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情報:農業と環境
No.23 2002.3.1

 
No.23

・「循環型経済社会に関する専門調査会」中間取りまとめ

・マックス・フェスカと日本各地の土性図(2)

・種多様性は種間の促進作用を通じて生態系機能を高める

・本の紹介 71:中山間地と多面的機能,田渕俊雄・塩見正衛編著,
   農林統計協会 (2002)

・本の紹介 72:Using Statistics to Understand the Environment,
   C. P. Wheater and P. A. Cook, Routledge, London (2000)

・本の紹介 73:Environmental Ethics Today,
   P.S. Wenz, Oxford University Press (2001)

・諮問文書の紹介:持続可能な開発;生物多様性を振興する改革の好機

・資料:我が国の食料自給率
   −平成12年度食料自給率レポート・食料需給表−

・資料:Proceedings, NIAES-STA International Workshop 2001
   "Crop Monitoring and Prediction at Regional Scales"


 

「循環型経済社会に関する専門調査会」中間取りまとめ
 
 
 地球環境問題の高まりとともに,多くの企業が循環型経済社会の構築に向けて環境戦略を重視するようになった。しかし,不法投棄の増大や埋め立て処理場の不足など,将来に対する不安が数多くある。このような状況下で,経済財政諮問会議の「循環型経済社会に関する専門調査会」では,循環型経済社会構築への全体戦略とも言える,国民共有のビジョンと達成のシナリオを明らかにした中間取りまとめを発表した。
 
 −ごみを資源・エネルギーに,環境に優しく「美しい日本」を次世代へ−をモットーに循環型経済社会をめぐる世界と国内の情勢を述べ,これを新たなチャンスととらえ,世界に先駆けた循環型経済社会を構築し,世界のモデルとなる「美しい日本」を建設しようと訴える。なお,「循環型経済社会」とは,豊かな環境を守りつつ,資源を無駄なく活用し,新たな制度やルールの下に,広範な分野で市場と雇用の拡大が実現されて行く社会としている。
 
 そのための問題点として,生活水準の低下の懸念,経済成長への制約,埋め立て処分場の不足,不法投棄,ダイオキシン問題および再生品の過剰生産があげられる。
 
 3つの基本理念として,天然資源採取量の抑制,環境への負荷の低減および持続可能な経済成長の実現が掲げられている。また,国民共有の目標として,ごみを「不要なもの」から「資源・エネルギー」として活用する社会へ転換,安全・安心な生活環境を整備し,活気に満ち,魅力あふれた「美しい日本」を建設し,革新的技術や製品,社会的取り組みなどが世界のモデルとして評価され,国際社会をリードすることなどが提言されている。
 
 基本的視点に,効率性,公平性および安全性をおき,素材ごとの循環的利用,地域特性への配慮,国民参加および社会システム改革を目指している。
 
 

マックス・フェスカと日本各地の土性図(2)
 
 
 マックス・フェスカが明治15年(1882)に来日し,農商務省地質調査所と駒場農学校で多くの研究者を育成しながら輝かしい業績を残し,12年後の明治27年(1894)にドイツに帰国したことは,すでに前回の資料で紹介した(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn021.html#02105)。その業績の一つに,明治18年に刊行された「大日本甲斐国土性図」があり,それが当研究所の「土壌モノリス館」に飾られていることも紹介した。今回は,フェスカの土性図作製についてその後の足取りを追ってみることにする。
 
 「地質調査所年報」によると,明治18年(1885)から明治36年の18年間に,農商務省地質調査所から合計37の土性図とそれらの説明書が刊行されている。これらは,東北から九州にいたる旧国名別の十万分の一の土性図と説明書で,製図者,土性調査員,発行年度は様々である。まず,その土性図と説明書の一覧を整理したので,旧国名,製図者,土性調査員,地図印刷年度,説明書出版年度の順にならべてみる。
 
 1.甲斐国:市原正秀,恒藤規隆・大内健・フェスカ,明治18年(土性図),明治20年(説明書)
 2.下野国東部:市原正秀,青山元・高橋昌・フェスカ,明治19年,明治21
 3.相模全図武蔵国南部:吉田晋・市原正秀,渡邊朔・今井秀之助・フェスカ,明治20年,明治21
 4.武蔵国北部:菅沼盈之,恒藤規隆・フェスカ,明治21年,明治21
 5.信濃国:菅沼盈之・鈴木民作,松岡操・今井秀之助・フェスカ,明治23年,明治23
 6.安房上総全国・下総国南部:吉田晋,鴨下松次郎・フェスカ,明治23年,明治23
 7.下野国西部:高麗虎,青山元・フェスカ,明治23年,明治23
 8.陸前全国・磐城国北部:吉田晋,恒藤規隆・フェスカ,明治23年,明治24
 9.岩代全国・磐城国南部:高麗虎,鴨下松次郎・フェスカ,明治23年,明治24
10.上野国:吉田晋,松岡操・フェスカ,明治24年,明治24
11.肥後国:東京製図会社員調製,恒藤規隆・フェスカ,明治24年,明治24
12.常陸全国・下総国北部:東京製図会社員調整,平田孝次郎・フェスカ,明治24年,明治25
13.備後・安芸:鈴木民作,山中壽彌・フェスカ,明治25年,明治25
14.因幡・伯耆:高麗虎,早川元次郎・フェスカ,明治25年,明治25
15.陸中国:吉田晋,青山元・小林房次郎・フェスカ,明治25年,明治26
16.加賀・能登:若林平三郎,三成文一郎・フェスカ,明治25年,明治26
17.周防・長門:吉田晋,東條平二郎・フェスカ,明治26年,明治29
18.河内・和泉全国・摂津国東部:高麗虎,松岡操・フェスカ,明治26年,明治26
19.阿波国:高麗虎,鴨下松次郎・フェスカ,明治26年,明治26
20.壱岐・対馬全国・肥前国西南部:吉田晋,小林房次郎・フェスカ,明治26年,明治26
21.若狭・越前:吉田晋,早川元次郎・フェスカ,明治27年,明治27
22.近江国:高麗虎,鴨下松次郎・フェスカ,明治27年,明治27
23.出雲・石見・隠岐:高麗虎,三成文一郎・フェスカ,明治27年,明治28
24.讃岐国:鈴木清忠,松岡操,明治28年,明治28
25.豊後全国・豊前国東南部:佐々木信堅・高麗虎,山中壽彌・恒藤規隆・フェスカ,明治28年,明治37
26.遠江・駿河・伊豆:高麗虎,新荘三郎・松岡操・フェスカ,明治28年,明治30
27.羽後国:吉田晋,鴨下松次郎,明治29年,明治30
28.尾張・三河:高麗虎・鈴木清忠,三成文一郎,明治29年,明治30
29.播磨・但馬・淡路全国・摂津西部・丹波国西南部:高麗虎,小林房次郎,明治29年,明治30
30.大隅・薩摩:吉田晋・高麗虎,早川元次郎,明治30年,明治30
31.大隅国諸島:吉田晋・高麗虎,早川元次郎,明治30年,明治30
32.大和国:吉田晋,松岡操,明治30年,明治31
33.日向国:高麗虎,三成文一郎・恒藤規隆,明治30年,明治36
34.美作・備前・備中:吉田晋・高麗虎,松岡操,明治31年,明治34
35.羽前全国・羽後国飽海部:吉田晋・高麗虎,鴨下松次郎,明治32年,明治34
36.越中国:高麗虎,三成文一郎・小林房次郎・鈴木重助,明治33年,明治37
37.肥前国東北部:佐々木信堅,松岡操,明治36年,明治37
 
 その後,土性図作製の事業は当所の母体であった農事試験場(明治26年,1893年設立)に明治38年(1905)に移管された。明治40年(1907)から昭和12年(1937)の間に,農事試験場土性部で刊行された土性図は,美濃,飛騨,越後,佐渡,山城,丹後,丹波(一部),紀伊,伊勢,伊賀,志摩,土佐,伊予,筑前,筑後,豊前(一部)の16カ旧国であった。
 
 フェスカの指導による最初の土性図「大日本甲斐國土性図」は,明治18年(1885)に完成した。時が経ち,戦前の最後の土性図「伊勢国南部,志摩,紀伊国南部北牟婁郡土性図」の完成は,昭和12年(1937)であった。これで,青森県の陸奥から鹿児島県の薩摩にいたるまで,北海道を除く日本全土の73の旧国名の土性図(54図)が52年の歳月を要して完成したかに見えた。しかし,最後の一つの「陸奥」の土性図が完成したのは,実に戦後の昭和23年(1948)で,それも「青森県土性図」という図名になっている。これをもって,73旧国の土性図が完成し,明治政府とフェスカの思いは完結したことになる。いずれにしても,地質調査所から引き継がれたこの事業は,農事試験場が改組され農業技術研究所(昭和25年,1950)になる寸前に完結したことになる。
 
 最後の「青森県土性図」の調査担当者は鴨下寛である。鴨下寛の父親は鴨下松次郎で,フェスカと共同して明治23年(1890)に「安房上総全国下総国南部土性図」と「岩代全国磐城国南部土性図」を,明治26年に「阿波国土性図」を,明治27年に「近江国土性図」を作製している。フェスカが明治27年ドイツに帰国したことは,すでに述べた。鴨下松次郎は,フェスカの教えや指導をまさに実践するかのごとく,その後も精力的に土性図を作製しつづける。明治2932年の「羽後国土性図」と「羽前全国・羽後国飽海部土性図」がそれである。
 
 フェスカの教えを受けた鴨下松次郎は,地質調査所から農事試験場に移っても精力的に土性図の作製に励む。明治44年(1911)には,三成文一郎,小林房次郎および鈴木重礼と「朝鮮土性図」を完成する。また,明治45年には「大隅国諸島土性図」を作製している。
 
 その後,鴨下松次郎の名前は土性図のなかから消える。しかし明治と大正という時が経ち,元号が昭和と改められると土性図作製者の名前に登場するのが,先に紹介した鴨下寛である。鴨下寛は「青森県土性図」の作製の前に,昭和4年(1929)に三成文一郎,桜井俊亮,岡田俊次と「美濃国土性図」を,昭和712年(19321937)には岡田俊次と「飛騨国土性図」と「伊勢国南部,志摩,紀伊国南北牟婁郡土性図」を作製している。フェスカの思いは,鴨下松次郎の息子の寛にも引き継がれたことになる。まさに学問は継承なのである。鴨下松次郎と鴨下寛は,親子で農事試験場の土性部長を務めたことになる。
 
 農事試験場は大正13年から14年にかけて,この他に「大日本土性略図」を完成している。担当者は,あの関豊太郎である。盛岡高等農林学校で宮澤賢治の指導にあった関豊太郎は,大正9年に盛岡を去り,農事試験場で土性図の作製に関わる。かれは,後に日本土壌肥料学会の初代会長として,学会の創立,学会誌の創刊などに尽力する。
 
 フェスカたちが最初に作製した土性図の調査員誌には,次のようなことが書かれていた。すなわち,土性図の地形の基線は,わが国最初の実測地理学者である伊能忠敬(1745-1818)の実測図によった。その他は自分たちで実測した。岩石の区分は,わが国の鉱物学の先駆者である和田維四郎(1856-1920)の地質概測によったと。
 
