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情報:農業と環境
No.48 2004.4.1

No.48

・石井英夫氏、松本直幸氏および土屋健一氏:
      2004年度日本植物病理学会賞受賞

・ボン大学開発研究センターと科学技術協力に関するMOUを締結

・農業環境技術研究所が平成16年度に開催する研究会とシンポジウム

・農業環境技術研究所と農林水産省農村振興局資源課
      農村環境保全室との連絡会が開催された

・農業環境技術研究所と農林水産省統計部との連絡会が開催された

・農業環境研究成果情報−第20集−が刊行された

・国際ワークショップ
      「地球温暖化に伴う東アジアの食料変動予測」が開催された

・論文の紹介:生態系の保全におけるアンブレラ種の有用性

・農業環境研究:この国の20年(3)化学物質の動態と生物影響

・農業環境技術研究所案内(12):記念碑と記念樹

・本の紹介137:Paddy Soil Science, Kazutake KYUMA,
      Kyoto University Press (2004)

・本の紹介138:農業生態系における炭素と窒素の循環、
      独立行政法人農業環境技術研究所編、
      農業環境研究叢書第15号

・環境被害の防止および修復についての環境責任に関する
      欧州議会と理事会の指令を採択することを目指して
      理事会が採択した2003年9月18日の共通の立場
      (EC)No58/2003 −その1−


 

石井英夫氏、松本直幸氏および土屋健一氏:
2004年度日本植物病理学会賞受賞

 
 
 当所の職員、石井英夫氏、松本直幸氏および土屋健一氏は、この春、それぞれ2004年度日本植物病理学会賞を受賞した。受賞課題名、所属および研究の概要は以下の通りである。
 
 
受賞課題名:植物病原糸状菌の薬剤耐性に関する研究
石井英夫(化学環境部
有機化学物質研究グループ 農薬影響軽減ユニット)
 
研究の概要
 ナシ黒星病に対するベンゾイミダゾール系薬剤の効力低下が耐性菌によることを実証し、耐性菌の圃場における発達・衰退など生態的特性と薬剤選択圧の有無、薬剤使用法との関係を明らかにした。また、キュウリうどんこ病菌やべと病菌のストロビルリン系薬剤耐性菌ほかを早期に検出して、防除法の改善による被害の回避や拡大防止に努めた。
 
 薬剤耐性の遺伝解析を行うため、ナシ黒星病菌の実験室内交雑法を確立して、ベンゾイミダゾール耐性が染色体性の1主働遺伝子の変異によること、また異なる耐性レベルが複対立遺伝子の1つにより決定されることを明らかにした。リンゴ黒星病菌のステロール生合成阻害剤耐性がベンゾイミダゾール耐性と連鎖関係にないことなどを証明した。さらに、ナシ黒星病菌や灰色かび病菌、イネばか苗病菌などのベンゾイミダゾール耐性の発現が、薬剤と作用点たんぱく質との結合親和性の低下によることを示した。これは、圃場分離菌を用いて、ベンゾイミダゾール耐性の遺伝様式と生化学的機構とを併せて解明した最初の例であった。
 
 ベンゾイミダゾール強耐性菌が負相関交さ耐性を示すN-フェニルカーバメート系およびN-フェニルホルムアミドキシム系化合物を用いて、負相関交さ耐性の遺伝様式を明らかにした。また、ベンゾイミダゾール系薬剤との結合親和性が低下した作用点たんぱく質に、N−フェニルホルムアミドキシム系化合物が特異的に結合することを見いだして、この負相関交さ耐性の生化学的機構を植物病原糸状菌において初めて明らかにした。
 
 ナシ黒星病菌、イチゴ炭疽病菌、ブドウ晩腐病菌ほかのベンゾイミダゾール耐性が、薬剤作用点β−チューブリンのアミノ酸置換を伴う、遺伝子の1塩基変異によることを明らかにした。また、PCR-RFLPPCR-制限酵素断片長多型)やASPCR(対立遺伝子特異的PCR)、SSCP1本鎖DNA立体構造多型)による、耐性の遺伝子診断手法を開発した。さらに、各種病原菌のストロビルリン耐性が、薬剤作用点チトクロームの遺伝子の点突然変異に起因することを明らかにするとともに、人工培養の困難なキュウリうどんこ病菌やべと病菌などの耐性を、り病植物から直接かつ迅速に遺伝子診断することを可能にした。
 
 以上の研究は、耐性菌の検定手法開発や圃場モニタリング、耐性機構解明や防除対策の構築と普及などを通じて、耐性菌制御に実用上貢献した。さらに、分子疫学的手法が、微生物群の多様性に及ぼす農薬影響の解析に、極めて有効であることを示した。
 
 
受賞課題名:病原糸状菌の個体群構造の解析とその防除への応用
松本直幸(生物環境安全部 微生物・小動物研究グループ 微生物生態ユニット)
 
研究の概要
 種々の土壌病原糸状菌の個体群構造を解析することにより、遺伝的に異なる「個体」の相互関係とそれに及ぼす環境要因を明らかにした。そして、このような病原糸状菌の個体群生態学を病害防除に応用し、菌類ウイルスを利用した果樹類紋羽病の生物防除法の開発のための実用化研究を展開した。
 
 雪腐小粒菌核病菌、白絹病菌および紋羽病菌は遺伝的に異なる系統が混じり合わず、空間的に独立した個体として存在していた。この系統の違いは、寒天平板で対峙培養したときに生じる融合菌糸細胞の死滅による褐色の境界線として認識された。このように遺伝的に異なる系統が互いに排除しあい混在しない菌を「個体性」のある菌と定義した。「個体」は植物でいうジェネット(種子や受精卵などの接合子に由来する個体、遺伝的個体)あるいはクローンに相当することを分子生物学的手法等により確認した。
 
 雪腐褐色小粒菌核病菌の個体群構造は、その生息場所(非農耕地、草地、芝生、コムギ畑)におけるかく乱程度の違いを反映せず、つねに複雑であった。これに対し、雪腐黒色小粒菌核病菌では生息地のかく乱が大きいほど個体群構造は単純で、病原力の強い個体が選択されていた。また、積雪条件の不安定な生息場所においては、本菌は比較的環境の安定した土壌中へと進出し、もっぱら土壌伝染する個体のみが生存していた。さらに、近年の温暖化傾向が北海道東部における本菌生物型Aの多発と関連していることも個体群構造の解析から明らかにした。
 
 個体群構造解析を応用し、菌類ウイルスを紋羽病菌に感染させて、病原菌の病原力を低下させることによる病気治療のための基礎的な研究を行った。圃場における紋羽病菌の個体の分布様式と動態を調査した結果、紫紋羽病菌も白紋羽病菌も比較的少数の個体が複数の果樹にまたがってパッチ状に存在し、分布域を拡大することから、菌類ウイルスは効率的に拡散することが期待される。また両紋羽病菌においていくつかの病原力低下に関与する菌類ウイルスの存在を明らかにした。病原菌における融合菌糸の死滅によるウイルス感染阻止機構も、死滅しにくい系統の利用により解決した。
 
 以上のように、紋羽病菌の個体群構造が菌類ウイルスの拡がりやすい単純な構造をしていることと、果樹は生産性が高いので生物防除が経済的に見合うことから、菌類ウイルスを利用した紋羽病の生物防除の可能性を世界で初めて示した。このような成果は、菌類ウイルスの実用化に向けた研究に大いに貢献できるものと期待される。
 
 
受賞課題名:ナス科植物青枯病菌及び関連植物病原細菌の分子系統学的研究
土屋健一(生物環境安全部
微生物・小動物研究グループ 微生物機能ユニット)
 
研究の概要
 熱帯から温帯地域に広く分布し、わが国でもナス科植物を始め、多数の経済作物の安定生産にとって阻害要因となっている青枯病菌について、多数の日本産および外国産の菌株系統を供試して、分子生物学的手法等による多様性の解析を行い、系統間の遺伝的類縁関係を明らかにした。
 
 日本産の青枯病菌は、植物に対する寄生性に基づくレース判別体系から、トマト、ナス、タバコ系(レース1)と、ジャガイモ系(レース3)に型別されること、前者が広域に分布するのに対し、後者は長崎などに限定されることを示した。一方、生理型に基づく型別からは、生理型N2、3および4の3つに類別されること、とくにN2型菌株が、レース1と 3の両系統に存在し、かつ外国産の生理型N2の系統とは細菌学的に異なるわが国固有の系統であることを明らかにした。
 
 16S rDNAの塩基配列、病原性関連遺伝子hrpおよび細菌ゲノム中に存在する反復配列等の各種遺伝子領域を指標にした複合的DNA解析の結果から、日本産菌株は7つ以上の遺伝系統グループに類別され、各グループはそれぞれ既存の生理型やレース判別および分離植物に基づく分類群と密接に関連することが明らかになり、国内系統について遺伝子診断の適用の可能性が示された。これらの結果に基づき、外国産菌株との総合的な遺伝的類縁関係の比較を行った結果、レース1がアジア系統に属することを再確認するとともに、ジャガイモ系統 (レース3、生理型N2)が、世界主要国産の同系統とは異なり、インドネシア産系統に極めて類似することから、同国に由来する可能性を提起した。
 
 さらに近年、高知県において見いだされたショウガ科植物の青枯病菌が、国内初のレース4系統に属すること、およびDNA解析の結果に基づき、それらが非在来の2つの系統群から構成されること、一群はタイ国から、他の一群はオーストラリアまたは中国からの、それぞれ外来性系統であることを示し、それらの侵入と高知県内での伝搬経路について分子生態学的に検証した。また、これらの系統に対する特異抗体ならびにPCR用プライマーを作製し、今後のモニタリングへの適用が可能となった。
 
 また、多数の植物病原細菌等に対する免疫抗体の作製を行い、とくにモノクローナル抗体の分子プローブとしての特異性と機能性に着目し、それらを利用した血清診断法を確立し、国内外の病原細菌に関する系統解析、特異検出および病害診断への応用を図った。
 
 以上の成果は、有効な農薬が限られる植物細菌病における特異系統の検出や圃場診断法の確立に大いに貢献した。さらに、農業体系のグローバル化等に伴う侵入生物種問題など環境リスク研究に貢献できると考えられる。
 
 

ボン大学開発研究センターと科学技術協力に関するMOUを締結
 
 
 ドイツのボン大学開発研究センターと独立行政法人農業環境技術研究所は、自然資源の保全および利用に関する研究分野における相互協力を促進するため、2004年3月4日にMOU(協力覚え書き)を締結した。
 
 この覚え書きのもとで実施する活動は、1)研究者の交流、2)大学院学生の交流、3)技術情報の交流、4)両機関で進行中の研究課題に関する共同研究である。ボン大学開発研究センターおよび農業環境技術研究所の代表者は、それぞれポール、L.G.ブレック教授・部長と陽 捷行理事長である。なおこのMOUに基づき、すでに当研究所の研究員がボン大学開発研究センターに滞在して研究を開始している。
 
 独立行政法人になってからこれまでに締結されたMOUは、以下の通りである。
●大韓民国農村振興庁農業科学技術院(2001年10月31日)
●中華人民共和国中国科学院土壌科学研究所(2002年7月4日)
●東京農業大学(2003年12月10日)
●鯉淵学園(2004年2月2日)
●ボン大学開発研究センター(2004年3月4日)
 
 

農業環境技術研究所が平成16年度に開催する
研究会とシンポジウム

 
 
 農業環境技術研究所は、平成16年度に開催する定例の研究会およびシンポジウム5件を平成16年2月3日の所議において以下のように決定した。
 
1.第24回農業環境シンポジウムおよび第7回植生研究会
 仮  題: 農業生態系の保全に向けた生物機能の活用
 予定時期: 平成16年11月
 予定場所: 農業環境技術研究所大会議室
 
趣 旨
 最近、国民の環境に対する関心や、安心で安全な農産物へのニーズが高まっており、農業生態系に負荷を与える除草剤、殺虫剤、殺菌剤、化学肥料等の合成化学資材の使用低減に向けて、生物機能の活用など新たな技術開発が求められている。
 
 本来、植物には天然の化学物質を産生し、病害虫や雑草への抵抗性を示すものがあり、昆虫や微生物にも、固有の機能として化学物質を介した生物間の相互作用がある。こうした生物間相互作用は、植物の他感作用、昆虫や微生物の化学交信、共生、拮抗(きっこう)作用などとしてよく知られている。なお、天然の化学物質には、例えば、これまで知られている農薬の作用機構以外の反応経路が続々と発見されているが、生物間の相互作用における天然化学物質の役割についてはまだ不明な点が多い。
 
 近年の分析機器の発達によって、超微量化学物質を単離・同定することが可能となった。また、遺伝子に関する知見も集積され、シロイヌナズナや水稲、マメ科植物でゲノム構造解析が大きく進んでいる。動物やヒトでは、物理的あるいは音声や精神的なコミュニケーションが大きいが、こうした手段を持たない植物や昆虫や微生物では、化学物質による生物間の相互作用の役割が重要である。今後は、さらに高度な分析化学、天然物化学、生化学、分子生物学の手法を取り入れて生物間相互作用に関与する物質とその機能を解明することに期待が寄せられている。
 
 このシンポジウムでは、こうした生物機能に関する最新の研究の現状を紹介し、その機能を活用した環境負荷の低減による農業生態系の健全な管理について広範な論議を行う。
 
2. 第21回気象環境研究会
 仮  題: 黄砂(風送ダスト)と農林水産業
 予定時期: 平成17年2月
 予定場所: 農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 中国大陸から運ばれる「黄砂」現象が増加傾向をみせており、生活面の実害だけでなく、農業生産への影響を心配する声も出てきている。気象庁は2004年1月から、「黄砂情報」の提供を開始し、環境省も実態解明に向けて本格的な調査に着手するなど、飛来ピークの春を前に各行政機関は警戒を強めている。
 
 黄砂、すなわち大陸の乾燥・半乾燥地域から風によって大気中に舞い上がる風送ダストは、発生域の農業生産や生活環境に大きな影響を与えるばかりでなく、自由大気に鉱物質エアロゾルとして浮遊し、日射の散乱・吸収および赤外放射の吸収過程や、雲・降水過程を通じてグローバルな気象・気候に影響を及ぼしている。風送ダストは海洋へ大量に供給され、海洋表層のプランクトンの増殖を通して海洋の一次生産にも影響を与えていると懸念されている。春先には、ひどい黄砂が国内各地のテレビや新聞などで報じられ、健康影響や航空機の運航などで社会問題となっているが、春野菜や農業施設への影響も懸念され始めている。これら風送ダストに関連した諸現象の総合的な調査、観測データの蓄積、ダスト拡散モデルの開発と実態把握、風送ダストによる気候変動・地球温暖化への影響評価などは現在重要な研究課題であり、国内外の様々な分野の研究者が精力的に取り組んでいる。
 
 この研究会では、風送ダストの発生過程からわが国への飛来・沈着過程に至る各過程の最新の成果および農林水産業への影響にかかわる研究を紹介する。例えば、(1)現地の砂漠および農耕地からのダスト発生が現地の農業環境に与える影響、(2)大気中の浮遊ダストによる気象・気候の変化と環境影響、(3)黄砂による農林水産業への影響などを議論し、風送ダストが農林水産業へ及ぼす影響の全体像を明らかにすることを目的とする。
 
3.第4回有機化学物質研究会
 仮  題: 土壌中におけるPOPsの残留メカニズムとリスク低減技術
        −土壌吸着現象の原理と利用−
 予定時期: 平成16年9月中旬
 予定場所: 農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 ダイオキシン類およびドリン剤などのPOPs(残留性有機汚染物質)は、土壌中できわめて安定で残留性が高い。したがって、農作物汚染の可能性や周辺環境への拡散が懸念されている。POPsの土壌残留性には土壌中の各種吸着基などの物理化学性が深く関与している。また、POPsは土壌中で様々な相互作用を繰り返しながら安定化すると考えられている。
 
 最近問題になっているキュウリからのドリン剤の検出事例は、ドリン剤が30年以上前に使用禁止となっているにもかかわらず、いまだに土壌中で作物に吸収される形態で残留していることを示している。このようにダイオキシン類およびドリン剤などのPOPsの土壌中での残留性には、食の安全・安心の視点からも一層の関心が寄せられている。
 
 この研究会では、土壌中でのPOPsなどの吸着や安定化メカニズムに関連する最近の研究を紹介する。また、POPsなどの土壌残留分析法の問題点や吸着メカニズムを応用した環境リスク低減技術などについても論議し、今後の研究方向を探る。
 
4.第21回農薬環境動態研究会
 仮  題: 農薬散布におけるドリフトの環境リスク管理
 予定時期: 平成16年9月中旬
 予定場所: 農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 農薬散布時のドリフト(漂流飛散)については、健康や環境への影響という観点からこれまで以上に関心が高まっており、その対策が急がれている。平成15年3月の農薬取締法の改正により、居住地域における農薬使用ではドリフト防止に努めること、また航空防除ではいっそう適切なドリフト防止対策を講ずることが定められている。一方、ドリフトした農薬が周辺の収穫間際の近接作物に付着した場合、作物中の残留農薬の問題で出荷ができなくなる可能性も指摘されている。さらに農薬のドリフトは、公共水域への農薬汚染の一原因としても注目されており、農薬の環境リスク低減を図るために、製剤の改良や施用法の改善によるドリフト低減化技術の開発が急がれている。
 
 この研究会では、農薬のドリフトに関する環境リスクの今日的問題点を整理し、その環境リスク低減に向けての技術的課題を抽出し、今後の研究方向を探る。
 
5.第22回土・水研究会
 仮  題: 有機質資源リサイクルの現状と環境への影響評価
 予定時期: 平成17年2月下旬
 予定場所: つくば農林ホール
 
趣 旨
 食品リサイクル法の施行により、都市生ゴミなどの有機質資源のコンポスト化と農耕地への還元が加速されようとしている。しかし、わが国の農耕地では、家畜排せつ物などの有機質資材が長年にわたり投与され、すでに、環境容量を超える負荷物質を蓄積している農耕地土壌が多く見られる。今後、リサイクルにより多量に排出されてくる有機質資源の受け皿として、農耕地の果たす役割は限られたものになると考えられる。さらに、改正された水質汚濁防止法や家畜排せつ物法によって、農業分野から排出される環境負荷物質に対して厳しい規制が課せられており、生産現場における環境対策は緊急の課題になっている。
 
 この研究会では、わが国における有機質資源のリサイクル並びにそれに伴う環境負荷の現状と対策について討議する。また、有機質資源のリサイクルに伴う環境影響をライフサイクルアセスメント手法などを用いて解析し、その有用性を論議する。
 
 

農業環境技術研究所と農林水産省農村振興局資源課
農村環境保全室との連絡会が開催された

 
 
 農業環境技術研究所と農林水産省農村振興局資源課農村環境保全室との平成15年度の連絡会が、農業環境技術研究所において開催された。
 
日 時: 平成16年3月3日(水)13:00〜17:30
場 所: 農業環境技術研究所 来賓室
参加者:(農村環境保全室)富田 農村環境保全室長、松尾 課長補佐(環境調査班)、長野 基準係長、細谷 課長補佐(環境評価班)、藤原 水質保全係長、大西 環境評価係長、前薗 環境影響評価専門官
(農業環境技術研究所)陽 理事長、三田村 理事、杉原 監事、上路 企画調整部長、谷山 研究企画科長、駒田 主任研究官、石坂 主任研究官、林 地球環境部長、野内 気象研究グループ長、今川 生態システム研究グループ長、スプレイグ 研究リーダー、岩崎 研究員、八木 温室効果ガスチーム長、岡 生物環境安全部長、井手 研究リーダー、松井 昆虫研究グループ長、小野 重金属研究グループ長、斎藤 栄養塩類研究グループ長、上沢 農業環境インベントリーセンター長、遠藤 環境化学分析センター長
 
