前号へ 総目次 総索引 検索 研究所 次号へ (since 2000.05.01)

情報:農業と環境
No.46 2004.2.1

No.46

・国際ワークショップ:
     「地球温暖化に伴う東アジアの食料生産変動予測」の開催

・平成15年度農業環境研究推進会議の開催

・わが国の環境を心したひとびと(4):ヨハネス・デ・レーケ

・農業環境研究:この国の20年(1)

・農業環境技術研究所年報−平成14年度−が刊行された

・本の紹介135:イネゲノムが明かす「日本人のDNA」、
      村上和雄著、家の光協会(2004)

・資料の紹介:環境影響評価のための
      ライフサイクルアセスメント手法の開発、
      研究成果報告書、農業環境技術研究所、平成15年

・資料の紹介:LCA手法を用いた農作物栽培の
      環境影響評価実施マニュアル、
      −環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法
      の開発−、
      研究成果報告書別冊、農業環境技術研究所、平成15年

・資料の紹介:森林・農地・水域を通ずる自然循環機能の
      高度な利用技術の開発、
      中間成績報告書、農業環境技術研究所、平成15年

・EC条約の第95(5)に従ってオーストリア共和国が通告した
      上オーストリア州における遺伝子組換え生物の利用を
      禁止する国内規定に関する2003年9月2日の
      欧州委員会の決定


 

国際ワークショップ:
「地球温暖化に伴う東アジアの食料生産変動予測」の開催

 
 
 20世紀後半から、人間活動に由来した環境変動が世界各地で顕在化しており、これが世界の食料生産に大きな影響を与えることか懸念されている。世界の人口の3分の1にあたる約20億の人々が生活する東アジアの食料生産もまたこの環境変動にさらされているが、この地域の食料生産の変動は今世紀の世界食料安全保障にとって最も重要な問題の一つである。
 
本ワークショップでは、この東アジア地域に焦点をあて、環境変化を予測するという視点から、食料生産の変動に関する最新の研究成果をもちより議論を行う。主な話題として、穀物生産に影響を及ぼす水資源、害虫および土壌など自然環境要因や、社会経済学的モデルを用いた食料需給モデルを取り上げ、環境変動条件下における食料生産量変動予測に関する手法の開発に役立てる。
 
 基調講演には、海外から、LIN, Erda (Agrometeorology Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, China)PORTER, John R. (The Royal Veterinary and Agricultural University, Denmark)ROSEGRANT, Mark W. (International Food Policy Institute, USA) の各氏を招き、それぞれ、環境変化が農業資源に及ぼす影響の予測、環境変化に対する作物モニタリングとモデリング、食料生産システムへの影響評価について講演していただく。このほか、一般講演題数は17題でこのうち9題について海外からの発表が行われる予定である。
 

期  間 2004年3月17日(水)、18日(木)
場  所 文部科学省研究交流センター(つくば市竹園 2-20-5
主  催 独立行政法人 農業環境技術研究所

 
 
 Program 
 
March 17th, Wednesday
 10:00
  Opening Session
  MINAMI, Katsuyuki, President, NIAES: Welcome Address (10)
  TORITANI, Hitoshi, NIAES: Opening Address (20)
 10:30

 
LIN, Erda Agrometeorology Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, China): Keynote (30)

 
PORTER, John R. (The Royal Veterinary and Agricultural University, Denmark): Keynote (30)

 
ROSEGRANT, Mark W. International Food Policy Institute, USA): Keynote (30)
 
Lunch
 
 13:30
  Session 1 Projection of Environmental Changes and Agricultural Resources
    Chaired by TORITANI, Hitoshi (NIAES)
NISHIMORI, Motoki NIAES):

 

 
Estimation of future regional-scale climate change over east Asia by using statistical downscaling method (20)

 
XU, Yinlong Agrometeorology Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, China):

 

 
Setting up PRECIS over China to develop regional SRES climate change scenarios (20)
  ISHIGOOKA, Yasushi NIAES):

 

 
Assessment of agro-water resources in East Eurasia by using continental scale water circulation model (20)
  YAMAMURA, Kohji (NIAES):
    Influence of global warming on the abundance of insect pests (20)
 
Tea Break
 15:10

 
HUANG, Yao Institute of Atmospheric Physics, Chinese Academy of Sciences; Nanjing Agricultural University, China):

 

 
Simulation and prediction of SOC dynamics in Jiangsu Province based on model and GIS (20)
  SHIRATO, Yasuhito NIAES):


 


 
Testing the RothC model against long-term experiments on Chinese arable soils -For estimating the effects of global warming on SOC dynamics in east Asia- (20)

 
SHI, Xuezheng Institute of Soil Science, Chinese Academy of Sciences, China):

 

 
A Base for researching environment change and food security in China. - Introduction to 1:1,000,000 soil database of China - (20)
  General Discussion
 

 
March 18th, Thursday
 9:00
  Session 2 Predicting and Monitoring Crop Responses to Environmental Changes
    Chaired by HASEGAWA, Toshihiro (NIAES) (20)
  KOBAYASHI, Kazuhiko (University of Tokyo):

 

 
Impacts of elevated atmospheric CO2 on productivity and water use of irrigated rice (20)

 
YU, Guirui Institute of Geographic Sciences and Natural Resources Research, Chinese Academy of Sciences, China:
    Adaptability of plant photosynthesis under environmental change (20)

 
FU, Yuling Institute of Geographic Sciences and Natural Resources Research, Chinese Academy of Sciences, China):

 

 
Environmental controls on the photosynthetic productivity of shrubland and cropland in China (20)
 
Tea Break
 10:20
  SHIN Jin-Chul (National Crop Experiment Station, RDA, Korea):
    Sensitivity of rice production to the climate change (20)
  SHIBAYAMA, Michio NIAES):

 

 
Optical remote sensing for cropland discrimination through multi-temporal and multi-sensor observations (20)
  General Discussion
 
Lunch
 
 13:00
  Session 3 Assessing the Impact on Food Production Systems:
    Chaired by Dr. OHONO, Hiroyuki (NIAES)

 
LEE, Jeong-Taek National Institute of Agricultural Science and Technology, RDA, Korea):

 

 
Rice growth and production variation under abnormal climatic condition in Korea (20)

 
YAO, Fengmei Agrometeorology Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, China):

 

 
Assessing the impacts of human-induced climate change on Chinese agriculture under regional SRES scenarios (20)
  OKAMOTO, Katsuo NIAES):
    Impacts of environmental change to food production in Asia (20)

 
YANG, Xiu Institute of Agro-Environment and Sustainable Development, Chinese Academy of Agricultural Sciences, China):
    The impacts of climate change on China's future food safety (20)
  FURUYA, Jun (JIRCAS):

 

 
The impacts of climate change on the world food market: Mid-term analysis by using IFPSIM (20)
 
Tea Break
 15:00
  Closing Address: HAYASHI, Yousay (NIAES)
 

 
March 19th, Friday

 
Excursion (National Institute for Agro-Environmental Sciences, Meteorological Research Institute and Mt. Tsukuba)
 
 
 

平成15年度農業環境研究推進会議の開催
 
 
 独立行政法人農業環境技術研究所農業環境研究推進会議運営要領に基づき、平成15年度農業環境研究推進会議を下記の通り開催します。
 
 
I.
1.日  時  平成16年2月26日(木) 10時〜12時
2.場  所  農業環境技術研究所大会議室(2F)
3.議  題
1)平成14年度農業環境研究推進会議において行政部局及び研究機関から出された要望等への対応状況
2)平成15年度研究推進状況の総括
3)平成15年度評議会報告
4)独立行政法人評価委員会による平成14年事業年度の評価結果報告
5)平成15年度に実施した研究会・シンポジウムの概要報告
6)平成16年度のプロジェクト・研究会・シンポジウム等の予定
7)行政部局及び研究機関からの要望
8)その他
4.参集範囲
農林水産省大臣官房、農林水産政策研究所、統計部、消費・安全局、生産局、農村振興局、農林水産技術会議事務局、関東農政局、明治大学、()肥飼料検査所、()農薬検査所、()農業・生物系特定産業技術研究機構、()農業生物資源研究所、()農業工学研究所、()食品総合研究所、()国際農林水産業研究センター、()森林総合研究所、()水産総合研究センター、()国立環境研究所、北海道立中央農業試験場、北海道立根釧農業試験場、秋田県農業試験場、富山県農業技術センター、富山県農業技術センター野菜花き試験場、静岡県農業試験場海岸砂地分場、岐阜県庁、愛知県農業総合試験場東三河農業研究所、三重県科学技術振興センター、和歌山県農林水産総合技術センター暖地園芸センター、福岡県農業総合試験場、長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場、鹿児島県農業試験場大隅支場、沖縄県農業試験場
5.運営責任者  農業環境技術研究所 理事長
 
 
II 研究推進部会
1.日  時  平成16年2月26日(木) 13時〜17時
2.場  所  農業環境技術研究所大会議室(2F)
3.議  題
「温暖化が農業に及ぼす影響評価と軽減対策への取り組み」
4.参集範囲
農林水産省大臣官房、農林水産政策研究所、統計部、消費・安全局、生産局、農村振興局、農林水産技術会議事務局、関東農政局、明治大学、()肥飼料検査所、()農薬検査所、()農業・生物系特定産業技術研究機構、()農業生物資源研究所、()農業工学研究所、()食品総合研究所、()国際農林水産業研究センター、()森林総合研究所、()水産総合研究センター、()国立環境研究所、北海道立中央農業試験場、北海道立根釧農業試験場、秋田県農業試験場、富山県農業技術センター、富山県農業技術センター野菜花き試験場、静岡県農業試験場海岸砂地分場、岐阜県庁、愛知県農業総合試験場東三河農業研究所、三重県科学技術振興センター、和歌山県農林水産総合技術センター暖地園芸センター、福岡県農業総合試験場、長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場、鹿児島県農業試験場大隅支場、沖縄県農業試験場
5.運営責任者  農業環境技術研究所 理事
 
 
III 評価部会
1.日  時  平成16年2月27日(金) 9時〜12時
2.場  所  農業環境技術研究所大会議室(2F)
3.議  題
1)平成15年度主要成果の評価・採択
2)その他
4.参集範囲
農林水産省大臣官房、農林水産政策研究所、統計部、消費・安全局、生産局、農村振興局、農林水産技術会議事務局、関東農政局、明治大学、()肥飼料検査所、()農薬検査所、()農業・生物系特定産業技術研究機構、()農業生物資源研究所、()農業工学研究所、()食品総合研究所、()国際農林水産業研究センター、()森林総合研究所、()水産総合研究センター、()国立環境研究所、北海道立中央農業試験場、北海道立根釧農業試験場、秋田県農業試験場、富山県農業技術センター、富山県農業技術センター野菜花き試験場、静岡県農業試験場海岸砂地分場、岐阜県庁、愛知県農業総合試験場東三河農業研究所、三重県科学技術振興センター、和歌山県農林水産総合技術センター暖地園芸センター、福岡県農業総合試験場、長崎県総合農林試験場愛野馬鈴薯支場、鹿児島県農業試験場大隅支場、沖縄県農業試験場
5.運営責任者 農業環境技術研究所 企画調整部長
 

 
平成15年度農業環境研究推進会議研究推進部会 議事次第
 
日  時   平成16年2月26日(木) 13時〜17時
場  所   農業環境技術研究所大会議室(2F)
 
議題
  「温暖化が農業に及ぼす影響評価と軽減対策への取り組み」
 
【趣旨】
 2001年に刊行されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次評価報告書によると、過去100年間で地上の気温は約0.6℃上昇し、今後100年間でさらに約3℃上昇することが示されている。なかでも、将来の気温上昇幅を地域ごとに比較すると、日本列島を含む東アジア地域で上昇幅が大きいことが明らかになった。またこの地域は、世界の約7.5%の土地に約25%の人間が生活しており、潜在的に食料生産性が高い地域である。これらのことから、わが国周辺地域の農業は世界で最も早い時期に温暖化による深刻な影響を受けることが考えられる。
 
 こうした温暖化問題に対処するため、2002年から研究プロジェクト「温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」がスタートした。このプロジェクトは、他の分野の温暖化研究課題とともに総合科学技術会議に属する温暖化イニシャティブのもとに位置づけられ、従来の研究に比べてより政策提言に役立つ成果が求められている。
 
 本部会ではこれらの情勢を背景として、農業分野で実施している温暖化影響評価および対策技術開発に関する研究を説明し、問題点の整理を行う。あわせて、行政部局における温暖化対策の取り組みについて解説し、近い将来に焦点を置いた影響軽減対策の方向と役割について検討する。
 
司会:(独)農業環境技術研究所 理事   
【議事次第】
 1.開催にあたって
  陽 捷行 (農業環境技術研究所 理事長)
 2.農業における温暖化対策に関する情勢
  嘉多山 茂(農林水産省 大臣官房 企画評価課 参事官)
 3.地域における環境対策行政の取り組み
  松井 康男(岐阜県健康福祉環境部 参事)
 4.高温によるコメの品質低下に対する対策
  角田新二郎(関東農政局 生産経営流通部 農産課 農産機械係長)
  北野 順一(三重県科学技術振興センター 農業研究部 伊賀農業研究室)
 5.温暖化による水稲栽培可能期間の変化予測
  石郷岡康史(農業環境技術研究所 地球環境部 気象研究グループ)
 6.野菜・果樹への影響評価と対応技術
  岡田 邦彦(野菜茶業研究所 葉根菜研究部 作型開発研究室長)
  杉浦 俊彦(果樹研究所 生理機能部 環境応答研究室)
 7.温暖化影響軽減対策の今後の展望
  今井 勝 (明治大学農学部 作物学研究室 教授)
 8.総合討論
 
 
 

