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情報:農業と環境 No.1 2000.5.1
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No.1
・はじめに
・受賞講演会
農林水産大臣賞:結田康一氏 科学技術庁長官賞:宮下清貴氏
・次期科学技術基本計画の検討状況
・政府:循環型社会形成推進基本法案を提出
・平成12年度農林水産省依頼研究員受け入れ決定
・行政対応特別研究:「農用地土壌から農作物へのカドミウム吸収抑制技術等の開発に関する研究」の試験研究設計会議が開かれる
「農業と環境」は,国内外においてますます重要な問題になってきている。
ひとつは,グローバリゼーションの問題である。WTOやOECDなどで,農産物貿易や農業政策の論議において環境の保全が重視されている。またIPCCやIGBPにおいては,温暖化防止など地球規模の環境問題も重要な課題となっている。
ほかには,20世紀後半に急速に発達した鉱工業や革新的技術に由来する有害重金属による農地の汚染,環境ホルモンなど超微量化学物質の食物連鎖を通した生物相への汚染,遺伝子導入作物の生態系への影響など,もともとわれわれ人類が作り出したものによる環境へのインパクトがある。さらには,農業生産の集約化,規模拡大や耕作放棄地の拡大などによる農業環境資源の劣化や多面的機能の低下の問題がある。
21世紀に予想される様々な環境問題は,人口問題の解決をぬきにしては考えられない。環境問題は人口問題であり,人口問題は食糧問題で,食糧問題は農業問題である。したがって,環境問題はまさに農業問題なのである。
60億人を越えて増えつつある世界の人口に,大地と水と大気と生物に悪い影響を与えないように食料を供給するためには,農業生態系の持つ自然循環機能を活用し,健全な食料を生産することがきわめて重要な課題である。
農業環境技術研究所は,このような問題の解決に向けて努力しなければならない。ここに新たに「情報:農業と環境」を発行し,国内外の「農業と環境」に関わる情報を提供するとともに,農業環境技術研究所が取り組んでいる研究に関連するさまざまな事象を紹介する。
受賞講演会
農林水産大臣賞:結田康一氏 科学技術庁長官賞:宮下清貴氏
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農林水産省・科学技術庁表彰受賞者功績発表会が,農林研究団地協議会の主催で,4月26日に筑波事務所のつくば農林ホールで開催された。農業研究センターの中川原捷洋所長と農林水産技術会議事務局の坂野雅敏研究総務官の挨拶のあと,農林水産省職員功績者,科学技術庁創意工夫功労者,科学技術庁研究功績者の講演が行われた。講演の閉会にあたって,農林水産技術会議事務局の今井伸治研究管理官の総括があった。
当研究所では,分析法研究室長の結田康一氏が農林水産省職員功績者に選ばれ,「放射性・安定ヨウ素及び臭素の農業生態系における動態解明と環境汚染・過剰・欠乏問題の解明」と題して,土壌微生物利用研究室長の宮下清貴氏が科学技術庁研究功績者に選ばれ,「土壌放線菌のキチン分解酵素キチナーゼに関する研究」と題してそれぞれ講演をおこなった。
●参照:農業環境技術研究所におけるこれまでの受賞者
農林水産大臣職員功績者表彰:12名
科学技術庁長官研究功績者表彰:6名
科学技術庁長官科学技術功労者表彰:3名
科学技術会議は,現在の科学技術基本計画(平成8−12年度)について平成10年秋からフォローアップを実施し,その中間とりまとめを平成11年6月の科学技術本会議に報告した。ここで科学技術会議本会議は,新たな政策展開を見据えて,科学技術について具体的な取り組みを行うよう総理の指示を受けた。
これを受けて,「科学技術目標」,「知的基盤」,「研究システム」および「産業技術」の4つのワーキンググループ(WG)が設けられ,それぞれのWGで論点整理が行われた。これらの検討を踏まえて,現在,内閣総理大臣の諮問(3月24日)を受けて,政策委員会総合計画部会において次期基本計画の策定が進められている。本年末までに答申される予定である。
科学技術目標WG論点整理の中から,農業と環境に関わるものを抜粋する(●の部分)。
T部 科学技術創造立国としての国の在り方
1.科学技術創造立国の大きな基本目標
2.基本的目標をより具体化した「わかりやすい目標」
2−1.「人類の未来に寄与できる知的存在感のある国」
2−2.「安心・安全で快適な生活ができる国」