 陽理事長と富田室長のあいさつに続き、農村環境保全室からは調査事業の最新情報、農環研からは水質予測評価システム、温室効果ガスに関する研究の現状および農業環境指標の動向が報告され、意見交換が行われた。
 
内 容:
1 農村環境保全室からの説明
(1)「農村の地域資源に関する研究会」の概要(松尾 課長補佐)
(2)農村環境保全室における調査の概要
1)概要について(富田 室長)
2)水田等を活用した浄化技術確立調査(松尾 課長補佐)
3)農業用施設等有害物質実態調査(長野 係長)
4)生態系保全技術検討調査(大西 係長)
5)田園自然再生活動コンクール(藤原 係長)
6)農業農村環境情報整備調査(前薗 専門官)
7)環境影響評価指針調査(細谷 課長補佐)
2 農業環境技術研究所からの説明
(1)農業水域における水質:水質予測評価システムによる解析(斎藤 グループ長)
(2)農耕地からの温室効果ガス発生に関する研究の現状(八木 チーム長)
(3)農業環境における生物多様性とOECDの農業環境指標の動向(スプレイグ 研究リーダー)
 
意見交換:
 農村環境保全室からの説明に対しては、1)政策評価の中で生物多様性評価をどのように用いるか、2)水質保全や浄化技術の普及方法、などが議論された。
 
 農環研からの説明に対しては、1)水質予測評価システムの予測精度および水質規制への応用場面、2)温室効果ガスのトレードオフ評価と対策、3)具体的な環境保全指標やその定量方法、などの意見交換があった。
 
 以上の意見交換を通して、今後の情報交換の重要性と連絡会の必要性が再確認された。
 
 

農業環境技術研究所と農林水産省統計部との連絡会が開催された
 
 
 農業環境技術研究所と農林水産省統計部との平成15年度の連絡会が、農業環境技術研究所において開催された。
 
日 時: 平成16年3月9日(火)13:00〜17:15
場 所: 農業環境技術研究所 来賓室
参加者:(統計部)河崎 統計企画課長、小野 課長補佐(調査改善班)、田中 生産流通消費統計課 課長補佐(解析班)、佐藤 調査技術専門官
(農業環境技術研究所)三田村 理事、杉原 監事、上路 企画調整部長、谷山 研究企画科長、佐藤 課長補佐、駒田 主任研究官、石坂 主任研究官、林 地球環境部長、野内 気象研究グループ長、石郷岡 研究員、スプレイグ 研究リーダー、大野 研究リーダー、坂本 研究員、鳥谷 食料生産予測チーム長、小野 重金属研究グループ長、上沢 農業環境インベントリーセンター長、遠藤 環境化学分析センター長
 
 三田村 理事と河崎 統計企画課長のあいさつに続き、統計部からは2005センサスなど事業の最新情報、農環研からは農業環境インベントリーや地理情報システム(GIS)を用いた研究事例などが紹介され、意見交換が行われた。
 
内 容:
1 統計部からの説明
(1)16年度統計部予算の概要(河崎 課長)
(2)被害応急調査について(田中 課長補佐)
(3)面積調査のための高度衛星画像情報処理技術の開発研究について(佐藤 専門官)
2 農業環境技術研究所からの説明
(1)農業環境資源インベントリーのオンライン表示に向けて(上沢 センター長)
(2)農事暦の地理情報化とそのデータベース構築(大野 研究リーダー)
(3)地球温暖化に伴う我が国の水稲生育期間への影響(石郷岡 研究員)
 
意見交換:
  統計部からの説明に対しては、1)2005センサスで新たな調査項目として設定された、多面的機能を統計的に明らかにするための地域資源の項目と内容、2)被害応急調査での乳白米やカメムシの被害評価基準のあり方、などが議論された。
 
 農環研からの説明に対しては、1)農業環境インベントリーとGISの重ね合わせ、2)農事暦のという用語の定義、3)地球温暖化による水稲生育予測における品種の影響などについて意見交換があった。
 
  以上の意見交換を通して、今後の情報交換の重要性と連絡会の必要性とが再確認された。
 
 

農業環境研究成果情報−第20集−が刊行された
 
 
 この冊子は、当所の平成15年度農業環境研究推進会議評価部会で選ばれた主要な研究成果を研究成果情報としてまとめたものである。
 
はじめに
 
 わたしたちは、法人が発足してから新しい農業環境研究を目指してさまざまな角度から研究所の構造を改革しました。さらに、この構造がうまく「機能」するためのシステムを構築してきました。当たり前のことですが、農業環境技術研究所は、明確な目的のために存在する集団です。すなわち、わたしたちはこの組織を共同体ではなく機能体として捉えています。したがって、「機能の向上」をさらに追求することが、研究所の使命でなければなりません。
 
 そのために、研究所が忘れてならない活動に、受信(社会・専門・政策)、研究(自己増殖・成長)、討論(セミナー・啓発)、貯蔵(インベントリー・発酵)、評価(組織・課題・成果)、発信(専門・一般・パブリックアセスメント)、提言(リスク評価・マスタープラン)および宣伝(新聞・TV・雑誌)があります。
 
 ここにお届けする農業環境技術研究所の成果情報は、平成15年度に実施した研究のうち、「農業と環境」に関わる主要な成果を冊子としてまとめたもので、上に掲げた活動のうち、「評価」と「発信」に当たる部分を担うものです。
 
 この成果の中には、新たな「技術知」と「生態知」と「統合知」が含まれます。「技術知」とは目的と手段を定めたうえで、資源を活用し水平方向に新しい技術を開発していく知です。「生態知」とは現場で観察し、獲得してきた知です。「統合知」とは、これらの二つを融合した知です。この成果集には、これらの「知」が混在しています。
 
 江戸時代の儒学者である伊藤仁斎は、彼の著書「童子問」で次のように語っています。
 



 
大抵詞(ことば)直く 理明(あきらか)に 知り易く
記し易きものは必ず正確なり
詞難しく 理遠く 知り難く
記し難きものは必ず邪説なり
 
 この冊子が伊藤仁斎の詞を満たしているとは努々思いませんが、できるだけ仁斎の詞に近づける努力はしました。それでも、研究成果の要点のみを簡潔にまとめようとしたので、細部については不明な点もあると思われます。不明な点、さらにはご意見やご質問があれば、当所の研究企画科にお問い合わせください。
 
 この成果情報が、みなさまにとって有意義な情報になることを願っております。
平成16年3月 (独)農業環境技術研究所 理事長  陽 捷行
 
目 次
A.農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性確保
1. 水田土壌中のダイオキシン類起源の推移
2. 凝集剤による水田からのダイオキシン類の流出防止法
3. ストロンチウム同位体比を利用したネギの産地国判別
4. 畑条件で栽培するイネはカドミウム汚染水田の修復に最適である
5. 子実カドミウム蓄積性が高いダイズ品種は幼植物の段階で簡易に検定できる
6. 硝酸性窒素の浅層地下水および第二帯水層への到達時間
7. 農業生産に伴う養分収支を都道府県・市町村単位で算出するシステム
8. PCR-DGGE法による土壌中のクロロ安息香酸分解菌群の検出
9. 日本産珪藻および藍藻を用いたOECD藻類生長阻害試験法の改良
10. PCR-Luminex法を用いてイネいもち病菌のMBI-D剤耐性菌を遺伝子診断する
11. アシベンゾラルSメチルによるナシの黒星病抵抗性誘導にはPGIPが密接に関与する
12. リンゴ火傷病が日本に侵入するリスクの推定法
13. ショウガ科植物に寄生する外来性青枯病菌系統の侵入と伝搬
14. マメ科植物根粒菌のモニタリング手法開発のための16S rDNA情報
15. チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤抵抗性系統の作出と抵抗性の要因
16. チャノコカクモンハマキの性フェロモン構成成分比の地理的変異
17. イヌホタルイのスルホニルウレア系除草剤の抵抗性遺伝子は集団中に急速に広まる
18. 土壌を用いた他感作用の検定手法の開発
19. ソバ属植物のアレロパシーとソバを利用した植生管理
20. 土壌中の腐植酸を構成する炭素に占めるススキ由来炭素の割合
B.地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明
21. 衛星画像を用いたモンスーンアジアでの主要穀物の栽培期間の推定
22. 局地気象モデルを活用した水田の水温・地温の広域的な推定手法の開発
23. 水稲単作田の熱収支とCOフラックスの通年データセットの構築
24. 農耕地への有機物施用は亜酸化窒素の主要な排出源のひとつである
25. トウモロコシ花粉飛散量自動モニター装置の開発
26. わが国の食料供給システムにおける1980年代以降の窒素収支の変遷
27. 迅速測図を用いて過去100年間の土地利用変化を定量的に計測する
28. 天然放射性核種210Pbは乾燥地草原での風食を示す指標として有効である
C.生態学・環境科学研究に係る基礎的・基盤的研究
29. 玄米に含まれるカドミウムのレーザーを利用した直接定量法の開発
30. 多周波マイクロ波は全天候下で作物群落特性のリモートセンシングを可能にする
31. 熱赤外リモートセンシングによる表面温度は土壌面COフラックスの広域評価に有効である
32. 遺伝子情報に基づく巨大系統樹推定プログラムの開発
33. 土壌情報の一元的収集システムの開発
34. 農業環境技術研究所が所蔵する昆虫タイプ標本一覧表ならびに画像のWeb上での公開
35. 分散型データベースによる「微生物インベントリー」の構築とWeb上での公開
36. 凍結保存細菌の反復利用効率を高めるための分散媒の改良
参考資料(指定試験から提出のあった成果情報)
37. 農家実態調査に基づく水稲移植前落水時の水質汚濁負荷量の推定と低減方策
38. 復田時の不耕起、無代かき移植栽培における水質汚濁物質負荷の特徴
39. 砂質浅耕土転換ダイズ作ほ場における窒素収支
40. 集団茶園地帯から流出する硝酸性窒素の水田による除去可能量
41. 赤黄色土露地野菜畑におけるキャベツ・スイートコーン栽培の施肥窒素動態
 
 

国際ワークショップ
「地球温暖化に伴う東アジアの食料変動予測」が開催された

 
 
 農業環境技術研究所が主催する平成15本年度最後の国際ワークショップ「地球温暖化に伴う東アジアの食糧変動予測」が開催された。15年度は、これで3回の国際ワークショップが開催されたことになる。内容は、以下の通りである。なおアブストラクトに若干の余裕があるので、ご希望の方は食料生産予測チームの鳥谷 均(Tel: 029-838-8236)まで連絡されたい。
 
 期 間: 2004年3月17日(水)〜19日(金)
 場 所: 文部科学省研究交流センター(つくば市竹園 2-20-5
 主 催: 独立行政法人 農業環境技術研究所
 共 催: 独立行政法人 国際農林水産業研究センター
 後 援: 農林水産省 農林水産技術会議
 
 20世紀後半から、人間活動に由来した環境変動が世界各地で顕在化しており、これが世界の食料生産に大きな影響を与えることが懸念されている。世界の人口の3分の1にあたる約20億の人々が生活する東アジアの食料生産もまたこの環境変動にさらされているが、この地域の食料生産の変動は今世紀の世界食料安全保障にとって最も重要な問題の一つである。こうした状況を背景に、本ワークショップでは東アジア地域に焦点をあて、環境変化を解明するという視点から、食料生産の変動に関する最新の研究成果をもちより議論を行った。
 
 プログラムの概要は以下の通りである。
 
 オープニングセッションでは、はじめに陽理事長から、3名の基調講演者を含む海外からの参加者に対する感謝が述べられたあと、東アジアに共通した農業問題のポイントとその背景となっている地形・気候の特徴について説明があり、加えて、本ワークショップに期待する点などに触れた挨拶があった。つづいて、組織委員を代表して鳥谷から、本ワークショップの開催に至る経緯と焦点について説明があった。
 
 基調講演には、海外からLIN, Erda(中国農業科学院 農業環境持続的発展研究所長)、PORTER, John R.(デンマーク国 王立獣医農科大学、ヨーロッパ農学会会長)、ROSEGRANT, Mark W.(国際食糧政策研究所)の各氏を招いた。
 
 LIN氏は、温暖化が食料生産への脅威となる予想結果が示されているなかで、中国におけるコメ、トウモロコシ、コムギ生産への影響に関する最新の予測結果を示し、温室効果ガス排出シナリオで想定される社会構造との関係を論じた。そのなかで、今後の影響予測研究ではIPCCで提案されているSRESシナリオに基づいた論点整理が必要であることを示した。
 
 PORTER氏は、地球規模の環境変化のインパクトを考える際に、現象の非線形性や不確実性を考慮した影響予測の重要性を論じた。特に、現象の規模の頻度分布が温暖化によってどの様に変化するのかに注意を払うことの重要性について、その事例を挙げて解説した。また、量ばかりでなく品質への影響も評価すべきであること、さらに影響評価に当たっては農業の環境に対するサービスを考慮すべきであることも論じた。
 
 ROSEGRANT氏は、食料需給に水需要を組み入れた世界規模の食料生産システムモデルに基づいて、気候と水資源の変動が食糧生産に与える影響を論じた。また、社会科学的な視点に立った予測結果を紹介すると同時に、温暖化影響予測を明らかにするためにエルニーニョ年でみられる食料生産システムの変化を解析することが重要であることを指摘した。
 
 一般講演は、(1)環境変化が農業資源に及ぼす影響の予測、(2)環境変化に対する作物モニタリングとモデリング、(3)食料生産システムへの影響評価 の3つのセッションに分け、合計16題の話題提供があった。このうち8題が海外からの発表であった。主な話題として、穀物生産に影響を及ぼす水資源、害虫および土壌など自然環境要因や、社会経済学的モデルを用いた食料需給モデルが取り上げられた。
 
 総合討論では、食料生産量変動予測に関する問題点が議論され、そのなかで個々の研究がもつ時間的・空間的スケールの隔たりを克服する重要性について意見交換を行った。また、作物生理の研究の立場から、生育収量予測モデルが影響評価に用いられる場合にその中身が理解されず誤って使われる事例が見受けられることへの懸念が表明された。これに関しては、生育・収量予測モデルを大きなスケールで使う場合には、圃場スケールの生育・収量予測モデルの入力・出力を詳細に解析することで整合性のとれた生産量予測が可能になるのではないかという意見が出された。最後に、将来の食料問題に関して、自然科学者が悲観論、社会科学者が楽観論になりがちな点を指摘し、今後、両分野の研究が一層協力する必要性を認識し、会議を終了した。
 
 62名の参加者のうち11名が中国、韓国、デンマーク、アメリカからの研究者であった。会議に引き続き、19日には、農環研ほかのつくば市内の研究所の見学および筑波山周辺のエクスカーションを行った。
 
 

論文の紹介:生態系の保全におけるアンブレラ種の有用性
 
Usefulness of the Umbrella Species Concept as a Conservasion Tool
Jean-Michel Roberge and Per Angelstam
Conservation Biology 18: 76-85 (2004)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集している。
 
 今回は、生物多様性の評価指標として特定の種(アンブレラ種)を調査することの有用性を論議した総説を紹介する。日本では農業生態系の保全が重要な課題となっており、この総説は水田や里山の生物多様性を評価し保全方法を検討する際の参考となるだろう。
 
要 約
 
 生態系保全のための資金、知見、時間が限られている場合には、生物多様性の維持を簡便な方法によって実施しなければならないことが多い。一定の要件を満たす生物種を保全計画の基礎として用いる手法として提案されたアンブレラ種の考え方が、最近、注目されるようになっている。この総説では、この概念が一般的に有効かどうかを評価するため、これまでの研究論文を調査した。
 
 アンブレラ種とは、その保全が、もともと共に生息している他の多くの生物を保全することにもなると期待される生物種である。この概念は、保全地域の最低サイズの決定、保全ネットワークに加える場所の選定、生態系の内容・構造・過程の最低基準の設定を行う手法として提案された。アンブレラ種の候補としてあげられた生物種は、ほとんどが大型の動物(グリズリー、クロサイ、肉食動物など)か、鳥(アカゲラ類、ライチョウ類、ヤマガラなど)であったが、無せきつい動物(チョウ類など)も考慮されるようになってきている。
 
 18編の論文は、ほとんどが仮想の保護地区か保全ネットワークを前提として、アンブレラ種の手法を評価している。これらの論文によれば、広い範囲を必要とするということで選ばれた単一のアンブレラ種では、共に生息している生物種すべての保全は保証されない。なぜなら、そのアンブレラ種とは無関係の生態的要因によって生息場所の限定される生物種が、どうしても存在するからである。さらに、ある上位の分類群からアンブレラ種を選ぶことが、他の分類群の生物集団を保全することには必ずしもならないという結果も示されている。
 
 一方、focal species approach(焦点生物種手法:生態系に生息する生物種を脅かす様々な要因のそれぞれに最も敏感な複数の生物種をアンブレラ種として選定する手法)のように、体系的な手順によって選択した複数の種をアンブレラ種として用いる戦略には、その概念の有効性について説得力を有する根拠がある。アンブレラ種の概念は、早急な対策のためのわかりやすく適切な保全手法となりうる。アンブレラ種の手法の評価は、提案された手法の効果を他の管理戦略のそれと比較するだけでなく、長期にわたる個体群の生存能力の調査やデータを考慮することによって改善できる。
 
 生物種の環境要求や生態系内の過程についてのわれわれの知識は、不十分である。したがって、われわれは予防原則に従って複数の手段を組み合わせる必要があり、アンブレラ種の概念は、そのような手段の一つとして考慮されるべきである。
 
 

農業環境研究:この国の20年(3)化学物質の動態と生物影響
 
 
 前回の「情報:農業と環境No.47」の「農業環境研究:この国の20年(2)」では、「気候変動と食料生産予測」と題して、温暖化による農業環境資源の変動、温暖化による生産地域・生産量の予測、紫外線増加による植物影響などに関する研究をまとめた。今回は、以下の目次に示すとおり「化学物質の動態と生物影響」を紹介する。
 
1.はじめに
2.農薬の環境動態と生物影響
(1)環境動態とその制御
(2)生物に対する作用
3.ダイオキシン類の動態とその制御
(1)農作物におけるダイオキシン類
(2)農地土壌における汚染実態と分解技術の開発
(3)水系への流出とその制御
4.微量元素など微量成分の動態
(1)分析法の開発
(2)レアメタルなど微量元素の環境での分布と負荷
(3)ヨウ素の土壌中における動態
(4)農耕地生態系におけるトリハロメタンの生成
(5)ケイ酸の動態と肥効評価
(6)イオウ、鉄、マンガン、ホウ素、アルミニウムの動態
5.土壌のカドミウム汚染と対策
(1)稲のカドミウム吸収を抑制する栽培技術
(2)ダイズのカドミウム吸収特性の検討
(3)肥料由来のカドミウムの作物吸収と耕地への負荷量評価
6.今後の展望
 
1.はじめに
 農業生態系には多くの種類の化学物質が存在している。農薬や肥料は重要な農業生産資材であるが、過剰に投入した場合、食品の安全や生態系の保全に影響を及ぼすことが懸念される。また、廃棄物の焼却施設から排出されたり過去の農薬に不純物として含まれるダイオキシン類、ハイテク産業や金属工業分野で使用されるレアメタルなどの各種微量元素、さらには、鉱山や精錬所から排出されたカドミウム(Cd)など重金属が農業生態系に混入し、農業環境および農作物の汚染を引き起こしている現状がある。
 