わが国の環境を心したひとびと(4):ヨハネス・デ・レーケ
 
 
 「我が国の環境を心したひとびと」第4回は、オランダ人の水理土木技師のヨハネス・デ・レーケを取りあげる。
 
木曽三川と宝暦治水
 デ・レーケを紹介する前に、木曽三川(きそさんせん)と宝暦治水(1753−55年)のことを語る必要がある。木曽三川は、濃尾平野を通って伊勢湾に注ぐ一級河川の総称である。東から順に木曽川、長良川、揖斐川(いびがわ)と続く。木曽川は長野県の山奥から、長良川と揖斐川は岐阜県の山間部からそれぞれ大量の水を運ぶ。この三川は古くからたびたび決壊し、毎年のように大水害を起こし、そこに住む人々を苦しめ続けた。ひとびとは四方を堤防で囲んだ集落「輪中(わじゅう)」で暮らし、濁流に飲み込まれそうになると、石垣の上に築いた「水屋」と呼ばれる蔵に避難したり、屋根裏に常備した「上げ舟」に逃げ込んだ。
 
 徳川幕府は、宝暦3年(1753)の大洪水のあと、水害に苦しむひとびとの声を聞き、三川分流計画をもとに、木曽三川分流工事を行うことにした。この木曽三川の治水工事は、薩摩藩に命じられることになる。もちろん、薩摩藩の勢力を弱める目的がそこにはあった。薩摩藩は、1754年2月、平田靱負(ひらたゆきえ)を総奉行として、この難工事に着手した。これが、本格的な三川治水の始まりである。
 
 薩摩藩から家老以下947名、これに土地の人夫などを加えると、約二千人もの人がこの工事に参加した。その費用は当時のお金で40万両といわれ、今なら何千億円にも相当する大工事であった。しかし、工事は困難をきわめた。幕府の方針で工事の計画がたびたび変更されたり、大雨による資材の流失などがその理由である。
 
 この工事は、多くの犠牲者のうえに完成する運びとなる。工事中に薩摩藩士の51人が切腹、32人が病死する結果になった。総奉行の平田靱負は、多くの藩士をなくしたことや借金の責任から切腹した。様々な困難のうちに、工事は1755年(宝暦3年)の3月にやっと完成するに至る。
 
 薩摩藩士は苦しかった工事の思いを込めて、油島(あぶらじま)のしめ切り堤の上に千本の「日向松(ひゅうがまつ)」の苗を植えた。今なお、千本松原の松並木は当時の歴史を私たちに語りかけている。
 
 昭和13年5月、油島の南の千本松原のはじまる場所に治水神社が建立された。この神社は、宝暦治水の完成に力を尽くしながら自刃していった平田靱負を祭ったものである。これらのことは、ことほど左様に木曽三川分流工事が難事業であったことを物語る。これほどの難事業が完成したとはいえ、明治維新後も水害は続くのである。三川が平野の各所で合流し、網のように入り乱れていたため、簡単に堤は決壊したのである。
 
 ところが、20世紀に入ってからの100年間に木曽三川が決壊したのは、昭和51(1976)年9月12日のただ1度だけであった。台風17号に伴う集中豪雨で、岐阜県安八(あんぱち)町の長良川右岸が決壊し、床上・床下浸水3400余戸という被害が出たが、死者はたった1人にとどまった。
 
 この3つの「暴れ川」を近代の水理工学によって見事に制御したのが、明治6年(1873)に来日し、30年間も日本に滞在したオランダ人の水理土木技師のヨハネス・デ・レーケ(1842−1913年)であった。このほかにも日本各地の河川や港湾を50カ所以上も調査し、150余の報告書を政府に提出し、多くの事業を完成させたデ・レーケは、日本人の命の恩人と呼ぶにふさわしい人であった。
 
ヨハネス・デ・レーケの生涯
 デ・レーケは、国土の約3分の2が海抜ゼロメートル以下のオランダのコリンスプラートに生まれた(1842年:天保13年)。父親は堤防を築く職人で、少年時代は父親の仕事をよく手伝ったといわれる。父親の工事現場で、後にアカデミーの教授となる技官を知り、数学や物理学を教わった。
 
 明治6(1873)年9月、当時30歳のデ・レーケは、妻と義妹と2人の幼児を伴って大阪に降り立った。オランダから蒸気船で約1カ月半の旅であった。明治政府が高額の月給を支払って、数多くの外国人を日本に招き入れた「お雇い」技術者の一人である。
 
 来日の翌年の明治7年(1874)には大阪淀川の上流部の調査を始め、大阪築港のために港域に土砂を流入させる淀川改修計画書を提出した。同8年には、京都府相楽郡の不動川に石積みの砂防堰堤(さぼうえんてい)を築いた。そして、いよいよ同11年2月から木曽三川流域調査を開始した。この調査の結果がまとめられ、内務省に報告された。
 
 これに基づき、三川流域の治山工事が始まった。同19年4月、木曽三川流域改修計画平面図が完成し、同20年、第一期工事が開始される。木曽川すじの海津町成戸(なりと)から日原(ひわら)まで、木曽川と長良川を中堤(なかてい)で分流する工事であった。
 
 同24年には、天皇陛下から副大臣級の勅任を受けた。同29年には、第二期工事がはじまり、第一期より南の三川の中提や新提が作られてゆく。同33年には、揖斐川すじをまっすぐにのばし新提ができあがる。4月には、木曽川と長良川の両川起点で「三川分流成功式」が盛大に催された。
 
 この間、明治17年から34年の間に富山県の常願寺川流域の調査、神通(じんつう)川のほか3河川の現地調査を行っている。36年にはこれらの多くの仕事に対して勲二等瑞宝章が与えられた。
 
 日本人の命の恩人と呼ばれるにふさわしいデ・レーケは、多くの悲しみとともに30年間過ごした日本を去った。母国オランダに帰国したのは、明治36年であった。その悲しみとは、彼の宝石である肉親を日本で次々に失ったことである。明治8年、息子のエレアザルが、義妹のエルシェが明治12年に死亡した。そして愛妻のヨハンナがコレラに苦しみながら息を引き取ったのは、明治14年であった。彼女が32歳の若さのときであった。
 
 帰国したデ・レーケは、その後明治39年に上海港工事の技師長として招かれた。同44年に仕事の途中で帰国するが、工事の完成はその翌年であった。工事完成の翌年、大正2年(1913)、その完成を待っていたかのように70年の生涯を閉じた。
 
ヨハネス・デ・レーケの略歴
1842(天保13年):オランダのコリンスプラートに生まれる。
1873(明治 6年):9月来日。
1874(明治 7年):大阪築港のために港域に土砂を流入させる淀川改修計画書提出。
1875(明治 8年):息子のエレアザル死亡。
1875(明治 8年):京都府相楽郡の不動川に石積みの砂防堰堤を築く。
1877(明治10年):娘のヤコバ誕生
1878(明治11年):木曽三川流域調査開始(2月)。
1879(明治12年):義妹エルシェ死亡。
1881(明治14年):妻のヨハンナ死亡
1884−1901(明治17−34年):常願寺川、神通川など富山県内5河川の現地調査。
1886(明治19年):4月、木曽三川流改修計画平面図完成。
1887(明治20年):第一期工事始まる。木曽川すじの海津町成戸(なりと)から日原(ひわら)まで、木曽川と長良川を中堤で分流する。
1891(明治24年):富山県の常願寺川流域の調査、神通川河川の調査
1896(明治29年):第二期工事が始まる。第一期より南の三川の中堤や新堤をつくる。
1900(明治33年):第三期工事始まる。松の木より上流の揖斐川すじをまっすぐにして、新堤をつくる
1903(明治36年):オランダに帰る。
1906(明治39年):上海港工事の技師長に任命。
1911(明治44年):オランダに帰る。
1912(明治45年):全部の工事が完成
1913(大正 2年):死去、享年70歳
 
木曽三川流改修
 明治29年(1896)、河川法が成立した。これに先立って木曽川では、明治20年から10年計画で本格的な改修事業が着手されていた。目的は、木曽三川の洪水防御、堤内の排水改良、舟運路の整備であった。改修の主たる計画は、木曽川、長良川、揖斐川の完全分流、低水路の整備、木曽川、揖斐川河口での導水(流)堤の設置、木曽川と長良川の舟運路の連絡のための閘門(こうもん)の設置などであった。
 
 この改修計画を策定したのが、オランダ人のヨハネス・デ・レーケであることはすでに述べた。デ・レーケは明治11年(1878)から毎年のように現地調査を行った。デ・レーケの補助者には、わが国で近代教育を受けた2人の若い内務省技師、清水済と佐伯敦崇が任命された。
 
 この調査結果は、川を治めるには、まず山を治めるべしという彼の信念に基づき、「木曽川概説」にまとめ、内務省に報告した。これに基づいて、三川流域の治山工事が始まった。 デ・レーケは、この報告書で具体的な策と将来の方向も示した。つまり、木曽川に高い丈夫な連続堤防を築き、河口に導流堤を築いて土砂を海の深部まで流れるようにすること、上流部の山林の無秩序な乱伐をやめさせ、川の中の耕作地を取り壊して洪水を流れやすくする必要があることなどである。
 
 「木曽川下流河川改修」の本格的な工事は、明治20年から始まった。工事は4期25年に及ぶ大規模なものであった。主な工事内容は、次のようなものであった。
 1) 木曽三川を完全に分流する。
 2) 佐屋川をしめ切って川をなくす。
 3) 立田輪中に新たに木曽川新川を造る。
 4) 大榑(おおぐれ)川、中村川、中須川をしめ切る。
 5) 高須輪中に新たに長良川新川を造る。
 6) 油島洗堰(あらいぜき)は完全にしめ切る。
 7) 船頭平(せんどうひら)に閘門(こうもん)を造る。
 8) 木曽川等の河口に導流堤(どうりゅうてい)を造る。
 9) 水門川・牧田川・津屋川の揖斐川への合流点を下流に引き下げる。
 
 この工事が終了して以来100年余、長良川が決壊した「9・12豪雨災害」(1976年)の例外を除いて、木曽三川での水害はなくなった。デ・レーケは、わが国の「治水の恩人」と言っても言い過ぎではないであろう。
 
デ・レーケの責任感と環境を心した姿
 デ・レーケの愛妻がコレラに苦しみながら息を引き取ったことはすでに述べた。来日から8年、異国の地で夫を支えた妻の死。しかし、彼は日本に止まった。それどころか、この年の夏から木曽三川の上流に入り込み、何かに突き動かされるように改修の計画図をつくるための調査に打ち込むのである。長野県南木曽町の森林監視所など木曽川上流の険しい山岳地帯を歩き、調査・測量をしながら、1日に峠を13カ所越えることもあった。日本人全員が休むお盆にも1人で現地に出かけたという。
 
 愛妻を亡くした男が、悲しみを乗り越えるために仕事に熱中した。水害からなんとしても住民の命と土地を守りたいと願った彼の思いがそこにはあった。あるいは、日本のためというよりは、母国のために、オランダ人技術者としての誇りを持って改修に取り組んだのかもしれない。
 
 多くの調査に基づいて、デ・レーケは土砂の流入そのものを食い止めることを考えた。上流の淀川をくまなく調べて改修の必要性を痛感し、さらに源流をたどって、山々の砂防と植林が大前提であるとの結論に達した。環境を心した姿がここに見える。砂防と植林が、デ・レーケの河川改修の原点にあったのである。
 
 当時は幕末の混乱のあおりで、森林の所有権と保護政策が事実上崩壊しており、各地で住宅建設や燃料のため、樹木が乱伐されていた。わが国の山々の大半は肌がむき出ており、風化した土砂が河川に流れ込んでいたのである。
 
 デ・レーケは、乱伐を禁止する規則案を内務省に提出した。そのなかには、「山を守ることが川を治めることにつながる」という考え方が述べられていた。デ・レーケは講演でも次のことを演説し続けた。「このような素晴らしい眺めといい気候の国は、世界でも数少ないと思います。自然の力によって子孫たちに引き継げば、荒廃した山々はいずれ、美しい樹木で覆われるでしょう。所有者たちはこれまで、自然の恵みだけで満足せず、山々を好き勝手に使っていたのです」。
 
 デ・レーケが、いかに「環境を心していた」かを証明する別の事項を紹介して、この項を終える。
 
 デ・レーケの功績に、ワンド(湾処)の形成がある。ワンドとは、川岸にできているゆとりのある空間あるいは川縁のことである。ワンドには、水辺を好むヨシやモが生えやすく、本流と水の行き来があるため、魚の産卵や成長には絶好の場所となり、昆虫や水鳥も多く生息する。ワンドの形成は、生物多様性にとっていかに重要であるかを彼は知っていたのである。われわれは最近このことに気がつき、いまその対応に当たっている。まさに、温故知新である。
 
 ワンドの元になったのは、オランダ人技師らが多用した「ケレップ水制」と呼ばれる工事技術である。小枝や下草を何重にも編み込んだものに大きな石を乗せて川底に沈め、川の両岸から中央に向けて突き出させる。すると、川の流れが中央に寄って水深が深くなり、航路を確保できるのである。
 
 明治半ば以降、デ・レーケらの考え方は後退した。日本の河川行政は、堤防を高く築き、曲がりをできるだけ直線にする治水一辺倒へと傾斜していったのである。
 
 デ・レーケは、環境の保全は自然科学の技術知だけではだめで、生態知を含めた社会科学や倫理観を含んだ統合知をもって成すべきであると語り続けている。我ら「環境を心する」デ・レーケの科学をもって肝に銘すべし。
 
参考資料
 1) (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 2) (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 3) (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 4)この国に生きて:ヨハネス・デ・レーケ、産経新聞、平成14年2月4日〜10日
 
 
 

農業環境研究:この国の20年(1)
 
 
 
 20世紀とは一体なんであったのかと問われれば、恐らく、科学技術の大発展とそれに付随した成長の魔力に取り憑かれた世紀と答えざるをえない。ここでいう成長とは、あらゆる意味の物的拡大を意味する。エネルギー使用量の増大、工業生産量の増大、自動車生産量の増大、人口の増大、食料生産の増大、森林の大量伐採など枚挙にいとまがない。これに伴って、炭素、窒素、リン、硫黄、重金属などの元素の地球規模での循環に重大な変調がもたらされた。
 