●環境と調和した経済社会であること
環境と調和した持続的発展のために,地球温暖化の抑制を進める。また,これま
での大量生産・大量消費・大量廃棄型社会経済から脱却し,廃棄物の削減やリサ
イクルを促進し,経済活動・物質循環が環境と調和しつつ円滑かつ効率的に行わ
れる「循環型経済社会」を構築する。例えば,「廃棄物のリサイクル率の大幅向
上に向けて,リサイクル,リユース技術を開発する」
●エネルギー,資源及び食料が安定して供給されること
資源に恵まれない我が国において,あらゆる事態でも安定したエネルギー,資源
及び食料の安定供給を確保する。例えば,「様々なエネルギー源のエネルギー効
率の大幅向上,安定した国際関係の維持,食料の安定供給に向けて,これを実現
するための技術開発を行う」
2−3.「国際競争力があり持続的な経済発展ができる国」
2−4.政策翻訳アプローチ
U部 科学技術の重点戦略
1.世界をリードする基礎研究の強化と戦略的推進
2.科学技術の重点化
2.重点戦略の推進に当たっての総合科学技術会議の役割と省庁連携
V部 科学技術振興における重点事項
1.研究基礎と人材育成
2.競争環境と流動化の一層の促進
3.若手研究者
4.研究開発評価
5.国際的な解放性
6.研究成果の取り扱い
7.産官学連携の強化
8.地域科学技術
9.社会と科学技術とのコミニュケーション
別添:環境分野
●具体的に取り組むべき課題
1.資源の有効利用と廃棄物の減量化をしつつ資源循環を図る経済社会の実現
天然資源利用・廃棄物の発生制御,製品・部品の再使用促進,廃棄物の再生利
用・適正処理,自然循環機能の解明と向上,微生物による廃棄物の分解
2.化学物質のリスクの極小化・管理の実現
化学物質の安全性の評価・管理,有害化学物質の排出抑制,環境負荷の少ない
化学物質への転換,有害化学物質の回収・無害化・浄化
3.地球温暖化の抑制
地球温暖化のメカニズムの解明,温室効果ガスの回収・固定化・有効利用,温室
効果ガスの最小化,温室効果ガスを出さないエネルギー
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政府は4月14日,臨時閣議を開き「循環型社会形成推進基本法案」を決定,国会に提出した。事業者や国民の排出者責任を明確化するとともに,製造から排出まで生産者が一定の責任を負う「拡大生産者責任」の一般原則を確立した。政府が廃棄物減量化などの「基本計画」を2003年10月までに策定。その後,計画の5年ごとの見直しも明記した。衆院環境委員会での法案の審議が開始され今国会で成立する。
さらに,循環型社会の形成を総合的・計画的に進めるため,政府は「循環型社会形成推進基本計画」を2003年10月までに策定する。
環境関連の基本になる法律は1993年に制定された「環境基本法」である。これは,それまでの公害対策基本法に代わり,公害対策を前提にした規制だけでなく,「環境に影響の少ない持続可能な社会の実現」のための環境政策を定めたもので,環境行政の憲法のような位置付けになっている。「循環型社会形成推進基本法案」は「環境基本法」の下に置かれ,廃棄物処理やリサイクルに関する7つの個別法を束ねるもので,次の概念図で示される。
この中で,「食品リサイクル法」は食品加工業者やスーパーなどの流通業者,レストランなどの外食産業に,生ゴミを飼料や肥料として再利用することを義務づけている。
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| 環境基本法 +−−−+ 循環型社会形成推進基本法 |
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*−−−−−−−* *−−+−−−−−−−−+−−*
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| *−−−−−+−−−−−−−−−*
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| | 廃棄物処理法・リサイクル法 |
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| *−−−−−−−−−−+−−−−*
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| *−−−−+−−−−−−−*
*−−−−−+−−−−* | |
| | | 食品リサイクル法 |