 人間や環境生物に対する毒性は、化学物質の種類によって大きく異なる。化学物質によるリスクの評価と管理を行うためには、各種生物に対する毒性評価とともに、土壌、水系など環境におけるこれらの化学物質の挙動や農作物への吸収・移行量および環境生物に対する暴露量を把握することが重要である。このような化学物質の動態を解明するためには、超微量の各種物質を定量できる感度及び精度の高い分析法を確立していることが条件となる。近年、GC/MSLC/MSICP/MSなど高性能の測定機器が開発され、また、環境試料からの抽出、精製方法などに改良が加えられるなど、分析法の高度化に伴って研究が急速に発展したといえる。
 
 一方、農業資材としての農薬及び肥料の効果の発現や多様な生物反応に係わる作用機構の解明が、各種資材の安全な使用法を確立するために必要である。
 
 化学物質による影響の未然防止に向けて、農薬は農薬取締法や食品衛生法などの法規制に基づき、人間を主たる対象として多項目の毒性試験が実施されている。ダイオキシン類に関してもダイオキシン類対策特別措置法により各種環境での許容濃度が設定され、監視が続けられている。また、Cdについては農用地土壌汚染防止法で汚染農用地の指定要件を玄米の場合に1mg/kg以上と制定し、汚染農用地に対し客土などの恒久対策を義務づけた。さらに、1ppm以上のCd米(玄米)の販売が禁止された。なお、Codex委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)は低濃度のCdの影響を重視し、コメの国際基準を0.2ppm以下と提案している。ダイズなどの穀物や野菜についても厳しい基準値を示しており、わが国の農業生産に対する影響が懸念されている。
 
 このように、農作物、環境生物などに対する化学物質の影響を可能な限り低減することが求められており、そのための基礎的知見を集積することが緊要になっている。ここでは、これまで実施されてきた各種化学物質の環境中における動態と生物に対する影響に関する研究成果を紹介する。
 
2.農薬の環境動態と生物影響
()環境動態とその制御
1)分析法の開発
 水田や畑で使用された農薬の挙動を把握するためには、高精度の分析法が必要である。残留分析法としての抽出・精製・測定の一連の操作は、分析対象とする農薬の水溶解性や揮発性など物理化学的特性、水や土壌など試料の種類、さらに、単一成分の分析か多成分の分析かによって大きく異なる。また、常に新規農薬が開発される状況において、それらに対応できる分析法や、分析機器の発展に伴う高精度の分析法の開発も求められている。
 
 機器分析法は、ガスクロマトグラフ(GC)と高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分析法に大別される。GCを用いた場合、熱分解される除草剤ピラゾレートについて、ジアゾメタンによるメチル誘導体化を検討し水、土壌中の残留分析に応用した(鈴木、1986)。また、環境試料に残留する各種農薬を同定するために質量分析(MS)/GCを活用することが有効であり、主要農薬140種のマススペクトルを測定しそのライブラリーが作成された(飯塚、1992)。さらに、農産物中の多成分の残留農薬をモニタリングする目的で、固相抽出法、ゲルクロマトグラフィーおよび活性炭・フロリジルミニカラムによる精製法が組み立てられ、簡便かつ迅速な分析法として提示された(石井、1996)。水溶解性の高い農薬が開発される傾向にあるが、これらの分析にはHPLCが適している。エレクトロスプレーイオン化(ESI)法を用いたHPLCMSMSが近年開発され、水稲用除草剤であるスルホニル尿素系化合物を検出限界0.010.3ng/mlの高感度で定量することが可能になった(石坂、1998)。
 
 生物反応を利用した農薬の分析法の検討も行われた。高価な機器や高度な経験を必要としない免疫化学測定法(ELISA)を実用化させるため、除草剤ベンスルフロンメチル、メフェナセット、シメトリンなどの試薬キットを用い、抽出溶媒、測定感度、構造類似の農薬との交差性、精製法等を検討し、水中での残留分析法として高い有用性を確認した(石井、20002001)。ELISA法を土壌や農作物中の簡易な残留農薬分析法として活用するためには、さらに、試料中の分析妨害物質を除去する精製法の工夫が肝要である。
 
2)環境中における動態とその制御
 環境中における農薬の挙動は、土壌特性や気象条件など多様な要因に影響される。土壌、水系、大気、生物に移行・拡散する過程で、農薬の挙動や分解・代謝速度およびその様式が、農薬成分の特性、製剤の種類、散布方法などによって異なる。農薬効果を最大にし、かつ、防除対象以外の非標的生物に対する影響を抑制するために、環境中での農薬の動態を明らかにすることが重要である(金沢、1990)。
 
 土壌中の動態と作物に及ぼす影響との関連が除草剤ベンチオカーブで明らかにされた。本剤使用により発生する水稲の矮(わい)化症状は、水田土壌中の嫌気性菌の活性化に伴って生成される脱塩素誘導体に起因すること、矮化防止剤を製剤に添加することで脱塩素体の生成が抑制されることが解明された(山田、1991)。また、除草剤ペンディメタリンによる植物の生育抑制は、土壌中の水可溶態濃度が高いほど大きいことが明らかにされた(杉山、1990)。
 
 さらに、土壌中での農薬の移動性を測定する溶脱性試験方法が考案され、水溶性の高い農薬の下方移行シミュレーションが行われた(能勢、1985)。土壌下層への移行性は多くの農薬で小さく、表層から約5cm深の間に存在する。除草剤2,4-Dは、火山灰土壌の場合、配位子交換反応によって鉄・アルミニウム−腐植物複合体に強く吸着されることが明らかになった(平舘、2002)。土壌吸着性が大きくなると農薬効果は低減する。その回避策として、カーバメート系殺虫剤カルバリルの作物体、土壌中の残留性が解析され、表面水あるいは表層土壌への合理的な処理方法が提示された(升田、1986)。
 
 環境生物への影響は、水田で使用された農薬が河川水に流出する場合に大きいと予想されたことから、水系での詳細な動態が調査されている。河川水、農業用水に流出した農薬の濃度実態は、周辺の使用実態を反映したものであり、水系への流出率は農薬の水溶解度が高いほど、また流域水田面積が狭いほど大きい(飯塚、1989)。この水系流出を削減するため、水田にモミガラ成形炭粉末を散布することが試みられた。650℃で炭化し、粒径0.251.0mmに調製したモミガラ成形炭を50g/m2で散布した場合、3種の除草剤で流出量を約50%削減することができた(高木、2003)。また、水中における分解機構の解明に関する研究も行われ、除草剤ピラゾレートでは田面水中で容易に加水分解を受け除草活性成分の脱トシル体(DTP)に変換すること、DTPは有機物施用により残留性が高まることが確認された(鈴木、1986)。
 
 微生物による水中生分解性と農薬の物理化学的特性との関係が12種の農薬で解析され、生分解速度定数(KB)とアルカリ加水分解速度定数との間に正の相関、また、KBとオクタノール・水間の分配係数との間にlogKow 2.43を頂点とする放物線様の相関が認められた(金沢、1987)。さらに、水中からの蒸発速度定数はヘンリー定数と正の相関が、有機炭素含量当たりの土壌吸着平衡定数と水溶解度との間に負の相関のあることが明らかにされた。これらの情報に基づき、代表的な平衡論モデルであるMackayFugacityモデルを用いて農薬34種について大気、土壌、水、生物、懸濁質、底質の環境各相への分布率が算出された(金沢、1990)。
 
 農薬の動態制御技術の開発や環境生物に対するリスク評価を行う上で、農薬の濃度変化を予測することが重要である。近年、環境モニタリングによる農薬残留量の測定に代わって数理モデルを用いた予測が試みられている。水田に使用された農薬の挙動要因を解析し、水田水と土壌の中での農薬濃度の経時変化を求めるコンピュータプログラム(PADDY)が開発された。本プログラムは実測値と良好な一致を示し、これにより得られた「河川水中予測濃度」と「水生生物に対する半数致死濃度」との比から、スクリーニングレベルでの水生生物へのリスク評価を可能にした(稲生、1999)。さらに、水稲の稚苗移植及び不耕起乾田直播により農薬を使用した場合の環境中濃度をPADDYモデルで予測し、その推定値とコイおよびミジンコの短期影響濃度とを比較することで環境リスクを評価した。その結果、不耕起乾田直播でわずかにリスクが高いことが明らかになった(稲生、2000)。
 
 地下水への農薬移行は、わが国のように有機炭素含量が高い土壌では起こりにくい。しかし、水溶解性が高くオゾン層破壊物質として規制された臭化メチルをハウスで土壌くん蒸処理した場合、浅層地下水で臭素濃度の上昇が認められた(結田、1986)。
 
 一方、大気中での動態研究は、捕集や測定の方法が十分に確立されていないことから立ち遅れている。土壌くん蒸剤臭化メチルについて、大気放出量の測定と放出抑制技術の開発が求められていた。大気への放出量の測定結果は、土壌pH、水分量、処理方法などで大きく異なり、これまでも大きなバラツキがあった。そのため、新たにチャンバー法を開発し放出フラックスを正確に測定した結果、大気への放出割合が2853%であると推定した(石井、1998)。さらに、使用した臭化メチルの大気放出量は、慣用のポリエチレンフイルム被覆で63.8%、ガスバリアー性被覆資材で24%であるのに対して、試作した二酸化チタン光触媒含有積層被覆資材では、1%以下までに削減できた。これは大気への臭化メチル放出抑制の新資材としてあらたな発見である(小原、2002)。
 
 なお、臭化メチルの代替剤としてクロルピクリンが使用されているが、ジャガイモそうか病防除では慣行の1/10量に低減したテープ状製剤をジャガイモの植え付けと同時に処理することで、殺菌効果保持と環境影響低減化の両面で有効であることを示した(仲川、1999)。さらに、蒸気圧が高く水に溶けにくい物質では、気体状態で植物に悪影響を及ぼすことが懸念される。そこで、気体物質の葉面吸収試験装置を試作し、テトラクロロエチレンを茎葉散布し植物への吸収量を測定した結果、物質の浸透を表す吸収モデルに合致することが認められた(升田、1992)。
 
3)土壌微生物を利用した分解技術の開発
 現在使用されている農薬の多くは土壌中で1ヶ月以内に半減するが、芳香族有機塩素系の化合物では難分解性を示すものがある。土壌中における農薬の緩慢な分解は主として土壌微生物の働きによるもので、これらの分解活性を積極的に環境修復技術として活用するバイオレメディエーションに期待が寄せられている。
 
 このような研究の第一段階は農薬分解微生物の探索である。アブラナ科野菜の根こぶ病防除に使用されたPCNBは単位面積当たりの使用量が多く、土壌残留が懸念された。使用量の多い茨城県下で調査した結果、分解微生物の分布および分解活性とPCNBの使用量との間に正の相関が認められた(岡崎、1995)。また、カーバメート系殺虫剤カルバリルを分解する2種の細菌を林地土壌より分離し、16S rRNA遺伝子解析によりArthrobacterに属する新種であることを明らかにした(佐藤、1999)。
 
 分解微生物を探索・同定するために、土壌中から分解微生物を集積・単離する手法の開発も行われた。土壌に比べ数十倍の農薬吸着能をもち、520μm程度の細孔が全細孔容積に対し10%以上である木質炭化素材を作製して土壌中に混入、還流することで分解細菌が迅速・簡便に集積した(高木、1999)。そして、PCNBと除草剤シマジンの分解細菌集積木質炭化素材を土壌に直接混入し還流することにより、残留農薬を吸着・分解できた(高木、2000)。さらに、シマジンの分解細菌を木質炭化素材に集積させ、ゴルフ場の下層(深さ15cm)に1cmの厚さで敷き詰めると、ゴルフ場に散布されたシマジンは木質炭化素材層に吸着され、そこで分解・除去されることが明らかになった(高木、2003)。なお、分解菌数は接種20ヶ月後まで一定で高い生残性を示すことから、本技術は他の難分解性有機化合物で汚染された土壌の修復にも応用可能である。
 
 農薬以外の難分解性有機塩素系化学物質の微生物分解についても研究が継続されている。これらの物質の脱塩素反応は一般に嫌気性細菌による。しかし、PCBが処理され過去に湛水条件であった畑土壌でも、ヘキサクロルベンゼンがテトラクロルベンゼンに脱塩素することが確認され、このような土壌条件においても嫌気性細菌による還元的な脱塩素化が示唆された(渡辺、2003)。また、クロロ安息香酸を好気的に分解する土壌細菌を単離し、この主要分解菌がProteobacteriaβ-グループに属することを明らかにした。分解遺伝子についての検討も行われており、分解の中心経路である修飾オルソ開裂経路をコードする遺伝子群が解析された。その結果、各種分解菌からクローニングした遺伝子群はそれぞれ相同性を示すクロロカテコール分解遺伝子群で、いずれもプラスミド上にあること、限られた遺伝子を2,4-D分解やクロロ安息香酸分解など種々の目的に利用していることなどが解明された(小川、1992、宮下、2000)。
 
 さらに、広範なクロロ安息香酸分解能をもつBurkholderia属細菌の安息香酸ジオキシゲナーゼやクロロカテコールオルソ開裂経路の遺伝子群の発現は、クロロ安息香酸類やクロロカテコール類により活性化されるLysR-typeAraC/XylS-typeの調節因子によって制御されることが明らかになった(小川、2002)。このような微生物分解の機構解明や分解遺伝子の構造と機能の解析は、遺伝子工学による分解能の改良を目指したものであり、最終的にバイオレメディエーションによる有効な環境修復技術としての応用につながる基礎研究である。
 
(2)生物に対する作用
1)生物への影響と作用機構
 農薬を登録するために魚類、甲殻類など環境生物に対する毒性試験が義務付けられている。しかし、水系への流出による影響が最も大きいと考えられる除草剤の藻類に対する影響評価はほとんど行われていない。OECDテストガイドラインの供試藻類である緑藻類に加えて、わが国の優占種である珪藻類、藍藻類に対する8種の水田用除草剤の感受性を比較した結果、緑藻類で感受性が高く、また、除草剤のトリアジン系化合物とキノクラミンで生長阻害が大きくなる傾向が認められた(石原、2000)。代かきや移植時期に、水田から流出したスルホニル尿素系除草剤が原因となって、ジュンサイ、スイタグワイの展開葉に奇形が、また、アオウキグサに根の短縮が観察された(伊藤、2002)。
 
 一方、これらの水草で見られる変化を水中の除草剤濃度モニタリング方法として活用することも提案された(伊藤、1999)。近年、各種化学物質の内分泌かく乱作用が懸念され、その作用を簡易に判別する方法の開発が緊要であった。そこで、孵化したばかりのd-rR系のメダカ個体に流水式で化学物質を曝露させ、尻ひれの形と体色から孵化2ヶ月以内にオスからメスへの性転換が確認できる試験系を開発した。本法によって4-ノニルフェノール(300μg/l)をオスに曝露した場合、75%がメスに性転換することが確認された。なお、主要水田除草剤5種について同様の試験を行った結果、いずれの農薬でも内分泌かく乱作用は検出されなかった(堀尾、2003)。今後も、これらの影響が生じる場合の農薬濃度や作用機構などを詳細に検討していくことが重要である。
 
 農薬の作用機構を明らかにすることは、環境中の生物に対する影響の解明に加えて、防除対象となる病害虫および雑草への効果発現や各種生物における耐性付与機構、さらに、農薬の安全使用技術の確立に向けた基礎的知見として重要な研究テーマである。
 
 殺菌剤の多くは病原微生物を殺滅するのに対し、イネいもち病に卓効を示すプロベナゾールには直接的な殺菌作用がなく、その作用機構の発現様式に大きな関心が寄せられていた。作用機構を解析した結果、本剤を処理したイネではいもち病感染時に抵抗性関連酵素のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の遺伝子が活性化されることを明らかにし、関係する遺伝子pPB-1を単離した。この成果は、殺菌剤の使用が植物の抵抗性遺伝子を発現することを証明した最初として高く評価された(南、1992)。
 
 さらに、NMR法により殺菌剤のIBPおよびイソプロチオランの作用機構が解明された。メチル−13C標識メチオニンを添加した培養液中では、上記の2種殺菌剤によりメチル基転移反応が阻害され、結果として生体膜の形成が阻害されることを明らかにした(吉田、1987)。また、NMR法により微生物細胞中の水の緩和時間を測定し、SH阻害剤、リン脂質合成阻害剤、エルゴステロール合成阻害剤などが膜の水透過性に影響を及ぼすことを明らかにした。このことから、本法が各種殺菌剤の細胞膜におよぼす作用の簡易検定法として有効であることが示唆された(吉田、1991)。
 
 一方、農薬のなかには、それ自身は効果を持たず、生物体内で代謝を受け他の物質に変換されてから初めてその効果を発現する場合がある(活性化という)。ホスホロアミデート系殺虫剤イソフェンホスでは、生体内の酸化酵素mixed function oxidaseにより生成された代謝物が強力なアセチルコリンエステラーゼ阻害活性を示し、これによって殺虫効力が発現することを明らかにした。さらに、殺虫活性には立体特異性があり、(+)体で強力であった(上路、1988)。活性代謝物の構造決定およびイソフェンホスの残効性の解明にむけて各種生物における比較代謝研究が行われ、生物種間での代謝反応に明確な差異があることを認め解毒分解の経路を提案した(上路、1988)。
 
 近年、立体異性体が存在する複雑な化学構造をもつ農薬が開発されてきているが、多くは、各異性体が分離されないラセミ体として使用されている。除草剤メトラクロールをHPLCで光学分割する方法を確立し、立体構造の異なる4種の異性体の殺草効果を比較した結果、イネ茎葉および根の伸長に対する抑制効果は不斉炭素原子による立体構造に依存し、それらの効果がRS体とSS体で高いことを明らかにした(上路、1995)。植物成長調整剤として使用されているジベレリンも約80種が単離・同定されている。ジベレリンの生物活性を農薬として利用するためにもジベレリンの生合成・代謝に関する研究が必要であり、そのための試験法として植物細胞培養系を確立し、培養細胞系と無傷の各種植物におけるジベレリンの代謝が比較された(腰岡、1991)。
 
2)薬剤耐性の機構解明と管理技術の開発
 同一(あるいは類似)の農薬を連用することによりその農薬に耐性が発現し、効果が低下する場合がある。このようなことを、殺虫剤・除草剤では「抵抗性」、殺菌剤では「耐性」といい、病害虫、雑草の防除において避けられない課題になっている。
 
 殺菌剤の耐性発達の回避や代替殺菌剤の開発のために、薬剤耐性菌の実態把握、各種殺菌剤における耐性発現機構などに関する研究が実施されてきた。近年開発されたストロビルリン系薬剤は天然物をリード化合物としているが、施設栽培などでキュウリべと病菌に耐性を示す菌が検出された。耐性菌のチトクロームb遺伝子の塩基配列を感受性菌と比較した結果、殺菌剤の作用点タンパク質のチトクロームbの遺伝子に1塩基変異があり、アミノ酸がグリシンからアラニンに置換していることを明らかにした(石井ら、20002001)。
 
 本結果から、PCR-RFLPが耐性菌を迅速に診断する方法として有効であることが提示された。また、ブドウ晩腐病菌の中で、ベンゾイミダゾール系薬剤とジエトフェンカルブの両方に低感受性の病菌では、作用点であるβ−チュブリン遺伝子の1塩基置換が確認され、この薬剤耐性遺伝子がnested PCRによって直接診断できる可能性を示した(石井、1999)。
 