 マックス・フェスカが明治15年(1882)に来日し,農商務省地質調査所でかれの弟子たちと作り続けてきた「土性図」の作製はひとまず幕を閉じることになる。この間,人の一生とほぼ同じ66年の歳月が経過した。
 
 農事試験場土性部で作製された土性図の一覧を,旧国名あるいは県名,発行年月,調査担当者の順に以下に示す。
 
 1.土佐国西南部:明治403月,鴨下松次郎,佐々木信堅
 2.越後国西南部:明治433月,三成文一郎,佐々木信堅
 3.筑前・筑後・豊前国西北部:明治433月,小林房次郎,佐々木信堅
 4.朝鮮土性図:明治443月,鴨下松次郎・三成文一郎・小林房次郎・鈴木重礼(50万分の1
 5.越後国東北部・佐渡国:明治443月,三成文一郎,佐々木信堅
 6.土佐国東北部:明治453月,鴨下松次郎,佐々木信堅
 7.大隅薩摩国:明治453月,鴨下松次郎,佐々木信堅
 8.備前国東北部:明治453月,三成文一郎,佐々木信堅
 9.大隅国諸島:明治453月,鴨下松次郎,佐々木信堅(20万分の1
10.山城丹後全国及丹波東北部:明治453月,小林房次郎,佐々木信堅
11.伊予国東北部:大正23月,三成文一郎
12.伊予国西南部:大正33月,三成文一郎,佐々木信堅
13.和歌山県:大正910月,三成文一郎・塩入松三郎・桜井俊亮,佐々木信堅
14.島根県那賀郡:大正123月,三成文一郎,佐々木信堅
15.大日本土性略図:大正133月〜157月,関豊太郎,佐々木信堅(50万分の1
16.岐阜県美濃国:昭和43月,三成文一郎・櫻井俊亮・鴨下寛,佐々木信堅
17.岐阜県飛騨国:昭和73月:鴨下寛・岡田俊次・佐々木信堅,吉田篤次
18.三重県北部(伊賀全国伊勢北部):昭和106月,鴨下寛・岡田俊次,吉田篤次
19.三重県南部(伊勢国南部・志摩・紀伊国南北牟婁郡):昭和123月,鴨下寛・岡田俊次,吉田篤次
20.青森県:昭和23年,鴨下寛,吉田篤次
 
 地質調査所から事業を移管された農事試験場(1893年設立)は,社会の情勢に対応して農業技術研究所(1950年設立),農業環境技術研究所(1983年設立),独立行政法人農業環境技術研究所(2001年設立)へと脱皮した。それにともなって,これまで戦争,社会不安,人事異動,引っ越しなど諸々の事象があった。にもかかわらず,これらの資料の作製がはじまって約120年も過ぎたいま,厳然として継承されつづけて当研究所に保管されていることは,驚異に値する。これはひとえに,先達の学問への熱き情熱に負うところがきわめて大である。ここに,関係された先輩に感謝の意を表したい。
 
 なお,地質調査所および農事試験場で作製された上記の土性図で,残念ながら当研究所に見あたらないものは,地質調査所で作製したNo.19,23,30,31および37,農事試験場になって作製した15(16葉)のうち1,6および9−16葉である。
 
 その後,土性図(後に,土壌学に基づいて土壌図と呼ぶ)に関する研究は,農事試験場から農業技術研究所(1950年設立)へと移行する。国土調査法に基づく土地分類基本調査(1954〜現在)では,国土の開発,保全,高度利用を目的として地形分類図,表層地質図とともに土壌図の作製が開始され,5万分の1地形図を単位として,1973年までに全国の主要な50図幅が選ばれ,土壌図が作製される。この土壌図の作製は,農業技術研究所と林業試験場が担当した。この事業は,その後都道府県に引き継がれている。
 
 一方,戦後の農耕地土壌図は,5万分の1縮尺をベースとして,不良農地の改良や地力保全などを目的とした施肥改善土壌図(19531961)や地力保全土壌図(19591978)など都道府県を実施主体として作製されることになるが,農業技術研究所は,分類・調査法の提供と指導および全国的取りまとめを通じて深く係わっている。
 
 その後,土壌図に関する研究は,農業技術研究所から農業環境技術研究所(1983年設立)へと移行する。ここでは,これまで作製された土壌図などをもとに,作物栽培適地図や洪水防止機能図,土壌浸食防止機能図などの環境保全機能図が作製されていくのである。その代表的な成果に,「農業環境資源アトラス」がある。
 
 新しく設立された独立行政法人農業環境技術研究所(2001年設立)では,農業環境インベントリーセンターの名称をもつ組織が,これらの研究の成果を継承し,新たな研究の展開を始めたところである。
 
 このように,環境研究に必要なアトラスのもとができあがるまでに,数多くの先輩の顔が現れてくる。その中には,土性図に直接関係しない研究者でも知っている歴史上のひとびとがいた。伊能忠敬,和田維四郎,フェスカ,鴨下松次郎,鴨下寛,関豊太郎,塩入松三郎など自然科学に関する大先達である。
 
(お詫びと訂正)
 情報:農業と環境のNo.23の「マックス・フェスカと日本各地の土性図(1)」の p17, L10-13 に間違いがありました。最初の「Kai-Prorince」は「Kai-Province」に訂正してください。また,「Kai-Prorinceは,Kai-Provinceのまちがいと思われる。」は削除下さい。間違いの理由は,著者の老眼と Fraktur(ひげ文字)の難しさのためでした。訂正してお詫び申し上げます。
 
 

種多様性は種間の促進作用を通じて生態系機能を高める
 
Species diversity enhances ecosystem functioning through interspecific facilitation
J. C. Bradley et al. Nature 415: 426-429. (2002)
 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系の攪乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の1つとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,その一部を紹介する。今回は,水棲昆虫トビケラの種多様性によって発揮される生態系機能についての研究例を紹介する。
要 約
 最近の生態学理論では,種多様性が2通りの効果の及ぼし方で資源の消費効率に影響すると考えられている。すなわち,相補的効果(資源の分配あるいは種間の促進的な相互作用によって生じる効果)および選択的効果(生産性の高い単一の種が資源利用の大部分を占有することによって生じる効果)である。異なる機能を持つグループに属する種の間の促進的な相互作用の研究はあるが,同じ機能グループ内の種多様性と,資源獲得に影響する種間相互作用とを結びつけている仕組みは明らかではない。
 
 この論文は,世界中の川底に普通に生息しているトビケラ類を研究した結果について述べている。トビケラの幼虫は,川底の小さなくぼみに網を張り,水中に浮遊している粒子を受動的にこし取ってえさにしている。ここでは,米国東部の川に生息している3種のトビケラを使って実験を行った。川底の生息場所の凹凸(表面形状の空間的変化)は,川底近くの水の流れやえさの届き具合に影響を及ぼしている。トビケラの種多様性が増加すると,川底近くの水流を変え,有機物の捕獲を促進させるように川底の凹凸が増加すると考えた。この仮説を検証するために,種多様性に関して2通りの処理区を設けた。すなわち,それぞれの種の幼虫18匹からなる流れ(単一種区)と3種6匹ずつを混ぜた流れ(混合種区)を設けた。幼虫に網を作らせた後に,幼虫の浮遊物捕そく量を測定し,底付近の流速および凹凸の程度との関連を見た。
 
 混合種区では,単一種区よりも,浮遊物の捕そくが平均で66%多かった。浮遊物の捕そくの増加は,選択的効果によるものが17%,相補的効果によるものが83%であった。混合種区で浮遊物の捕そくが増加するのは促進的な相互関係の結果であるという仮説は,幼虫の摂食行動と底付近の水流との関係の観察結果からも支持された。トビケラ幼虫に届くえさの量は,流速に比例している。幼虫1匹当たりのえさ消費量は,単一種区,混合種区とも,網の入り口付近の流速と正の相関関係があった。混合種区でのえさ獲得量の増加は,底付近の水流の変化の結果である。混合種区での底部の流速は単一種区よりも平均22%早かった。
 
 底近くの流速の処理区による違いは,上流の網が下流の網への流れをさえぎることによって生じる。どちらの系でも上流の網によって下流の網での流速が低下する傾向があったが,混合種区では単一種区よりも減速の程度が小さかった。底近くの流速は,底の凹凸の密度,高さ,配置,形状の不均一性に影響される。しかし,トビケラの網の密度,高さ,配置は,処理区間における流れの差の違いに関係していなかった。幼虫の密度は,実験の始めと終わりで同一であった。また,網の高さには種間差があったが,単一種区の平均と混合種区で差はなかった。さらに,網の空間的集合性についても差はなかった。底の凹凸に関係した有意な要因は,形状の複雑性,すなわち,網の大きさのばらつきだけであった。混合区での形状の複雑性は単一区の平均の2倍だった。このように,異なる分類群が共存すると,大きさが不均一な網が形成され,拡散や乱流による上部の水流との混合などに変化が生じたと考えられる。
 
 この研究で,水生節足動物のあるグループの種多様性が増加すると,種間の促進作用が生じ,全体としての効率が高くなることが分かった。ここでの促進作用は,個体が生物物理学的な相互関係を通じて,各個体が隣接する個体により多くの資源が届くように影響していることによる。同様なことは,水中や陸上の生態系に広く存在すると思われる。流れがさえぎられることは,淡水や海の環境では普通のことであるが,同じような現象が,陸上植物の樹冠や土壌の生物群集でも起こっている。種多様性による生物物理学的な影響は,資源のさえぎり方を変化させ,資源の利用効率も変化させるだろう。たとえば,コケ植物の多様性と生産性の正の関係は,垂直構造が複雑なほど水を確保しやすく,乾燥期における植物の生存に役立つことによると考えられている。それぞれの種が物理的環境に及ぼすインパクトの違いは,生物多様性が生態系の機能を促進するような関係を生み出している重要なメカニズムなのかもしれない。
 
 

本の紹介 71:中山間地と多面的機能,
田渕俊雄・塩見正衛編著,農林統計協会
(2002) 2000円 ISBN4-541-02883-2

 
 
 1999年に公布された「食料・農業・農村基本法」は,農業の持続的発展を通じて,食料の安定供給の確保やその多面的機能の発揮を図るとともに,中山間地を含む農村の総合的振興を大きな目標にしている。とくに,中山間地域の振興については,「農業の生産条件が不利な地域(中山間地域等)において,農業その他の産業の振興による就業機会の増大,生活環境の整備による安住の促進」および「適切な生産活動が継続的に行われるよう農業の生産条件に関する不利を補正するための支援を行うことにより,多面的機能の確保を特に図る」ことを規定している。
 
 本書は,これらのことを具体的に中山間地において実現するためにはどうすればよいかを考える。水源や涵養源の評価,棚田の役割,山村の野生生物による被害と防除と共生,農村景観などを考察し,具体的な都市農村交流による中山間地活性化のあり方を説く。最後は,4人のベテラン教授(農業土木,環境,生態,経済)による「中山間地域のもつ機能をどう発揮させるか」と題した座談会が紹介される。
 
目次
 
中山間地問題と農業総合科学−序にかえて−         (中川昭一郎)
 
中山間地域問題に取り組む                     (田渕俊雄)
 