 このような成長を支える科学技術はわずか百年前に始まり、さらに肥大拡大し強大な潮流となり、20世紀後半を駆け抜けていった。この歴史の流れの中で、われわれは数限りない豊かなものを造り、その便利さを享受してきた。
 
 その結果、何がおこったか。新たな圏の分化である。松井孝典は、「宇宙の歴史に学ぶ」のなかで地球の分化論について概ねつぎのようなことを指摘している。地球などで異なる物質圏が生まれることを分化という。分化とは、一般に均質なものが異質なものに分かれることをいう。地球における物質圏の分化は、46億年前の混沌(カオス)から大気圏、水圏、生物圏、地圏、土壌圏を生み出していった。このようにみると、宇宙も地球も生命もその歴史を通じて分化していることがわかる。これをひとつのシステムに例えれば、システムが安定化すると表現してもよい。こうした宇宙という時空スケールから現代という時代を特徴づけるとすれば、人間圏とでも称されるべき新しい物質圏が分化した時代と定義できる。
 
 人間圏のサイズはいまも拡大し続けている。地球上には今や65億の人口がところ狭しと生存している。そのため、あらゆる物的拡大は今も続いている。新しい物質圏が生まれることによって、地球システムの物質循環やエネルギーの流れが変わり、環境が変化する。
 
 その結果、様々な環境問題が続出した。その様態は、地殻から大量に掘り出されたカドミウムや水銀に代表される重金属による点的な汚染問題から、大気から大量に固定した窒素肥料などに由来する河川や湖沼の富栄養化現象に見られる面的な広域性の汚染問題を経て、今では地球規模での空間にまたがる環境問題へと展開されてきた。
 
 それは、大気へ放出されるクロロフルオロカーボン、臭化メチルや亜酸化窒素による成層圏のオゾン層破壊、大気の二酸化炭素やメタンなどの濃度上昇による地球の温暖化現象に現れている。環境問題は、点から面を経て空間にまで拡大した。
 
 一方では、世代を越える環境問題がわれわれを蝕み始めている。「沈黙の春」の著者のレイチェル・カーソンは、今から40年以上も前にその著書の中で合成殺虫剤が招く危険性を警告した。カーソンの志を継ぎ、この化学合成物質が性発達障害や行動および生殖異常といかに関わりがあるかを実証したのが、「奪われし未来」のシーア・コルボーン達である。これは、農薬やダイオキシンなどわれわれ人間の作り出した化学合成物質が、ヒトの生殖能力に関連し、次世代まで影響を及ぼし続ける環境問題である。
 
 今や環境問題は時空を超えてしまった。
 
 あらゆる物的拡大が今も続いていることは、すでに書いた。これらの時空をこえた環境問題の解決は、急激に増え続けつつある人間圏をどこのレベルで落ち着かせ、地球システムの中で人間圏が水圏や大気圏や生物圏と安定な関係を保って持続的に共存できるかと言うことである。
 
 このように考えると、現在の環境問題は実にエネルギーを含めた人口問題なのである。人口問題はすなわち食糧問題であるし、食糧問題はまさに農業問題なのである。したがって、環境問題はとりもなおさず農業問題なのである。いうなれば、21世紀は農業の時代ということができるのである。
 
 ここでは、環境問題に関わる国の内外の動向を簡単に整理する。次に、そのなかで農業環境研究がどのように行われてきたかを解説する。「序章」に続く各章では、この国で行われた約20年間の農業環境研究の成果を紹介する。さらに、各章の「今後の展望」と「終章」では、将来の研究の展望を語る。
 
1.環境問題に関わる世界の動向
 世界の環境問題は、1962年に発行されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」に始まる。この本は、環境問題について世界のひとびとの意識を一変させた。
 
 その後、OECD環境委員会(1970)や国連環境計画(1972)が設立された。1982年の国連環境計画管理理事会特別会合では、世界環境の保全と改善を訴えた「ナイロビ宣言」が採択された。また、オゾン層保護のための「ウィーン条約」が1985年に出された。1989年には、有害廃棄物の国境を越える移動および処分の規制に関する「バーゼル条約」ができた。
 
 さらに1990年には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第1次報告書を作成し、地球温暖化の問題を提起した。また、1993年には、OECDで「農業と環境」合同専門部会が設置された。このような状況の中で、農業が環境問題と密接に関わっていることが世界のひとびとに広く認識されるようになった。
 
 また、1992年の「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)を契機として、持続可能な開発が世界のキーワードになった。地球サミットでは持続可能な開発に向けた行動計画であるアジェンダ21が採択されるとともに、気候変動枠組み条約、生物多様性保全条約および森林原則声明が採択された。そして、カーソンの志を継いだシーア・コルボーン達が1996年に「奪われし未来」を発表した。ここでは、われわれが造った化学合成物質そのものが食べ物や食物連鎖を通してわれわれの体を蝕み、さらにはその影響が世代を越える環境問題に発展していることを警告している。ひとびとは、環境問題が農業問題をぬきにしては考えられないことを認識するようになった。今では、食の安心と安全が声高に叫ばれ、そのための制御と次世代への安心・安全の継承がひとびとの痛切な思いとなっている。
 
2.環境問題に関わる国内の動向
 わが国の経済は、昭和30年頃を境にして戦後の復興期を脱却し、成長期へと入っていった。昭和40年代半ばにかけての新しい科学技術の発展には、目を見張るものがあった。その結果、わが国は世界でも類のない経済的発展をとげることができた。しかし、この発展の裏には、人体や自然への安全性、産業や都市廃棄物の処理など環境への社会的配慮が払われていない事実が厳然としてあった。
 
 このため、大気、水、土壌、生物および人間に対してさまざまな公害問題が発生し、これが大きな社会問題となり、経済活動そのものに制約が加えられるようになってきた。そのうえ、各種の汚染問題は農林水産活動や食品の安全性にも深刻な影響を与えるにいたった。
 
 これらの現象に対して、農林水産省でも公害研究調査が実施された。この研究調査は、昭和31年の農林水産技術会議の発足により、学際的なプロジェクト体制をとり、農林水産業の生産の維持・増進と安全な食料供給の観点から行われてきた。ところが、公害問題は年がたつれて複雑かつ深刻化したため、各省庁は個別の調査研究に対応しきれなくなった。このためもあって昭和46年に環境庁が発足し、各省庁の環境関係の試験研究を総合調整し、予算も一括して計上するようになった。
 
 この間、水質汚濁、重金属汚染、有機性廃棄物、大気汚染、農林生態系の保全、農薬の安全性などのプロジェクトが実施され、その成果は、農林水産技術会議により研究成果としてまとめられた。
 
 このような状況の中で、大気汚染防止法が1968年に、1970年には水質汚濁防止法、海洋汚染防止法および農用地汚染防止法が制定された。その後、光化学スモッグの事件が頻発したり、BHCDDTの販売が禁止されるなど、農業と環境に関わる問題が数多く発生した。
 
3.農業環境技術研究所の設立
 これらの成果が発表され始めたのと時を同じくして、農業関係試験研究機関の再編整備により、1983年に、人間活動と自然生態系とが調和した農業技術体系を確立するための農業環境技術研究所が設立された。
 
 農業は食料の生産供給と同時に緑の保全、水資源の涵養、大気の浄化などの重要な役割を果たしている。しかし、人間の生産活動の発展と生活圏の拡大に伴って農業生産活動が低下したり、農業形態の変化に伴って農業生態系や自然生態系へマイナスのインパクトが生じ、さらには地球規模の環境問題が懸念されるようになってきた。
 
 このような問題を克服し、人間生活と自然生態系とが調和した農業技術体系を確立するための試験研究の整備が必要とされ、農業環境技術研究所が農業環境の総合的制御・保全・利用に関する先行的・基盤的技術開発を行う機関として誕生した。
 
 農業環境技術研究所は、食料生産の基本となる持続的農業の確立、国土および資源の適切な利用、環境の維持・保全、多様な生物との共存などを満足させる理想的な農業・農村の創造、あるいは地球規模の環境問題の解決に向けて総合的農業管理システムを構築することを目指したのである。
 
 これは、わが国で初めての「環境」という名のつく研究所の設立であった。設立直後の1986年には、チェルノブイリ原子力発電所の事故が発生し、緊急の放射能汚染調査が開始された。すでにこの研究所では、この時点で食の安心と安全の問題が研究の対象として取り組まれていたのである。さらにこの研究所は、長年にわたる主体的な調査結果に基づいて事故影響の安全性確保の実証に努めた。
 
 また、地球環境計画が1990年に、環境基本計画が1994年に策定され、国内でも環境問題への盛り上がりが見られた。このころ、遺伝子組換え体の問題が新たに浮上した。1998年には地球温暖化対策推進法が策定された。
 
 また、食料・農業・農村基本法が1999年に公布され、この基本法に関連した環境3法も公布された。この年、ダイオキシンによる作物汚染が所沢で問題化した。東海村のウラン加工施設(JCO)で臨界事故が発生し、これによる作物汚染が心配された。なお、この研究所は臨界事故で安全宣言に必要なデータの分析と解析を行っている。このように、国内においてもひとびとは農業と環境問題との密接な関係を強く認識するに至った。
 
4.農業環境研究の成果
 このような内外の環境問題の動向に即応しながら、わが国ではこれまで農業環境技術研究所を中心に数多くの研究が行われてきた。その成果は、いたるところで公表され研究や行政の面で活用されてきた。それらの研究の内容は、以下の範疇でまとめることができる。
 
 1)農業生態系の持つ多面的機能と国土保全:土壌浸食防止機能、生物相保全機能、水質浄化機能、景観形成機能など様々な機能の解明と定量化などに関する研究。
 2)温室効果ガスの放出削減:メタン、亜酸化窒素など農業環境から発生する温室効果ガスの測定技術、発生・吸収メカニズムおよび発生制御技術などに関する研究
 3)気候変動と食料生産予測:温暖化による農業環境資源の変動、温暖化による生産地・生産量の変動予測、さらに紫外線増加による植物影響などに関する研究
 4)空間情報に基づく農業環境資源のモニタリングと評価:衛星リモートセンシング、地理情報システムの利活用技術、および農業環境資源計測システムの開発利用などに関する研究
 5)農業生態系における物質循環:食料・農業を通した地域−国レベルでの物質循環、水質の悪化と硝酸態窒素の浄化機能、土壌中における水・栄養塩類の動態、水質浄化システムの開発などに関する研究
 6)化学物質の動態と生物影響:農薬の環境動態と生物影響、微量元素など微量成分の動態、ダイオキシン類の動態とその制御、土壌のカドミウム汚染と対策などに関する研究。
 7)侵入・導入生物による農業生態系への影響:外来生物の繁殖と分布拡大、外来生物による影響と侵入防止、遺伝子組み換え作物の生態系に対する影響評価などに関する研究。
 8)生物を活用した持続的農業技術:天敵生物およびフェロモン利用による害虫制御、拮抗微生物および抗菌物質による病害防除、植物のアレロパシー現象を利用した雑草防除、微生物・植物利用による養分供給の促進などに関する研究。
 9)統計解析と情報システムの開発と利用:農業環境資源の解析手法、農業環境資源評価のためのシミュレーションモデル、情報システムの構築等に関する研究。
10)農業環境インベントリーの構築:農業環境資源の分類と同定、農業環境資源の特性解明と評価、農業環境資源情報の集積と利用システムおよびアイソトープ利用などに関する研究。
 
 「農業環境研究:この国の20年」のシリーズでは、順不同であるがこれらの10項目について、この約20年間におこなわれた研究を紹介するとともに、将来に向けた農業環境研究の展望を語ることにする。
 
 
 

農業環境技術研究所年報−平成14年度−が刊行された
 
 
はしがき
 
 われわれが生きている21世紀の世界的規模での課題には、環境と情報とエネルギー問題がある。いずれも現在の社会構造を根底から変革する威力を内包している。これらに対応しないで事を怠ると、遅れた国家にならざるを得ない。そのうえ、これらの課題は、一国の混乱が世界中にさまざまな影響を及ぼす類のものである。地球温暖化や2000年問題や放射能汚染がそのよい例である。
 
 この意味においても、環境研究を推進することの必要性はますます高まるであろう。それでは、環境研究を進めるにあたって、われわれは今後どのようなことを考えていけばいいのであろうか。私は、ここで次の三点を強調したい。それは、「分離の病」を克服し、「国際・学際・地際」を推進し、「俯瞰(ふかん)的視点」を維持し続けることである。
 
 「分離の病」は三つある。専門主義への没頭や専門用語の迷宮など生きていない言葉を使う「知と知の分離」、理論を構築する人と実践を担う人との分離やバーチャルと現実の分離に見られる「知と行の分離」、客観主義への埋没、知と現実との極端な乖離(かいり)に見られる「知と情の分離」がそうである。環境研究を推進するにあたっては、これらの分離を可能な限り融合することが必要である。
 
 国籍、人種、宗教、政治、経済体制、貧富、性別などを差別せず、お互いが相手の立場にたって思考し、意見の対立が感情の対立にならない交流が、「国際」化と考える。空間を超えて生じている環境問題を解決するためには、この国際化を無視することができない。広く分野や所属をこえて研究を共にする「学際」は、説明の必要がない。現場のない環境研究はありえない。これが、「地際」の重要な点である。「国際・学際・地際」の融合こそが環境研究の決め手になるであろう。
 
 「俯瞰的視点」とは、人類が20世紀に獲得した最大の成果である。文明史上、人類が最高の高度から地球を眺め、人類と地球の来し方行く末を認識する視点である。20世紀の人類は月にその足跡をしるし、火星に生き物が生息しないことを確認し、人類のあり方を考える俯瞰的視点をえた。これらの三点が、環境研究を進めるうえで重要である。
 