 殺虫剤の抵抗性問題も深刻である。主要水稲害虫ニカメイガで、フェニトロチオン、ピリミホスメチルなどの有機リン系殺虫剤に抵抗性を獲得した個体群が各地で発生した。近畿・中国地方の抵抗性ニカメイガでは、感受性系統に比較してフェニトロチオンの致死濃度が約2040倍高く、また、活性代謝物質であるオクソン体の蓄積量が著しく減少していることが認められた。さらに、抵抗性ニカメイガの体内に本剤と容易に結合して無毒化するタンパク質の存在が明らかになった(昆野、1993、浜、1990)。この抵抗性を打破するため、各種のN,N-ジメチルカーバメート化合物が合成され、中でも、(2-dimethylamino-6-methyl)pyrimidin-4-yl-N,N-dimethylcarbamateSK102)で最も高い殺虫協力効果が得られた(宍戸、1998)。なお、河川に生息するコガタシマトビケラのフェニトロチオンに対する感受性は、農薬の流入の有無によって異なり、農薬流入河川に生息する個体群で著しく低下していることが明らかにされた(昆野、1995)。
 
 広食性の主要害虫ワタアブラムシが各種殺虫剤に対し高度の抵抗性を発達させ、防除の面から大きな問題になっていた。とくに、フェニトロチオンおよびカーバメート系殺虫剤ピリミカーブに抵抗性を示す抵抗性個体群では、前者で解毒酵素カルボキシエステラーゼ(CE)の活性が高く、後者で標的酵素アセチルコリンエステラーゼの感受性が低かった(鈴木、1994)。また、抵抗性に関与するCEcDNAの構造(全塩基配列)を決定し、さらに、逆転写PCRにより、抵抗性レベルの高いワタアブラムシ系統でCE遺伝子発現量が著しく増大していることが明らかになり、感受性系統と明確に識別する検定法の有効性が示唆された(鈴木、1999)。
 
 各種昆虫の殺虫剤抵抗性に対する酸化酵素系P-450の役割が検討された。本酵素は広範囲の好気性生物に存在する代謝酵素系であるが、昆虫種および発育段階でその酵素の存在程度は大きく異なり、それによってピレスロイド系殺虫剤などの抵抗性の発達程度に差異が生じることが明らかになった(昆野、1994)。
 
 殺虫剤に対する感受性の低下は他の害虫や農薬でも調査されている。静岡県内の茶園から複数の合成ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を示すケナガカブリダニが発見され、農薬の種類や剤型による感受性の変異が認められた(望月、1991)。また、関東以北に生息する畑害虫タネバエ成虫の各種薬剤に対する感受性が調査され、地域間差異は比較的小さいものの、有機リン系殺虫剤に対し感受性が高いことが確認された(桑原、2001)。
 
 アブラナ科野菜害虫のコナガは各種薬剤に高度の抵抗性を生じており、微生物殺虫剤であるBT剤が代替薬剤として使用されている。しかし、BT剤の抵抗性程度を化学合成殺虫剤と比較した結果、抵抗性比が感受性系統と比較し約700倍と高い個体群も観察された。なお、この抵抗性の発現は遺伝的に不完全劣性で不安定であるため、BT剤の連用回避により抵抗性の発達は抑制できると考えられた(浜、1992)。広食性害虫ハスモンヨトウの殺虫剤に対する抵抗性の簡易検定法として、成虫の発生初期から性フェロモントラップを用いて生け捕りした雄成虫を供試し、死亡率の変動で判定する方法を開発して、ピレスロイド系殺虫剤での有効性を検証した(浜、1987)。また、ハスモンヨトウのフェニトロチオンに対する抵抗性が、幼虫における加水分解酵素アリエステラーゼ活性の上昇によると推定した(遠藤、2001)。
 
 除草剤抵抗性の雑草も出現し、とくに同一除草剤の連用の場合、および高い選択性が付与された除草剤使用の場合に、抵抗性の獲得が急激である。パラコートは非選択性除草剤として古くから広く使用されてきたが、茨城県内10市町村13カ所で抵抗性ハルジオンの分布が明らかになった(佐藤、1989)。抵抗性遺伝子の拡散について水田雑草のアゼトウガラシとミズアオイに対するスルホニル尿素系除草剤で解析され、抵抗性の遺伝様式が単因子優性であり、虫媒で繁殖する雑草であれば訪花昆虫を介した花粉によっても広域に拡散することが分かった(伊藤、20002002)。抵抗性遺伝子に関する研究の発展は目覚ましく(田中、1990)、グリホサートおよびグリホシネート除草剤に対しての耐性のある遺伝子組換えダイズ、コムギ、トマトなどが作出され、海外で栽培されるようになった。
 
3.ダイオキシン類の動態とその制御
(1)農作物におけるダイオキシン類
 食品の安全・安心を確保するために、農作物におけるダイオキシン類の汚染実態を明らかにし、さらに、汚染軽減の方策を提示することが求められている。ダイオキシン類の研究を実施する上で、超微量レベル(10-12g)の感度を必要とし、かつ、約220種の異性体と農作物や土壌など試料中の分析妨害物を分離する高精度分析法を駆使することが必須であり、前処理法、精製法等の詳細な検討が行われた。そして、試料中のダイオキシン類異性体組成を解析することにより汚染経路などの挙動が推定された。
 
 イネ、ホウレンソウ、ニンジン、キュウリなど各種作物をダイオキシン類汚染土壌で栽培し、作物の各部位におけるダイオキシン類濃度と、栽培環境に存在するダイオキシン類の移行経路を明らかにした。いずれの農作物でも、可食部位である果実、葉部、根部でのダイオキシン類濃度は低く、他省庁で実施されたダイオキシン類実態調査と同程度であった。たとえば、ダイオキシン類汚染土壌(120pg-TEQ/g)に栽培したイネ体の濃度分布は、葉>モミガラ>茎>玄米(0.0011pg-TEQ/g-wet)と、可食部では極めて低い濃度であった。さらに、ダイオキシン類の異性体組成および濃度がまったく異なる土壌で栽培しても、イネ体各部位におけるダイオキシン類組成と濃度が類似すること、大気中に多く存在するCo-PCBsの含有量が多いこと、大気との接触がない維管束液での濃度が検出限界0.0001pg-TEQ/mL以下であることから、イネへの主要汚染源は大気由来と判断された(桑原、2003)。
 
 各種農作物におけるダイオキシン類汚染原因は、キュウリなどウリ科作物を除き、大気中の降下物およびガス態、そしてダイオキシン類汚染土壌の作物付着に由来するものと考察された。このため、雨よけ栽培やマルチ栽培を行い大気降下物や土壌粒子との接触を少なくすることで、汚染低減が可能になった(殷、2002)。また、ニンジンのような根菜類では、根の皮部にダイオキシン類の大部分が分布していることから、皮むきをすることでダイオキシン類が除去されることを検証した。なお、葉や根の表面には水洗しても除去できない土壌粒子が付着していることを走査電子顕微鏡およびX線元素分析で明らかにした。
 
 以上のことは、一般に公表されている作物中のダイオキシン類濃度値が、作物に付着した土壌粒子中のダイオキシン類を含む値であることを指摘したものであり、農作物中のダイオキシン類分析で「真の値」を得るためには、試料調製法について再検討する必要性を提示した(殷、2002)。一方、農作物の中でも茶の生葉および乾燥葉のダイオキシン類濃度は相対的に高い。しかし、熱湯浸出液での濃度は検出限界以下であった(上垣、2000)。
 
 これまでにも、ズッキーニなどのウリ科作物はダイオキシン類を吸収することが報告されている。ダイオキシン類汚染土壌を用いたポット栽培のキュウリで、大気に暴露していない維管束および向きした果肉からダイオキシン類が検出された。この結果は、ダイオキシン類が根から吸収され地上部へ移行することを示唆するものである(殷ら、2003)。なお、作物体各部位でのダイオキシン類の異性体組成について、6塩素化と7塩素化のジベンゾフランやCO-PCBsの占める割合が高く、栽培環境である大気、土壌のそれと大きく異なること、濃度的には栽培土壌や栽培時期などによってその程度に差があることも確認された。今後、植物吸収特性を汚染土壌の浄化技術として開発するためにも、吸収に関与するダイオキシン類の物理化学的特性や植物生理の面からの研究深化が必要である。
 
(2)農地土壌における汚染実態と分解技術の開発
 過去に使用された農薬にはその副産物として構造特異的なダイオキシン類を含むものがある。とくに、除草剤のCNPには4塩素化ダイオキシンである1,3,6,8-1,3,7,9-TCDDが、PCPには8塩素化ダイオキシンであるOCDDが含有され、それらが長期間、農地土壌中に残留することが指摘されていた(山田、1990)。1960年代以降の水田土壌におけるダイオキシン類濃度の変動および異性体組成を解析した結果、濃度はCNPおよびPCPの使用状況に連動して60年代初期から上昇して60年代末にピークに達し、その後、速やかに減少している。また土壌から検出されるダイオキシン類には、農薬に由来するもののほかに、燃焼・焼却過程で生成したダイオキシン類が加わっており、後者の寄与率が徐々に増加していることを明らかにした(清家ら、2003)。土壌中の垂直分布をみると、地表面〜15cm深でもっとも高濃度であるが(110pg-TEQ/g)、90cm深でも0.22pg-TEQ/gの存在が認められた(森泉ら、2001)。畑土壌のダイオキシン類濃度も水田土壌と同様で、水田土壌と比較して焼却施設からの排出ダイオキシン類の寄与率が高かった。
 
 ダイオキシン類による土壌汚染の拡散防止を図るため、土壌中のダイオキシン類を可能な限り低減することが重要である。酸化カルシウムを基材とする化学資材をOCDDに添加すると、ラジカル反応によりダイオキシン類骨格のC-O結合が開裂し、OCDDが分解した。なお、水田土壌中のダイオキシン類の分解程度は土壌特性で異なり、黒ボク土では分解率が低くかった。また資材の添加により土壌pHが上昇し、10%添加土壌ではpHが回復しないなど、資材としての使用には検討が必要である(清家、2001)。
 
 また、ダイオキシン類が光分解を受けることが明らかにされている(腰岡、1990)。土壌表層での光分解反応を解析するため、400nm以下の紫外線領域を太陽光に近似させた光分解反応実験装置を試作した。この装置を用い粘土鉱物に添加したOCDDを光照射することによって、OCDDの脱塩素化物が確認され、さらに、二酸化チタン光触媒の添加により分解が促進された(小原、2003)。
 
(3)水系への流出とその制御
 水田の土壌粒子は、代かき時、水稲移植期、増水時に濁り水として水系に流出する。その濁り水の主体が土壌懸濁物質(SS)であり、ダイオキシン類もSSと一緒に流出して排水路および河川・湖沼底質に蓄積していることが示唆された。連続遠心分離による沈降速度の違いから、SSを土壌粒子径で分別し、SSの粒径別のダイオキシン類濃度を測定した結果、粒径別SSのダイオキシン類濃度は土壌間で異なる値であった。灰色低地土および黄色土では、粒径が小さくなるとともにダイオキシン類濃度は低下するが、黒ボク土の場合には逆に高くなる結果を得た(牧野、2003)。このような農地土壌粒子に収着したダイオキシン類の水系流出を抑制するために、水田水管理および栽培管理法として無代かき栽培や不耕起直播栽培が有効であることを明らかにした(芝野、2002)。
 
 水田から流出したダイオキシン類は、SSとともに農業排水路、河川や湖沼などの底質として蓄積され、強降雨時に流下し、その過程で食物連鎖を介して魚介類に蓄積することが危惧(きぐ)されている。底質中のダイオキシン類の起源を解析するため、牛久沼流域の排水路および河川・湖沼底質中のダイオキシン類濃度が調査された。その結果、1,3,6,8-TCDD2,3,7,8-TCDDの総ダイオキシン類に対する濃度比は土地利用によって異なること、とくに、水田面積率の大小が河川底質中のダイオキシン組成に反映していた。また、牛久沼底質ダイオキシン類濃度への土地利用別寄与率は林、水田および畑・市街地でそれぞれ23266%であり、湖沼底質へのダイオキシン類の面源負荷を抑制するためには、水田からの濁水流出防止に加えて畑地や市街地からの土壌流出防止が必要であることを明らかにした(谷山、2003)。
 
 水田からのSSの流亡抑制を図るため、多孔質ケイカル、鉱物系凝集剤、ポリアクリルアミドなど各種凝集剤を土壌懸濁液に添加して凝集沈殿性を調査した結果、秋落ちや安全性を考慮して1mg/g乾土程度で透過率90%以上となった塩化カルシウムが凝集剤として最適であると判断された。さらに、塩化カルシウムを60kg/10a使用したイネのポット栽培においても稲の初期生育に影響がないことが明らかになり(牧野、2003)、ダイオキシン流出抑制技術として現場での圃場試験を実施している。
 
4.微量元素など微量成分の動態
(1)分析法の開発
 植物が生育に必要とする元素は、窒素、リン、カリウムの三要素のほかにも数多くある。しかし、土壌中にはレアメタルと称される元素群やそれ以外の微量元素が植物の養分以外にも数多く存在する。これら元素の多くは超微量であり分析が困難であったが、近年、分析法に関する研究が進展し、環境中の微量元素の動態が解明されつつある。
 
1)NMR(核磁気共鳴)による非破壊分析法
 土壌および植物中の養分元素の形態分析において、抽出効率や抽出、精製過程における形態変化を無視することはできない。この問題の解決が困難なため、土壌―植物系内における養分動態の解明に関する研究が停滞していると考えられる。そこでNMRによってできるだけ生のままの試料を測定し、そこに存在する養分元素の形態を明らかにすることが試みられた。その結果、土壌―植物系内における肥料成分の動態を量的・質的面からとらえる手法が確立され、植物体内におけるホウ酸化合物の形態、イネ葉表皮上に沈着したケイ酸の形態および土壌中における有機リン化合物の組成と量比に関する新しい知見が得られた(伊藤、1990)。
 
 また、植物体内アルミニウムを27Al-NMRにより非破壊的に直接観測する方法も確立された。この手法でチャを分析した結果、アルミニウムは茶樹の中でカテキンと錯体を形成していることが明らかとなった(永田、1990)。
 
2)ICPMS(高周波誘導結合プラズマ−質量分析装置)を用いた分析法
 土壌および水試料中の超微量元素の正確かつ能率的な分析を実現することを目的に、二重収束型のICPMSを用いた分析法の開発が行われた。これまでの手法では特殊な施設、あるいは非常に複雑でかつ長時間にわたる操作を必要とした。ICPMSにより、数多くの元素の分析法が、高感度、高精度でかつ効率のよい極めて高性能なトータルシステムとして完成し、レアメタルの研究が急速に進歩した(山崎、1990)。
 
 また、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー/ICP質量分析法を用いて、カドミウム(Cd)ストレスを受けた植物中のCd-γECペプチド複合体の構造は、(1)不均一であること、(2)コマツナとイネとで異なること、(3)水耕液中のCd濃度により異なることなどが明らかにされた(松永、1995)。
 
3)放射性装置を利用した分析法
 土壌および環境中におけるレアメタル類の動態を把握するために、非破壊で多元素の同時計測が可能な放射化分析法が検討された。その結果、中性子20分照射、1週間および2週間冷却後の2回、γ線を2000秒測定する方法で、土壌中の16種のレアメタル類の同時分析が可能になった(太田、1997)。
 
 また、微小ビームを発生できるように改良された蛍光X線分析装置を植物に適用し、得られた元素分布のデータを解析する手法が開発された。その結果、マンガン(Mn)過剰土壌で栽培した植物葉中のMn集積部位とカルシウム(Ca)の分布との間に密接な関係があることが明らかにされた(川崎、1991)。さらに、水稲葉身中のMnが、大部分の2価無機水和物と一部のMn−ボルフィン環結合をもつ有機物からなっていることが、シンクロトロン放射光を光源としたX線吸収分光法による非破壊分析により明らかにされた(渡辺、1994)。
 
 さらに、微小部分蛍光X線マッピング装置により、植物葉のMn過剰症発現過程におけるカリウム(K)、CaMnの分布が測定され、植物の生理障害の新たな診断方法が確立された(渡辺、1987)。
 
4)その他の分析法
 畑水分条件での土壌溶液中の無機イオン濃度を、中空糸を用いて土層を乱すことなく計測する手法が開発された。黒ボク土では体積水分率が約37%(含水比約59%)以上であれば、この方法により土壌溶液濃度を定量できることが明らかになった(関口、2001)。
 
 有機質資材の腐熱促進を目的とする微生物利用土壌改良資材の効果を測定するために、微小熱量計が利用された。この方法により、中温で、易〜中程度分解性の有機物に対する作用の有無が100時間程度で自動的に測定されることが明らかになり、土壌改良資材の迅速かつ簡易な測定法が開発された(川崎、1997)。
 
 またガスクロマトグラフの利用により、土壌微生物の活性及び動態を制御する指標の一つである、土壌中ポリアミンの分析法が確立された(藤原、1988)。
 
(2)レアメタルなど微量元素の環境での分布と負荷
 レアメタルなどの微量元素は、高機能性製品開発の基本的素材として、先端産業分野で広く利用されている。しかし一方では、ハイテク産業の高度化とともに、これらの微量元素の土壌、農作物、河川などの自然環境への放出が懸念されている。このような背景のもとで、環境における多くの微量元素の分布や負荷量の測定が行われた。また、これらの研究の発展には、上記の迅速かつ精密な分析法の開発が大きく寄与した。
 
1)土壌中の分布および作物による吸収
 土壌、植物中に含まれる希土類16元素(YScLaCePrNdSmEuGdTbDyHoErTmYbLu)を誘導結合プラズマ発光−質量分析装置(ICPMS)によって分析した。その結果によれば、土壌(3点)、植物(稲わら)からは16元素のすべてが検出されたが、その総量で差異が認められた。16元素の総量が100200ppmの範囲にある土壌に比べて、植物体での総量は著しく低く、ほぼ1ppmの水準であった(吉野、1989)。また、各種りん酸肥料、水稲体、水田土壌、用排水、雨水中のウラン(U)、トリウム(Th)、セリウム(Ce)の濃度が測定され、水田における各元素の収支が計算された。その結果、りん酸肥料の長期施用が水田土壌のU濃度を上昇させることが明らかになった(津村、1993)。さらに、水耕培養法により、ランタン(La)とベリリウム(Be)の水稲生育に及ぼす影響が調査され、水稲幼植物では、BeLaに比べて生育などの阻害が大きいことなどが明らかになった(後藤、1991)。
 
2)有機性廃棄物に含まれるレアメタル類の分析
 化学工場汚泥、食品工場汚泥、し尿汚泥および下水汚泥について、有機性廃棄物中のレアメタル類45元素の組成が発生源別に調査され、次のことが明らかになった。(1)化学工場汚泥のレアメタル類の組成は、個々の試料ごとに大きく異なり、各元素含量で1〜2桁以上の幅があった。(2)食品工場汚泥のレアメタル類含量は概して低く、各元素含量は1〜2桁の幅にあった。(3)し尿処理場汚泥は、各試料間の差が小さく、どこの処理場の汚泥もよく似た元素含有パターンを示した。(4)下水汚泥も各試料間での元素含有パターンの差異は小さい。(5)し尿処理場汚泥と下水汚泥は、他の試料に比べて銀とビスマスの濃度が高いという特徴が認められた(川崎、1994)。
 
 つぎに、これらの有機性廃棄物を耕地に施用した場合の土壌への影響が調査された。その結果、有機性廃棄物中のレアメタルのうち希土類元素については、地殻規格化パターンの解析から、都市下水汚泥、化学工場汚泥への一部の元素の集積が認められた。希土類元素以外では、都市下水汚泥施用によって土壌中の銀、Cd、アンチモン、タリウム、ビスマスの易溶性画分濃度が高まる可能性が示唆された(川崎、1998)。
 
3)河川水中の微量元素の濃度分析
 全国55の河川から集めた77試料について希土類元素、トリウムおよびウラニウム(16元素)の濃度の平均値と範囲が明らかにされた。対象としたすべての元素濃度は非常に低く、高くても100pptレベル、低い場合には、1ppt以下となった。各元素の濃度幅は非常に広く3桁程度の広がりを示した(津村、1991)。
 