第1章 水源地域としての中山間地                (太田猛彦)
 1 はじめに
 2 森林の社会的機能の特質
  (1) 森林の社会的機能とは
  (2)森林の機能の多様性と総合性
  (3)機能の階層性
 3 中山間地における森林の変化とその影響
  (1)森林の荒廃と回復
  (2)森林の変化の影響
 4 21世紀の中山間地
  (1)中山間地に望まれる機能
  (2)21世紀の森林管理
  (3)農業と森林管理の差異
 5 水源地域としての中山間地の管理
  (1)森林の成長による流況の変化
  (2)涵養域の管理
 
第2章 涵養源としての水質評価                 (増島 博)
 1 はじめに
 2 流域における汚濁負荷の発生
 3 中山間地の低生産性と汚濁負荷の関係
 4 事例研究
  (1)埼玉県秩父地域
  (2)長野県野辺山・川上地区と穂高地区
 5 中山間地域問題を全流域問題としてとらえる
 
第3章 水源林の経済評価と保全施策          (矢部光保・合田素行)
 1 はじめに
 2 環境評価の政策的視点
  (1)環境便益と環境損失
  (2)CVMと環境便益・環境損失
 3 環境便益・損失と受益・負担関係
  (1)環境損失の防止としての多面的機能
  (2)環境価値と受益形態による多面的機能の類型化
 4 水源林の環境価値評価
  (1)道志村水源林の概要
  (2)調査の設計
  (3)データ加工と分析モデル
  (4)推定結果
 5 おわりに
 
第4章 棚田の役割と保全
 1 はじめに
 2 棚田の特徴
  (1)棚田とは
  (2)傾斜地の利用と棚田の管理
  (3)棚田農業のハンディキャップ
 3 棚田と土壌
 4 棚田の役割
  (1)土壌浸食・土砂流出防止機能
  (2)生物多様性・野生生物の生息地
  (3)自然・文化資源の提供
  (4)国土の定住分散
  (5)多目的機能の定量的評価
 5 棚田の保全
  (1)NGOと市町村の取組み
  (2)政府による取組み
 
第5章 山村における野生動物による被害・防除と共生     (山根明臣)
 1 はじめに
 2 野生生物による被害の実態と背景
  (1)カモシカ (2)シカ (3)ニホンツキノワグマによる農林業被害と保護管理 (4)サル
 3 共生への歩み
  (1)カモシカ (2)シカ
  (3)生態系保存地域指定地とグリーンコリドー
  (4)鳥獣保護及び狩猟に関する法律の改正
  (5)絶滅の危険を避ける目安
 4 おわりに
 
第6章 草食家畜の生産と農村景観                (高橋佳孝)
 1 ふるさとの原風景が消えていく
  (1)農村景観の中身を問う
  (2)滅びゆく半自然草地の景観
  (3)荒廃する山林の現状
  (4)増え続ける耕作放棄地
  (5)景観の変容が生物相をおびやかす
 2 中山間地域こそ畜産の力量発揮の場
  (1)開放された空間は草食家畜が創る
  (2)林畜複合で山林原野の保全・管理
  (3)傾斜地も保全的な草地に変え
  (4)耕作放棄地も畜産的に利用
  (5)二次的自然の生物も家畜が守る
  (6)放牧家畜のいる魅力の農村風景
 3 中山間地域での土地利用型畜産の発展にむけて
  (1)平場の技術を持ち込まない
  (2)タテ割を廃した共通の政策を
  (3)畜産をベースにした地域振興を
  (4)環境の担い手として守りたい
 4 おわりに
 
第7章 都市農村交流による中山間地域活性化
−地域の暮らしと文化を基礎にして−           (千賀裕太郎)
 1 中山間地域の状況
  (1)中山間地域の位置
  (2)地域の衰退とその要因
  (3)内発的発展と都市農村交流
 2 都市農村交流の現場から
  (1)群馬県新治村「たくみの里」
  (2)長野県飯山市「森の家」
  (3)ドイツ・アルハイム村リヒャローデ集落のエコ学校
 3 都市農村交流の意義と特質
  (1)都市農村交流の意義
  (2)農村の多面的価値の活用:グリーンツーリズム
  (3)魅力の場と収益の関係
 4 都市農村交流の課題
  (1)田園景観・自然環境の保全と維持管理
  (2)経済活性化とアメニティの関係
  (3)人に着目した活性化を
 
座談会:中山間地域のもつ機能をどう発揮させるか
    塩見正衛・中川昭一郎・田渕俊雄・大久保忠且
 
 

本の紹介 72:Using Statistics to Understand
the Environment
C.P. Wheater and P.A. Cook, Routledge,
London pp.246 (2000)

 
 
 環境研究のさまざまな分野で測定データの解析が必要とされる。環境研究のツールとして統計学を使いこなすためには,適切なデータに対して正しい統計手法を使う必要がある。しかし,適切なデータを集めるためには,最後に使おうとする統計解析手法は何かをあらかじめ知っていなくてはならない。多くの教科書では,だれかほかの研究者が集めた特定のデータを提示して,その処理手順を示すため,その統計手法が適用できる範囲がわかりにくい。
 
 本書(Using Statistics to Understand the Environment「環境を理解するための統計利用法」)は,環境の関係者を対象とした数少ない統計学の教科書のひとつである。環境科学で最低限必要な基本的な統計的検定法について,利用者がどのような場合にどの統計手法を使用し,結果を正しく解釈するかを重点的に解説している。
 
 第1章では実験計画が説明される。統計手法を使用して得られた結果が,研究者が意図した問いに本当に答えているのかどうかを判断するためには,そのデータがどのようにして得られたかが重要である。次の第2章ではデータの要約と記述の方法が,第3章から第7章ではよく使われる統計検定法が説明されている。また,巻末には,解析の目的,データの構造や種類によって,適切な統計手法を選択するための検索表がある。
 
 以下に主な目次項目の日本語()訳を示す:
 
第1章 研究のデザイン
 変数/母集団,標本,個体/観察と実験/サンプリング/ブロック・デザイン/サンプリング者の問題/標本の大きさ/データの独立性/誤差の原因/データのタイプ
第2章 データを記述する
 記述統計/データ表示の方法
第3章 疑問に答えるために統計を利用する
 仮説の検定/統計的検定
第4章 2つの標本の間の差
 対応のない比較/対応のある比較
第5章 分散どうしの関係
 相関/回帰/3つ以上の変数のあいだの関係
第6章 頻度データの解析
 頻度分布のあいだの関連/理論的な分布に対する当てはまりの良さ/カイ2乗( χ )頻度分析の前提/フィッシャーの正確検定と 検定/3つ以上の分布のあいだの関連
第7章 3つ以上の標本のあいだの差
 パラメトリックな一元配置分散分析/順位を用いた一元配置分散分析/パラメトリックな二元配置分散分析/順位を用いた二元配置分散分析/特定の仮説の検定/他の分散分析のモデル
 
用語集(119用語)
付録/引用文献(18点)/索引(大項目約120)
一般的な統計検定の検索表
 
 

本の紹介 73:Environmental Ethics Today
P.S. Wenz, Oxford University Press pp.351 (2001)
ISBN 0-19-513384-6
 
 
 本書(「Environmental Ethics Today(環境倫理学の現在)」)は,米国イリノイ大学の哲学・法学教授であるPeter S. Wenzによって書かれた環境倫理学と環境価値論の教科書である。ジャーナリスティックなスタイル(現状の紹介,リアルな論争や生々しいインタビュー記事の再録など)を多用して,米国を中心とする世界の環境倫理に関する論争や問題点を広く解説し,抽象的になりがちな倫理学的概念の内容をわかりやすく伝えている。
 
 たとえば,産業による環境の汚染,遺伝子工学の利用,経済・貿易の国際化にかかわる諸問題,生物多様性の価値と保護など,広範な話題が取り上げられており,功利主義,社会契約論,キリスト教の教義など多様な側面からの解説によって,論争点に対する理解と,問題解決への方向を提供している。
 
 現在の社会システムと科学技術による現状打開の可能性に対する著者の見方はいたって厳しいが,環境倫理についてのさまざまな論争や考え方が初学者向けに読みやすくまとめてあり,環境調査や環境研究にかかわる専門家だけでなく,環境問題を考える一般の方にも参考となる本であると思われる。
 
 以下に主な目次項目の日本語()訳を示す:
 
はじめに
 
第1部 人間中心主義
 
第1章 人口過剰,市場,および人間の権利
 人口過剰と希少性/自由市場とはなにか/豊壌の角の経済学/共有地の悲劇/公共財,外部経済,および政府の強制/環境権の取引/人口過剰への市場的アプローチ/救命ボートの倫理/心理学的利己主義と共有の可能性/人間の権利
第2章 エネルギー,経済,および将来の世代
 地球温暖化と将来の世代/人間の権利と将来の問題/公正な契約と将来の世代/環境の代償と費用便益分析(CBA)/CBAと希少性の増大/CBAと政治的平等/CBAと将来の世代
第3章 人間中心の価値の対立
 第三世界での環境災害/ひとりの人間の命はいくらに相当するか?/売春は合法化すべきか?/非−経済学的人間中心主義か経済学的人間中心主義か/美的価値/国民的な遺産/変わりうる価値と将来の世代/道徳多元主義/道徳相対主義
 
第2部 非−人間中心主義
第4章 動物の解放と功利主義
 動物の虐待/功利主義/種至上主義/畜産業/菜食主義/ロデオと闘牛/世代交替論/享楽主義への反論/選択的功利主義
第5章 動物の権利と医学研究
 権利の本質/不死のたましいと権利/言語,抽象的思考と権利/道徳的人格と権利/契約と権利/動物の生きる権利/動物実験の利益/動物の権利と動物研究
第6章 種の多様性とガイア
 種の大量絶滅/絶滅の原因/なぜ絶滅が危惧される種を守るのか/動物の権利か種の保全か/個々の生きものとしての種/ガイア仮説/科学からたとえへ/たとえと道徳的意味/機械論的なたとえと有機体論的なたとえ
第7章 土地倫理
 生態系保全のための狩猟/生態系の本質/狩猟は生態系のためになるのか,ならないのか/生態系をなぜ大切にするか/道徳的義務の衝突/第三世界におけるトラとゾウ
 
第3部 環境協力主義
第8章 人間の権利,農業,生物多様性
 貧困,効率,人間の権利/環境協力主義/最新の技術による農業の利益/専業化による拝金主義/自分たちの巣は汚さない/持続可能性の問題/緑の革命/種多様性と人類の繁栄/人間中心主義か協力主義か
第9章 環境フェミニズムと環境正義
 フェミニズムから環境フェミニズムへ/従属者としての女性/従属者としての先住民族/従属者としての自然/女性と自然/少数者の従属による汚染の助長/女性の従属,環境の劣化と人口過剰/先住民族の従属による生物多様性の低下
第10章 宗教と自然
 人間は「神を演ずる」べきか?/キリスト教の所有者解釈/聖書解釈と米国憲法/聖書解釈と聖書/物語,大きな物語,世界認識/ネスのディープ・エコロジー/米先住民族の宗教/キリスト教の管理者解釈/キリスト教の公民権解釈
 