 人類は自分たちの利益を増すことに努力し、今日の繁栄を手に入れた。これは、すなわち「自」の歴史であった。その結果、環境問題が起こり、「自」を主体におけば行き詰まりが見えることを理解した。歴史は、「自から他へ」に視線を向けなければならないことを教えてくれた。われわれは、遅まきながら環境を視野に入れた科学が必要であることに気づいた。「自他の共生」を図らなければ、地球の、ひいては人類の将来がないことを学んだ。この原理は、環境問題を研究しているわれわれの組織においてもしかりである。
 
 自然界では「自」と「他」が併存し、両者の共存で全体が成り立っている。併存する「自・他」を含む全体が機能することは「自他の共生」といえる。これによって自然界はうまく運行している。この自然界の「自他の共生」を、環境を研究している我々の組織にもうまく適用させることが肝要である。組織であるから、自他の均衡は難しく、そこには「自他の衝突」が待ちかまえている。しかし我々は、知恵と協力と活力を背景に、「自他の共生」のシステムを構築しなければならない。
 
 このように、「分離の病」を克服し、「国際・学際・地際」を推進し、「俯瞰的視点」を維持し、「自他の共生」を図ろうとする意志が、環境研究を推進していく基となるであろう。
 
 このような観点から、本年度は、農業、林業および水産業にまたがる環境研究三所連絡会および各省庁にまたがる環境研究機関連絡会(10研究所)の設置、中国および韓国の農業環境研究機関とのMOU(協定覚え書き)の締結、県の農業試験場との共同研究、日中韓共同国際会議の開催など数多くの活動をしてきた。この年報にもその成果が、少しずつ現れてくることを期待している。
平成15年6月 
独立行政法人農業環境技術研究所 理事長 
陽  捷行 
 

 
目 次
 
I.研究実施の概要
1.地球環境部  2.生物環境安全部  3.化学環境部  4.農業環境インベントリーセンター  5.環境化学分析センター
II.平成14年度研究課題
1.年度計画研究課題一覧  2.受託プロジェクト研究等一覧 再委託先リスト  3.法人プロジェクト研究課題一覧
III.研究成果と展望
1FACE(開放系大気CO2増加)圃場では米の収量が増え、タンパク含量が減る
2.水管理と施肥管理による水田からのメタンと亜酸化窒素の発生抑制
3.アラスカの湿地ツンドラにおけるガスフラックスの長期観測
4.発生調査に有効な、キャベツなどを加害するハイマダラノメイガの雄成虫誘引物質の発見
5DNAを吸着してしまう土から微生物のDNAを抽出するには?
6.メダカを使って化学物質の内分泌かく乱作用を簡易に検出する
7.水質モニタリングデータの図形表示・データ集約システム
8.九州以北で新たに確認されたヤガ科害虫3
IV.研究成果の発表と広報 
1.研究成果
(1) 農業環境技術研究所の刊行物 (2) 学術刊行物 (3) 学会等講演要旨集 
(4) 著書・商業誌等刊行物 (5) その他
2.広 報
(1) 所主催によるシンポジウム・研究会 (2) 刊行物一覧 
(3) 情報:農業と環境 (4) 個別取材一覧 (5) 新聞記事 
(6) テレビ・ラジオ等
V.研究・技術協力 
1.会議等  2.海外出張
3.産官学の連携
(1) 共同研究
(2) 行政との連携
1) 行政機関等の主催する委員会への派遣 2) 国際機関への協力 
3) 研究会等への講師派遣
(3) 外部研究者の受入
4.研修等
(1) 技術講習 (2) 外国人研修 (3) 職員研修
5.分析・鑑定等
(1) 分析・鑑定 (2) 同定・技術指導
VI.総 務
1.機 構
2.人 事
(1) 定 員 (2) 人事異動 (3) 役職員名簿 (4) 受賞・表彰 
(5) 叙位・叙勲・褒章
3.会 計
(1) 財務諸表 (2) 決算報告書 (3) 予算及び決算 (4) 固定資産 
(5) 機械等購入 (6) 特許等一覧表
4.図 書  5.視察・見学者数  6.委員会
 
 
 

本の紹介135:イネゲノムが明かす「日本人のDNA」
村上和雄著、家の光協会(2004)

 
 
 西洋の自然科学がキリスト教を背景に生じたことは、誰でも知っていることである。宗教で説明できないことを科学に求めたからである。ということは、われわれが自然科学と呼ぶものから、宗教は無縁ではないということでもある。わが国では、多くの人が宗教と科学は相反するもの、あるいはまったく別のものだと思っている人が多いようである。学校でもそのように教えられた思い出がある。
 
 キリスト教に所属する世界では、むしろ自然科学は、宗教のある面に対して説得を試みるために生じたと考える方が、考えやすい場合がある。その意味で、両者は背中合わせにもたれかかる関係にある。本来、科学と宗教は切り離すことができないものなのである。
 
 ノーベル賞を獲得した天才科学者アインシュタインは、神から離れた科学を行ってはいなかった。そして、科学と宗教に係わるさまざまな言葉を残した。例えば、「わたしは、神のパズルを解くのが好きだ」、「最高精神が宇宙を生んだ」、「自然の背後にある見えない秩序」、「人間は自然の一部です。人生に成功も失敗もない」、「精神が物質を生んだ」、「宗教なき科学は完全ではない」などがある。
 
 科学は宗教的なものから離反しているように見えるけれども、科学の発見や発明が行われる直前の人間の心理状態を見ると、仏教的な心理状態、ものの考え方になっているように思える。世界の全体性を一瞬にしてみて発見が行われるように思える。ところが、科学は完成品になって出てくると、そこの部分を整理して捨てる。だから、宗教と科学はまるで違っているように見える。
 
 著者は、このようなアインシュタインのいう宗教的な現象を「サムシング・グレート(大自然の偉大な働き)」と呼んで憚(はばか)らない。また、この問題を「米」と「ゲノム」と「日本人」と「宗教」の絡みで解きほぐそうとする。科学で実績のある著者の解説には、説得力がある。
 
 序章では、戦後から現代の日本の食をとりまく状況について、最も現在的な組換え作物とWTOの問題まで自己の経験と現在の社会情勢を取り入れながら解説する。ここでは、現在の食に関する問題が概ね取り入れられており、戦後の歴史が要領よくまとめられている。それは、序章の各項目のタイトルからも容易に理解できる。
 
 第1章は、驚きに満ちた遺伝子の世界を解説する。通常の解説書にないことは、話が未来のテーマで満ち満ちていることである。地球が誕生した46億年前の話に始まり、36億年前の記憶がインプットされた生命のこれからの可能性が語られる。
 
 ここでは「地球に生かされる」的な言葉がでる。「遺伝子の説明不可能な現象」、「大自然の恵み」、「神仏の加護」、「偉大なるなにものか」、「ニュートンの学問は大海のなかの砂の一粒に過ぎない」、「宇宙創造にははじめからデザイン原理があったのではないか」、「天地創造の神」などという鍵語がみられる。
 
 新しい学問への夢も語られる。ゲノムの文字の「イントロン」すなわち「ジャンク」のなかに研究の題材を見つけること、ここに生命の不思議、生命の神秘を解くカギがあると語る。遺伝子のスイッチをONにする研究の必要性が説かれる。進化を自然淘汰の競争原理でなく、共生的な原理であると理解し、共生的進化論が展開される。生を司る利己的な遺伝子と、死を司るアポトーシスの間にゆれる生命の実態を研究することの重要性が語られる。
 
 第2章は、ゲノム研究の重要性と21世紀に与える影響が解説される。第3章は、ヒトゲノムでアメリカに後れをとったゲノム研究をイネで巻き返しを図る日本の研究陣の姿が紹介される。第4章が著者の本題かと思われる。ここでは伊勢神宮の話を交えながら、「米」と「イネゲノム」が「日本人」の過去と未来にいかに深く関わりを持っているかが検証される。
 
 なお、著者は「生命の暗号1、2」と題する本を、サンマーク社から1999および2000年に出版している。これらを合わせ読むと、著者の思いはさらに理解できるであろう。
 
日本人のDNA
イネゲノムが明かす「日本人のDNA」
はじめに
序 章 現代日本の食に思う
飢えを忘れてしまった日本人
ダイエット被害に思う
「生命の値段」に対する意識
外国に命綱を預けてしまった日本の食卓
第2次世界大戦後のアメリカの穀物輸出戦略
日本人の食の変化と農業の衰退
米市場に伸びる外国の太い腕
バイオテクノロジーで対抗する日本の農業
米の歴史は品種改良の歴史
遺伝子組み換え技術は安全か?
遺伝子組み換えのメリットについて
遺伝子組み換えにどう向き合えばよいか
第1章 驚きに満ちた遺伝子の世界
38億年の記憶がインプットされた生命
生命の神秘を呼び覚ます4つの遺伝子暗号
宇宙の意志が創造した生命の歴史
遺伝子が持つ2つの大きな働き
塩基の三連文字がアミノ酸の設計図
ゲノムの95パーセントは潜在能力
クローン羊に見る遺伝子のONとOFF
精神的な要素が眠った遺伝子を呼び起こす
植物にも遺伝子のONとOFFは現れる
生長時に切り替わる遺伝子のスイッチ
遺伝子の共生的原理に支えられる生物の進化
第2章 世界が虎視眈々とねらうゲノムを取り巻く現在
ゲノムは21世紀の宝の山
ゲノムはプロメテウスの第四の火となるのか?
「緑の革命」が世界に与えたもの
農作物自由化への対抗手段としてのバイオ
ゲノムをめぐる欧米の巨大会社の動向
日米では大違い、研究者気質と思考メソッド
ノーベル賞も役に立たないアメリカの学問環境
ヒトゲノム解説で日本はなぜ後れをとったのか
アメリカの十八番、じゅうたん爆撃によるゲノム解読
知的所有権とゲノム特許に対する欧米の対応と現状
ゲノム特許に対する日本の姿勢と扱い
第3章 コメの命運を懸ける日本のイネゲノム解析プロジェクト
ホラ吹き放談会から生まれたイネゲノム計画
競馬ファンに支えられた第一期イネゲノム・プロジェクト
前代未聞の大型プロジェクトのスタート
イネゲノム解読作業の流れ
イネを制するものは穀物を制す
第二期は国際協力でゲノム暗号解読が加速
99.99パーセントを読みとる高精度の研究
ゲノムの働きに関する研究とミュータントの役割
国際科学振興財団のスタート
チーム崩壊の危機迫る
ショック! 解読の先を越されたか
悪戦苦闘の末の感激のゴール
第4章 コメと日本人−−イネゲノムの解読がもたらすもの
世界にますます広がるコメ
日本人の洋食礼讃と和食卑下
おいしさにプラス・アルファしたコメの開発
農業が守る地球環境のほころび
神代の昔からコメは日本人のエネルギー源
弥生時代の文化を現代に映す伊勢神宮
古代の日本人がコメをまつったわけ
科学と宗教のあいだ
循環する文化と行き止まりのある文明
参考文献
 
 
 

資料の紹介:環境影響評価のための
ライフサイクルアセスメント手法の開発
研究成果報告書、農業環境技術研究所、平成15年

 
 
はじめに
 
 戦後の農業技術の発展によって、国の内外を問わず単収が飛躍的に向上した。これは、化学肥料や農薬の多投入、膨大なエネルギー消費を伴う機械化や施設栽培化によるところが大きい。資材を最大限に活用し生産を高めようとするこのような農業技術は、化石エネルギーへの依存度を高めることから、地球温暖化、石油資源の枯渇、水質汚濁などを助長する結果になった。
 
 このような背景のもとに、一方では農業の持つ多面的機能の重要性が認識され、この機能を活用し農業生産を増大させ、なおかつ環境を保全する環境保全型農業を積極的に向上させる技術が求められている。
 
 平成9年12月に京都で開催された気候変動枠組条約の議定書会合(COP3)においては、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など6種類の温室効果ガスの排出削減目標について、法的拘束力のある取り決め(京都議定書)が採択された。わが国の場合、2010年(平成22年)までに1990年よりも6%削減することが求められた。農業活動において発生する温室効果ガスも、この削減の例外にはならない。
 
 また平成7年秋には、国際的な環境規格(IS014000シリーズ)がスタートした。この規格は企業活動などに伴う環境負荷を低減させることを目的として策定された。当面の規格は、工業製品に適用されるが、既に食品産業もこうした取組みを進めており、農産物の生産にも当然そのような考え方の導入が消費者から求められるようになるものと考えられる。
 
 このような状況に対応するため、農林水産省農林水産技術会議事務局は、平成10年度から「持続的農業推進のための革新的技術開発に関する総合研究」の一環として、農業分野におけるライフサイクルアセスメント(LCA)手法開発に関する5カ年計画の研究を開始した。この研究は、農業生産に伴い発生するプラスとマイナスの環境影響を、客観的に評価するLCA手法を開発すること、さらにこの手法による分析に基づいて、これまでの技術を見直し、全体としての環境へのプラス影響を最大化するような農業技術の開発へ資するためのものである。平成13年度から農林水産省傘下の研究機関が独立行政法人化したので、平成13年以降この研究は、農業環境技術研究所および農業技術研究機構の運営費交付金プロジェクトとして行われている。
 
 この資料は、平成10年度から開始されたプロジェクトの後期(平成12〜14年度)の成果を中心にとりまとめたものである。この資料を作成するに当たってご協力いただいた方々に心から謝意を表する。なお、このプロジェクトの成果として、「LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアル」を別冊として発行したので、この資料と合わせてご活用いただければ幸いである。
平成15年11月 
独立行政法人 農業環境技術研究所 
理事長 陽 捷行 
 

