子を他のイネ品種に導入するため、多くの県と共同研究を進めています。
環境研究機関として、研究所の業務を遂行する上で環境に対する高い配慮が求められることはいうまでもありません。東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、節電については重点的に努めています。2013年度の電力使用量は2012年度と比較して1.7%(約27万kwh)、2001年度と比較して30.7%(約669kwh)減少しました。一方、温室効果ガス排出量削減では、2013年度のCO2排出量は2001年度と比較して23.3%の削減でしたが、2012年度との比較では9.7%の増加となりました。その主な原因は、電力使用量あたりのCO2排出量が増加したためです。
農環研の建物・施設の多くは、1979年のつくば移転時に竣工したものです。環境及び安全対策として、設置後30年以上経過して老朽化が著しく、抜本的な改修が必要であった第4及び第5機械棟の受変電設備改修工事を施設整備費補助金により実施しました。本改修工事では、老朽化対策を講じるとともに、特に高効率型の変圧器に更新したことにより省エネルギー化を図りました。また、平成24年度補正予算により研究本館耐震改修工事及びエネルギー供給施設改修工事を実施し、防災・減災対策を施すとともに省エネルギー化を図りました。
国民から負託を受けて農業環境研究を行う研究所として、法令遵守は最も基本的なことですが、平成21年に農林水産大臣の許可を得て輸入した中国産いねもみを、その後許可を得ていない野外のほ場で栽培していたことが判明しました。研究所は速やかに植物防疫所に報告を行い、同所の指示により、関係研究試料の使用の凍結と移動禁止の措置をとるとともに、植物防疫所による調査等に協力を行いました。また、研究所として原因究明を行い、こうした事案の再発防止に努めています。
この報告書は、平成25年度に実施してきた研究所の環境配慮の取り組みとともに、一般向けのシンポジウム・セミナーや各種イベントへの出展、さらには専門家の派遣や技術相談等、社会貢献をめざす様々な活動をとりまとめたものです。また、中期計画課題を推進するリサーチプロジェクトの概要や研究トピックスについても紹介しています。今後とも環境負荷の低減、環境配慮には一層留意して研究活動を進めてまいりますので、皆様にはご一読の上、忌憚のないご意見を頂ければ幸甚です。
環境報告書 2014 目次