第4部 応用
第11章 個人的選択,大量消費,人間の本質
 消費拡大か協力主義か/経済成長の正当化/高消費と人間の繁栄/欲求不満の市場化/外部動機づけとその限界/本質的動機づけ/愛をもとめて/金をとるか人生をとるか
第12章 公益,効率性,国際化
 集団的行動の必要性/非効率への支援/より効率的な輸送/農業政策/企業の繁栄と選挙活動/国際化の進行/国際化と人間の苦しみ/世界貿易機関,環境保護,民主主義
 
最終的な考察
 楽観主義は正しいか?/傾向の衝突/分節化する社会/世界は一つ(We are the World)/自然の尊重と人間の力の制限
 
 用語集(105用語)/注記(引用約700件)/索引(約900項目)
 
 

諮問文書の紹介 持続可能な開発;
生物多様性を振興する改革の好機

 
UK Department for Environment, Food & Rural Affairs Department for
Environment, Food & Rural Affairs
Sustainable Development: Opportunities for Change
Making Biodiversity Happen
 
 英国環境・食料・農村地域省が1998年7月に提出した諮問文書(Consultation Paper);Sustainable Development: Opportunities for Change Making Biodiversity Happenを仮訳した( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )。諮問文書とは法律を作成する前に各省庁の担当部局が素案を作成し,それを国民に意見を聞き,国民はその意見を担当部局に送り返す仕組みになっている。これらの国民の意見を受けて,担当省庁では,諮問文書を修正した修正案(White Paper)を作成し,これを国会に提出し,国会を通過すると,政策に移される。この修正案は国民にも公表される。
 仮訳した文章の中には原文の内容を的確に表現できない部分もあると思われるので,原文で確認していただきたい。
 
 環境・食糧・農村地域省
 
 持続可能な開発:生物多様性を振興する改革の好機
 目次
1.はじめに
2.現状認識
3.英国における生物多様性事業の経緯
 1)英国生物多様性推進推進委員会の報告
 2)英国生物多様性推進委員会の事業
4.進路を保持すること
5.生物多様性を振興させる
 1)生物多様性と中央政府
 2)生物多様性と地方政府
 3)生物多様性と輸送
 4)生物多様性と農業
 5)生物多様性と商業・建設
 6)生物多様性教育の振興
 7)生物多様性と個人
 8)あなたの意見の送付先
 
 はじめに
 
1. この諮問文書は,「改革の好機」;持続可能な開発のための修正戦略に関する見解を求めた199824日発行した政府諮問文書を補足するものである( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )。ここでは,主文書「田園地域,土地,野生生物」におけるパラグラフ75から80までについて,より深く探求した。他の補足文書は:商業,観光産業,建設と林業について公表されている。スコットランドでは,今年の後半,持続可能な開発に関するスコットランドの行動計画について意見を聞く予定であり,生物多様性に関するスコットランドの考えはこの計画に組み込まれることになる。
 
2. 生物多様性事業は実際の段階では,持続可能な開発が影響を与える各分野別の活動というよりも,本来,各分野の横断的テーマ,すなわち,持続可能な開発の一つの側面であり,またその成功のための重要なテストである。この文書では,英国における生物多様性の経緯を述べ;すでに確立した,あるいは計画されている事業を提示し;生物多様性目的がさらにどのように進めるべきかについて考え:生物多様性がなぜ生命問題の本質であるかを探求する:
 
 このテーマは我々がどのように生物多様性を振興させるかということである
 
3. この諮問文書は,英国の生物多様性を扱い:それは,海外のイギリス連邦構成国と王室領は扱わず;生物多様性条約(CBD)と汎ヨーロッパ生物・景観の多様性戦略を通して生物多様性に対する国際な英国の貢献;欧州共同体による生物多様性戦略の採択;二国間援助プログラム,ダーウィン・イニシアティブ(http://www.defra.gov.uk/news/2010/100226a.htm (最新のURLに修正しました。2010年5月) (対応するページが見つかりません。2012年1月) )とノウ・ハウ・ファンド(UKEU加盟準備国との二国間プログラム)を通し,他の国々への生物多様性に対する英国の支援;または発展途上国における生物多様性プロジェクトのための地球環境ファシリティーによる資金提供などは取り扱わない。これらの国際的な努力は重要ではあるが,この文書の範囲内ではない。
 
4. 最近まで,英国における生物多様性の事業は,個人と組織の比較的小さなグループの分野であった。この諮問文書は,整備された事業について広く国民に知らせ;その妥当性を示し;支援を得ること,参画を促進すること;そして,計画,政策及び優先事項を定めることについて,広く参加を求めることを意図している。
 
この諮問文書で使用される主な略語を次に示す:
BAP = 生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan)
CAP = 欧州連合の共通農業政策(The Common Agricultural Policy of the European Union)
CBD = 生物多様性条約(Convension on Biological Diversity)
UKBG = 英国生物多様性委員会(UK Biodiversity Group)
 
 現状の認識
 
5. 最初の疑問は,生物多様性とはなにか?であろう。「生物多様性」は生態学と自然保護の分野以外では聞き慣れない用語だが,次のような定義がわかりやすいであろう:
「生物多様性は,世界中に生息する植物,鳥,動物,昆虫の豊かさと,種類の多さを意味する」
 
6. 生物多様性は生物を維持する生息地,種のさまざまな群,そして種内の遺伝的変異を含む,生き物の全てに関係する。たとえば,牛や羊の品種が消費者の要求と異なる生育環境に適応するように選抜・育種されたことによって発展したことを考えれば,理解することができる。
 
7. 地球規模でも,英国内においても,生物多様性は驚くべき速さで失われている。英国では,20世紀に100以上の種が絶滅している;多くの種が数または分布,あるいはその両方を減らしている。ヤマネはこの100年間で英国の7つもの郡で絶えた;英国で繁殖するヒバリの個体数は,1991年までの20年間で54%減少した;そして,ハクサンチドリ(fenorchid)が自生する湿地は,かっては30以上のサイトがあったが,たった7サイトまで減少してしまった。英国の生物多様性政策は,これらの種とその種が依存している生息地の将来を守ろうとしている。
 
8. もし,それが生物多様性に関わることであるとした場合に,何故,問題となるのか?その他の環境問題は,人間に明らかに実際に影響がある。だれもが,きれいな空気と水を望む;われわれは水資源が適切に管理されることを期待している。われわれは気候変動の影響を理解し始めたが,それが野生生物とのその関連性についてよく考える必要がある。しかし,多くの人々は,生物多様性の消失についてあまり心配してはいない。生物多様性の消失は人々の生活に本当にインパクトを与えることになるのか,あるいは少数の科学者グループにとってだけのための問題であろうか?
 
9. 英国政府は,誰もが生物多様性は重要であると考えている:
 
・生物多様性は,生活の質の問題である。生物多様性はわれわれの環境の必要不可欠な部分である。そして,われわれに喜び,興味,知識と理解を与えてくれる。現代そして次世代に対して,全ての人々のために適切な生活の質を確保することが持続可能な開発の全体的な目的の一つ側面であり,この目的を成功させることが重要な一つのテストになるであろう;
 
・われわれは動物と植物からすべての食物を得ており,そして多くの衣類が得られている。われわれは家畜の品種,または,ある条件の範囲内で生産される作物の系統,または特定の害虫や病気に抵抗力がある作物の系統などに依存している。
 
・生物多様性は,気候の制御(たとえば,炭素のシンクとしての泥炭地)や,酸素を生み出し,土壌を発達させ,そして土壌の侵食と砂漠化を防ぐという,より一般的な環境機能の役割によって,人間の快適な生活を増進させる;
 
・生物多様性は環境の健康度を示す指標であり,自然生態系の機能として環境の災害や機能不全をわれわれに早期に警告してくれる;
 
・医薬は,天然物あるいはそれらに由来している。 生物多様性を失うことは,医薬的価値のあるものを発見する機会を失うことになる;
 
・生物の多様性は固有の価値をもち,われわれは,それを保護する道徳的な義務がある。われわれは,この多様性を受け継いできたのであり,それを将来の世代に渡すために,できるだけのことをすべきである。
 
10. 明らかに,多くの人々は生物多様性を理念として理解し,生物多様性を保全し,可能な場合には,それを増進することが何故,みんなの利益になるかを説明するようになった。一致した明快な定義がこれに役立つ。
 

 次のことについてあなたの考えを聞かせてください:
・あなたは,広く使えるように生物多様性のわかりやすい定義がありますか?
・あなたは,人々の広範な要求に対処する手段として,生物多様性を保全・増進するための簡潔な表現がさらにありますか?

 
 
英国における生物多様性の事業の経緯
 
11. さて,生物多様性の消失を停止させるために,英国ではなにをしてきたのか? 最初の段階は,締約国に要求されているCBDの第6条A項に従い,1994年に英国の生物多様性行動計画(BAP)「生物学的多様性の持続可能な保全と利用のための国家戦略,計画・プログラムの開発」を公表した:。
 
12. 英国BAPの主な特徴は:
 
・英国全土の自然保護のための既存の手段とプログラムをまとめあげること;
 
・政府は英国国内の生物多様性を保全し,可能であれば,増進することと,世界の生物多様性の保全に貢献することを約束したこと;
 
・既存の,あるいは計画中の保全事業に基づいて,「59のステップ」として知られる20年間の一連の活動を示したこと;
 
・目標と目的を作成し,公表することの必要性を確認したこと。
 
・事業を実行するために,多くの専門と複数の分野からなるグループの設立を構想していること。
 
 英国生物多様性推進委員会の報告
 
13. 英国BAPで構想した推進委員会は,中央と地方の政府;自然保護機関;収集組織;商業,農業と土地管理;学術団体とボランティア保護団体を代表としているメンバーで設立された。1995年の末に次のような主要な勧告を報告した:
 
116の種と14のキー生息地(報告書の第2編に掲載)のために必要な行動計画を作成すること。これらの種は個体数や分布範囲の減少,英国のみ,または主に英国に分布する程度,そして,国際的に絶滅が危惧される程度を考慮して選定された。同様の選定基準は,キー種にとっての重要度を含め,キー生息地にも適用された。すべての行動計画には,定められた時期までに達成すべき目標がある(たとえば,特定の種のコロニーを再定着させるとか,個々の生息地を広げるなどを含む)。
 
・3年以内に,約290の種と24の生息地についての行動計画を準備し,数百の種のために監視体制を備えること;
 
・各行動計画の実施にむけた事業を統括するための指導団体または機関を指定すること;
 
・種と生息地についての国内行動計画を実施する際の主要な手段となる地域BAPsの開発についての指針を発行すること。地域BAPsは地域アジェンダ21(「変革の好機」のパラグラフ57に記述)の進行を通して,前進するであろう;
 
・次のことによって,情報と生物学的記録の品質とアクセス性を改善するための対策を確立すること:既存のデータを最大に利用すること;全国版の生物多様性データベースを開発すること;そして,地方に本拠地をおく生物多様性情報システムをまとめること。
 
・教育と研修についての約20の提案を含め,重要な分野と一般大衆の中に生物多様性についての自覚を得るための約80の提案を実施に移すこと。
 
14. それに加え,推進委員会の報告書では,種と生息地のための行動計画を整備する際に生まれた共通のテーマと問題点を論議している。ここでは,空気と水の質の問題と水資源の管理;エネルギーの生産,伝達と利用;農業・漁業活動;鉱物とその掘削・採取;都市化;輸送ネットワークの拡大などが含まれている。この報告書ではこれらの分野において,政策,プログラム,そして活動のさらなる進展が生物多様性のために必要であることを強調している。さらに,この実行された行動計画の中の種と生息地のための特定の目標は,CAP改革なしには達成されないであろう。
 