 
目 次
 
研究の要約
第1章 農業のためのLCA手法の開発及び生産形態別評価:総合評価及びLCA手法の開発
(1)インパクト評価法の開発 (2)評価結果の特性分析及び重み付け
第2章 LCA評価に基づく持続可能な農業生産システムの開発
1. LCAの作物別農業生産技術への適応
(1)野菜作におけるLCAの農業生産技術への適応
1-1 キャベツ栽培におけるLCAの農業生産技術への適応
(2)畑作におけるLCAの農業生産技術への適応
2-1 大規模畑作地帯におけるLCAの農業生産技術への適応
2-2 茶栽培におけるLCAの農業生産への適応
2-3 暖地畑作物体系におけるLCAの農業生産技術への適応
(3)果樹栽培におけるLCAの農業生産技術への適応
3-1 カンキツ栽培におけるLCAの農業生産技術への適応
3-2 ナシ栽培におけるLCAの農業生産技術への適応
2. 大気・水・土壌環境からみたLCA評価の検討
(1)大気環境からみたLCA評価の検討
(2)肥料等の土壌への利用からみたLCA評価の検討
(3)土壌からの流出成分等からみたLCA評価の検討
3. LCAの総合評価に基づく新農業生産システムの確立
(1)稲作におけるLCA評価に基づく農業生産システムの確立
(2)野菜におけるLCA評価に基づく農業生産システムの確立
参考資料:作物別インベントリ表
別冊:LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアル
 
 
 

資料の紹介:LCA手法を用いた農作物栽培の
環境影響評価実施マニュアル、
-環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発-
研究成果報告書別冊、農業環境技術研究所、平成15年

 
 
はじめに
 
 LCA(ライフサイクルアセスメント)という耳慣れない言葉が農業分野に導入されたのはそれほど古いことではない。もともと、LCA手法は工業製品の評価を対象として開発されてきた経緯から、そのままでは農作物の評価に使えないことが多く、LCA手法の農業分野への導入が進んでこなかった。しかし、諸外国では、LCAをはじめとする環境調和型の評価手法やその適用に関する研究が多く行われ、わが国でも1994年以来2年ごとに欧米、アジア各国から多数の参加の下に、エコバランス国際会議が開催され、LCA等に関する学際的・国際的な報告、交流が行われてきた。2002年に開催された第5回エコバランス国際会議では、30件を越すLCAの農業分野への適用事例が報告された。
 
 LCA手法は、技術開発の視点を、単に効率やコストの面だけではなく、環境への影響を最小化するという全く新しい総合評価軸に移す試みで、農業分野でも極めて有用であると考えられる。この有用性に着目した農林水産省・農林水産技術会議事務局では、1998年度より、農業生産に対応するLCA手法の研究を開始した。農林水産省傘下の研究機関の独法化に伴い、2002年度以降は農業環境技術研究所および農業技術研究機構の運営費交付金プロジェクトとして引継ぎ、進められてきた。
 
 本プロジェクトでは、当初、稲作とトマト栽培についてのLCAを試行し、さらにトマト以外の野菜作と畑作へと対象を広げてきた。成果の詳細は「環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法」中間とりまとめ報告書(平成13年)ならびに同・研究成果報告書(平成15年)を参照されたい。本マニュアルは、(株)エコマネジメント研究所への受託研究課題「LCAによる評価手法のマニュアル化」(課題番号1400)において、農業生産に対応する具体的なLCA手法について「LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアル」として取りまとめたものであり、同社、田中浩二 氏・森下 氏の多大な努力の結果である。
 
 是非とも、この評価方法を様々な農作物の生産システムの評価に適用し、評価結果を低環境負荷の生産システム構築の際の検討材料としていただきたい。
農業環境技術研究所 化学環境部長 今井秀夫 
(環境研究「環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発」主査) 
 

 
目 次
 
注意事項及び本書の構成
1章 本手法の概要と適用範囲
1.本手法の概要と手順
(1)目標と範囲の設定  (2)データの収集  (3)環境影響評価  (4)解釈
2.本手法の前提条件
3.評価対象の環境影響項目について
2章 目的と範囲の設定
1.目標の設定
2.対象範囲の設定
3.評価対象項目の選定
4.収集データの決定
3章 データの収集
1.データの属性の取りまとめ
(1)概要  (2)各項目の説明  (3)データ属性の例
2.フロー図
(1)概要  (2)作成例
3.データの収集及び取りまとめ
(1)概要  (2)各項目の説明
(a)投入資材  (b)投入エネルギー(電気、燃料)  (c)肥料
(d)薬剤  (e)廃棄物  (f)処理の内訳(リサイクル率等)
(g)排ガス
(3)データの取りまとめの例
4.利用した資料
4章 環境影響評価
1.環境影響評価について
2.本評価手法の概要
3.各影響評価項目での手順
(1)温暖化エネルギー収支CO  
(2)温暖化土壌面収支(作物残渣等含む)
(3)栄養塩素:窒素濃度  (4)廃棄物:プラスチック  (5)農薬
5章 解釈及び報告(公表)
1.解釈  2.報告について  3.クリティカルレビュー
おわりに/添付資料/参考資料1/参考資料2
 
 
 

資料の紹介:森林・農地・水域を通ずる自然循環機能の
高度な利用技術の開発
中間成績報告書、農業環境技術研究所、平成15年

 
 
はじめに
 
 21世紀におけるわが国の食料・農業及び農村に関する施策の基本方針となる「食料・農業・農村基本法」が、平成11年に施行された。この基本法に掲げられた基本理念や施策の方向を具体化するために、「食料・農業・農村基本計画」が平成12年に閣議決定された。この基本計画には、1)食料の安定供給の確保、2)多面的機能の発揮、3)農業の持続的な発展、4)農村の振興、の4つの基本理念が盛り込まれている。とりわけ、3)の項目には、「農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能)の維持増強による、環境と調和のとれた農業生産の確保が図られるようにしなければならない」と記載されている。
 
 一方、環境省(当時、環境庁)は、平成11年に環境基本法に基づき定められている水質汚濁・地下水の水質汚濁に係わる環境基準を改正し、環境基準項目に硝酸および亜硝酸を追加した。さらに、平成13年には水質汚濁防止法を改正し、硝酸化合物を有害物質に追加指定して排水規則・地下浸透規則等の対象とした。そのため、農用地についても、施肥に由来する硝酸性窒素による汚濁負荷量の的確な把握と負荷量削減対策の推進が求められている。
 
 これまで農業、林業および水産業は、それぞれの場において生産性を高めるための技術開発を進めてきた。しかしその結果、農業生産の場から水域へ汚濁の拡散を招いてきた硝酸性窒素の例に見られるように、森林・農地・水域のそれぞれの場を越えた環境負荷物質の移動・拡散が生じてきた。さらに最近の研究によれば、海洋から山間部流域への魚類の遡上は、生態系における単なる魚類の移動という現象のみならず、養分の海洋から森林への移動も兼ね備えた現象であることが明らかになった。このことからも、森林・農地・水域をめぐる広範囲に及ぶ物質循環の研究の重要さが理解される。
 
 このような背景のもとに、森林・農地・水域全体を視野に入れたうえで、農林水産生態系が本来もっている自然循環機能を解明し、農林水産生態系の積極的な利用を踏まえた自然循環機能の向上技術の確立に資するための研究が、平成12年度から6年計画で開始された。この研究は、平成13年度に法人化された農林水産省傘下の研究機関である農業環境技術研究所、農業技術研究機構、森林総合研究所および水産総合研究センターが交付金プロジェクトのもとに推進することになった。
 
 この資料は、前期3年間(平成12〜14年度)の研究成果をとりまとめたものである。本書が多くの関係者の参考になれば幸いである。また、後期の研究がさらに充実・発展することを切に期待する。
平成15年10月 
独立行政法人 農業環境技術研究所 理事長 陽 捷行 
 

 
目 次
 
I 研究実施基本計画
II 研究実施細部計画
III 研究課題別成績
  1.地形連鎖系における自然循環機能の解明と向上技術の開発

 
(1)大気−森林−水系における有機物動態、水動態及び水質浄化機能の解明
  (2)作物−農地−水系における環境影響物質の動態及び環境容量の解明
  (3)水質における環境影響物質の生物群集への影響評価と許容量の解明

 
2.流域を対象とした農林水産生態系における自然循環機能の解明と管理指針の策定
  (1)森林・農地・水域を通ずる環境影響物質の収支解明
IV 森林・農地・水域における養分バランスシート(参考資料)
 
 
 

EC条約の第95(5)に従ってオーストリア共和国が通告した
上オーストリア州における遺伝子組換え生物の利用を
禁止する国内規定に関する
200392日の欧州委員会の決定

 
 
 欧州委員会は、オーストリア共和国が通告していた上オーストリア州における遺伝子組換え生物の利用を禁止する国内規定に関する決定を200392日に発表した。
 ここでは欧州官報に掲載された文書(OJL 230、(2003916 3443ページ)"Commission Decision of 2 September 2003 relating to national provisions on banning the use of genetically modified organisms in the region of Upper Austria notified by the Republic of Austria pursuant to Article 95(5) of the EC Treaty (Text with EEA relevance) (notified under document number C(2003) 3117) 2003/653/EC
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2003:230:0034:0043:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
を仮訳したものを紹介する。仮訳するに当たって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらを参考にした。参考にした資料の中から、いくつかの資料を番号(1)、2)・・・)を付けて掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 なお、本文書を理解するにあたり、欧州委員会共同研究センターが2002年5月に公表した報告書:「欧州農業における遺伝子組換え作物、一般栽培作物および有機栽培作物の共存のためのシナリオ」(http://ec.europa.eu/agriculture/publi/reports/coexistence/index_en.htm (最新のURLに修正しました。2010年5月))が参考になる。この資料の概要は「情報:農業と環境」の第30号(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn030.html#03008)に、またその全文は 農業環境技術研究所資料第27号 に掲載されているので、参照していただきたい。
 
官報 L 230, 16/09/2003 P. 0034 - 0043
EC条約の第95(5)に従ってオーストリア共和国が通告した
上オーストリア州における遺伝子組換え生物の利用を
禁止する国内規定に関する
200392日の欧州委員会の決定
(文書番号C(2003) 3117によって公告された)
(ドイツ語の原本が唯一の正本である)
(欧州環境庁との適合関連文書)
(2003/653/EC)
 
欧州共同体委員会は、
 
欧州共同体設立条約(EC条約)*1、とくにその第95(5)(6)に留意し、
 
以下のことに鑑みて:
I. 事実関係
 
(1) 2003313日付けの書簡において、オーストリアEU常駐代表部*2は、欧州議会と理事会の指令2001/18/EC(1)の規定の適用を外し、上オーストリア州*3における遺伝子組換え生物の利用を禁ずる2002年遺伝子操作禁止に関する上オーストリア法案(以下では国内規定という)をEC条約*4の第95(5)に従って欧州委員会に通告した。
 

(1)OJ L 1062001417日、1ページ。

*1: >http://www5d.biglobe.ne.jp/~utu/society/conventions/economy.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.sonpo.or.jp/publish/book_eu1.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://160.193.3.22/vuniv2003/yamashita2003/yamashita2003-5.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月) のCORPERの項
*3: http://www.maff.go.jp/kaigai/2003/20030905belgium56a.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/news/03090301.htm
*4: http://sta-atm.jst.go.jp/atomica/dic_0047_01.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
1.EC条約の第95条の(5)および(6)
 
(2) 本条約の第95条の(5)および(6)は次のように規定している:
 
「5.(…)欧州連合理事会または欧州委員会が調和(harmonisation)措置を採択した後に、ある加盟国がその措置を採択した後に生じた加盟国特有の問題を理由に、環境または労働環境の保護に関係する新たな科学的証拠に基づいて国内規定を導入する必要があると思われる場合、想定される規定ならびに、それを導入する理由を欧州委員会に通告しなければならない。
 
6.欧州委員会は、それが加盟国間の貿易の恣意的差別または仮装された制限の手段であるか否か、そして欧州域内市場の機能に障害を与えるか否かを確かめてから、(…)第5項に記された通告から6ヵ月以内に、国内規定を承認または拒否しなければならない。
 
この期間内に欧州委員会による決定がない場合、(…)第5項の国内規定は承認されたものとみなす。
 
この問題の複雑性および人の健康に危険がないことが正当化された場合、欧州委員会は、本項に定めた期間を最大6カ月間まで、さらに延長することを当該加盟国に通告することができる。」
 
2.関連する欧州共同体法規
 
2.1.遺伝子組換え生物の環境への意図的な放出に関する指令2001/18/EC
 
(3) 遺伝子組換え生物(GMO)の環境への意図的な放出は、20021017日より指令2001/18/ECが適用され、加盟国は国内の関連措置をこの日までに施行することが義務づけられた。本指令は、欧州共同体設立条約の第95条に基づき、環境への意図的放出をしようとするGMOの認可のために、加盟国の法規や手順を統一することを意図している。
 
(4) 指令2001/18/ECには、GMO、あるいはGMOもしくは遺伝子組換え微生物(GMM)からなるもしくは含む製品を環境中に放出または上市することを可能にするのに先立ち、人の健康と環境へのリスクの個別評価の承認手続きを遂次、手順を追って、適切に定めている。
 
(5) 指令は、実験的な放出(パートBの放出という)と上市の放出(パートCの放出という)の二つの異なる手続きを規定している。パートBの放出は国家レベルの認可を必要とし、パートCの放出は欧州共同体の手順に従わなければならず、最終的な決定は欧州連合全域で効力がある。
 
(6) 現時点では、栽培目的の遺伝子組換え種子を上市するための認可は、もっぱら指令2001/18/ECで規定されている。現在までのところ、この指令に基づき認可された遺伝子組換え種子はない。だたし22件の申請は認可が未決定のままであり、そのいくつかは栽培を含む利用が含まれている。
 
(7) GMOの上市に向けた18件の認可が、前の理事会指令90/220/EEC(2)によって承認されたが、この指令は、20021017日に指令2001/18/ECによって廃止された。これらの製品のうち、遺伝子組換えトウモロコシ3品種、遺伝子組換えナタネ3品種およびチコリ1品種の種子は、利用としての栽培を含む上市が認可されている。さらに、遺伝子組換えカーネーション2品種の栽培も承認されている。
 