| グリーン購入法 | | 建設資材リサイクル |
| | | 家電リサイクル法 |
*−−−−−−−−−−* | 容器包装リサイクル法 |
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*−−−−−−−−−−−−*
当研究所の依頼研究員の受け入れが決定した。本年度の受け入れは12名で,
以下に所属,名前および受け入れ研究室を紹介する。
北海道立根釧農業試験場(甲田裕幸:影響調査研),
北海道立中央試験場(大橋優二:除草剤動態研),
岩手県農業研究センター(高橋正樹:多量要素研),
宮城県農業センター(小山 淳:個体群動態研),
新潟県総合研究所園芸研究センター(長谷川雅明:土壌生化学研),
石川県農業総合研究センター(八尾充睦:個体群動態研),
茨城県農業総合センター農業研究所(池羽正晴:土壌物理研),
千葉県農業試験場(加藤正広:殺菌剤動態研),
滋賀県農業試験場(長谷部国昭:微生物特性・分類研),
兵庫県病害虫防除所(神頭武嗣:殺菌剤動態研),
熊本県農業総合研究センター園芸研究所(柿内俊輔:水質保全研),
熊本県病害虫防除所(江口武志:寄生菌動態研)
行政対応特別研究:「農用地土壌から農作物へのカドミウム吸収抑
制技術等の開発に関する研究」の試験研究設計会議が開かれる
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農業環境技術研究所において,平成12年4月14日に上記の試験研究設計会議が開催された。参加機関は,農水省農産課,農林水産技術会議研究開発官・調査官・環境研究推進室,農業研究センター,野菜・茶業試験場,北陸農業試験場,秋田県農業試験場,秋田県農産園芸課,新潟県農業試験場,兵庫県立中央農業技術センター,兵庫県農林水産部,福岡県農業総合試験場,熊本県農業研究センター,富山県農業技術センター農業試験場,農業環境技術研究所である。評価委員として,茨城大学農学部:久保田正亜教授が参加。
研究を遂行するに当たって,参考までに,過去の研究の背景と研究成果および現在の研究背景と研究課題などを整理した。
1.過去の研究の背景と研究成果
背景:●イタイイタイ病の原因が三井金属鉱山神岡鉱業所から排出したカドミウム
であるという厚生省見解(1968)
●「農用地の土壌汚染防止法等に関する法律」(1970)
カドミウム玄米:1ppm,土壌中銅:125ppm,土壌中ヒ素:15ppm
●農用地土壌汚染対策地域の指定(1989):63地区,6,150ヘクタール
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●研究成果92 (1976)「農用地土壌の特定有害物質による汚染の解析
に関する研究」昭和46年-昭和48年(1971-1973),
農林水産省 農林水産技術会議事務局
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1)土壌および作物体の重金属等の分析法の確立
(1)過塩素酸分解−ADDC−MIBK抽出原子吸光法を確率(Cd,Zn,Cu,Ni)
(2)同上の方法で,Asについて比色法と原子吸光法を確立
(3)塩化アンモニウム処理で,同上の方法でPbについても分析法を確率
(4)燃焼前処理−加熱気化法による玄米中のHgの分析法を確率
(5)全国の土壌汚染調査に便利な1/10 N HCl抽出法を確率(Cd,Cu,Zn)
(6)土壌および作物体中のカドミウム,鉛,水銀,銅,亜鉛,ニッケルなどの分析法確立。
2)カドミウム等重金属などの天然賦存量
(1)水田作土のカドミウムは0.45pp前後。畑,茶園,果樹園もこれに近い値
(2)通常の果樹園土壌では,一般にCd,Cu,As,Zn,Pb,Niが表層に高い。ブドウおよびナシ園で,Cu,,リンゴ,カキナシ園でAsの高い例がある。
(3)地目別,母材別,層位別土壌調査結果から,As,Znは玄武岩,Cd,Pbは花崗岩,Ni,Cu,Crは安山岩由来の土壌に高い。
(4)林地土壌は,表層でCdが高い。Cuは層位による傾向なし。
(5)玄米のカドミウムは,平均で0.06ppm,麦では平均0.05ppm
3)重金属等元素の土壌中の形態と挙動
(1)pH上昇とともにCd,Znの溶出は減少。Cdの吸着率はpH上昇で高まる。酸化状態ではかなりの部分が交換性陽イオンとして,粘土と腐食に吸着。キレート結合。
(2)酸化還元電位-150mV付近から,Cdの溶出率が急激に低下。硫化物の生成による。