15. 報告書は,その提案を実行するために必要な組織についても論議している。その後に実施された内容は,以下,パラグラフ16から18に示されている。報告書は,また,主に2000年のミレニアム報告を通し,提案の実行について,定期的な経過報告書が必要であると考えている。
 
英国生物多様性推進委員会の事業
 
16. 推進委員会の報告書の勧告は,19965月に当時の政府によって概括的に承認された。これに続き,政府の各省,地方政府,立法機関,商業と貿易組織(土地管理とボランティアの自然保護団体など,生物多様性の主要な関係者の全ての代表で構成する英国生物多様性推進委員会(UKBG)が設立された。最近,見直されたUKBGの委託条件は次の通り;
 
UKBAPの実施を監督,調整すること;
 
・全国的な生物多様性目標を監視,評価すること;
 
・進捗状況,克服している障害の手段,達成しようとしているその計画目的と目標を報告すること;
 
・前述の目的を達成するのにどれくらいの進行を確保するのが最もよいかを政府に助言すること。
 
17. UKBGは,次の委員会によって支援される:
 
・3つの共通的推進委員会は未着手の行動計画を作成すること;適切な指導を提供することによって,地域レベルにおける生物多様性を増進すること;そして,関係した情報,データと調査の優先事項をフォローアップすることがそれぞれ課せられている;そして,
 
・4つの地方推進委員会はスコットランド,ウェールズ,北アイルランドそしてイングランドにおける種と生息地行動計画の中での実施について進行を監視し,そして,これらの地方の中で広く生物多様性を育てることに責任がある
 
18. 上記の体系を図式して示した:
 
 
  英国生物多様性行動計画の実施  

 

 

 

 
目標サブ
推進委員会

 
情報サブ
推進委員会

 
地域問題
助言委員会

 
       
  −−−−−−       |       −−−−−−  
  ↓       ↓       ↓  


 

英国生物多様性委員会
 


 
   
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
     
イングランド
地方委員会

 


 
スコットランド
地方委員会

 


 
ウェールズ
地方委員会

 


 
北アイルランド
地方委員会
 
 
 
19. この英国の全体的フレームワークの範囲内において,地方の制度やその他の地域条件を反映させるため,これら4地方での重点が少しずつ異なっている。たとえば,イングランドでは,地域レベルごとの生物多様性に重点がおかれている。ウェールズは各地方問題を重視しているが,北アイルランドは公共の自覚を構築することに特別,重点をおいている。北アイルランド地方委員会は,北アイルランド地区の戦略を開発するにあたって,アイルランド共和国と共有する種と生息地に注意をはらっている。スコットランドでは,199711月にスコットランド生物多様性委員会が報告書「スコットランドの生物多様性−進むべき道」を公表した。この報告書は,その固有の状況と制度に十分に配慮して,新政府がスコットランドの中に取り込む予定の生物多様性への取り組みを提示している。スコットランドの生物多様性については,新しいスコットランド議会が責任をもつであろう。
 
20. UKBGは共同的な取り組みを行う。この委員会を構成する団体は政策の開発とその実施を共同で行う。このことは,個々の種と生息地行動計画のために設立された推進委員会における例証がある。これらの取り組みは,貢献する全てのキー分野の代表が入っている先導団体や先導機関(通常,政府やボランティア保全組織)の指導の下で開かれる。UKBGは環境・運輸・地域省の生物多様性事務局によって支援されている。参加している組織の多くは,生物多様性事業に特別に対応するため,生物多様性調整者を指名した。
 
21. UKBGが当面の優先事項としているのは,以下ことである:
 
1998年終わりまでに未処理となっている,種と生息地行動計画を発表すること;
 
・これらの機能していない行動計画のための先導団体・機関を確保すること;
 
・英国の生物多様性保護に関係する組織と個人のためのニュースレター「生物多様性ニュース」の発行部数をさらに増やすこと。これは,今後,年に3,4回,発行される;
 
Webサイト(自然保護合同委員会(Joint Nature Conservation Committee)が最初の主催者である)を運営すること;
 
・推進委員会報告書で示された非常に多くの情報とデータの必要性を確保するために国立生物多様性ネットワーク(より地域的記録センターの設立を含む)を前進させること;
 
・生物多様性のすべての調査の必要性を認識・調整するための機構を確立すること;
 
1998年に行った地域生物多様性行動についての適正な活動調査の結果を約15件,発表すること;
 
・生物多様性に対する公共の自覚を構築するために,さらに事業を続けること。この諮問文書への返答がそのために役に立つと思う
 
22. このプログラムは,個々の種のための報告要件に賛成することと,特定の段階的目標の達成を公表することの事業によって支援されている。たとえば,UKBGは気候影響が種と生息地を変化させ,設定した目標に対する関わり合いなどのような,将来の優先事項を考えるのはもちろん,2000年におけるミレニアム報告に向けて構築することが望ましい。そうする際には,可能な限り広範囲な情報が必要である。
 
  進路を保持すること
 
23. 持続可能な開発の重要な部分は,目標を設定し,進路を監視するための指標を作成し,広範囲な聴衆に対して,明白で,包括的,有益な方法で報告することである。1996年に英国政府は持続可能な開発のための指標の最初のセットを公表した。われわれは,これを新しい戦略の作成作業の一部として,それらを吟味している。われわれの目標は,より包括的な中心的指標セットを作成することと,進行の概要を示す少数の指標を確認することの両方である。これらは,英国における生物多様性を維持して,そして高めるための行動の状況と進行を表す指標など,環境的,社会的,そして経済的諸問題を要約するものでなければならない。
 
24. 事業はすでに生物多様性を取り扱う指標の新たなセットの開発を始めている。われわれが考えている指標の候補には次のものが含まれている:危険にさらされている在来種;湿地の消失;生け垣の消失;生息地分断;農地とそれ以外の場所の鳥類,植物の多様性,哺乳類と蝶類の傾向;および生物多様性行動計画,環境保全地域事業,田園地域管理事業,特別科学研究対象地区事業の実施に関する全体的な進行,などである。
 

 次のことについて,あなたの意見を聞かせてください:
UKBGが長期的な優先事項についてのあなたはどう考えますか?

・特に,将来の公共の自覚戦略の目標をどこにおくべきでしょうか,そして,どんな手段を探すべきでようか?

UKBGはさらに広範な共同体が英国の生物多様性事業に参加し,影響を及ぼすようにするめにはどうしたらよいでしょうか?

UKBGに代表を出していないが,代表を出すべき重要な分野がありますか?

・パラグラフ24で述べられている指標についてあなたはどう考えますか?
 
 
  生物多様性を振興させること
 
25. 英国内の生物多様性の現状に関して既に多くのことが達成された;優先事項を設定し,事業を調整するための組織を設立すること;そして,種と生息地のための行動計画を実施するために協力関係を構築すること。この事業の実施には,かなりの課題がある:種の回復や生息地の強化と回復を目的とする事業は,多くの前例がある,しかし,約400の種と38の生息地での行動計画を同時に実施するという事業規模は,政府内外の両方で関係するすべての組織の資源を圧迫するであろう。それにもかかわらず,行動計画が発表さた116の種と14の生息地について推進委員会が設置されており,そして,目標に向けて事業が進展している。
 
26. 推進委員会報告は,行動計画の実施には他との関係なしには行なえないことを明確に述べている。いくつかの種は現在,分布が非常に局所化され,それらの種の要求に丁度,合った生息地が必要であるが,大多数の種については,他の要素の関連から検討しなければならない。もし各分野が十分に取り組むべきであるならば,関連する重要な分野すべての協力が必要である。行動計画を成功させるためには,とくに,もっと生物多様性にやさしい環境と,生物的にもっと多様な田園地域が必要である。
 
27. 推進委員会は,生物多様性を持続可能な開発の関連に組込もうと努力した。この報告書の残りの部分では,生物多様性に有効であり,これに逆行せず,そして生物多様性を振興させることに貢献するように,人間活動のいろいろな重要な分野がより持続可能な発展をするにはどのようにしたらよいか調査・探求した。この諮問文書は,次のような重要な分野について議論する:中央政府;地方政府;運輸;農業:商業と建設;教育;そして,一般国民。
 

 あなたの意見を聞かせてください:

・生物多様性を振興させるための必要不可欠な役割をはたすような重要分野がさらにありますか? それらの分野はどのような貢献ができますか?

・英国の生物多様性事業に参画し,その将来方向に影響を及ぼすことができるようにするためには,実際にどのように情報を提供し,興味をもってもらい,関わり合いをもってもらったらよいでしょうか?
 
 
生物多様性と中央政府
 
28. 中央政府は,特に,それ自身のさまざま政策とプログラムの範囲を横断して,生物多様性を統合し,最も緊急の優先事項を進める主導者として,生息地と種の法的な保護,そして,全国あるいは国際的な生物多様性の状態の報告など,生物多様性に関する特別な役割がある。それも,次に議論する重要な分野の事業における役割もある。
 
29. しかし,政府は一般的な役割も持っている:政策とプログラムを決定するだけでなく,欧州連合の制度のもとでの適用決定基準を設定するなど,それらを実施に移すための規則も決定する。それらの規則は,生物多様性を考慮に入れなければならない場合もあり,他の場合には,生物多様性が絶対必要条件でなく,関連的であるかもしれない。これは,環境のプログラムに当てはまりそうであるが,住宅や建設のような他の分野も含むかもしれない。場合によっては,関係するプログラムの規則は,生物多様性を妨げたり,意思決定において,生物多様性への特別な配慮がない。そのため,この点で政府の政策に従おうとした申込者が,そうすることによる利益を何も得られず,競争的に不利益さえこうむるかもしれない。
 

 これらの問題について,どのように進めていくべきか,あなたの意見を聞かせてください:

・生物多様性を法令で定めたいろいろな環境制度の中に入れることは,適切でしょうか? 明らかに,これを短期間の内で行うことができません。何を優先すべきでしょうか?

・プロジェクトの適用とその決定を総合した基準の中に生物多様性を組み込むことができるような特別の種類の政府やEUのプログラムがありますか? できましたら,行動計画を公表するために,これらの種と生息地に関して,実行することが可能な具体的な方法があるでしょうか?
 
 
30. 政府とその部局は,かなりの面積の土地と資産を所有,あるいは管理している。資源の注意深い使用やリサイクルによって,環境にやさしい方法で政府建物を管理することは非常に重要であり,これはごく一般的な方法で生物多様性に有益な効果がある。しかし,これまで政府が生物多様性のためにそれらの地所をどのように,積極的に管理することができるかということをほとんど考えてはこなかった。
 
31. そこには多くの可能性がある。第1に政府機関が生物多様性に重要なサイトを含む土地を持っている場合には,それらの価値を重んじ,増強するように管理しなければならない。第2に,生物多様性に価値があるか,またはその可能性がある土地を生態学的効果を目的にして,その土地をアクセスすることが許可されてもよいと考えられる。第3に,景観管理事業計画においては,その土地由来の樹木と植物を使用することが可能であると考えられる。
 

 以下の問題に関して,あなたの意見を聞かせてください:

・生物多様性を促進するために,土地の所有者および経営者としての彼らの役割に関して,政府と各部局ができることはどの程度まででしょうか?