(8) 指令2001/18/ECでは、形質転換動物*1GMOに分類されることに基づき、これらの動物の上市と環境中への実験的放出を規定している。今のところ形質転換家畜や魚類は、これらの目的、またはそのような認可を受けるための申請を承認していないが、この指令は確かに実行できるとしている。
 
(9) 認可手続きに関する上記の規定に加えて、指令2001/18/ECの第23条には「セーフガード条項」が入っている。この条項の規定では、「この承諾日以降に、新たなもしくは追加的な情報が入手可能になり、しかもそれが新たなもしくは追加的な科学的知識に基づく既存情報の環境リスク評価または再評価に影響を及ぼすため、この指令に従って適切に通告され、承諾を書面で受けたGMO製品あるいは製品中のGMOが人の健康または環境へのリスクになっていると考える理由を加盟国が詳細に提示した場合、加盟国は、その管轄区域の利用および/または販売を暫定的に制限または禁止することができる」ということを主として想定している。さらに、重大なリスクの際には、加盟国はGMOの上市の一時停止または取り消しといった緊急処置を取ってもよいが、第23条に基づいて取った決定ならびにその決定を行った理由を委員会に通知しなければならない。これに基づいて、指令2001/18/ECの第30(2)で想定されるコミトロジー(comitology*2の手順に従って、発動されたセーフガード条項についての欧州共同体レベルの決定が行われなければならない。
 
10) 指令2001/18/ECの第34条の規定に反してオーストリアは、まだ法制化していなかった。しかしこの規定では、20021017日までにこの指令に従うために必要な法律、規則および行政上の規定を発効することを加盟国に義務づけている。
 

(2)OJ L 117199058日、15ページ。

*1: http://www.med.hokudai.ac.jp/~enshu/theme/ithema2000/Agroup/term.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.shiga-med.ac.jp/~hqanimal/tga9507/tga9507.html
*2: http://www.maff.go.jp/kaigai/2002/20021018eu29a.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/highlight/eugmo/label01.htm
    http://koho.osaka-cu.ac.jp/vuniv2000/nakamura2000/nakamura2000-8.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の(2) 行政システムの多次元的交錯、あるいは「国家性の脱国民化」の項
    http://opac.tokyo-u-fish.ac.jp/library/kiyou/ron3703.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月) の4ページ

 
2.2. 理事会指令90/219/EEC(指令98/81/ECで修正されている)
 
11) 指令90/219/EEC(3)(指令98/81/EC(4)で修正されている)では、遺伝子組換え微生物(GMM)の封じ込め利用を定めている。オーストリアと同様に他の加盟11カ国も、GMMは今のところ適用されないが、形質転換家畜や魚類など、他のGMOに適用するために、この指令を置き換えた。これは、この封じ込め利用の指令に従って承認すべきである。いくつかの国では、国内法令に置き換えられた指令90/219/ECの封じ込め利用条件に基づき、形質転換家畜や魚類の後代が特定の加盟国においてすでに飼育されている。しかし、このような行為の承諾は、この指令の規定に基づき、国の基準で交付され、欧州共同体の手順と関連していない。
 

(3)OJ L 117199058日、1ページ。
(4)OJ L 3301998125日、13ページ。

 
2.3. 種子法規
 
12) 種子法規は、理事会指令66/401/EEC(5)66/402/EEC(6)2002/54/EC(7)2002/55/EC(8)2002/56/EC(9)および2002/57/EC(10)(指令2003/61/EC(11)によって前回、一部修正されている)から成る。これらの指令では、次のことを条件に、その品種の種子が欧州共同体内で自由に流通することが可能になるとしている:
 
その品種は、識別可能であり、安定性があり、十分に均質であることなどを証明する適合検査に合格しておいること。さらに、
 
この品種の種子が、その後の段階で、品質について公的に検査され、原種子*1または証明種子として保証され、あるいは一部の種は市販種子として公的に検査され、認められたとしても、満足のいく利用と栽培価値を持たなければならない。
 
13) そのため、これらの指令は、農学的、植物学的な目的がある。またGMOを種子として使用する目的があるから、遺伝子組換え種子は同一の指令に従って、普通の種子と同じ基準を満たさなければならない。
 
14) 欧州共同体全域に上市し、自由に流通することを可能にするため、遺伝子組換え種子は、次の2つの異なる段階を引き続いて通過しなければならない:
 
遺伝子の改変について、指令2001/18/ECのパートCによる事前認可を受けなければならない、
 
品種としての特性について、種子に関する欧州共同体法規で想定される検査を受けていなければならない。
 
15) これらの結果が肯定的であれば、加盟国はこの品種を該当国の目録に登録し、この品種の種子をその加盟国内を自由に流通することを許可し、しかも商業栽培を認める(最初に、公的な検査と認証が必要)。欧州共同体の品種目録に一度、登録しただけで、この品種の種子は、欧州共同体全域を移動する自由の恩恵をうけることができる(同じく、最初に公的な検査と認証が必要)。
 
16) したがって、遺伝形質転換種子の問題を個別および包括的な方法で規制する一つの指令があるのではなく、遺伝子組換え品種の二つの独立した面に同時に適用し、規制する2つの指令(指令2001/18/ECと、問題のGMOに適用される関連種子指令)がある。
 

(5)OJ 1251966711日、2298/66ページ*2
(6)OJ 1251966711日、2309/66ページ*3
(7)OJ L 1932002720日、12ページ*4
(8)OJ L 1932002720日、33ページ*5
(9)OJ L 1932002720日、60ページ*6
(10)OJ L 1932002720日、74ページ*7
(11)OJ L 165200373日、23ページ*8

*1: http://www.nlbc.go.jp/topics/K4sonota/tayori/tayori23/k1422303.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の 牧草等の種子増殖 の項
*2: 飼料作物種子の流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:31966L0401:EN:HTML (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*3: 穀物種子の流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:31966L0402:EN:HTML (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*4: ビート種子の流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:193:0012:0032:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*5: 野菜種子の流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:193:0033:0059:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*6: バレイショ種いもの流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:193:0060:0073:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*7: 油用・繊維作物種子の流通に関する理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:193:0074:0097:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*8: 欧州共同体の比較検査・試験に関して(10の指令の)修正を行う理事会指令
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2003:165:0023:0028:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
2.4. 新規食品に関する欧州議会と理事会の規則(ECNo 258/97
 
17) 規則(EC258/97(12)は、GMOを含有する、GMOから成る、あるいはGMOから生産された食用製品を含む新規食品の認可と表示について定めている。この規則は、環境に対するリスクがGMOを含有するもしくはGMOからなる新規食品または新規食品の成分と関連があることをとくに想定している。そのため、この規則は指令2001/18/ECと関連して定められており、このような製品に対して、環境の安全性を確保するために環境リスク評価を必ず行われなければならない。したがって、この規則は、指令2001/18/ECで定めたものと同様の個別の環境リスク評価を課しているが、食品または食品成分として使用される製品の適合性を評価することも入れなければならない。
 

(12)OJ L 431997214日、1ページ*1

*1: 新規食品および新規食品成分に関する欧州議会と理事会の規則
   http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:31997R0258:EN:HTML (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
3.通告された国内規定
 
3.1. 通告された国内規定の適用範囲
 
18) この法案(13)は、上オーストリア州における非GMO(有機)生産システムの保護を主として扱っている。自然と環境の保護と同様に自然の生物多様性の保護も対象としている。
 
19) その最初のページで、国家経済委員会(the Committee on National Economic Affairs)の報告書(14)(以下「委員会報告」)は法案の根拠と内容を要約している:
 
「現在の科学的知識によれば、農林業、とくに作物生産において、遺伝子組換え生物(GMO)の利用が、非GMO農業生産の維持(共存)または自然環境の保全(生物多様性)に関してリスクがないとはいえない。
 
この法案の目的は、有機農業ならびに慣行的農業の作物と家畜の生産をGMOによる汚染(交雑)から保護することにある。さらに、自然の多様性、とくに脆弱な生態的地区における自然の多様性はもとより狩猟や釣りの資源など、自然の遺伝子源もGMOによる汚染から保護されなければならない。
 

(13)遺伝子組換え種苗の栽培と飼育目的の形質転換動物の利用ならびに、とくに狩猟や釣りを目的とする形質転換動物の放出を禁止する州法(遺伝子操作を禁止する上オーストリア法2002)。
(14)遺伝子組換え種苗の栽培と飼育目的の形質転換動物の利用ならびに、とくに狩猟や釣りを目的とする形質転換動物の放出を禁止する州法(遺伝子操作を禁止する上オーストリア法2002)に関する国家経済委員会報告。

 
20) これを根拠に、法案は、(i)有機農業と慣行農業の保護(共存)、(ii)自然の生物多様性の保護、とくに脆弱な生態的地区における生物多様性の保護ならびにGMOによる「汚染」から遺伝子源を保護する手段として、上オーストリア州における遺伝子組換え種子(欧州共同体の認可を得た種子を含む)の利用を禁止することを求めている。けれども慣行の保存種子の中に遺伝子組換え種子の偶発的な微量の混入を0.1%レベルまで承認している(おそらく、認可と未認可の遺伝子組換え種子の両方)。
 
21) また、飼育のための形質転換動物の利用、とくに狩りや釣りのために形質転換動物の放出を禁止することも求めている。
 
22) 上オーストリア州は慣行の生産物中へのGMOの混入に起因する経済的損失に対して個人に補償を与えることを義務づけている。
 
23) この法案は、採択後、3年間、適用される一時的な措置である。
 
 
3.2. 通告された国内規定が欧州共同体法規に及ぼす影響
 
24) 上オーストリア法案の適用範囲は、次のことにおもに影響するとを示している:
 
指令2001/18/ECのパートBの規定に従ったGMOの実験的放出、
 
指令2001/18/ECのパートCの規定に基づいて認可された遺伝子組換え種子品種の栽培、
 
今は、指令2001/18/ECを適用している指令90/220/EECの規定に基づいて、すでに認められた遺伝子組換え種子品種の栽培。これらの生産物のための承諾は、指令2001/18/ECに基づいて更新されなければならないが、2006年までは更新されないだろう、
 
形質転換家畜や魚類の飼育を含む封じ込め利用の行為。ただし、(国の法令とは対照的に)指令98/81/ECで修正された指令90/219/EECの規定は、このようなGMOまでに明確に広げないということであれば、この行為は、指令そのものとは矛盾しないであろう。
 
そのような承認が指令2001/18/ECに従って与えられた時の(このケースは、当分の間はないが)、形質転換動物がGMOに分類されることを根拠に、これらの動物の上市と環境中への実験的放出。
 
25) これに関連して、遺伝子組換え食品と飼料に関する規則ついての委員会提案の第二読会中に、欧州議会が指令2001/18/ECの中に新たに第26a条を導入するための修正を採択したことに言及することも重要である。2003722日の理事会による合意の後に、この条項は、この新たな規則の発効と同時に指令の中に書き入れられるであろう。この条項は次のように書かれている:
 
「加盟国は、他の製品の中へのGMOの非意図的混入を避けるために適切な措置をとることができる。
 
欧州委員会は、欧州共同体レベルと国家レベルの調査に基づいて、情報を収集、連携させ、加盟国内における共存の経過を監視し、そして情報と監視に基づき、遺伝子組換え作物と、慣行作物および有機作物との共存に関する指針を策定しなければならない」。
 
26) 一方では、この法案は、新規食品の規則に与える影響は考えられない。この規則は、GMOを含有し、もしくはGMOから成る食品または食品成分を扱い、そのGMOは種苗として使われることはない。したがって、新規食品の規則はこの法案の適用範囲外とみなさなければならない。
 
27) 共存の横断的問題について、欧州委員会は、2003723日に、遺伝子組換え作物を慣行農業および有機農業と共存させる国家戦略ならびにベストプラクティスの策定のための指針に関する勧告を採択した(15)。この勧告は、次のように述べている:
 
「共存という経済的な側面と、環境へのGMOの意図的な放出に関する指令2001/18/ECに従って扱われる環境や健康の側面とを明瞭に区別することが重要である。
 
指令2001/18/ECで定められた手順によると、GMOを環境中に放出するための認可には、健康と環境の総合的なリスク評価が必要である。リスク評価の結論は、次のいずれかになるであろう:
 
環境または健康に対して悪影響を持ち、管理することができないリスクが特定された場合は、認可は拒否される。
 
環境または健康に悪影響をもつリスクが特定されない場合、法規でとくに定められた以外には新たな管理措置を必要とせずに認可が与えられる。
 
リスクは特定されたが、適切な措置(たとえば物理的隔離および/またはモニタリング)によって管理できる;この場合、認可は環境リスクの管理措置を実施するための義務をともなうことになる。
 
認可が与えられた後に、環境または健康へのリスクが特定される場合、指令の第23条に定めたセーフガード条項に基づき、認可の取消し、または承諾条件の変更の手続きを開始することができる。
 
認可されたGMOのみが欧州連合内で栽培することが可能であり、環境や健康の側面は、指令2001/18/ECがあてはまるので、共存の関連でさらに取り組むべき未解決の問題は、遺伝子組換え作物と非組換え作物が混ざることに関連した経済的側面に関することである。」
 

(15)OJ L 1892003729日、36ページ。

 
28) 地域的措置に関して、勧告は次のように述べている:
 
「利用可能なすべての選択肢を考慮するが、農場の個別管理措置および近隣農場間の協調を目的とした措置を優先すべきである。
 
地域的規模の措置が考えられる。そのような措置は、共存が両立しない特別な作物の栽培だけに適用し、しかも地域的規模はできるだけ限定すべきである。地域的規模の措置は、他の方法で十分な水準の純度が達成することができない場合にのみ、考慮すべきである。これらの措置は、それぞれの作物と生産様式(たとえば種子生産と作物生産)に対して十分な根拠を示す必要がある。
 