 わが国の陸水試料約80点について超微量元素38種類を分析した結果、各元素とも濃度範囲は非常に広く頻度分布は対数正規分布をすることが分かった。また、陸水中における各元素の濃度の平均値(幾何)及び信頼限界(95%)が算出された(山崎、1993)。
 
4)野草中における微量元素の自然存在量
 微量元素による汚染を調べる環境指標として、北海道から近畿までの16地点から採取した野草中の微量元素(BeCuZnMoCdSbCsBaLaTlPbBi)の濃度が測定された。その結果、採取地点ごとの中央値から得られた野草中の自然存在量は、Markertの提唱する“Reference plant”に近い値であることが示された(原田、1998)。
 
(3)ヨウ素の土壌中における動態
 ヨウ素は、欠乏による甲状腺肥大症、過剰による作物の生育障害および放射性ヨウ素による放射線被曝など、環境科学的に重要な元素である。そのため、土壌中における動態が調査され、土壌中ヨウ素の土壌溶液への溶出率が土壌水分や温度変化に伴い14桁も増減すること、とくに湛水土壌では、畑水分土壌より24桁も高く溶出すること(いずれも30)、その90%以上がIの形態で存在することなどが明らかになった(結田、1994)。また、表層土壌中に存在するヨウ素の大部分は、水田では夏期湛水下の還元条件で土壌浸透水に溶出して下層へ溶脱するのに対し、畑地、林地などの酸化的条件下では土壌に吸着され蓄積することも明らかになった(結田、1994)。
 
 ヨウ素工場の排気筒から大気中へ放出されるヨウ素をトレーサーとして用い、放射化分析法によって定量する追跡法が開発された。これにより、野外環境下における降下性ヨウ素の土壌層内における浸透などの挙動を長期にわたり定量的に把握することができるようになった(結田、1996)。また、放射性ヨウ素の土壌から植物への移行について、植物体ヨウ素濃度と土壌溶液中ヨウ素濃度の比を用いることで、植物根による吸収能力の作物種間差が判定できた。これを農地における放射線量評価に有効利用した(結田、1992)。
 
(4)農耕地生態系におけるトリハロメタンの生成
 トリハロメタン(THM)は、浄水場で源水が塩素消毒される過程において生成する揮発性の塩素化有機化合物であり、発ガン性が疑われることから、飲料水では上限濃度が規制されている。農耕地でもTHMの生成が懸念され、各種の調査が行われた。
 
 THMの生成能に及ぼす田面水の水質および肥培管理の影響が調査され、化学肥料や鶏糞(けいふん)の施用は、田面水の溶存態有機物濃度(DOC)を高め、トリハロメタン生成能(THMFP)を高めることが明らかになった。また、塩化アンモニウム系の肥料および鶏糞の施用は、田面水の臭化物イオン(Br-)濃度を高め、生成するTHMの組成を変えることが分かった(村山、1998)。
 
 また、家畜排せつ物が土壌に還元されているシラス台地畑地下水のTHMFPが調査された。その結果、家畜排せつ物が還元されている厚層黒ボク土シラス台地畑作地帯の地下水のTHMFPは、同台地の渓流水に比べて低いことが明らかになった。溶存態イオン濃度からみて家畜排せつ物還元の影響も考えられる地下水であるが、有機物濃度やTHMFPに対する家畜排せつ物還元の影響はみられなかった(村山、2001)。
 
 さらに、農村集水域小河川(帆崎川)の平水時における水のTHMFPが1年間にわたって調べられ、水のTHMFPは、非灌漑(かんがい)期には水道水基準値の100μg/L以下で推移するが、灌漑期にわずかながら超える場合があった。また、川源流の渓流水のTHMFPは平均21.6μg/L、灌漑用の霞ヶ浦用水は平均78.8μg/L、隣接水田の田面水は平均149μg/Lであった(村山、1999)。
 
(5)ケイ酸の動態と肥効評価
 ケイ素(Si)は、水稲などのイネ科作物で必須元素として多量に吸収されるが、その吸収メカニズムには不明の部分が多い。また他の科の作物には、Siが微量要素としての必須性があるかどうかということもよく分かっていない。
 
 安定同位体30Si利用によるケイ酸質肥料の肥効発現機構の検討が行われた。30Si濃縮シリカゲルからケイ酸質肥料の主要成分の一つであるケイ酸カルシウムを合成し、30Siトレーサー法により肥料ケイ酸の水稲による吸収を試験した結果、ケイ酸の利用率は3745%となった(尾和、1987)。また、鉱さいけい酸質肥料の肥効発現機構を解明するため、水田の土壌溶液中のpHと二酸化炭素を直接測定できるセンサーを埋設することで、鉱さいけい酸質肥料の肥効を正確に判定する手法が確立された(尾和、1988)。
 
 さらに、カリウム吸収能の高い畑作物による土壌ケイ酸の可溶化が検討された。カリウム吸収能には作物間差があり、また、カリウム吸収能が高くケイ酸含有率の低い畑作物で跡地土壌中の2.5%酢酸抽出ケイ酸量が増加することも明らかとなった。これらのことから、カリウム吸収能の高い畑作物は、土壌中のケイ酸の可溶化を促すことが示唆された(杉山、2000)。
 
(6)イオウ、鉄、マンガン、ホウ素、アルミニウムの動態
1)イオウ(硫酸イオン)
 土壌表面における二酸化硫黄の吸着・酸化反応を測定する装置を開発した。この装置を用いて二酸化硫黄を暴露し、土壌の硫酸イオン生成量を測定した結果、大気濃度から硫酸イオン負荷量を推算すると0.92.8(g/m2・年)であることが判明した(櫻井、1995)。
 
 つぎに、林地黒ボク土の硫酸イオン含量と同イオン吸着に基づく酸緩衝能への影響を調査した。その結果、アロフェン質で硫酸イオン吸着能が高い黒ボク土では、施肥来歴のない林地土壌においても、すでに多量の硫酸イオンが蓄積されており、大気からの硫酸イオン負荷に対する土壌酸緩衝能の大小は吸着能の大小とは必ずしも一致しないことが分かった(麓、1996)。
 
 また、肥料の連用にともなう南九州の各種火山性土壌浸透水中の硫酸イオン濃度の推移、さらに、硫酸イオンの吸着に対応する土壌酸性化モデルが検討された。その結果、(1)施用した硫酸イオンが南九州の各種火山性土壌において、地下1mの土壌浸透水中に急増するまでの年数は土壌の種類によって異なり、土壌の硫酸イオン保持能に依存する。(2)その後の硫酸イオン溶脱量は、土壌の種類に関係なく降水量に支配される。(3)浸透水中の硫酸イオンの変動周期は、硝酸や塩素イオンに比べて長い(大嶋、1996)。(4)土壌による硫酸イオンの吸着量は、鉱物表面の水素イオンが付加した水素基に水和した硫酸イオンが吸着するというモデルで説明できる。(5)これを土壌酸性化モデルに導入することにより、酸性降下物による土壌pHなどの変化を正確に予測できることを明らかにした(麓、2000)。
 
2)鉄、マンガン
 アルファルファ根圏に存在する有機金属化合物を分離して調査した結果、アルファルファ(ALF)根圏では非根圏よりも鉄(Fe)やマンガン(Mnなどの陽イオン濃度が高く、また根由来の有機化学物質も存在することが明らかになった。さらに、根圏土壌のミネラルを有機物選択吸着性の樹脂で分画し、HPLCで分離、分取後、原子吸光法で測定することにより、有機体金属化合物が存在することを確認した(正岡、1990)。
 
 水田土壌の酸化還元電位(Eh)に及ぼす鉱さい含鉄資材の影響として、EDTAで抽出されるFe含量の多い資材がEhを高く維持することに有効であり、一方、EDTAで抽出されるFe含量が少ない資材の添加でEhの低下を速めることが分かった(野副、2001)。
 
3)ホウ素
 植物体内におけるホウ素の化学形態と機能が調べられた。必須微量元素であるホウ素は、植物体内で、水溶性のホウ酸とホウ酸モノおよびジエステル態として存在し、また、細胞壁中では、ホウ酸ジエステル態としてペクチンを架橋し、基本構造体の構成要素として機能していることが明らかになった。さらに、ホウ素を含む多糖複合体は、鉛(Pb)など毒性を有する元素を捕捉する機能をもつことも示唆された(松永、1998)。
 
4)アルミニウム
 酸性土壌中における交換性アルミニウムの存在形態を解析するため、高分解能27Al-NMR及びICPを用いて、溶液中のアルミニウムを形態別に定量する手法が開発された。酸性土壌から抽出される交換性アルミニウムをこの手法を用いて分析した結果、主として単量体アルミニウムであり、13量体アルミニウムやヒドロキシケイ酸アルミニウムイオンはほとんど存在していないことが明らかになった(平舘、1996)。
 
5.土壌のカドミウム汚染と対策
(1)稲のカドミウム吸収を抑制する栽培技術
 日本各地の鉱山から排出された水が流れ込む河川の下流域や、精錬所周辺の農地がカドミウム(Cd)によって汚染され、農作物への影響が問題になっている。そのため、土壌中のCd濃度の低減と作物の吸収抑制の技術が緊急に求められている。第一に、土壌中の水溶態Cd等の湛水による濃度変動とその溶存形態が調査され、次の結果が得られた。(1)土壌中の水溶態重金属のイオン形態はイオン交換樹脂を用いて分別定量でき、有機態については紫外線照射分解と限外ろ過法の組合せにより分析できた。(2)Cd汚染土壌3点(淡色黒ボク土;Cd濃度1.1313.4mg/kg)、非汚染土壌2点(淡色黒ボク土;Cd濃度0.150.29mg/kg)の湛水(Eh〈−150mV〉、畑(Eh)500mV)の水分条件における水溶態Cd濃度は、非汚染土壌の湛水で畑の約1/10(0.263から0.021ng/mL)、汚染土壌では約1/800(20.6から0.025ng/mL)に低下した。しかし、銅と亜鉛は水分条件の影響をほとんど受けなかった。(3)土壌中の水溶態Cd、亜鉛は陽イオン画分に、銅は陰イオン画分にそれぞれ存在割合が高い。また、有機態の割合は銅が最も高く、Cd、亜鉛で低く、水溶態銅は有機物と結合して溶存していることが示唆された。(4)以上のことから、土壌の湛水による水溶態Cd、銅および亜鉛の濃度変動と各元素の溶存形態が明らかにされ、水溶態Cdのイオン形態は陽イオン画分が多く、湛水により溶存濃度は顕著に減少することが示された(櫻井、2001)。
 
 つぎに、全国から入手したCd汚染土壌(黒ボク土3種類、灰色低地土2種類、グライ土1種類)および非汚染土壌を用いて、水稲のポット試験を行い、水管理が玄米中Cd濃度に及ぼす影響について調査した。結果は以下の通りである。(1)水稲の栽培期間中、土壌表面から15cm下に埋設したポーラスカップを用いて経時的に土壌溶液を採取し、Cd濃度を測定した結果、出穂期以降に落水すると、出穂後2週目に土壌溶液中Cd濃度が湛水区の約100倍に上昇し、その後は高い濃度で維持した。(3)出穂後2週間以降の土壌溶液中Cd濃度と収穫期の玄米中Cd濃度の間には高い相関が認められた。この関係は、水管理の違い(常時湛水または出穂期以後落水)や土壌改良資材施用の有無など、異なった処理条件でも成立した。(4)出穂期以後の湛水期間と玄米中Cd濃度の間には逆相関が認められ、湛水期間が長くなるほど玄米中Cd濃度が低下した。湛水期間中は土壌の酸化還元電位が低く保たれ、土壌溶液中Cd濃度が低いレベルに維持されるので、収穫作業等に支障を来さない範囲で出来る限り遅くまで湛水することが望ましい。(5)以上の結果から、土壌溶液中Cd濃度は水管理の違いや土壌改良資材の施用等に敏感に反応して変動すること、および出穂後2週間目以降の土壌溶液中Cd濃度は土壌の種類や栽培条件に関係なく、玄米中Cd濃度と高い相関にあることが明らかになった(櫻井、2003)。
 
(2)ダイズのカドミウム吸収特性の検討
 圃場条件でのダイズによるCdの吸収と蓄積の状況を明らかにするため、Cdの同位体である113Cdを直接土壌中にトレーサーとして投与する新しい試験法が開発された。この試験法を用いた研究の結果、生育前期に吸収されたCdが生殖生長期にダイズ子実へ移行することが明らかにされた(川崎、2002)。
 
 つぎに、ダイズの子実Cd濃度の低い品種系統の選定が行われた。低濃度になるメカニズムが検討され次の結果が得られた。(1)非汚染土壌(圃場)及び汚染土壌で栽培したダイズ品種30品種を比較した結果、子実Cd濃度は品種間で大きく異なった。これを基に遺伝系統が明らかな4品種を選抜した(子実Cd濃度の高い順に品種ABCD)。この濃度順位は、栽培条件や気象条件が異なっても変化せず、遺伝的形質によるものと考えられた。(2)0.1ppmCdを含む水耕液で上記ダイズ4品種を栽培し、器官別のCd濃度を測定したところ、Cd低吸収系統の品種であるCDでは根のCd濃度が高く、茎葉と子実での濃度は低かった。一方、Cd高吸収系統の品種ABでは、逆に根のCd濃度が低く、茎葉と子実での濃度は高かった。このことから、低吸収系統ではCdが根に蓄積し、地上部への移行が妨げられていることが推定された。(3)品種ABCDを台木として低吸収系統の品種Cを接ぎ木すると、ABの台木では品種CCd濃度が子実だけでなく茎葉でも上昇し、さらに生育抑制が観察された。しかし、より低吸収系統の品種Dを台木とすると、品種Cの地上部Cd濃度が一層低下した。すなわち、低吸収系統はCdを根に特異的に蓄積し、地上部への移行を抑制していることが確認できた。(4)0.1ppmCdを含む水耕液で栽培した品種ABCDの根に含まれるCdの形態を逐次抽出した結果、子実Cd濃度の低い品種ほど根細胞壁にCdが強固に結合している傾向を示した。(5)以上の結果から、子実Cd濃度の低い系統は、根の細胞壁にCdが蓄積し、地上部への移行を抑制する機構があり、高い品種はこのような蓄積機構を持たず、Cdをそのまま地上部に移行させていることが明らかとなった。また、これら品種の遺伝系統樹から判断して、根におけるCdの蓄積は遺伝的形質に依存することが推定された(阿江、2003)。
 
(3)肥料由来のカドミウムの作物吸収と耕地への負荷量評価
 肥料に混入して農耕地土壌に負荷されたCdの土壌中における挙動やダイズによる吸収および蓄積を追跡するために113Cd標識肥料のトレーサー実験が行われた。手法と得られた結果を要約すると次のようになる。(1)リン酸液に113Cd(94.8)硝酸溶液を混和後、石灰を加えて反応させ113Cd入りリン酸カルシウムを調製し、これに計算量の硫安と塩化加里、および造粒促進剤のベントナイトを加えて、豆類用(NP2O5K2O=3:1010)と水稲用(NP2O5K2O=101010)113Cd標識化成肥料を試製した。(2)豆類用と水稲用標識肥料中の113Cd含有量は、それぞれ87.8および88.2 mg kg-1とほぼ等しく、全113Cd濃度に対するクエン酸可溶性(水溶性を除く)と水溶性の113Cdの割合は、それぞれ豆類用が77%21%、水稲用が55%44%であり、水稲用の方が水溶性の割合は高かった。(3)豆類用標識肥料400gを観音台黒ボク土壌区(2m×2m)に施肥し、ダイズ品種エンレイを栽培した。収穫時のダイズ各部位の標識Cd量を測定した結果、施用された標識Cd量のうち、わずか0.13%がダイズに吸収され、残りは土壌中に負荷された。ダイズが本標識肥料中から吸収した窒素(N)やリン(P)10%前後なので、Cdの吸収率は、NPに比べて100分の1程度であった。(4)ダイズが1作期中に吸収した全Cdのうち、約11%が肥料由来で、残りは土壌中のCdを吸収していた。これらの結果は、Cd含量の高いリン酸質肥料や汚泥肥料を長期間にわたって連続施用すると、土壌へのCd負荷が汚染レベルに達する可能性を示唆している。(5)作土15cmの深さにおける土壌溶液中の肥料由来Cd濃度は0.013から0.072ng mL-1、また土壌由来Cd濃度は0.06から0.22 ng mL-1の範囲でそれぞれ変動し、前者は後者より常に低く、共に施肥後約1ヶ月で最も高くなった。(6)このように本標識肥料を施用し、土壌溶液中Cdの質量分析を行えば、肥料由来と土壌由来のCdを効率的に分別定量できるので、作物に吸収されやすい肥料由来Cdと土壌由来Cdの栽培期間を通したモニタリングが可能であることを示した(織田、2003)。
 
6.今後の展望
 化学物質に関する研究の方法や進展状況は、分析化学、環境科学、生物学などの周辺研究分野の発展と深くかかわり、さらに、関連法規制の整備や国際的な動きなどに大きく影響を受ける。いずれの場合も、研究の最終目的として当該物質によるリスクの低減を目指しているが、超微量の対象物質が土壌、生物、気象条件などの多種多様な環境要因と複雑に絡み合っているため、研究手法を含め問題解決が困難なことも多い。最後に、農薬、ダイオキシン類、微量元素、Cdなど各種化学物質について、残された研究課題と取り組むべき方向を整理したい。
 
 環境負荷が大きいと指摘されている農薬については、殺菌、殺虫、除草などの効果発現や環境動態に関して多くの研究成果が蓄積されている。近年開発される農薬は、残留性、毒性、選択性(防除対象生物にのみ効果を示すこと)の面で大きく向上し、間違った使用方法でなければ問題を生じることはないと考えられる。しかし、農地で使用された農薬が水系などに拡散することも想定され、そこに生息する各種生物への影響が懸念される。そのため、動態予測モデルを開発して環境中での挙動、濃度変動を予測するとともに、環境生物に対する毒性を解析して当該農薬のリスクを評価することが必須になっている。現在、約550種の物理化学的特性の異なる農薬が使用されており、これらのリスク評価を行うためには、生態系に対する毒性を把握する上で指標となる生物種や生物現象等の的確な選択が重要である。
 
 農業環境に関係するダイオキシン類の研究は、超微量分析法の開発により大きく進展した。農作物への吸収はウリ科を除き極めて少なく、また、土壌中のダイオキシン類は漸減しており、今後、増加する見込みはない。なお、わが国におけるダイオキシン類の摂取量の約70%は魚介類を経由しており、農地土壌の水系流出を防止することが肝要である。土壌凝集剤の現地試験の結果に期待したい。また2001年にダイオキシンを含む12種の有機塩素系化学物質が、ストックホルム条約により残留性有機汚染物質(POPs)に指定された。本条約では、POPsの環境中における動態把握と生態系への影響評価が締結国に課せられており、大気中の動態予測モデルの開発や過去に使用された殺虫剤ディルドリン、アルドリンなどドリン剤の作物吸収抑制および土壌中における分解除去に関する技術開発が求められている。
 
 土壌環境におけるレアメタル等微量元素の挙動に関する研究は緒についた段階であり、理論的解析は十分でない。しかし、今後、ハイテク産業を中心として、微量元素に対する需要は続くことが予測される。質的に新しく、また、動態が未解明の元素が、環境中に排出される事態が増えると考えられ、レアメタル等による土壌汚染の未然防止に向けた管理方法の開発が早急に求められている。この目的を達成するため、微量元素の土壌における天然存在量の把握及び形態変化とその動態、土壌断面における濃度分布、植物による吸収とその生理的影響など多くの問題の解明が必要である。
 