(3)灌漑水のCdの大部分は,土壌に吸着される。
4)重金属等元素の作物による吸収と障害(省略)
水稲・大麦・トウモロコシ・普通畑作物・野菜・茶・桑の吸収と障害の例が記載
5)作物の重金属等の吸収と土壌条件(省略)
6)重金属等による汚染と改良対策(省略)
2)重金属汚染の実態(省略)
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●「植物の金属元素含量に関するデータ集録」昭和52年
農林水産技術会議事務局(1977),
カドミウムについて(p47-103)
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1)文献,73点
2)自然界におけるカドミウムの分布
3)農作物のカドミウム自然含有量
4)食品中のカドミウム含有量
5)農作物に対するカドミウムの害作用
6)日本人成人によって1日に吸収されるカドミウムの推定
7)リン鉱石のカドミウム含有量
8)肥料中のカドミウム含有量
9)植物体のカドミウム(植物名,栽培様式,組織,その他,文献)
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●「土壌中カドミウムの挙動に関する調査研究」昭和54年
環境庁水質保全局(1979)
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1)土壌中カドミウムの状態に関する事項
1.カドミウムの自然賦存量
2.土壌中カドミウムの存在形態と挙動
2)作物のカドミウム吸収特性に関する事項
1.水稲のカドミウム吸収特性
2.水稲以外の作物のカドミウム吸収特性
3)汚染の除去に関する事項
1.土木工学的方法
2.化学的方法:塩酸,EDTAによる土壌洗浄
3.生物的方法:植物による汚染の除去
2.現在の研究の背景と研究課題
背景:
●FAO/WHO合同のCODEX(合同食品企画委員会)は,食品のカドミウムに関する規格等を検討している。
●1990/10:穀物中のCdの基準値として0.1ppmが提案された。
●1998/3:「食品添加物及び汚染物委員会」において,デンマークの報告書が提出された。穀物0.1ppm,コメと麦0.2ppm,野菜0.1ppm,馬肉0.5ppmを除く肉類0.1ppm,肝臓0.5ppm,腎臓1ppm,甲殻類1ppm
●1999/3:第31回「食品添加物及び汚染物委員会」において下記の案が提案された。最大レベル(ppm):果実0.05,野菜(馬鈴薯を含む)0.05,葉菜類0.2,小麦小実及びコメ0.2,大豆及び落花生0.2,牛・家禽・豚・羊の肉0.05,馬肉0.2,牛・家禽・豚・羊の肝臓0.5,牛・家禽・豚・羊の腎臓1.0,甲殻類0.5,軟体動物1.0
●日本代表はこの決定に対する態度を保留した。
●2000/3:北京で第32回「食品添加物及び汚染物委員会」が開催され,その結 果は2000年7月に開催される第24回CODEX委員会に報告される。
課題
1)「農用地土壌からのカドミウム除去技術及び農作物への吸収制御技術」
平成12-14年度 行政対応特別研究(カドミウム)
背景:CODEX委員会での食品中のCd基準値の設定の動き。
Cdが内分泌かく乱物質ではないかの疑い。
元素:Cd
対象:イネ・大豆・野菜等
内容:Cdの除去・吸収抑制技術開発
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2)「農耕地における微量重金属負荷量の評価に関する研究」平成12-15年度
環境庁公害防止(微量重金属)
背景:CODEX委員会での食品中のCd基準値の設定の動き。
元素:Cd,Pb
対象:農耕地生態系
内容:非汚染レベルの農耕地生態系でのCd等の自然賦存量C,存在形態,収支,
大気−土壌−作物−水系における動態の解明と農耕地への負荷量の評価
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3)「農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する
総合研究「耕地・森林」チーム
「作物吸収(無機)」サブチーム,「環境動態」サブチーム
背景:内分泌かく乱物質としてのCdの研究
元素:Cd
対象:イネ,大豆等
内容:Cd等の作物による吸収抑制・吸収蓄積機構及び吸収に及ぼす要因の解明
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