29) 上記の検討から、オーストリアの通告で影響を受ける可能性のある主要な欧州共同体法規は、指令2001/18/ECであることが明らかである。現に、種子法規および新規食品法規に基づく認可は、とくにその主要な原則(governing principle)に従って実施されるので、法規のこの横断的部分は欧州連合におけるGMOの意図的放出のすべてのかなめとみなすことができる。この考え方は、オーストリア当局が行なったリスク評価に受け入れられており、その委員会報告の中で次のように述べている:
 
「認可されたGMOに関して国の立法者が変えられる余地は、それゆえに、この「放出指令」(16)関連の個別の主要な法律の規則に従って、または同指令のセーフガード条項に従って決定されている。」
 
30) これらの理由から、本決定中での法的な判定では、指令2001/18/ECを重点的に取り扱い、バイオテクノロジーに適用する他の法規は現状では重要でないので、こらの法規に触れていない。
 

(16)『放出指令』は指令2001/18/ECとして、欧州委員会報告において前に規定されている。

 
4.オーストリアが提出した正当とする理由
 
31) 法案の正当とする理由は、委員会報告と、上オーストリア州および連邦社会保障世代省(the Federal Ministry of Social Security and Generations*1が委託した共存に関する最近の研究(以下に「ミュラー論文」という)(17)に示されている。
 
32) この報告書に詳述されているように、この法案の根拠は、GMOを利用すれば、非遺伝子組換え農業生産*2の維持(共存)、あるいは自然環境の保全(生物多様性)のいずれにおいてもリスクがないとはいえないことである。ミュラー論文は、GMOによる汚染の原因と状況に関する科学的なデータとともに、GM作物および共存に関する一般的な情報を広範に収集してまとめたものを提示している
 
33) ミュラー論文によると、非遺伝子組換え農業生産に長期的によくない影響を及ぼし、自生作物の形成を無視することができないことを確認しているという。
 
34) 論文は、大規模なGMO栽培の近くに有機栽培や慣行栽培を共存することが実際的には不可能であり、環境への長期的な被害が懸念されると示唆している。上記の正当とする理由を、生物多様性および共存に関して、遺伝子組換え種子と同様な方法で、形質転換動物にも適用している。この方針に沿って、ミュラー論文は次のように考察している:
 
「上オーストリア州の環境に限って言えば、危険性があるとすれば、改変された遺伝子が慣行の非遺伝子組換え作物生産と有機作物生産を害するかもしれないという現実である。遺伝子組換え品種の種苗が広範囲に栽培されるなら、非遺伝子組換え作物生産は、もはや今後、不可能になるだろう。この生産タイプが直面する危険性は、種苗として許可されたすべての製品に関連すると思われるので、これらのすべての製品は法案の栽培禁止にあたる。飼育目的で使用される形質転換動物、とくに狩猟や釣りのための形質転換動物の放出にも同じことが適用される。長期的には、これらの動物は繁殖して、野生動物の生存を脅す。」
 
35) これを根拠に、ミュラー論文調査は、次のように結論している:
 
「非遺伝子組換え地区を設けることが小規模なオーストリア農業分野の中で共存問題に関して長期的に安全性を確保することができる唯一の方法であることを表明した。有機栽培経営者の割合は上オーストリア州でとくに高いので(約7%)、有機農業生産を保護するために、汚染源から半径4km内を防護地区にするならば、GMOの栽培可能地はほとんどないだろう。」
 
36) 上オーストリア州の特殊性は、この地域における生産が小規模農業経営システムに基づいており、また有機/慣行の生産システムにおいて、GMOの混入を防止するための管理措置がないという現実に基づいている。この理由から、委員会報告は、つぎのように結論を下している:
 
「(…)上述の論文によれば、オーストリアの場合には、「非遺伝子組換え地区」はオーストリアの「小規模な農業分野」内で共存を長期に保証させることができる唯一の方法であることを強調しなければならない。上オーストリア州に関して、有機農産物を保護するために、汚染源から半径4km内を防護地区にすると、GMO栽培可能地はほとんどないことが本論文から生まれている。これに関して、(上オーストリアの場合には、)有機栽培経営者の割合が高く、彼らは州体に分布して、生存が脅かされるという特殊な関係になっている」
 

(17)「非遺伝子組換え農業地区:シナリオの構想と分析および実現のための対策」2002428日、Werner Müller(上オーストリア地域環境局と連邦社会保障世代省のために実施された)。

*1: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/s_kyotei/pdfs/medi.pdf
*2: http://www.asahi-net.or.jp/~yr9t-mrmt/Phrase/Ph0304.html
     のGM (NON-GM) (非)遺伝子組み換えの項

 
II 手順
 
37) 2003313日付けの書簡において、オーストリア政府欧州連合代表部はEC条約の第95(5)に従って、指令2001/18/ECの規定の適用を外して、上オーストリア州における遺伝子組換え生物の利用を禁止する、遺伝子操作禁止に関する上オーストリア法2002の案を欧州委員会に通告した。
 
38) 2003325日付けの書簡によって、欧州委員会は、EC条約の第95(5)に基き、通告を受理したこと、そして第95(6)に従って、6ヶ月間の審査期間を通告を受けた翌日の2003314日から開始したことをオーストリア当局に通達した。
 
39) 200356日付けの書簡によって、欧州委員会はオーストリア共和国から受理した要請を他の加盟国に通知した。欧州委員会は、また、オーストリアが採用しようとしている国内措置案をそのほかの関係者に通知するため、欧州連合官報(18)に要請に関する通告を公表した(19)
 

(18)OJ C 1262003528日、4ページ*1
(19)イタリア、オランダとEuropabio(欧州バイオ産業団体連合)からコメントを受けた。

*1: http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:C:2003:126:0004:0004:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
III. 法的な判定
 
1.受理可能性(admissibility*1の検討
 
40) EC条約の第95(5)は、次のように書かれている:「欧州連合理事会または欧州委員会が調和措置を採択した後に、ある加盟国がその措置を採択した後に生じた加盟国特有の問題を理由に、環境または労働環境の保護に関係する新たな科学的根拠に基づいて国内規定を導入する必要があると考える場合、想定する規定だけでなく、それを導入する理由についても欧州委員会に通告しなければならない。
 
41) 2003314日にオーストリア当局が提出した通告は、指令2001/18/EC、欧州域内市場の設立*1と実施を目指している加盟国の法律、規則、および行政命令の統一化*2に関係する欧州共同体*3の措置に相反すると思われる新たな国内規定の導入の承認を得ようとしている。
 
42) 指令2001/18/ECは、 GMOを実験的に放出または上市するために、GMOの意図的放出に関する規則を欧州共同体レベルで一致させている。とくに、種子と新規食品の法規に基づく認可は、その主要な原則に従って実施されるので、法律のこの横断的部分は、欧州連合におけるGMOの意図的放出のかなめとみなすことができる。そのため、III2で詳細に説明した理由から、この決定の中に包含されている法的な判定では、指令2001/18/ECを重点的に取り扱い、バイオテクノロジーに適用する他の法規は現状では重要ではないので、これらの法規に触れていない。
 
43) EC条約の第95(5)に義務づけられているので、オーストリアは、規定案の正確な言葉づかいを欧州委員会に通告したが、この言葉づかいは、すなわち指令2001/18/ECにおいて定めたものと一致せず、その意見書のなかで、これらの規定を導入することが正しいとする理由についての説明とも一致しない。
 
44) 指令2001/18/ECの規定と通告された国内措置を比較すると、とくに次の面において、国内措置がこの指令に含まれる規定よりも制約が大きいことが明らかである:
 
指令2001/18/ECの主要な原則は個別的なリスク解析であるが、オーストリア法案は「一括」禁止を想定しており、
 
指令2001/18/ECでは、種子指令と組み合わせて、欧州共同体レベルで承認された遺伝子組換え種子を自由に流通することが可能であるが、オーストリア法案は、それらが承認されているかどうかにかかわらず、すべての遺伝子組換え種子の禁止を想定している。
 
45) オーストリアが提示した正当とする主な理由は、次のことである:
 
上オーストリア州から委託されたミュラー論文は、上オーストリアの環境に対する危険性を示す新たな科学的証拠を明らかにした。
 
同論文では、上オーストリアの農業構造が(とくに、有機農業経営の割合が高い小規模農家が主体であるので、)特殊であることも示した、
 
ミュラー論文は、指令2001/18/ECの採択後に公表されたが、オーストリアによると、共存の問題はいまでもこの指令で取り組んでいない未解決の問題とみなしている。
 
46) 上記のことに鑑みて、欧州委員会は、指令2001/18/ECの規定の適用から外し、国内規定導入の承認を得るためにオーストリアが提出した通告は、それゆえにEC条約の第95(5)に従って受理可能であるとみなされる。
 

*1:  http://www.kiwinet.seiryo-u.ac.jp/inahara/internationalorganization17.html (該当するページがみつかりません。2014年12月)
 のII-2-4
    http://transnews.at.infoseek.co.jp/kojintsuho.htm (対応するページが見つかりません。2011年5月) の2-C-(1)
    http://www.thefuture.co.jp/insights/000918.html
*2: http://www.envix.co.jp/ecoquery.html (対応するページが見つかりません。2010年5月) のF-2 危険物質関連の項参照
*3: http://www.hiu.ac.jp/eu/resume/resume6.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 の(1)「共同市場」と「域内市場」の設立の項

 
2.本案の判定
 
47) EC条約の第95(6)に従って、欧州委員会は、本条項で定めた適用除外の可能性を加盟国が利用できるためのすべての条件が満たされていることを確保しなければならない:
 
「6.欧州委員会は、それが加盟国間の貿易の恣意的差別または仮装された制限の手段であるか否か、そして欧州域内市場の機能に障害を与えるか否かを確かめてから、第5項(…)に記した通告から6ヵ月以内に、国内規定を承認または拒否しなければならない。
 
この期間内に欧州委員会による決定がない場合、(…)第5項の国内規定は承認されたものと考えなければならない。
 
この問題の複雑性および人の健康に危険がないだけの正当な理由がある場合、欧州委員会は、本項に定めた期間を最大6ヵ月間まで、さらに延長することを当該加盟国に通知することができる。」
 
48) そのため、欧州委員会は、EC条約第95(5)に定めた条件が満たされているかどうかを判定しなければならない。この条項は、加盟国が、調和措置の適用から外して、国内規定を導入することが必要であると考える場合、その加盟国は:
 
調和措置を採択した後に生じた加盟国特有の問題を理由に、
 
環境または労働環境の保護に関する新たな科学的証拠に基づいて導入すべきであると、定めている。
 
49) EC条約の第95(5)*1は、調和措置を採択した後に生じた加盟国特有の問題のために、環境または労働環境の保護に基づき、欧州共同体の調和措置に合わない要件を取り入れ、しかも新たな科学的証拠によって十分に根拠を示した新たな国内措置に適用する。
 

*1: http://www.pbic.jp/abroad/admini/030905.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/news/03090301.htm
    http://www.consumer.go.jp/info/kohyo/anzen/3bu.pdf ECの権限 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/eu/eu_com2000.html

 
50) さらに、EC条約の第95(6)に従って、欧州委員会は、それが加盟国間の貿易に恣意的差別または仮装された制限の手段であるか否か、そして域内市場の機能に障害を与えるか否かを確かめてから、当該国内規定案を承認または拒否する。
 
51) したがって、加盟国が通告した国内規定と提出した理由は、この場合、GMOの環境への意図的放出に関する指令2001/18/ECの規定の適用を外して、欧州共同体の調和措置に鑑みて審査される。この場合も先と同様に、I.3.2の項に詳細に説明した理由は、この決定の中に包含する法的判定は、指令2001/18/ECを重点的に取り扱い、バイオテクノロジーに適用にするほかの法規は現状では重要ではないので、これらの法規に触れていない。
 
52) この個別指令はGMOの認可の前にそれぞれ別々にリスクを解析することを想定しているが、この法案は上オーストリア州のすべてのGMOの利用を禁止する限り、影響を受ける。
 
53) 上オーストリア州における遺伝子組換え種子の栽培の禁止案は、指令2001/18/ECに従って、この使途のために認可された遺伝子組換え種子を上市することへの障害にもなる。したがって、この法案は、既存の欧州共同体法規に基づき上市がすでに認可されている遺伝子組換え種子と同様に今後の許可にも関係する。
 
54) 法案は実験的放出のために遺伝子組換え種子の使用を禁止することを求めてはいないが、これらの行為を閉鎖系の中で実施するという条件に限って可能である。遺伝子組換え種子の実験的放出は、指令2001/18/ECに従って規制されているが、実験的放出は欧州共同体レベルでなく国レベルで規制される。各国の所管官庁は、人の健康または環境への潜在的リスクに基づいて、実験的放出のために発行される承諾書の中に、隔離距離や障壁などの「封じ込めタイプの措置」を入れる管轄権をもっている(20)。けれども、そのような放出を「閉鎖系システム」の下で行われなければならないことを求めている国内措置を施行することは、いかなる潜在的なリスクであっても指令と矛盾するとみなさなければならない。
 
55) これに加えて、指令2001/18/ECは、種子の中への非認可GMOの偶発的な混入または技術的に避けられない混入に対して、いかなる(些細な(de minimis*1))閾値も入れていない。したがって、加盟諸国にはGMOが危険な量にあると判決を下す裁量権がなく、そのような閾値を、その後、取り入れることもできない。
 

(20)これに関連して、種子指令は原種子および証明種子のために高い純度を保証するために同様な措置の採用を明記していることに言及することも重要である。しかし、従来の品種と遺伝子組換え品種間が混ざることに関しては明記されていない。

*1: http://risk.env.eng.osaka-u.ac.jp/risk/rm13.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
56) 結局、指令2001/18/ECの第23条に従って、承諾した日以降に利用可能になった新たな情報に基づいて加盟国が適切に通告し、しかも指令2001/18/ECに基づき書面による承諾を受けたGMO製品あるいは製品中のGMOが人の健康もしくは環境にリスクになっているとみなす詳細な根拠がある場合、その加盟国はその所管地域のGMO製品あるいは製品中のGMOの利用および/または販売を暫定的に制限または禁止することができる。委員会報告は、オーストリアがこの可能性を十分に承知しているが、上オーストリア州でのGMOの全面禁止という目的を満たすには不適切であると考えていることを示している:
 