 Cdに加えて、微量元素のうち毒性が問題となる元素として鉛(Pb)ヒ素(As)、水銀(Hg)やスズ(Sn)が今後論議の対象になるであろう。Codex委員会でも、Cdに続きPbAsの国際基準について検討が予定されているようだ。わが国では、厚生労働省が2004年度から5カ年計画で全国の約15千人を対象に食行動を分析し、CdAsHgSnの摂取量調査を開始する予定である。このため、農業分野でも、Cd以外の元素について低減化に向けた研究が緊要となろう。
 
 最後にCdの研究課題についてまとめる。わが国は、世界有数の火山国であり、かっては金属鉱山の数が多かった。このため、Cdなどの重金属で汚染された土壌が各地に点在し、農産物汚染が問題になってきた。最近の食の安全・安心に対する要求に応えて、農産物における各種の重金属問題もリスク評価の対象として取り上げられている。Cdを対象にして、従来から、土壌汚染防止法により汚染地域に指定された圃場では主要対策として客土が行われてきた。しかし、この方法は労力や費用の面、さらに、客土に用いる山土などの確保が困難になってきている。今後は、客土に代わってCdの作物吸収を抑制する技術の開発が重要な研究課題となる。これまで、水稲や大豆でCd吸収をかなり抑制できる技術が開発されつつある。すでに、農業現場における技術実証試験も開始されており、研究発展に対する期待は大きい。
 
 

農業環境技術研究所案内(12):記念碑と記念樹
 
 
 昭和58(1983)年の12月に創立された農業環境技術研究所は、17年と4ヶ月の歳月を経た平成13(2001)年の4月に、装いを新たに独立行政法人農業環境技術研究所として再出発した。これを記念して、研究所の入り口と正面玄関前の中央に記念碑を立て、正面玄関の南東方向に記念樹を植えた。3年の歳月は、記念碑をそれなりに古色蒼然とさせ、記念樹の根を大地に強く張らしめた。記念碑に刻印されたキャッチフレーズと記念樹に込めた想いが、忘却の彼方に去らないようここにその内容を紹介しておく。
 
記念碑とキャッチフレーズ
 筑波山の麓から運び入れた約10トンの花崗岩が、海面と岩に打ち寄せる波を想定した緑なすリュウノヒゲと白い玉石の真ん中に大きな島のように鎮座している。この花崗岩の前面には、環境を研究する人びとの思いが縦書きの惹句(じゃっく:キャッチフレーズ)で力強く刻印されている。
 
風にきく
土にふれる
そして はるかな時をおもい
環境をまもる
 
 「風」は皮膚の触覚によって感じることができる。視覚によって旗の翻るさまからも見ることができる。大地に吸い込まれる風の音は聴覚によっても知ることができる。さらに、運ばれてくる梅の香りによっても知覚される。こうして風は、視覚のみならず他の感覚によっても総合的に知覚される。
 
 「きく」には、「聞く」と「聴く」の漢字を当てることができる。白川静の「字通」によれば、「聞」は、挺立する人の側身形の上に大きな耳をしるす形で、神の啓示するところを求める意である。耳で音や声を感じとる。「聴」は、耳を傾け注意して聞きとる。耳の聡明なことを示す。神の声を聞きうることをいう。「風にきく」とは、すべての五感と英知を持って環境を知ることにある。
 
 「土」はすべての生き物の根元であるとともに、生き物そのものである。「他の萬物を吐生する者なり」と「字通」にもある。生きとし生けるものすべての母でもある。となると、「土にふれる」とはバーチャル(仮想的・虚像の)の対岸にあたることを意味する。体に汗して環境と対面することにある。
 
 風と土が合わさって「風土」と表現されることは重要であって、その地の「紀行と有様」として人間の根元的経験にかかわる内容をもつ。そこには、時間と空間、歴史と文化がある。ここでは省略するが、「風土」は和辻哲郎の「風土−人間的考察−」につながる。
 
 「はるか」は、「遙」と「晴」を充てることができる。白川静の「字訓」によれば、「はるか」は、遠く離れているところ、それを妨げるものがなく、そこまで見通すことのできる状態をいうとある。また、「はるけし」はその形容詞形。「晴る」と同様の語とある。となると、「はるかな時」は何世代も先の未来の人びとの晴れやかな生き様でもある。
 
 「おもい」は様々な漢字を充てることができる。「思」は、千々に思い乱れる。上半分は脳みそを表しており、その下に心がある。このほかにも「おもう」と読む文字は数多くある。「念」は、上の「今」は瓶にふたをするかたちを表しており、心に思いを詰めて深く念じるという意味である。「懐」は、右半分を見ると、上に目があり涙を垂らしている。下の衣は死者の襟元に涙を流す。つまり、死んだ人のことを折に触れてなつかしく懐いだすような場合に使う。「想」は、遠くに離れた人の姿を思い浮かべるときに用いる。「憶」は、神意をはかり悟ることをいう。
 
 「環境をまもる」とは何か。これは人間と自然に関わることである。環境が人間を離れてそれ自体で「守る守らない」が問われているわけではない。両者の関係は、人間が環境をどのように見るか、環境に対してどのような態度をとるか、そして環境を総体としてどのように価値づけるかによって決まる。
 
 すなわち、「環境をまもる」とは人間と自然の間に成立するもので、人間の見方や価値観が色濃く刻み込まれている。だから、人間の文化を離れて「環境をまもる」ことはできない。とすると、環境とは自然であると同時に文化でもある。したがって「環境をまもる」とは、これまで守りきれなかった環境を守るのであるから、これまでのわれわれ自身を変えることにつながる。
 
 われわれ自身を変えるとは何か。われわれが住んでいる地球のあらゆる環境が悪化している現状で、自然に対して倫理観をもつこともその一つであろう。人が人に倫理観をもつと同じように、われわれが土や水や大気や生物にも生存権があることの意識を持たない限り、自然はわれわれに反逆するであろう。
 
 これが記念碑の惹句の説明である。こんな「おもい」で、(独)農業環境技術研究所は再出発したのである。なお研究所の入り口には、「独立行政法人農業環境技術研究所 平成13年4月1日」とのみ記された約18トンの花崗岩が鎮座している。
 
記念樹 
 設立記念にシデコブシとヒトツバタゴを植えた。これらの木々の説明と、農業と環境のかかわりについて紹介する。
 
1.シデコブシMagnolia stellata Maxim
 モクレン科のコブシのコブシ、タムシバ、シデコブシ、オオヤマレンゲをあわせて紹介する。熊本県は後家荘の北隣りの九州山脈の内ふところに、植物の豊富なことで有名な内大臣がある。ここにも、平家の落人の哀しい物語が伝えられている。あの有名な壇ノ浦の敗戦から逃れて、この山奥に安住の地を見いだしたかに思われた平家の落人たちが、早春のある朝、目を覚ましてまわりの山々を見渡すと、無数の源氏の白旗があちこちにはためいていた。落人たちはなすすべもなく、今はこれまでと自刃して相果ててしまった。源氏の白旗と見えたのは、実はコブシの花だったという。平家一門にとっては、恨みのこもったコブシの花であろう。
 
 鹿児島県の大隅町では、「コブシの花が咲くときが甘藷(かんしょ)の床出しの時期」といわれる。栃木県の上都質郡では、コブシはイモウエバナとよばれ、この花が咲くとサトイモの植えつけにかかるという。また、長野県の上高井郡では、「コブシの花時に味噌(みそ)煮りゃしくじりなし」といい、京都府の船井郡でも「コブシの花が咲くようになれば味噌を仕込む」という。東北地方では、コブシはタウチザクラとよばれている。農家が水田を囲むまわりの山々に咲くコブシの花に囲まれて、田打ちをしているのどかな田園風景が連想される。「コブシの花の多い年は豊年だ」ともいわれている。
 
 コブシの和名の語源は拳(こぶし)で、その果実あるいはつぼみの形に由来するという。鳥取県八頭(やず)郡ではコーバシとよぶ。コブシの樹皮の香りに結びついてくる。アイヌ名では、オマウクシニまたはオプケニといい、前者は「いい香りをだす木」、後者は「放屁(ほうひ)する木」の意味である。対照的な名前だが、「いい香りをだす木」というと、病魔が香りにひかれてやってくる恐れがあるため、伝染病が流行しているときなどには「放屁する木」とよんだのである。そういいながらも、この木の皮や枝を煎(せん)じて飲んだという。
 
 コブシM. kobus DC.)は、高さが約18メートル、幹の直径が60センチになる落葉高木で、北海道から九州までの温帯から暖帯に生育し、済州島にも分布する。葉は互生し、倒卵形で長さ6から13センチ、裏面は淡緑色である。3月から5月に、葉が開くのに先だって、枝先に1個の白花を頂生する。花は直径6から10センチ、がく片は3個で小さく、花弁は6個で基部は桃色をおびる。花柄の下には、1個の葉が見える。果実は袋果が集まって、こぶのある不規則な長楕円形をなし、長さは5から10センチ。袋果は裂けて、赤い仮種皮状の外種皮に包まれた種子が白い糸にぶらさがる。
 
 本州中部以北から北海道に産するものは、葉が大きくて長さ10から20センチ、花もやや大きいので、変種としてキタコブシともいうが、明瞭な区別ではない。コブシは観賞用として植えられ、また材は、ホオノキと同じように利用面が多い。
 
 タムシバM. salicifolio Maxim)は、高さが3.4メートル、まれには10メートルにもなる落葉小高木である。本州、四国、九州の温帯山地に分布し、とくに日本海側に多く、関東地方では北部にのみ見られる。葉は披針(ひしん)形から卵状披針形で、長さ6から12センチ、裏面は粉白色で、葉を切ると芳香を発散するのでニオイコブシともいう。花はコブシとほとんど差異がないが、花の時期に花柄の下に葉が見えない。冬眠を終わったクマは、このタムシバの花をむさぼり食う。
 
 日本海側の山地では、タムシバとクスノキ科のオオバクロモジとが混生し、一見まぎらわしい。しかし、タムシバの葉柄のつけ根には、モクレン属の特徴となる茎を一周する托葉痕があるのですぐにわかる。
 
 シデコブシは、高さ5メートル以下の落葉低木で、枝は横にひろがる。葉は広倒披針形または長楕円形で、長さは5から8センチ、裏面は淡緑色である。4月ごろ、葉に先だって花を咲かせ、花は白色または淡紅色で、直径約8センチで芳香がある。がく片と花弁は区別がなく、9から18個。
 
 本州中部の岐阜県、愛知県、長野県の暖帯丘陵にまれに野生し、日当たりのよい湿地を好んで生育する。生育地は、おおむね標高300メートル以下で、それより上部にはタムシバが現れる。小さい木のわりには、たくさんのきれいな花を咲かせるので、広く庭園に植えられ、ヨーロッパやアメリカにも普及している。
 
 現在、シデコブシは道路建設や宅地造成などの開発行為によって絶滅が危惧(きぐ)されている。かつては東濃地域の低湿地帯には多く分布していた。この地方では毎年春になるとシデコブシが花を開くので、農家の人々はそれを合図に苗代の支度を始めるなど、古くから農業と深いかかわりを持っていた。
 
 野生のシデコブシは、わき水に涵養(かんよう)された湿地や池などの周囲といった、非常に限られた環境で生育しているが、庭などに植栽してもよく育つことから、園芸用花木として苗木が広く出回っている。当所でも園芸店からこれを購入した。
 
 低湿地帯は造林地に適さない。こうしたところでは、用材として価値の高いスギやヒノキは育たないので植林が行われない。結果的にシデコブシが生き残ってきた。しかし、シデコブシは雑木として扱われ、薪炭材として利用されてきた。
 
 岐阜県は平成7年12月に、全国で初めて35種の「大気環境推奨木」を選定した。「大気環境推奨木」とは、大気浄化能力の高い樹木を指す。アオギリやオオシマザクラなどとともにシデコブシが指定された。シデコブシは大気浄化能力だけでなく、見た目も美しく鑑賞用としても適していることから、さまざまな施設の敷地や学校の校庭などへ、花木として植栽が薦められている。
 
 このように、近年は野生のシデコブシよりもむしろ植栽シデコブシが、環境浄化や鑑賞用として人々の生活にかかわりを持つようになってきた。シデコブシは「環境の木」といってもいいであろう。
 
 オオヤマレンゲM. sieboldii K. Koch)は、高さが4メートル以下の落葉低木である。葉は倒卵形、長さは7から15センチ、裏面は白緑色で、全面に長い毛が生えている。5、6月ごろ、葉が開いたあとに、細長い花柄のある白花を頂生する。花は香りがよく、横向きまたは下向きに咲き、直径7から10センチ。がく片は3個。淡紅色で、長さは花弁より短い。花弁は倒卵形で、ふつう6個ある。
 
 観賞用花木として植えられるが、天然の生育地は少ない。関東地方以西の本州、四国、九州および朝鮮半島に分布し、温帯の深山に生える。関東地方では、上越の谷川岳、奥秩父の白石山にまれに見られ、中国地方では山口と広島との県境の、寂地山に産するだけである。奈良県の大峰山にはやや多く、大山連花(おおやまれんげ)の大山とは、大峰山を指している。
 
2.ヒトツバタゴChionanthus retusus Lindl. et Paxt.
 モクセイ科に属する。ヒトツバタゴは愛知県から岐阜県の地域に野生するほかは、対馬の北部、朝鮮半島、中国、台湾にあるので、日本では珍木のひとつである。
 
 尾張(愛知県)の本草学者の水谷豊文が江戸時代の末期に発見し、『物品識名拾遺』に記録した。豊文はこの木をトネリコの仲間と判断した。トネリコは方言でタゴノキといわれるので、単葉のタゴ、つまりヒトツバタゴと名づけた。また江戸青山六道の辻の人家(現在は明治神宮外苑内)にこの木が植えられていて、名前がわからぬままにナンジャモンジャとよばれていた。対馬のものは北端の鰐浦で明治の末に発見され、国の天然記念物に指定されている。現地ではウミテラシとよんでいる。
 
 ヒトツバタゴは、高さ25メートルになる落葉高木である。葉は対生し、長楕円形で長さ10センチ。5月に円錐状集散花序に、ややまばらに白い花をつける。雌雄異株で、花冠は4つに深く裂け、裂片は長さ15ミリ前後、果実は10月に黒く熟し、広楕円形で長さ1センチから1.5センチ。庭木として観賞用に植えられるが、花どきはなかなか壮観である。中国では若葉を摘んで茶の代用にする。
 
 ヒトツバタゴ属はこのほか、北アメリカ東部に1種があるだけである。学名のキオナンツスは「雪花」の意味で、花どきの状態をうまく表している。
 
ロゴマーク
 当所のホームページの上段左側のロゴマークをご覧いただきたい。このロゴマークは当所の印刷物などのどこかに表現されている。ロゴマークの背景にある薄青色の部分は空、白い部分は雲あるいは水、緑色の部分は生物をそれぞれ想定している。NIAESという当所の英語名の略称を茶色で描くことによって土を想定している。これらを併せて農業環境研究の対象領域を表している。なお、作者は当所の大野宏之である。
 
キーワード
 研究所のキーワードは、安心safety)、安全security)、制御restraint)、および環境資源の次世代への継承the succession of environmental resources to future generations)である。当所が設立された三年前、これらの言葉は新鮮に感じられた。しかし今、安心と安全という前二つのキーワードは様々なところで使われるようになった。環境問題の重要さが広く浸透してきた証しであろう。まさに今昔の感がある。
 
参考資料
1)字通:白川静著、平凡社(1996)
2)字訓:白川静著、平凡社(1996)
3)風土−人間学的考察−:和辻哲郎著、岩波文庫(1979)
4)環境の哲学:桑子敏雄著、講談社学術文庫(1999)
5)朝日百科、世界の植物18、朝日新聞社(1976)
6)朝日百科、世界の植物74、朝日新聞社(1977)
7)「里山の春を彩るシデコブシ」、岐阜県森林科学研究所(2003)
  http://www.forest.rd.pref.gifu.lg.jp/rd/ikurin/0304gr.html (ページのURLが変更されました。2013年12月)
8)農林水産省農業環境技術研究所 17年の歩み、農業環境技術研究所
  (2000)
 
 

本の紹介 137:Paddy Soil Science, Kazutake KYUMA
Kyoto University Press (2004)
 ISBN 1 920901 00 0
 
 
 水田は、日本人にとって生活の基本である食糧(米)を生産する重要な農地である。また、水田は国土を構成する基本要素のひとつである。さらには、日本民族発祥のころから営々と営まれた生活の基本的な場でもある。そのことは、日本文化の多くがコメと関わっていることからも明らかであろう。
 
 明治になって西洋の近代科学が輸入されようとも、わが国の農業の中心の課題は古くから稲作であったから、農学に関する限り研究の主題は水稲や水田であった。土壌学もその例外ではない。しかし、水田土壌が土壌学の研究の対象として明確なかたちでとりあげられるのは、日本土壌肥料学会が設立された1927年ごろからである。
 
 稲作の大本である水田の土壌学的研究は、戦中および戦後の食糧増産をめざした時期には、脚光を浴びるとともに数多くの成果をあげた。潜在地力の活用、秋落ち水田の解明と対策技術、不良水田土壌の改良、施肥技術の革新など水稲の生産力の向上に大きく貢献したのが、その例であろう。
 
 日本、中国、韓国、タイ、インドネシア、フィリピンなどのアジアの国以外にも、オーストラリア、米国、イタリア、フランス、ブラジルなど世界の至る所に水田は分布している。それにもかかわらず、これまで英文で書かれた水田土壌学の本が出版されていなかったことは、驚きに値する。
 
 これまで筆者の知る限り、水田土壌学に関する重要なには、川口桂三郎編「水田土壌学」:講談社、国際稲研究所編「Soils and Rice」:IRRI、川口桂三郎・久馬一剛著「Paddy Soils in Tropical Asia」、山根一郎編「水田土壌学」:農文協、田淵俊雄著「世界の水田 日本の水田」:農文協および田淵俊雄ほか著「Paddy Fields in the World」:農業土木学会などがある。しかし、かつて英語で書かれた水田土壌学の教科書を知らない。2002年に Marcel Dekker から出版された「Encyclopedia of Soil Science」にも Paddy Soil Science の項はない。ことほど左様にこの本の出版は画期的なものである。
 
 英語で新たに書かれた「Paddy Soil Science」の著者は、すでに「土壌学と考古学」:博友社、「土壌の事典」:朝倉書店、「最新土壌学」:朝倉書店、「土壌薄片記載ハンドブック」監訳:博友社、「熱帯土壌学」:名古屋大学出版会、「新土壌学」:朝倉書店、「代替農業」監訳:自然農法国際研究開発センター、「農業と環境」共著:富民協会などを出版された土壌学の泰斗である。
 
 いずれにしても、「Paddy Soil Science」が日本の土壌学の泰斗によってはじめて書かれたことが何よりもうれしい。長い間学問を深め、教鞭をとり、多くの弟子を育て、東南アジアの水田を知りつくした著者の知識と知恵が、この本のいたるところで散見できる。この本は、国内および国際的な永久保存版となるであろう。目次は以下の通りである。
 
Contents
List of Figures/ List of Tables/ Foreword
Chapter 1: Introduction
Chapter 2: The Environmental Setting of Paddy Soils
Chapter 3: Chemical and Biological Changes of Paddy Soils in the Annual Cycle of Submergence and Drainage
Chapter 4: Fundamental Chemical Reactions in Submerged Paddy Soils
Chapter 5: Fundamental Biological and Biochemical Reactions in Submerged Paddy Soils
Chapter 6: The Solubility and Redox Equilibria of Iron Systems in Submerged Paddy Soils
Chapter 7: Long-Term Chemical and Morphological Changes Induced by Alternating Submergence and Drainage of Paddy Soils
Chapter 8: Fertility Considerations for Paddy Soils (I)General Nutrient Balance and Nitrogen
Chapter 9: Fertility Considerations for Paddy Soils (II)Phosphorus and Other Nutrients
Chapter 10: Fertility Evaluation and Rating of Paddy Soils in Tropical Asia
Chapter 11: Problem Paddy Soils
Chapter 12: The Paddy Soil/Rice System in the Environment
Index
 