・政府と各部局が,生態学的理由から,より利用可能なアクセスを作り,生物多様性にやさしい景観管理計画(地方由来の種を取り入れるなど)を推進するならば,それは役に立つでしょうか?

・政府が土地管理者としての役割において,生物多様性の目的が促進されることができるような他の方法があるでしょうか?
 
 
生物多様性と地方政府
 
32. 地方政府は,生物多様性を振興させることにかなり貢献できる潜在力がある。これは,全てのレベル:教会区/地域共同体,行政区,州,地方行政部局単位や国立公園にあてはまる。いろいろな段階の地域生物多様性行動計画がすでに英国内に約100ある−いくつかは行政によって,他のものは他の野生生物推進委員会によって開始され,準備と実施に関する助言のための5つの手引き書がUKBGと地方政府管理委員会によって発行された。これらは英国の異なる場所における地域BAPsを対象として,ある適正な活動調査によって追跡調査がされている。
 
33. 199712月にスコットランド生物多様性推進委員会は,4つのパイロット地区の経験に基づいて,スコットランドにおける地域BAPsについての指導マニュアルを発行した。イングランドでは,地域の生物多様性行動計画の準備を含め,地域のイニシアティブは国家的な優先事項と地域の活動の間の重要な橋渡しとなりうることを表明している。このようなイニシアティブは,如何にして主要な開発が地域の生物多様性資源と両立するような計画を立てることが可能であるを考えなければならない地域計画基準(Regional Planning Guidance)と,補完的でなければならない。農村地域計画基準には地域,あるいは小地域のレベルにふさわしい生物多様性を向上させるために,あらゆる積極的対策を見極める必要もある。
 
34. 結局は,地域BAPsについての情報は,環境・運輸・地域省のデータベースに保持されるだろう。先導パートナーと先導機関は,これによって国内的責任をもつ種と生息地についての全国的な発展の明確な情勢をつかむことができるであろう。現在,考慮すべき問題は,国内レベルでの生物多様性事業に地方行政機関がどのように情報を保持するのが最善であるかのということである。すべての地方行政機関は,国内情勢を得るために役に立つニュースレター「生物多様性ニュース」のコピーがもらえる。
 
35. 地域BAPsは,いくつかの方法で生物多様性を支援できる:
 
・国家の目標と目的の実施を支援するために,国が認定した種と生息地のための行動計画を作成することができる;
 
・行動計画は地域で特に重要な種と生息地に対しても規定することができる;
 
・生物多様性を増進することに関心のある地方団体を引き入れて,既存の協力体制を強化したり,新しい協力体制を確立したりすることができる;
 
・製造,土地管理や共同体グループのような分野は,これらの分野とこれらセクターの地方環境に影響を及ぼすような生物多様性についての情報を伝えることができ,かれらの利益を適切に考慮した持続可能な方法での生物多様性の保全に関与し,計画に参画することができる;
 
・地方共同体は,地方の生物多様性優先事項に参加し,優先事項を具体化することを始めることができる。
 
36. いくつかの地域BAPsは地域アジェンダ21の進行と独立して作成されたが,理想的には,これらは地域アジェンダ21の中に統合すべきであり,これによって,これらの計画は環境だけではなく,経済,社会,文化的な地方の共同体の必要性に関する広範な視点に貢献すべきである。地域アジェンダ21それ自身の進展と地域アジェンダ21を地域的に行うために設立したネットワークは,地方的な生物多様性と生物多様性を育てることについて,地方共同体に知らせる機会を将来,提供する。多くの地方行政機関は,彼ら自身の活動のニュースをのせた地方出版物を創刊している。これには地域BAPsについての進展が含まれている。
 
37. 法令による開発計画は,重要な種と生息地を保護する上で重要な部分である。立案する地方行政機関は国際的に国内的に指定されている全てのサイト,そして,地方あるいは地方行政部局単位の開発計画の場合は,行政区と地方の指定を見分けることが要求される。しかし,生物多様性への開発計画の貢献は,これより広範囲に作用する。政府の指針は,単に指定地区だけでなく,保全する価値のある他の土地や新しい生息地となりうる土地にも配慮した計画など,より広い視点が地方行政機関に期待されることを明記している。特に法律で保護さた生息地や種が含まれる場合は,自然保護は,開発計画の適用を決定する際に考慮する事項になるであろう。そんな場合には,計画の条件と義務を長期にわたる管理の保証や,そのための資金提供のために使用することができる。
 
38. 中央政府と同様に,地方政府は土地と資産を所有しており,これらの土地と資産は,生態学的な評価をするためにアクセスすることが与えられ,より生物多様のある手段で管理される可能性がある。また一方,地方行政機関が景観管理計画を設定,あるいは検討する場合には,地方の生物多様性のために重要な植物と樹木(とくに,地域在来のも)の価値をその中に含めることが可能と思われる。ある地方行政機関は,すでに公園と他の公開の場所の中に野生生物に利益になる地区を含めており,そのような地区では国内の種と地方の生物多様性に利益のある種に重点をおくであろう。
 

 以下にことについて意見を聞かせてください:

・農村地域計画指導を地域,小地域レベルの生物多様性問題を最もよく反映するにはどのようにしたよいでしょうか?

・地方行政機関が国内の生物多様性の現状ついて情報を与え,そして,関与させることができる方法がさらにありますか?

・どうすれば,まだ地域BAPの事業を開始していない地方行政機関に事業開始を促進することができますか?

・可能な限り広範囲な関係団体と組織に地域BAPの推進に関わり合いをもたすようにするにはどうすればよいでしょうか?

・生物多様性目標を果たす管理協定を確保するために,計画している条件と義務がより広範に利用することができるでしょうか? それはどんな方法でしょうか?

・他の考慮すべき問題と並んで生物多様性について重点化するために,開発計画の査定はどのように強化すればよいでしょうか?

・地方行政機関の土地の管理とアクセス,あるいは地方行政機関の景観管理計画に関する種の選択に影響を及ぼすことが,どの程度まで,生物多様性の配慮に対して現実的でしょうか?

・地域BAPsの進行状況について地方共同体の範囲内で広め,またその共同体が事業に参加して,この事業の将来方向に寄与するための最も良い方法はなんでしょうか?
 
 
生物多様性と輸送
 
39. 輸送に関連した活動が生物多様性に被害を与える可能性のあることは,よく知られている:道路建設は,野生生物の生息地であったかもしれない土地を使用し,そして土砂の使用が増大し,また,生息地を消失させ;道路の側溝が埋設された排水管に取り替えられると,湿地生物の生息地が消失するであろう;道路を走る自動車の排気ガスは,酸性雨と温室効果ガス排出の一因となる。一方,道路端の緑地部は野生生物にとって貴重な場所になる可能性があり,生息地の強化と創出することが可能な土地はかなりの面積になるかもしれない。
 
40. たとえば,道路庁のこの「柔らかい地所(道路緑地)」は,約30000ヘクタールにおよび,すでに野生生物のための避難と他の土地への移動通路としてかなりの価値を持っている。この道路網は野生生物を保護するために,環境のアセスメントとデザインに関する最新の知識を使用して,新らたに建設した道路が含まれている。この土地全体の管理は,生物多様性の状態に関する詳細な情報,特に存在している種と生息地のタイプに関する詳細な情報が必要だろう。データの収集には,2,3年がかかり,そして,それらの情報は地域BAPsにリンクされる。スコットランドでは,最近の出版物「費用効果の高い景観:自然からの学習」において,スコットランドの幹線道路に関する景観の設計と管理のための新政策を掲載している。
 
41. これまで,輸送についての環境的関心のほとんどは,道路建設と道路交通に向けられていた。しかし,港,空港,鉄道の全ては,輸送用地の相当な面積を占めている。これらの用地には,輸送活動と一般社会の間に必要不可欠な緩衝地帯が含まれる。生物多様性のために,これらの用地をよりよく管理できる可能性があるだろう。たとえば,多くの港の周辺には,影響を受けやすい野生生物の生息地があるが,大部分は国際的に重要な生息地である。これらのサイトを持ち続ける価値は,港の活動が環境的に悪影響を及ぼしてはならないことを現しているが,このようなサイトの多くは海岸浸食,海面上昇のような進行作用によるインパクトにさらされている。したがって,これらの影響を受けやすい地区を保護する重要性が増加している。国際的に重要なサイトと関係した港では,これらのサイトを維持し,可能な場合には増進させるために,他の機関と共に管理計画を開発する事業を行っている。
 

 そこで,あなたのコメントを聞かせてください:

・道路-建設業者,そして鉄道,港,空港の管理者を生物多様性の進行に引き入れるには,どのようにしたら最もよいでしょうか?

・道路端の緑地や他の緩衝地帯が,野生生物の生息地として改善できる可能性はどの程度ありますか?

・輸送の運営管理者は,ほかにどんな方法で生物多様性の事業を支援することができるでしょうか?

・統合輸送ネットワークを開発することによって,輸送の悪影響を抑制することができるでしょうか?
 
 
  生物多様性と農業
 
42. 生物多様性と農業の関係は複雑である。英国の土地の大部分は農業活動に使用され,そのため,農耕と畜産システムは英国のほとんどの種が依存する生息地を提供している。農業が変化すると,農業の生息地とそこに生息する種も変化する。第二次世界大戦中の食料生産運動に始まる農業の集約化は,生物多様性の消失の原因に関係してきた。たとえば,貴重な湿地帯からの排水,永年草地の畑地化,化学肥料と農薬の使用の増加,生け垣の除去と消失,そして一般的には,野生生物価値の高い土地を耕作や畜産のために,より生産性の高い農地に変える改良によって,生物多様性が失われた。このように,生物多様性は広い範囲の田園地域で減少し,そして,ある種は,以前の広い生息地の中の孤立した断片に限定して生息するようになった。断片化した生息地ではごく普通の個体数を持続することができず,そして,異常気象と世界的な気候変動のストレスによって危機にさらされている。
 
43. 一方,多くの場合,英国の野生生物とその生息のための植物は,農業とこれらの野生生物に適した土地管理に依存している。われわれは全国の現代的農業活動の必要不可欠な部分として適切な保全活動が行われるような政策に向けて進む必要がある。われわれは田園地域を野生生物が使うことを駆逐する集約農業が行われる地区と分離し,避難するための保護用地を残すことは望まない。したがって,われわれは単に特定部分の貢献よりも,むしろ,英国生物多様性行動計画の目標を満たすことを助長するために,農業が営まれている田園地域全体からの貢献に注目する必要がある。
 
44. 農業活動によって生物多様性が保護され,増進することができる多くの方法がある。農業環境計画はCAPの下で,欧州共同体から資金の一部を供給され,5年から20年間まで適正な農業活動以上の活動を行なった農家に対して支払われる。この計画は,生物多様性だけでなく,景観と歴史的遺産も含めて,田園地域を保護・維持するように設計された。これらの計画の下では,農家は失われた費用と収入を,必要な場合には奨励金で補償される。農家は多くの行動計画で重要な役割をもている。農民が生物多様性を促進することが可能な補助金制度は,地方行政機関を通しても利用することができる。
 