「遺伝子操作を禁止する北オーストリア法2002は、(すでに認可された)個々のGMOに適用するだけではなく、現在すでに承認された、あるいは今後さらに承認されるすべてのGMO製品もしくは製品中のGMOの全面禁止の規定も制定している。
 
(…)
 
けれども、あるGMOに関してすべての承認手続の後に、『放出指令』の第23条による手順を実施することは、やや非現実的であるように思われる。」
 
57) 欧州裁判所の判例に従って、欧州共同体法の一律適用(uniform application)の原則ならびに欧州域内市場の統合の原則へのすべての例外も、厳密に判断しなければならない。EC条約の第95(5)は、欧州共同体法の一律適用と市場統合の原則への例外を定めている。そのために、公式に判例で定めている範囲以上に例外の範囲を広げないやり方で判断しなければならない。
 
58) EC条約の第95(6)で規定した時間枠に照らして、第95(5)に従って通告された国内措置案が十分に根拠を示しているかどうかを検討するとき、欧州委員会は、その加盟国が提出した「理由」を一つの基準に取らなければならない。これは、EC条約に基づき、これらの措置が正当であることを立証する責任は、要請加盟国にあることを意味する。とくに決定を採択するための厳密な最終期限など、EC条約の第95条に規定した手続きの枠組みがあるから、欧州委員会は、通常、要請加盟国が提出している要件との関連性を審査すること、それのみに限るべきで、可能な限りの正当な理由を求めるべきでない。
 
59) 欧州共同体の調和措置と相反する国内措置の導入は、環境または労働環境の保護に関する新たな科学的証拠によって正当化される必要がある。もちろん、その科学的根拠が新しいかどうかは科学的知識の進展を考慮して判断されなければならない。
 
60) そのために、通告された措置を裏付ける新たな科学的証拠を提供することは、適用除外を必要とする要請加盟国の責任である。
 
61) オーストリア当局は、「作物生産において遺伝子組換え種苗を広範囲に利用することは、最初は非遺伝子組換の有機農業と慣行農業を妨げ、そして長期的には、これらの農業に置き換わって、GMO栽培が拡大することになる」と、主張している。
 
62) オーストリア当局は、委員会報告の基礎となる「ミュラー論文」を委託した。オーストリアによれば、「提案された書式の中で遺伝子操作を禁止している北オーストリア法2002を正当化する新たな科学的証拠が今や明らかになった」と、している。さらに、この論文では、「非遺伝子組換え地区」が、オーストリアの「小規模農業経営層」内での共存を長期に確保することができる唯一の方法であることを証明していると考えている。
 
63) 欧州委員会は、欧州食品安全機関(以下、EFSAという)*1に、オーストリアの通告(21)をすべて送り、そして欧州議会と理事会の規則(ECNo178/2002(22)の第22(5)(c)に従って、次のことについての科学的意見の提出を第29(1)に基づき、任務として要請した(23)
 
「− GMO農業地区−シナリオ構想と対策の分析という表題の報告書の中でオーストリアが提出した情報が、人の健康と環境へのリスクに関して、指令90/220/EECまたは指令2001/18/ECに基づき、これらの目的を認可した遺伝子組換え種苗の栽培、飼育を目的とする形質転換動物の利用、および形質転換動物の放出を禁止することを正当化する新たな科学的証拠を提出しているかどうか、 
 
とくに、EFSAは、この報告書の中で示された科学的情報が上記の法規に従って環境リスク評価の規定を無効にする新たなデータであるかどうかについて意見を述べることが要請されている。」
 

(21)これらの文書は、以下の通りである。
2003213日付け書簡、Verf-5-1 300000/37-GM EC条約の第95(5)に従って、遺伝子組換え種苗の栽培、飼育を目的とした形質転換動物の利用、とくに狩猟と釣りを目的とした形質転換動物の放出を禁止する国内規定(委員会報告案)の導入に関する欧州委員会への届出(上オーストリア遺伝子操作禁止法案2002Oö: GTVG 2002))」; 「遺伝子組換え種苗の栽培、飼育を目的とした形質転換動物の利用、とくに狩猟と釣りを目的とした形質転換動物の放出を禁止する州条令に関する国家経済委員会報告(遺伝子操作を禁止する北オーストリア条令2002); 「非GMO農業地区:シナリオの構想と分析および実施措置」Engineer Werner Müllerによる研究; 「グリーン報告20012001年の上オーストリアの農林業の経済・社会的状況に関する報告」; および、「次の5年間の上オーストリアのNATURA2000の実施に関する報告」。
(22)OJ L 31200221.1ページ*2
(23)諮問No EFSA-Q-2003-001

*1: http://jpn.cec.eu.int/japanese/general-info/5-8-2.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: 食品法令の一般原則と要件を定め、欧州食品安全機関を設立し、食品安全に関する手続きを定める2002128日の欧州議会と理事会の規則(EC) No.178/2002
    http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:031:0001:0024:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
の第3章:欧州食品安全機構(EUROPEAN FOOD SAFETY AUTHORITY) 1節:任務と業務(MISSION AND TASKS) 22条:機関の任務(Mission of the Authority)

 
64) 74日に、EFSAはつぎのように結論した(24):遺伝子組換え生物科学委員会は、次のような意見である*1
 
「− 報告中に示された科学的情報は、指令90/220/EECまたは指令2001/18/ECのもとで確立された環境リスク評価の規定を無効にする新たなデータではない、
 
 − 報告中に示された科学的情報は、人の健康と環境へのリスクの観点から、上オーストリア州において、指令90/220/EECまたは指令2001/18/ECに従って、これらの目的のために認可された遺伝子組換え種苗の栽培、飼育目的の形質転換動物の利用および形質転換動物の放出の全面禁止を正当化する新たな科学的証拠ではない。」
 

(24)EC条約の第95(5)に基づく、GMOを管理する国内法規に関するオーストリアの届出に関する委員会からの諮問についての遺伝子組換え生物科学委員会の意見書、EFSAジャーナル(200311-5

*1: http://www.efsa.eu.int/pdf/gmo/opinion_gmo_01.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
65) この「新たな」科学的情報に関して、欧州委員会は、ミュラー論文のデータの大部分は、2001312日の指令2001/18/ECの採択より前に入手可能であったと判断する。この評価は、EFSAによって確認されている。これに加えて、オーストリアは、ミュラー論文が指令2001/18/ECの採択日(2001312日)の約1年後の2002428日に発表されたという事項に依拠している。けれども、参考文献に引用された出典のほとんどの部分は、指令2001/18/ECの採択より前に公表された。そのため、論文の核心は指令2001/18/ECの採択の後に生じた特有の問題を特定する新たな要素ではなく、それ以前の仕事の確認であると考えられる。
 
66) さらに、オーストリア当局は環境または労働環境の保護にとくに関係する新たな科学的証拠を提出しなかった。
 
67) それゆえに、共存についてのオーストリアの懸念は、環境または労働環境の保護よりも社会経済的問題と密接に関係すると考えられる。さらに、この評価はEFSAによって確認されており、次のような意見が述べられている:
 
「この報告の中には、共存が環境または人の健康へのリスクの問題であることを示す証拠は、提示されなかった。欧州委員会は、遺伝子組換え作物と非遺伝子組換え作物の共存を管理することについての意見をEFSAに求めなかったが、当委員会はそれが重要な農業問題であることを認識した。」
 
68) これを踏まえて、またこの問題に関する勧告の中にある共存の定義に従って(25)、欧州委員会は、そのためオーストリアが申し立てた共存に関係する懸念は、EC条約の第95(5)に定める環境と労働環境の保護とみなすことができないと判断する。
 

(25)備考(27)を参照。

 
69) 欧州委員会は、地域レベルで導入する共存のためのあらゆる措置は、経済的リスクに関して均衡がとられなければならないことも認める。指令2001/18/ECの新第26(a)*1と共存に関する欧州委員会の勧告に従って、このような措置は、(i)特別な作物のタイプ、(ii)特別な作物利用および(iii)十分な純度水準を他の手段で達成することができない場合などを考慮しなければならない。
 

*1: New Article 26(a) of Directive 2001/18/ECGM食品・飼料に関する2003922日の欧州議会と理事会の規則(EC)1829/2003の第43条による追加条項)
「第26a GMOの非意図的な混入を防ぐ対策
1. 加盟国は、他の生産物中へのGMOの非意図的な混入を防ぐ適切な対策をとることができる。
2. 委員会は、共同体および国規模の調査に基づく情報を収集、整理し、各加盟国における共存に関する進展を監視し、そして情報と監視結果を基礎にして、遺伝子組換え作物と慣行作物および有機作物との共存に関する指針を作成しなければならない。」

 
70) さらに、オーストリアが提出した文書、とくに通告に含まれるミュラー論文からの抜粋を考慮して、小規模農業経営システムは、必ずしもこの地域特有ではなく、すべての加盟国に存在することが明かである。したがって、このような理由に基づいて、EC条約の第95(5)に関する法案を受諾する根拠とはならない。
 
71) この場合も同様に、EFSAの意見は、以下のようにオーストリアの正当とする理由を裏付けるものではない:
 
「提出された科学的証拠は、既存または将来のGM作物もしくは動物による環境または人の健康への影響に関する新たな、または地域特有の科学的情報が含まれていない。オーストリアのこの地区には、オーストリア全体としてまたは欧州の他の同様な地区で実施されるものとは別のリスク評価を必要とする、珍しい、特有の生態系があることを示す科学的証拠は提示されなかった。農業活動において、直接に、もしくは変えることによって、生物多様性に及ぼすGMOの影響を示す具体的な事例は、提出されなかった。」
 
72) オーストリア当局の見解の中で、予防原則に訴えることを正当化している意見に関して、欧州委員会は、「予防原則に訴えるには、現象、製品または加工に由来する潜在的危険の影響が特定され、しかも科学的評価によってリスクが十分な確実性で決定することができないことが前提である」ことを指摘しなければならない(26)。確かに、これは、そのリスクの現実性とその程度が、決定的な科学的証拠によって「完全に」証明されていなくとも、措置を取ったその当時は、使用可能な科学的データによって十分に実証されたにもかかわらず、リスクが発生した場合のみ、防止措置を取ることができるという、予防原則に関する欧州共同体裁判所の解釈(27)に従っている。防止措置は、科学的に未検証の単なる推測を根拠に、リスクへの単なる仮定的方法に基づくことは適切ではない。
 

(26)予防の原則の訴えに関する委員会文書*1を参照(COM(2000)1final 200022日)。
(27)第一審裁判所のT-13/99T-70/99裁判の特別判決*2、(2002ECR-II3305ページを参照。

*1: http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/cnc/2000/com2000_0001en01.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://curia.europa.eu/en/actu/communiques/cp02/aff/cp0271en.htm
    http://www.foodlaw.rdg.ac.uk/news/eu-02092.htm

 
73) 欧州委員会は、予防原則に訴えるために作成された申し立ては、あまりにも一般的で、内容に欠けていると考える。さらに、EFSAは、欧州共同体のレベルまたは国のレベルでの予防原則に基づいて行動を取ることを正当化しようとするリスクを特定しなかった。この結果として、この場合には、予防原則を適用する正当な理由がない。
 
IV. 結論
 
74) EC条約の第95(5)は、加盟国が欧州共同体の調和措置からの適用除外として国内規定を導入する必要があると考える場合には、その国内規定は環境または労働環境の保護に関する新たな科学的証拠によって正当化され、要請国特有の問題があり、しかもその問題は調和措置の採択の後に、生じていなければならないことを義務づけている。
 
75) このケースでは、オーストリアの要請を審査した後に、オーストリアが環境または労働環境の保護に関する新たな科学的証拠を提出しておらず、しかも上オーストリア州特有の問題があり、この問題がGMOの環境への意図的な放出に関する指令2001/18/ECを採択した後に生じ、通告された国内措置を導入する必要があることを立証していないと、欧州委員会は判断する。
 
76) 結果的に、上オーストリアにおけるGMO使用禁止を目的とした国内措置を導入するためのオーストリアからの要請は、第95(5)に定められた条件を満たしていない。
 
77) 欧州委員会はEC条約の第95(6)に従って、加盟国間の貿易の恣意的差別または仮装された制限の手段であるか否か、そして域内市場の機能に障害を与えるか否かを確かめた後に、当該の国内規定案を承認または拒否しなければならない。
 
78) オーストリアが行った要請は、第95(5)に定められた基本的条件を満たしていないので、通告された国内規定が、加盟国間の貿易の恣意的差別または仮装された制限の手段であるか否か、そして域内市場の機能に障害を与えるか否かを、欧州委員会が検証する必要はない。
 
79) 通告された国内措置のために提案された正当な理由に関する本案の内容を評価するために使用可能であった要素を考慮して、しかも上記に示した審議を考慮して、欧州委員会は、2003313日に提出された、指令2001/18/ECの適用から外す国内規定を導入するオーストリアの要請は、:
 
証拠として容認される、
 
オーストリアが、上オーストリア特有の問題を理由として、環境または労働環境の保護に関する新たな科学的証拠を提出しなかったので、EC条約の第95(5)で定められた条件が満たされていないと判断する。
 
80) 欧州委員会は、そのため、通告された国内規定を、EC条約の第95(6)に従って承認することはできないと考える理由があるため、
 
この決定を採択した:
 
1
EC条約の第95(5)に従って、オーストリアが通告した上オーストリアにおけるGMOの使用を禁止する国内規定を拒否する。
 
2
 
本決定をオーストリア共和国に送達する。
 
200392日、ブリュッセルで採択。
 
  欧州委員会代表
  Margot Wallström
  欧州委員会委員
 
前の号へ ページの先頭へ 次の号へ
目次ページ 索引ページ 検索ページ 農業環境技術研究所トップページ