 

本の紹介 138:農業生態系における炭素と窒素の循環
独立行政法人農業環境技術研究所編
農業環境研究叢書 第15号(2004)

 
 
 本書は、当所が1986年に刊行を始めた叢書の最新号である。農林水産省農業環境技術研究所が1983年に設立されてから、当所では、その時代に即応した農業と環境にかかわる問題をとりあげ、当所主催の農業環境シンポジウムで問題解決のための検討を行ってきた。その結果をまとめてきたのが農業環境研究叢書である。これまで刊行された叢書については、本書の「序」と「目次」のあとに紹介する。
 
 
 地球が誕生したのは、今から46億年前である。その後、広大無量の時が流れ、地殻圏、大気圏、水圏、生物圏、土壌圏などが分化した後、今から約1万年前に、生物圏から人間圏とでも称されるべき新しい物質圏が誕生した。炭素や窒素は、これらの圏の間をさまざまに形態変化しながら循環し、生態系の中でのバランスを保ってきた。
 
 しかしながら、20世紀半ばからの化石燃料の大量消費、森林破壊、化学肥料のための大気窒素の固定、加えて人口の増加など人間圏の拡大と活発な活動は、圏の間の炭素および窒素のバランスを崩す結果になった。
 
 人間圏の拡大と活動は、例えば大気中の二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など温室効果ガスの急激な濃度上昇に見られるような元素の変動をもたらした。その結果、温暖化に代表される地球規模での環境問題がいたるところで顕在化した。いまや地下水から成層圏に至る生命圏すべての領域が、地球環境変動の脅威にさらされている。
 
 温暖化は、降水量の変化、異常気象の増加、農耕地域の変動、海水面の上昇など地球規模の環境変動を通して、農業生態系を構成する大気、土壌、水、生物などの環境資源の状態や機能、さらには資源間の相互作用にも大きな影響を及ぼし、増加しつつある世界の人口に食料を提供しなければならない命題に大きくかかわっている。
 
 1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットでは、人類の持続的発展のためには地球環境の保全が重要課題との認識から、地球温暖化防止など一連の国際条約が作られた。その後、COP(締結国会議)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などで温暖化防止のための国際的取り組みが強力に進められている。
 
 本書は、上記のような背景のもとに、2001年11月に農業環境技術研究所で開催した農業環境シンポジウム「農業活動と地球規模の炭素及び窒素の循環」の内容をもとにまとめたものである。ここでは、地球規模での循環を踏まえた農業生態系における炭素と窒素の実態、機構、動態、環境影響を明らかにし、その対策技術の開発に向けての課題と展望を探ろうとする。地球環境問題と炭素・窒素の循環とその制御を理解するうえで役立てていただければ幸いである。
 
 最後にシンポジウムでの講演および本書の執筆と編集にご協力いただいた方々に感謝申し上げる。
 
2003年11月
(独)農業環境技術研究所 理事長 陽 捷行
 
目 次
 
1. 農業活動と地球規模の炭素および窒素循環
1.1 はじめに
1.2 ものみなめぐる
1.3 環境中の窒素および炭素の形態変化と循環
(1)窒素 (2)炭素
1.4 人間圏による窒素および炭素循環の変化
(1)窒素 (2)炭素
1.5 窒素・炭素循環の変動がもたらした環境変化
(1)温暖化 (2)対流圏オゾンの生成 (3)酸性雨 (4)成層圏オゾンの破壊
1.6 窒素・炭素が関わる環境問題
(1)外来生物種の侵入 (2)ダイオキシン類 (3)遺伝子組換え作物 (4)その他
1.7 環境を蝕む地球変動の複合作用と窒素および炭素
(1)温暖化+紫外線+窒素・炭素 (2)温暖化+酸性雨+紫外線+対流圏オゾン+窒素・炭素
(3)温暖化+窒素 (4)温暖化+生息地の減少+外来種侵入+窒素・炭素
(5)温暖化+感染症+窒素・炭素 (6)温暖化+森林火災+窒素・炭素
(7)温暖化+水+窒素・炭素 (8)森林伐採+窒素・炭素 (9)外来種侵入+窒素
1.8 おわりに
 
2. 大気観測による炭素循環の研究で何が分かっているか?
2.1 グローバルな理解−緒言にかえて−
2.2 ボトムアップアプローチ
2.3 大気からのグローバルなアプローチ
2.4 大気からの地域的な吸収源分布推定
2.5 今後の課題 
 
3. 大気メタンの動態と水田からのメタン発生
3.1 はじめに  
3.2 大気メタンの動態とその地球温暖化への影響
(1)大気中メタン濃度の変動 (2)地球温暖化への影響
(3)大気メタンの発生源と吸収源 (4)農業活動からのメタン発生
3.3 水田からのメタン発生:メカニズム・制御要因・発生量
(1)メタン発生メカニズム (2)メタン発生パターンとその制御要因
(3)世界のメタン発生量実測値 (4)わが国の水田におけるメタン発生量の推定
3.4 水田からのメタン発生軽減技術
(1)技術開発の基本的考え方 (2)水管理 (3)肥料と資材 (4)有機物管理
(5)不耕起と田畑輪換 (6)品種選抜 (7)メタン発生軽減技術の評価と実用可能性
3.5 おわりに:今後の課題
 
4. 農耕地土壌における炭素動態とモデリングの現状と課題
4.1 はじめに
4.2 炭素動態の実態
4.3 土壌炭素分解速度の変動要因
4.4 モデルの種類と構造・データ
4.5 モデルの妥当性および日本の土壌への適用
4.6 おわりに
 
5. 大気窒素の動態と食糧・農業問題
5.1 はじめに
5.2 窒素の土壌中での循環
5.3 NOの土壌からの発生を促進する諸要因
5.4 わが国における食糧事情・農業とNO
5.5 森林の土地利用変化に伴うNOの発生
5.6 NOの土壌による浄化
 
6. 土壌中の硝酸性窒素移動の時間スケール
6.1 はじめに
6.2 土壌中の窒素の形態変化と硝酸性窒素の移動速度
(1)土壌断面内での窒素の形態変化と硝酸性窒素の移動
(2)硝酸性窒素の移動速度と移動時間
6.3 硝酸性窒素の根群域内滞留時間
(1)硝酸性窒素の溶脱許容量と根群域内滞留時間
(2)根群域内滞留時間に影響する土壌要因
6.4 溶脱した硝酸性窒素の地下水到達時間と地下水中の移動時間
(1)地下水到達過程での脱窒による硝酸性窒素の除去
(2)黒ボク土畑の浅層地下水の流速と移動時間
6.5 おわりに
 
資料:世界の環境問題と国内の農業環境問題の流れ
 
 なお、これまで発行された農業環境研究叢書は以下の通りである。
 
第1号 農・林・水生態系へのアプローチ 1986年
第2号 環境中の物質循環 1987年
第3号 農林水産業における環境影響評価 1988年
第4号 農業環境を構成する生物群の相互作用とその利用技術 1989年
第5号 微量元素・化学物質と農業生態系 1990年
第6号 環境インパクトと農林生態系 1990年
第7号 地球環境と農林業 1991年
第8号 農村環境とビオトープ 1993年
第9号 農林水産業と環境保全−持続的発展を目指して− 1995年
10 水田生態系における生物多様性 1998年
11 21世紀の食料確保と農業環境 1998年
12 農業におけるライフサイクルアセスメント 2000年
13 農業を軸とした有機性資源の循環利用の展望 2000年
14 遺伝子組換え作物の生態系への影響評価 2003年
15 農業生態系における炭素と窒素の循環 2004年
 
 

環境被害の防止および修復についての環境責任に関する
欧州議会と理事会の指令を採択することを目指して
理事会が採択した2003年9月18日の共通の立場
(EC)No58/2003 −その1−

 
 
 欧州連合理事会は、環境被害の防止および修復についての環境責任に関する欧州議会と理事会の指令を採択することを目指して2003918日の共通の立場(ECNo58/2003を採択した。
 ここでは欧州官報に掲載された文書C 277E20031118日、1030ページ)、"Common position (EC) No 58/2003 adopted by the Council on 18 September 2003 with a view to the adoption of a Directive 2003/.../EC of the European Parliament and of the Council of ... on environmental liability with regard to the prevention and remedying of environmental damage (2003/C 277 E/02) "
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:C:2003:277E:0010:0030:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
を仮訳した。今回は本文部分を紹介し、次回は本指令の附則ならびに理事会の論拠声明を紹介する。仮訳するに当たって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらの資料の中から、いくつかの資料を番号(1)2)・・・)を付けて、掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 なお本文書に関連する文書「環境被害の防止と修復に関する環境責任に関する欧州議会と欧州理事会の指令案(http://europa.eu.int/eur-lex/en/com/pdf/2002/en_502PC0017.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月))」を仮訳し、「情報:農業と環境」の第25号(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn025.html#02509)、第26号(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn026.html#02602)および第27号(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn027.html#02706)に掲載してあるので、参照していただきたい。また、EUの環境政策は、原則として共同決定手続に基づき決定されるが、この検討過程に共通の立場が位置づけられており、この検討手順については、「情報:農業と環境」の第42号 (遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する欧州議会と理事会の規則提案に対する理事会の共通の立場)に掲載されているので参照いただきたい(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn042.html#04210)。
 
官報C 277E20031118日、1030ページ)
環境被害の防止および修復についての環境責任
*1に関する...の
欧州議会と理事会の指令
2003/.../ECを採択することを目指して
理事会が採択した
2003918日の共通の立場(ECNo58/2003
(2003/C 277 E/02)
 
欧州議会と欧州連合理事会は、
 
欧州共同体設立条約、とくに第175(1)に留意し、
 
欧州委員会による提案に留意し(1)
 
欧州経済社会評議会の意見(2)に留意し、
 
地域委員会に意見を聞いたあとに、
 
欧州共同体設立条約の第251条に定める手順に従って行動し(3)
 
以下のことに鑑み:
 

(1)欧州官報 C151E2002625日、132ページ。
(2)欧州官報 C 2412002107日、162ページ。
(3)2003514日の欧州議会の意見(官報に未掲載)。
    2003918日の理事会の共通の立場との欧州議会の決定(官報に未掲載)。

*1: http://www.jmf.or.jp/japanese/wold_topic/EU/eu1_4_4.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/conservation/news/03051501.htm

 
(1)欧州共同体には汚染された場所が現在、数多くあり、健康に重大なリスク*1を引き起こし、しかも生物多様性の減少がこの数10年間で急速に速まった。行動しなければ、将来、汚染箇所が増加し、生物多様性の減少がさらに大きくなるであろう。環境被害を可能な限り、防止および修復することは、欧州共同体設立条約に示した欧州共同体の環境政策の目的と原則を実施することに貢献する。被害の修復方法を決定する場合、現地の条件を考慮に入れるべきである。
 

*1: http://www.oita-nhs.ac.jp/~risk_term/b-env.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
(2)環境被害の防止および修復は、欧州共同体設立条約に明示した「汚染者負担」の原則*1の推進および持続可能な開発の原則に沿って実施されるべきである。したがって、事業者等が金融負債にさらされるのを減らすように環境被害のリスク*2を最小にする措置を採用し、そのやり方を開発するように事業者等を説得するために、環境被害もしくはこの被害の差し迫った脅威*3を引き起こした事業者が財政的に法的責任を負わなければならないということを本指令の基本的原則にすべきである。
 

*1: http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%B1%F8%C0%F7%BC%D4%C9%E9%C3%B4%B8%B6%C2%A7 (最新のURLに修正しました。2010年5月)
    http://www.asahi-net.or.jp/~DH1F-MYS/kan/00p/ppp.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.isms.jipdec.jp/doc/uguide/05dif.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     3.2 リスクマネジメントを参照
    http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2002/020404.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.oita-nhs.ac.jp/~risk_term/b-env.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.microsoft.com/japan/technet/treeview/default.asp?url=/japan/technet/security/prodtech/win2000/secwin2k/02defsls.asp (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の脅威の分析の項参照
    http://www.isaca-osaka.org/sin01230.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
(3)本指令の目的、すなわち社会的に納得のいく費用で環境被害の防止と修復の共通の枠組みを確立するためには、加盟国では十分に達成することができず、そのため、本指令の適用規模の理由から、欧州共同体レベルおよびその他の欧州共同体法規、すなわち野生鳥類の保全に関する197942日の理事会指令79/409/EEC(4)*1、自然の生息地*2と野生動植物種の保全に関する1992521日の理事会指令92/43/EEC(5)*3、および水政策分野の欧州共同体の行動の枠組みを確立する欧州議会と理事会の20001023日の指令2000/60/EC(6)*4の方が目的をよく達成できるので、欧州共同体は欧州共同体設立条約の第5条に定める補完性の原則*5に従って措置を採用することができる。均衡性の原則*6に従って、この条項で定められているように、本指令ではその目的を達成するために必要不可欠なこと以上のことを行わない。
 

(4)欧州官報 L 1031979425日、1ページ。規則(EC807/2003(欧州官報 L 12216.5.2003516日、36ページ)によって最後に修正された指令。
(5)欧州官報 L 2061992722日、7ページ。指令97/62/EC(欧州官報 L 3058.11.1997118日、42ページ)によって最後に修正され指令。
(6)欧州官報 L 32720001222日、1ページ。決定2455/2001/ECOJ L 33115.12.20011ページ)によって最後に修正された指令。

*1: http://www.ecnc.nl/doc/europe/legislat/habidire.html  (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の定義第1条参照
    http://www.alive-net.net/law/wlaw-EU-zoo.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.ecnc.nl/doc/europe/legislat/habidire.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の定義第1条参照
    http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2001/bio-div-j.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     第2条参照
*3: http://www.env.go.jp/council/13wild/y132-09/ref_01_12.pdf
    http://www.envix.co.jp/ecofigure.html
*4: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_01/01_01/01_16_01_eu.html
    http://www.jmf.or.jp/japanese/wold_topic/EU/eu1_4_3.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.wec.or.jp/center/jyouhou/ronbun/H14syohou/pdf/h14_2-01.pdf (対応するページが見つかりません。2011年1月)
*5: http://www.geocities.co.jp/CollegeLife/4959/hokanseigensoku.html.html
    http://www.yorozubp.com/9809/980927.htm (対応するページが見つかりません。2014年10月)
*6: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/eu/eu_com2000.html 
     #6.3.1.均衡性

 
(4)環境被害には、空気で運ばれる成分が水、土地、保護種や自然の生息地に与える被害の原因となる限り、これらの成分に起因する被害も含まれる。
 
(5)とくに環境被害の定義について言えば、本指令によって与えられた計画の正確な解釈と適用に役立つ概念が定義されなければならない。問題となる概念が他の関連の欧州共同体法規に基づく場合は、共通の基準を使用し、一律の適用を促すために、同一の定義を使うべきである。
 
(6)保護種と自然の生息地は、自然の保全に関する国内法令に従って、保護される種と生息地を参照して定義してもよい。しかしながら、欧州共同体法規もしくはそれに相当する国内法令が環境に与える保護水準から多少の適用除外を認める場合は、個別の状況を考慮に入れるべきである。
 
(7)本指令で定義した土地に与える被害を評価するために、人の健康にどの程度、悪影響がありそうかを決定するリスク評価手順を使用することが望ましい。
 
(8)本指令は、環境被害に関する限り、人の健康または環境リスクが存在する業務活動に適用すべきである。これらの活動は、原則として、人の健康または環境に潜在的または実際のリスクをもたらすと考えられるある種の活動もしくはやり方に関する規制要件を規定する関連の欧州共同体法規を参照して特定すべきである。
 
(9)本指令は、保護種と自然の生息地に与える被害に関して、人の健康または環境に実際もしくは潜在的なリスクを引き起しているとき、欧州共同体法規を参照して、すでに直接もしくは間接に特定されるもの以外のすべての業務活動にも適用すべきである。このような場合、事業者に過失もしくは不注意がある場合はいつでも事業者が、本指令に基づいてもっぱら責任を負うべきである。
 
10)欧州原子力共同体条約および関連する国際条約を明確に考慮すべきであり、また本指令の範囲に該当する活動のいずれの業務も、より包括的にしかもより厳しく規制している欧州共同体法規を明確に考慮すべきである。本指令が所管官庁の権限を明記する場合、法の抵触についての新たな規則を規定せず、とりわけ、本指令は民事および商事の事件における裁判管轄、裁判の承認および執行に関する20001222日の理事会規則(EC44/2001に定めた裁判所の国際司法権に関する規定を損なうものではない(7)。本指令は国防または国際安全保障に貢献することが主要な目的の活動には適用すべきではない。
 

(7)欧州官報 L 122001116日、1ページ。

 
11)本指令は、環境被害を防止し、修復することを目指し、民事責任を規制しているすべての関連国際協定に従って承認された従前の被害補償の権限に影響を与えない。
 
12)加盟国は個別分野について民事責任を扱っている国際協定の当事者であることが多い。これらの加盟国は、本指令の発効後も、とどまることが可能でなければならないが、他の加盟国がこれらの協定の当事者になる自由も失うべきではない。
 
13)すべての種類の環境被害が、この責任メカニズム*1を用いて修復できるとは限らない。責任メカニズムが有効であるためには、特定可能な汚染者が一人または複数、必要であり、被害は具体的で、量的に表されなければならない、しかも因果関係が被害と特定した汚染者の間で確認されていなければならない。したがって、ある個別の関係者の行為を実行したか、実行しなかったかが環境に悪い影響を与えることに結びつかない場合、責任メカニズムは、広範囲にわたる拡散する性質をもつ汚染を扱うには適切な手段ではない。
 

*1: http://www.sof.or.jp/jp/forum/pdf/01_02.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月)   のp.7の33を参照

 
14)本指令は、身体障害事故、個人財産についての損害またはいかなる経済的損失に適用せず、しかもこの種の被害に関していかなる権利にも影響しない。
 
15)環境被害の防止と修復は、欧州共同体が環境政策の仕事を直接、与えているので、公的機関は、本指令によって定められた公共計画の適切な履行と施行を確実に行うべきである。
 
16)環境を回復するには、関連の回復目的を達成することを確実にする効果的な方法で行うべきである。そのために共通の枠組みを定めるべきであり、所管官庁がその適切な適用を監督すべきである。
 
17)所管官庁が必要な修復措置をすべて同時にとることができないような環境被害が複数、発生した場合に対して、適切な規定を設けるべきである。このような場合、所管官庁はどの環境被害を最初に修復すべきであるかを決定する権限が与えられなければならない。
 
18)「汚染者負担」の原則に従って、環境被害を引き起こしている、またはこの被害の差し迫った脅威を発生させている事業者は、原則として、必要な防止もしくは修復の措置の費用を負担しなければならない。事業者の代わりに、所管官庁がみずから、もしくは第三者を通して行う場合、所管官庁は、それに要した費用を事業者から回収することを確実にすべきである。これらの事業者はまた環境被害を評価する費用および事情に応じて、この被害発生の差し迫った脅威を評価する費用も最終的に負担するのがよい。
 