45. しかし,農民のコストを著しく増加させる必要がなく,または公式の奨励制度の要求の必要がなく,助言が多くの行動計画について重要な役割を果たすところでは,生物多様性のニーズを考慮して,農業活動を変更する余地がある。また,一部の農民は,生物多様性に対する彼らの土地の価値,または,費用なしで生物多様性を維持し,増進することができること,あるいは彼ら自身の利益になることさえ可能な方法に気づいていないかもしれない。政府によって資金助成された無料の保全についての助言がADASFWAGを通して利用することができる。また,他に民間に導入された奨励制度もある。生物多様性支援のもとで,特別に開発された制度の一つに農場BAP制度がある。この制度はFWAGとセインズベリーズによって開拓され,各農場の生物多様性要件を検査して,彼らの日常の農場管理において,生物多様性要件に配慮することをセインズベリーズの供給者に奨励する制度である。ここでは生産者と小売業者が消費者に生物多様性にやさしい方法で生産された,さまざまな生産物を供給することに相当な潜在的価値があると思われる。
 
46. 欧州連合の共通農業政策の将来の姿は,英国の田園地域が野生生物と人間の両方にとって,より持続可能なものになるかどうかが,重要な決定要因である。率直に言えば,CAPは環境の改善に役立っていない;前述のように,部分的には農業に対する高い価格支持のおがげで,CAPはより集約的な農業に向かって変化を加速した。英国BAPの下での生息地と種行動計画の多くは,それらに反対することなく,作出したCAP改革によって支援されることになるであろう。
 
47. 欧州委員会は,CAP改革案を19983月に提唱した。これらは,価格支持をさらに減らし,単一の農村開発規則として環境,建設,林業,および農村の開発対策を連結することによって,農村政策を強化することを目的としている。この,より密接な統合によって,野生生物を保護し,強化する枠組みを設けることができ,また,英国と全ヨーロッパでの,農村地域の持続可能な開発を促進することができるであろう。しかし,この変化がヨーロッパの田園地域に広範囲に影響を及ぼす前に,支援に基づく生産から農村開発規則に資源をシフトするための改革が一層,必要であろう。
 
48. 結論として,持続可能な田園地域(生物多様性と健康的な農村共同体の両方を備えた田園地域)の論議は,たとえ,セクター中の雇用水準が低下し続けたとしても,農業は主要な土地利用であり続けることを認識しなければならない。
 

 そこで,あなたのコメントを聞かせてください:

・農家に生物多様性を育てることができる方法について伝えるために,さらになにができるでしょうか? そして,それを行う最もよい手段はなんでしょうか?

・食料生産のパターンに関して,そして,農民が生物多様性を持続するための貢献を市場に刺激をあたえるための売りものをさらに開発する可能性はなんでしょうか?

・現在の規則,助言と他の対策の組み合わせは,生物多様性を保全し,増進するために適切でしょうか? どんな変化が必要でしょうか?

・英国における現在の農業環境制度が生物多様性を保全・増進することにおいて,どの程度,効果があるでしょうか? この点について,どのように改善すればよいしょうか? ほかのEU諸国における農業環境対策がどのように行われているかを知ることが可能な参考になる事例がありますか?
 
 
  生物多様性と商業・建設業
 
49. この補足シリーズにおける他の2つの諮問文書は,商業と建設業がどのようにして持続可能な開発のために貢献できるかについて取り組んでいる。提出された問題点の中には次のことがある:建物や構造物の配置が野生生物を含めて,環境にかかわるインパクト;建設材の採取,加工,建設中,そして,その後の建築物と施設の管理,改造,処分までの期間中の空気と水の汚染を最小になるように抑制することの必要性;持続可能な方法での材料の利用と再利用;および,エネルギー開発を含めた(特に所有の費用)長期のスパンでのエネルギー消費,などがある。
 
50. これらの問題は,すべて生物多様性にも影響する。環境によいことは,一般に野生生物にも有益であろう。しかし,そこには特殊な問題もある:
 
・特定の用途のために選択した土地が生息地の一部分を他の部分から分断したり,その生息地を破壊することによって,種に悪影響を及ぼすかもしれない。サイトの別の選択は影響が少なく,受け入れ可能な影響が多くあると思われ,または,その他の土地は生息地回復として適切に利用可能になるかもしれない;
 
・投光照明や騒音などのいくつかの活動は,影響を受けやすい時期に種を乱すかもしれない(たとえば,繁殖シーズン,渡り,冬眠の期間):時期を変えることで,障害の原因を少なくすることができるであろう;
 
・用地の管理の方法が生息地と種に大きな影響がある。従来のやり方を変更することは,コストをかけずに野生生物のためになるかもしれない;
 
・資源の消費,放出及び排出は,どれも特定の生物多様性の価値をもつ生息地と種にインパクトを与える恐れがあり,必ずしも,局所的だけではない。ここでも,場所の選択や活動の変更によって,インパクトを小さくすることができるかもしれない。
 
51. 政府の各部局と同様に,いくつかの会社は生物多様性の面で重要な生息地やホスト種が生息する土地を所有あるいは管理しており,ここでは商業が生物多様性を支える可能性があるかもしれない。一部の企業は個別の種行動計画の「擁護者」になることによって,生物多様性を直接,支援してきている。たとえば,彼らは,そのような計画の一部を可能にする財政的スポンサーとなり,あるいは,財政以外の資源を提供できる。英国政府と製造業界は,生物多様性が一般社会に対して価値があることを知らせる点で重要であることを認識している。
 
52 英国政府は,経済開発を促進し,各地域の競争力を向上させるために,19994月からイングランドで地域開発機関(RDAs)を設立した。RDAsは英国における持続可能な開発の達成に関係する地域に貢献するという特定の目的がある。これらの地域戦略によって,RDAsは各地域の地方と都市の両方で持続可能な開発に関与し,地域BAPsと生物多様性に関する国内政策を補完する政策を開発することが可能である。
 
53. 一部のスーパーマーケットと小売業者は,生物多様性問題を含む環境についての関心を高めることを表明している。セインズベリーズはヨーロッパ近海の大規模機械化漁業によって供給される魚油の使用を中止した。この理由は,それらの大量の漁獲は,海の食物連鎖のダイナミクスに明らかに影響を及ぼしていたからである。他の商業では天然物を原料とする化粧品,食品と製薬品の製造・販売に専門化している。ユニリーバと世界自然保護基金は,持続可能な漁業のために市場インセンティブを作るための保護協定を提携している。
 
54. ICIは国際的な自然保全監視プログラム−Nature Linkを開発した。これは,マングローブと熱帯多雨林はもちろん,森林地帯や荒野生息地を含む,世界中にあるICIサイトおいて,1000羽以上の鳥と150の哺乳類種を記録した。Nature Link保全プログラムは,ICIが雇用する職員によって,地方と国際的な保全推進委員会が協力して実行される。適切な活動については,この他のに多くの事例があり,説明と普及することに役立つだろう。これらは環境問題に関する企業教育と研修プログラムの素材として利用できるであろう。
 
55. 最後に,これまで見てきたように,生物多様性行動はいろいろな準備段階の約100の地域BAPsがあり,地方レベルで盛んになっている。生息地域内に大きな土地を所有する会社は,なにが企画されているかについて,それらの内容を知り,行動することが必要であろう。そして,生態学的な目的に対して,彼らの土地へのアクセスを提供し,あるいは他の実際的な支援によって,貢献することを希望するかもしれない。農業と土地管理組織は,すでに地域BAPsを構成し,実施にある程度の係わりがある;とくに,環境委員会がすで強力に動いている場合には,検討すために,商業会議所は同様の任務があるだろう。
 

 したがって,以下のことにコメントください。そして,他のコメントを追加してくだ さい:

・商業では,活動が生物多様性にどのようなインパクトを与えるか,あるいは生物多様性に害を与えることよりもむしろ,利益になるような選択をどのようにしたらよいかについて,多くの助言や情報が必要でしょうか?

・商業はそのような助言と情報がどこで得られるかを知っているでしょうか?

・生物多様性にやさしい商業活動について,さらに例がありますか? このような実例を説明し,普及するにはどようにしたら最もよいでようか?

・生物多様性問題を商業の教育と研修のプログラムに組み込むには,どのようにするのが最もよいでしょうか?

・企業による「擁護する」がさらに公表,説明,促進されるような方法があるでしょうか? あなたやあなたの組織は,これらの方法の一つ,またはそれ以上で,支援することができますか?

・その生物多様性の重要性を評価することができるように,その土地に与えられるアクセスを許可することを自ら進んで許可する重要な土地を所有している会社があるでしょうか,そして生物多様性にやさしい方法で土地を管理するにはどのようにしたらよいのか,助言が与えられるでしょうか?

・商業はかれらの用地で土地利用事業を起こしたり,または変更したりしたときに,生物多様性の面で価値のある植物や樹木(特に地方種)を使うことを考慮しているでしょうか?

・地方生物多様性行動計画に関する事業の中に地方の商業をよりうまく入れることができるでしょうか?

・地方の商業会議所は農業と土地管理組織がすでに行っているような方法で,地域BAPsの議論に関して,代表者としての役割を担える準備ができているでしょうか?

・商業会議所や地方の商業は,地方生物多様性「擁護者」として行動することの準備ができているでしょうか?
 
 
教育に生物多様性を振興させる
 
56. この政策が長期的に成果を上げるようにするには,生物多様性についてあらゆる年代の人々に教育することが重要である。生物多様性をさまざまな分野の政策を統合することは,政府をグリーン化し,政策立案の中心に持続可能性への配慮をおくことを,より広範に検討することと結びつけなければならない。政府が持続可能な開発に関する教育について,行政機関を含む重要な関係者に助言するために設置した専門家委員会が,この問題を検討し,今年(1998)の末ごろ,報告する予定である。スコットランドでは,教育システムが英国の他の地方と異なり,スコットランド議会が責任をもつことになる。1995年に設置されたスコットランド省の持続可能な開発の教育サブグループと協議しながら,スコットランドの生物多様性グループは,生物多様性問題を教育システムのすみずみまで反映させるための行動を監督している( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )。
 
57. われわれは最も基本的なレベルにおいて,生物多様性が学校においてどのようであれば最も良いかを決定し,基本的レベルの自覚を生み出すことが必要である。今のところ,教育の全国共通課程プログラムは生物多様性を明白に言及していないが,そこには生態系,環境の管理,持続可能な開発,資源の開発,身のまわりの生き物,そして,技術革新による環境影響というような,生物多様性問題を児童・生徒が学ぶことを保証する要求と機会が含まれている。ある人々は,これでは不十分であり,持続可能な開発と,より一層,集中した自覚と,生涯教育の一部に生物多様性の場が必要であると思っている。他の人々は,教育課程が規範的すぎること,そして教師達が実際には助言と研修,支援を必要としており,それによって,国の教育課程の中にある環境教育の可能性をより良く開発することができると主張している。
 
58. 資格・カリキュラム開発機構(Qualification and Curriculum Authorityhttp://www.qca.org.uk/ (最新のURLに修正しました。2015年1月)  参照)は,昨年(1997年)の広範な協議の後に合意した重要性についての宣言を含めて,精神的,道徳的,社会的,そして文化的な開発に関する指導素案が通過している(http://www.education.gov.uk/schools/teachingandlearning/curriculum (最新のURLに修正しました。2012年1月)  参照)。その宣言は「驚異とインスピレーションの意味で生命の基盤として,自然と人間によって形づくたれた両方で,環境をわれわれは高く評価する」。指導素案からの暫定的助言は,全国共通教育課程の再検討におけるQCAの助言を知らせている。
 

 あなたの考えを聞かせてください:

・特定の生物多様性話題は全国共通教育課程の中にどのようにうまく入るでしょうか? 生物多様性についてより的確に焦点をあわせるように,生き物についての英国履修課程試案を修正する余地があるでしょうか?

・理科,地理,あるいは他の関連科目の教師への生物多様性の教材の提供をどのように改善したらよいでしょうか?
 
 
59. スコットランド生物多様性推進委員会は,学校内外での教育の生物多様性の自覚を高める役割に対して優先事項を与えている。この事業の当面の成果の一つは,英語での共通の授業が中等教育において,すべての生徒に生物多様性を紹介するための理想的手段となっていることの認識であった。「生物多様性を英語教育に」指導プログラムが今年(1998年),スコットランドで試行することを開始した,そして,他のイニシアティブは1999年に行われそうである。
 
60. けれども,生物多様性教育は,授業を越えて進めなければならない。子供と若者たちに生物多様性について興味をもたせる機会が他にある。たとえば,環境・運輸・地域省の資金助成による調査結果「生物多様性についての教育」は,野外センター,博物館,植物園などのような,教育的とすでに認められる場所が設置されており,生物多様性のメッセージを学校教育以外で伝達するための重要な機会であることを報告している。確かに,ボランティア分野は,生物多様性を科学的に理解することに大きく貢献し,これらの公的教育以外の場面に生物多様性教育を行うのに大切な役割をもちそうである。
 

 あなたの考えを聞かせてください:

・生物多様性についての教育のために,教室の外で,もっとうまく活用できるどんな機会がありますか? それにどのように取り組むべきでしょうか?
 あなたや,あなたの組織がこの点で実際的な支援ができるならば,この諮問文書に対する回答の中にそれを書いてください。

 
 
生物多様性と個人
 
61. 持続可能な未来を達成するための自分の役割を十分に果たそうとするならば,持続可能な開発の原則を理解し,実行する必要がある。すでに,商業と製造業に関して述べたように,環境に良いことは,生物多様性に対しても一般的には良いことであるだろう。もし,われわれ一人一人が水,原材料,エネルギー,輸送などの資源をどのように使用するか気をつけるならば;もしわれわれが適切にリサイクルをして,あらゆる種類の汚染に対して,われわれ一人一人の関与を最小限にしたりすれば,われわれは生物多様性に対してマイナスになるような影響をもつことが避けられるであろう。
 
62. 英国に生物多様性を振興させるために,われわれ自身の家庭で,あるいは他人に働きかけることによって,われわれ個人として実行できる,積極的な行動がさらにないでしょうか? これまで生物多様性を振興させることに関わってきた人々は,一般の人々に関わりをさらに深いものにさせるにはどうしたらよいかわかっているでしょうか? あなたのコメントと追加すべきあなたの提案を教えてください?
 

 あなたは,次のことについてどう考えますか:

・自宅の庭,市民菜園,または,小さい所有地に,とくに生物多様性を高める野生の花が組み合わされた野生種や品種を植えることが可能ですか?

・生物多様性に貢献する公的あるいはボランティアの自然保護組織と共にボランティアの事業をしてみようと思いますか;

・あたなは,あたな自身の会社,商業,学校などのような組織に自分たちの活動についての生物多様性評価を行うことを説得することができるでしょうか? そして,これらの活動のインパクトが生物多様性に対して,よりやさしくなるように修正するには,どのようにすればよいでようか?

・種や生息地の生物多様性行動計画の一つの「擁護者」になるように,あたなたの会社や同僚に勧められますか?

・あなたや,あなたの属する組織は,この文書の中で述べたいくつかの方法において,生物多様性を実際にどのように支援することができるでしょうか?

・生物多様性について,もっと多くをどのように知りたいですか テレビ,ラジオ,リーフレット,現場での助言,あるいは,他のメディア?

・英国で生物多様性の仕事に参加している人々が,将来の優先事項を設定する際に,もっと広範な共同体を巻き込むためには,どうしたらよいでしょうか?
 
 
 
 

資料:我が国の食料自給率
−平成12年度食料自給率レポート・食料需給表−
平成13年12月 農林水産省

 
 
 この資料は,農林水産省から平成13年12月に出されたものである。このシリーズは,平成12年度から開始され,農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html (「食料自給率の部屋」のURLに修正しました。2010年5月) )でご覧いただける大変便利な資料である。
 
T 食料自給率レポート
 1 食料自給率の動向
 (1)我が国の食料自給率 (2)都道府県別の食料自給率 (3)諸外国の食料自給率
 2 食料消費の動向
 (1)食料消費全体の動向 (2)品目別の消費動向等 (3)諸外国の食生活指針と食料消費の動向
 3 農業生産の動向
 (1)農家数等 (2)農地 (3)米 (4)麦類 (5)いも類 (6)大豆
 (7)野菜 (8)果実 (9)生乳 (10)肉類 (11)鶏卵 (12)飼料作物
 (13)てん菜,さとうきび (14)茶 (15)魚介類,海藻類 (16)きのこ類
 4 地方公共団体における総合的取組
 
II 食料需給表
 1 利用者のために
 2 平成12年度食料需給表(速報値)
 3 平成11年度食料需給表(確定)
 
III 参考資料
 1 食料自給率の推移
 2 国民1人・1年当たり供給純食料
 3 国民1人・1日当たり供給熱量
 4 国民1人・1日当たり供給栄養量
 5 国民1人・1日当たり供給脂質
 6 国民1人・1日当たり供給たんぱく質
 7 国民1人・1日当たり動物性たんぱく質供給量の構成
 8 たんぱく質,脂質,炭水化物の供給熱量割合(PFC熱量比率)
 9 飼料需給表
 10 国際比較
 (1)国民1人・1年当たり供給食料(試算)
 (2)品目別自給率(試算)
 (3)穀物自給率の推移(試算)
 (4)供給熱量総合自給率の推移(試算)
 (5)世界各国の穀物自給率(試算)
 11 中長期的な世界の食料需給について
 12 食料供給の流れ
 13 食生活指針
 
 

資料:Proceedings, NIAES-STA International Workshop 2001
"Crop Monitoring and Prediction at Regional Scales"

 
 
 この資料は,昨年の2月に当研究所が科学技術庁と共催で行ったワークショップの議事録である。このワークショップは,"Climatic Change and Crop Production", "Technologies for Crop Monitoring and Prediction", "Poster Presentations and Discussion", "Towards the Operational Systems " の会議から成り立っている。以下にその目次を紹介する。関心のある方は,当研究所の地球環境部長:林 陽生までお問い合わせ下さい。
 
CONTENTS
 
Change of regional crop production under possible climate variation in East Asia
  Hayashi, Y.
 
Hydrological cycle and crop production in North China Plain

 
Kondoh, A., Tang, C., Sakura, Y., Shen, Y., Tanaka, T., Shindo, S., Liu, C., Zhang, Y. and NCP38N Project Group
 
Drought monitoring of crop using remote sensing and GIS
  Tian, G., Feng, Q. and Wu, B.
 
Quantifying the atmospheric impacts of paddy rice agriculture in China
  Li, C., Salas, W., Frolking, S., Boles, S., Xiao, X. and Moore, B.
 
Simulation of climate change in East Asia caused by global warming using NCAR-CSM/RegCM nested system

 
Kato, H., Nishizawa, K., Kadokura, S., Oshima, N., Hirakuchi, H. and Giorgi, F.
 
Study on information system of regional grain production based on internet
  Chen, S.
 
Spatial interpolation of hourly temperature and solar irradiance in mountainous terrain
  Yun, J.I. and Cung, U.
 
Simulation of crop yield over space and time: Experiences from the GCTE cereal networks
  Kobayashi, K. and Hunt, L.A.
 
RCSODS a system to combine rice simulation with cultivation optimization
  Jin, Z.Q., Gao, L.Z., Shi, C.L and Ge, D.K.
 
JAPONICA, a field-level rice growth model, and its use
  Hasegawa, T., Tanaka, K., Williams, R.L. and Takahashi, W.
 
Consistent access for crop models to diverse regional weather databases
  Laurenson, M., Kiura, T. and Ninomiya, S.
 
Estimating eco-physiological crop variables based on remote sensing signatures and modeling
  Inoue, Y.
 
Interpretation of spectral vegetation indices and their relationship with biophysical variables
  Qi, J.
 
Application of hyperspectral data for site-specific management of nitrogen stress
  Hong, S.
 
Transect sampling for obtaining reliable crop proportion data
  Wu, B. and Li, Q.
 
Scaling-up crop models for regional yield and production estimation: A case-study of soybe an production in the State of Georgia, USA
  Jagtap, S.S. and Jones, J.W.
 
The crop growth monitoring at a regional scale based on the combination of remote sensing and process-based models
  Moulin, S., Launay, M. and Guerif, M.
 
An introduction to environmental ingormation system for regional crop monitoring in Northeastern Japan
  Kanno, H.
 
The system of monitoring crop growth conditions in Poland

 
Dabrowska-Zielinska, K., Stankiewicz, K., Kowalik, W. and Gruszczynska, M.
 
Linking crop simulation models and geographic information systens for regional yield predictions

 
Hoogenboom, G., Georgiev, G.A., Hartkamp, A.D., Heinemann, A.B. and White, J.W.
 
Remote sensing based crop monitoring and production forecast applied in Hungary

 
Wirnhardt, Cs., Csornai, G., Suba, Zs., Nador, G., Martinovich, L., Tikasz, L., Kocsis, A., Zelei, Gy. and Lelkes, M.
 
Simulations on the potential impacts of GHG-induced climate change on wheat and cotton production in the middle of the 21st century in China
  Xu, Y. and Lin, E.
 
Climate change impacts on optimum ripening periods of rice plant and its counter-measure in rice cultivation
  Yun, S.H. and Lee, J.T.
 
Impact and sensitivity of climate change and unusual weather on regional paddy rice yield in Japan
  Nishimori, M. and Yokozawa, M.
 
Impacts of climate change on the potential yields of peanut in China
  Tao, F., Xiong, W., Xu, Y. and Lin, E.
 
Estimation of paddy field area using satellite data for all weather condition
  Ogawa, S., Inoue, Y., Mino, N. and Tomita, A.
 
A procedure for more accurate developmental prediction for paddy rice with regular sampling data
  Sameshima, R.
 
Spatial variations of climatic condition during cereal crop cultivation period due to climate change
  Yokozawa, M., Okamoto, K. and Kawashima, H.
 
Yield sensitivity to rainfall under rainfed rice cultivation in Sri Lanka
  Ranatunge, E., Yokozawa, M. and Hayashi, Y.
 
A model to simulate endodormancy development in Asian pear and estimating effects of wintry climatic change on the endodormancy completion.
  Sugiura, T., Ito, D. and Kuroda, H.
 
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