19)加盟国は、回収すべき管理費用、法的費用、施行費用およびそのほか一般費用の定額料金の計算を定めることができる。
 
20)問題の被害もしくはその差し迫った脅威が、事業者にはどうにもならないある事象の結果*1である場合、本指令に従って取った防止もしくは修復の処置費を負担することを事業者に要求すべきではない。加盟国は、問題の被害が明確に認められた排出もしくは事象の結果の場合、あるいは事象もしくは排出が行われた際に被害の可能性を知ることができなかった場合、過失もしくは不注意がない事業者は修復措置の費用を負担しないことを認めることができる。
 

*1: http://www.isms.jipdec.jp/doc/uguide/05dif.pdf (対応するページが見つかりません。2011年1月)
     3.2 リスクマネジメントとはを参照

 
21)事業者の活動を規制する法律、規制および行政上の規定または許可もしくは認可の条項に従うために、防止措置を当然のこととして取らなければならなかった場合、事業者は防止措置に関する費用を負担すべきである。
 
22)加盟国は、複数の関係者が原因である場合の費用配分に適用する国内規則を制定することができる。製品の使用者がそのような製品を生産しているときと同じ条件で、環境被害の責任を取らなくてもよい場合、加盟国は、とくに製品の使用者の特定の状況を考慮することができる。この場合、責任の割当ては、国内の法令に従って決定されなければならない。
 
23)所管官庁は、それらの措置が完了した日から適正な期間内に事業者から防止もしくは修復の措置の費用を回収する権限が与えられなければならない。
 
24)実施および施行の有効な手段が利用できるようにすることが必要であり、同時に関連事業者とその他の利害関係者の合法的利益が適切に保護されるようにすることが必要である。所管官庁は、適切な行政上の判断を要する特定の作業、すなわち被害の重大さを評価し、どの修復措置をとらなければならないかを決定するための仕事を担当すべきである。
 
25)環境被害によって悪影響を被ったまたは悪影響を被りそうな者*1は、処置を取ることを所管官庁に要求する権利が与えられるべきである。けれども、環境保護には広汎な関係者がおり、個人個人はその代表として必ずしも行動しない、もしくは行動する立場にないであろう。そのために、本指令を効果的に実施するために、適切に貢献する機会を環境保護を進めている非政府組織にも与えなければならない。
 

*1: http://www.meti.go.jp/policy/closed_loop/laws/basel/H15basel/H15basel_eng_ja.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     の第2条の14参照

 
26)関係する自然人または法人は、所管官庁が決定、実施あるいは不履行についての審査の手続きを行わなければならない。
 
27)加盟国は、本指令の基づいて金融債務に有効な担保を準備するために、適切なあらゆる保険もしくは資金保障のその他の方式を事業者が利用すること、および資金保障手段と市場の開発を促進するための措置を取るべきである。
 
28)環境被害が複数の加盟国に影響を及ぼしているまたは影響を及ぼしそうな場合、これらの加盟国は、あらゆる環境被害について適切で効果的な防止もしくは修復の処置を確保するために協力すべきである。加盟国は、防止もしくは修復の処置費の回収を要求することができる。
 
29)本指令は、加盟国が環境被害の防止および修復に関するさらに厳しい規定を維持し、または立法化することを妨げるべきではない;また、本指令に基づいて、所管官庁と環境被害によって所有地に影響を受けた者が、同時に行われる処置の結果として、二重に費用を回収する可能性がある場合、適切な措置を加盟国が採用することを妨げるべきでない。
 
30)本指令の実施日以前に起きた被害には、この規定を適用すべきではない。
 
31)加盟国は、委員会が持続可能な開発と環境に対する将来のリスクの影響を考慮し、本指令の審査が適切であるかどうかを考慮できるように、指令の適用の際に得られた経験を委員会に報告しなければならない。
 
本指令を採択した:
 
第1条
目的
 
本指令の目的は、環境被害を防止、修復するために、「汚染者負担」の原則に基礎をおいて環境責任の枠組みを確立することにある。
 
第2条
定義
 
本指令の目的のために、次の定義を適用するものとする:
 
1)「環境被害」とは:
 
(a)保護種と自然の生息地に与える被害、すなわち生息地または種の好適な保全状態に達することもしくは維持することに重大な悪影響があるすべての被害をいう。このような影響が重大である場合には、附則Iで示した判定基準を考慮に入れて、ベースラインの状態について評価されなければならない;指令92/43/EECの第6条の第3項および第4項または第16条、あるいは指令79/409/EECの第9条の実施規定に従うか、または欧州共同体法が適用されない生息地と種の場合には、自然の保全に関する国内法令の同等の規定に従って、関連する公的機関が特に許可した行為で、事業者によるその行為に起因し、これまでに特定された悪影響は、保護種と自然の生息地に与える被害に含まれない。
 
(b)水に与える被害、これは指令2000/60/ECで規定したように、本指令の第4条第7項が適用される悪影響を除く水の生態的状況、化学的状況および/または量的状況および/または生態的な可能性に重大な悪影響を及ぼす被害であり;
 
(c)土地に与える被害、これは物質、製剤、生物、微生物を土中、地上または地下に直接または間接的に持ち込んだ結果、人の健康に悪影響のある、重大なリスクを発生する土地汚染である;
 
2)「被害」とは、自然資源の測定可能な悪化、あるいは直接もしくは間接的に生じるかもしれない自然資源のサービスの測定可能な損傷をいう;
 
3)「保護種と自然の生息地」とは:
 
(a)指令79/409/EECの第4条第2項で言及した、もしくは附則Iに載せた、または指令92/43/EECの附則書IIIVに載せた種をいう;
 
(b)指令79/409/EECの第4条第2で言及した、または同指令の附則Iに載せたもしくは指令92/43/EECの附則IIに載せた種の生息地と、指令92/43/EECの附則Iに載せた自然の生息地および指令92/43/EECの附則IVに載せた種の繁殖地または休息地をいう;
 
(c)加盟国が決定する場合も、加盟国がこれらの二つの指令で定めたのと同等の目的を示し、これらの附則に記載されていないすべての生息地または種をいう;
 
4)「保全状態」とは:
(a)自然の生息地に関しては、自然の生息地とその生息地の代表的な種が受けている影響の総体をいう。その保全状態は自然の生息地の長期的な自然の分布、構造、機能だけでなく、場合により、欧州共同体設立条約が適用される加盟国の欧州領域もしくは加盟国の領域またはその生息地の自然の分布域内で代表的な種の長期的な生存にもまた影響を及ぼす可能性がある;
 
自然の生息地の保全状態は次の場合に「良好」とみなす:
 
その生息地の自然の分布域とこの分布域内にある地域が安定もしくは拡大しているとき、
 
長期的に維持することが必要な特別の構造と機能が存在し、しかも当分、存続する見込みのあるとき、
 
−(b)に定義されるように、その代表的な種の保全状態が良好な場合;
 
(b)種に関しては、関係する種に及ぼす影響の総体をいう。その保全状態は、場合により、欧州設立条約が適用される加盟国の欧州領域もしくは加盟国の領域またはその種の自然の分布域内の、その個体群の長期的な分布と豊富さに影響する可能性がある;
 
ある種の保全状態は、次の場合に「良好」とみなす:
 
ある種の個体群動態のデータがその種の自然の生息地の存続に適した構成要素として長期的にその種を維持していることを示しているとき、
 
種の自然の分布域が減少せず、また近い将来に減少する可能性もないとき
 
長期的にその個体群を維持するために十分な大きさの生息地であり、しかも、それがおそらく持続されるとき;
 
5)「水」とは、指令2000/60/ECで適用される水のすべてをいう;
 
6)「事業者」とは、業務活動を経営もしくは管理しているすべての自然人もしくは法人、私人*1もしくは公人*2、あるいは国内法で規定されている場合、業務活動を許可もしくは認可の保有者またはそのような活動を登録する人もしくは通知する人など、業務活動の法律上の職務にわたって決定的な経済的権限を委任されているすべての自然人もしくは法人、私人*1もしくは公人*2をいう;
 

*1: http://www.jcl.gr.jp/cgi-bin/serch_txt.cgi?03 (対応するページが見つかりません。2014年10月)     民事手続き
*2: http://www.mars.dti.ne.jp/~takumin/Torts.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)    Defamation(名誉毀損)の項

 
7)「業務活動」とは、私的か公的か、営利か非営利かに関係なく、経済活動、ビジネスまたは仕事の間に行われる活動をいう;
 
8)「排出」とは、人間の活動の結果として、物質、製剤、生物または微生物を環境に放出することをいう;
 
9)「被害の差し迫った脅威」とは、環境被害が近い将来、生じるという十分な可能性をいう;
 
10)「防止措置」とは、その被害を防止または最小限にする目的で、環境被害の差し迫った脅威を起こした事象、行為もしくは不行為に対応してとるすべての措置をいう;
 
11)「修復措置」とは、被害を受けた自然の資源および/または損なわれたサービスを回復、修復または取り替えるための、または附則IIで想定されたように、それらの資源もしくはサービスと同等の代替物を提供するための軽減措置もしくは暫定的措置を含むあらゆる処置もしくは処置の組合せをいう;
 
12)「自然の資源」とは、保護種と自然の生息地、水および土地をいう;
 
13)「サービス」および「自然の資源のサービス」とは、その他の自然の資源あるいは社会のために自然の資源によってなされた機能をいう;
 
14)「ベースラインの状態」とは、利用可能な最良の情報に基づいて推定された、環境被害が生じなかった場合に存在したであろう自然の資源とサービスについてのその当時の被害の状態をいう;
 
15)「回復」、「自然の回復」とは水、保護種および自然の生息地の場合では、被害を受けた自然の資源および/または損なわれたサービスをベースラインの状態に戻すことをいう。土地に与える被害の場合は、人の健康に悪影響を及ぼす重大なあらゆるリスクを除去することをいう;
 
16)「費用」とは、本指令を適正かつ効果的に実施するため、その必要性が十分に正当化される費用をいい、これらの費用には管理経費、法定費用、施行経費、情報収集経費、その他の一般経費、モニタリング経費および監督経費はもちろん環境被害、この被害の差し迫った脅威、処置のための代替技術を評価する経費などが含まれる。
 
第3条
範囲
 
1. 本指令は次のことに適用するものとする
 
(a)附則IIIに記載された業務活動のいずれかに起因する環境被害、およびこれらの活動のいずれかの理由で生じるこの被害の差し迫った脅威;
 
(b)事業者の過失もしくは不注意があったときはいつでも、附則IIIに記載された以外のあらゆる業務活動に起因する保護種と自然の生息地の被害およびこらの活動のいずれかの理由で生じるこの被害の差し迫った脅威。
 
2. 本指令の範囲の中に該当する活動のいずれかの業務を規制する、より厳しい欧州共同体法規を侵害することなく、しかも司法権の抵触に関する規則を含む欧州共同体法を侵害することなく、本指令を適用しなければならない。
 
3. 関連する国内法令を侵害せずに、本指令は、環境被害の結果もしくはこの被害の差し迫った脅威の結果として、損害賠償の権利を私的な当事者に与えることはない。
 
第4条
除外条項
 
1. 本指令は、次のことに起因する環境被害またはこの被害の差し迫った脅威に適用してはならない:
 
(a)武力紛争の行為、戦闘行為、内乱もしくは暴動;
 
(b)異常な、避けられない、そして抵抗できない特性をもつ自然現象。
 
2. 本指令は、責任または補償が附則IVに記載された関係加盟国で施行されている国際条約および将来、その改正を含む、これらの何れかに該当する偶発事象*1から生じる、環境被害もしくはその被害の差し迫った脅威に適用してはならない。
 
3. 本指令は、将来の条約改正を含む、1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(LLMC*2または、将来の条約改正を含む、1988年の内国航行の責任の制限に関するストラスブール条約(CLNI)を実施する国内法令に従って、事業者責任を制限する権利を侵害してなならない。
 

*1: http://www.nurse.or.jp/anzen/risk-guide/guideline/jikotaiou/04_05yougokaisetu.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://nsdel.tokai.jaeri.go.jp/ines/FIG1.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.nurse.or.jp/tools/support/risk/risk_2.html#risk_2_002偶発事象
*2: http://www.jsanet.or.jp/glossary/wording_txt2_l.html#6 (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
4. 核のリスクまたは欧州原子力共同体を設立する条約の対象となる活動に起因する、あるいは責任または補償が附則Vに記載された国際条約および将来、その改正を含む、これらの何れかに該当する偶発事象または活動に起因する環境被害またはそのような被害の差し迫った脅威に本指令を適用してはならない。
 
5. 本指令は、被害と個々の事業者の活動の因果関係を証明することが可能な場合に、拡散する性質がある汚染に起因する環境被害またはその被害の差し迫った脅威にもっぱら適用するもとする。
 
6. 本指令は国防または国際安全保障に貢献することが主要目的の活動に適用してはならないし、自然災害から保護することだけの目的の活動にも適用してはならない。
 
第5条
防止処置
 
1. 環境被害はまだ生じていないが、その被害が生じる差し迫った脅威がある場合は、事業者は遅滞なく、必要な防止措置をとらなければならない。
 
2. 加盟国は、適切な場合には、いかなる事情にせよ、環境被害の差し迫った脅威が事業者が行った防止措置にもかかわらず取り除かれないときはかならず、これらの事業者は所管官庁に事態に関連する局面をできるだけ速やかにすべて通知する義務があることを規定しなければならない。
 
3. 所管官庁は いつでも、:
 
(a)環境被害のあらゆる差し迫った脅威に関する情報を提供することを事業者に要求するか、またはそのような脅威が疑われた場合には;
 
(b)必要な防止措置をとることを事業者に要求し;
 
(c)必要なとるべき防止措置に関して、適用すべき事業者に指示を与え;
 
(d)あるいは、所管官庁みずからが必要な防止措置をとることができる。
 
4. 所管官庁は、事業者が防止措置を取ることを要求しなければならない。事業者が第1項または第3項(b)または(c)で定めた義務に従うことができない場合、事業者が特定できない場合、あるいは本指令に基づいて費用を負担することが求められない場合、所管官庁は、これらの措置をみずから行うことができる。
 
第6条
修復処置
 
1. 環境被害が生じた場合、
事業者は、遅滞なく、所管官庁にその事態に関連する局面をすべて通知し、
 
(a)さらなる環境被害と人の健康に悪影響を及ぼすこと、もしくはサービスがさらに損なわれることを制限もしくは防止するために、関連する汚染物質および/またはその他のすべての被害要因を直ちに規制し、封じ込め、除去あるいは、その逆に管理するための実行可能なあらゆる手段を取り、しかも
 
(b)第7条に準拠した必要な修復措置を取らなければならない。
 
2. 所管官庁は、いつでも次のことができる:
 
(a)生じた被害に関する追加情報を提供することを事業者に要求すること;
 
(b)さらなる環境被害と人の健康に悪影響およぼすこと、もしくはサービスがさらに損なわれることを制限または防止するために、関連する汚染物質および/または他のすべての被害要素を直ちに規制、封じ込め、除去あるいは、その逆に管理するための実行可能なあらゆる手段を取ることを事業者に義務づけるか、または関係する事業者に指示を与えることを行うこと、
 
(c)必要な修復措置を取ることを事業者に求めること;
 
(d)必要なとるべき修復措置を適用すべき事業者に指示を与えることができる;または
 
e)必要な修復措置をみずから取ることができる。
 
3. 所管官庁は、事業者が修復措置をとることを要求しなけらばならない。事業者が第1項または第2項の(b)、(c)または(d)で定めた義務に従うことができない場合、事業者が特定できない場合、あるいは本指令に基づいて費用を負担することが求められない場合、所管官庁が、これらの措置をみずからとることができる。
 
第7条
修復措置の決定
 
1. 所管官庁が第6条第2項(e)および第3項に基づいて処置を取らなければ、事業者は附則IIに従って、可能な修復措置を特定し、許可を得るために所管官庁にその措置を提出しなければならない。
 
2. 所管官庁はどの修復措置を附則IIに従って、必要に応じて、関係の事業者の協力によって実施するかを決定しなければならない。
 
3. 所管官庁が必要な修復措置を同時に取ることができないような環境被害が複数例、発生した場合、所管官庁にはどの環境被害を最初に修復しなければならないかを決定する権限が与えられなければならない。それを決定をする際に、所管官庁は、とりわけ、関係のある環境被害の様々な事例の性質、程度と重大性および自然の回復の見込みを評価しなければならない。人の健康へのリスクも考慮しなければならない。
 
4. 所管官庁は、第12条第1項に記した者および修復措置が実施される土地に関して所有者の意見を提出することを、いかなる事情にせよ、所有者に要請し、彼らの意見を考慮しなければならない。
 
第8条
防止および修復の費用
 
1. 事業者は、本指令に従って、防止もしくは修復の処置費を負担しなければならない。
 
2. 第3項および第4項に従い、所管官庁はその被害または被害の差し迫った脅威を引き起こした事業者から、とりわけ所有地もしくは他の適切な担保物以上の保証によって、本指令に基づいて行った防止もしくは修復の処置で負った費用を回収しなければならない。けれども、回収を行うために必要な費用が回収可能な総額より大きい場合、あるいは事業者を特定できない場合、所管官庁は費用を完全に回収しないことを決定することができる。
 
3. 環境被害もしくはその被害の差し迫った脅威について、以下のことを証明することができる場合、本指令に従って行う防止もしくは修復の処置費の負担を事業者に求めてはならない:
 
(a)第三者が原因であり、該当する安全措置が適切であったという事実にもかかわらず発生したこと;または
 
(b)事業者自身の行為に起因する排出または偶発事象の結果生じた命令や指示でなく、公的機関から出された強制的な命令もしくは指示の遵守の結果として起こったこと。
 
このような場合、加盟国は、負った費用を事業者が回収することを可能するために適切な措置をとらなければならない。
 
4. 事業者に過失もしくは不注意がなく、しかも次のことによって環境被害が起きたことを事業者が証明する場合、加盟国は、本指令に従って行った修復の処置費を事業者が負担しないことを認めることができる:
 
(a)排出もしくは事象のその日に適用された附則IIIに定めた欧州共同体によって採択された法的措置を実行するのに適用可能な国内法令および規則に従って授与された、もしくはそれらに従って与えられた許可条件に十分に従って特に許可された排出もしくは事象;
 
(b)事業者が証明する活動中の排出、または活動、または製品を使用するあらゆる方法が排出または活動を行ったその当時の科学技術的な知識の状況から、環境被害の原因となることがおそらく考えられなかった場合。
 
5. 第5条第3項および第4項、第6条第2項および第3項に従って、所管官庁が取る措置は、本指令に従って関連する事業者の責任を侵害してはならず、しかもEC条約の第8788条を侵害してはならない。
 
第9条
複数の関係者に原因がある場合の費用の割当て
 
本指令は、複数の関係者が原因となった場合の費用の割当て、とくに製品の生産者と使用者の間の責任の分担に関する国内規則のすべての規定を侵害しない。
 
10
費用の回収期限
 
所管官庁には、被害または被害の差し迫った脅威を引き起こした事業者または、適切であれば、第三者に対して、本指令に従って取ったすべての措置に関する費用をこれらの措置を完了した日あるいは法的責任がある事業者または第三者が特定された日のいずれか遅い日から5年以内に回収する手続きを始めるための権限が与えられなければならない。
 
11
所管官庁
 
1. 加盟国は、本指令で定めた義務を果たす責任のある一つまたは複数の所管官庁を指定しなければならない。
 
2. どの事業者が被害または被害の差し迫った脅威を引き起こしたかを証明し、被害の重大性を評価し、どの修復措置を附則IIを基準にしてとるべきであるかを決定する任務は、所管官庁にあるものとする。その趣旨で、所管官庁は、関連する事業者に自己評価を実施し、必要な情報とデータを提供することを要求する権限が与えられなければならない。
 
3. 加盟国は、所管官庁が第三者に必要な防止もしくは修復の措置を実施する権限を与えるか、または要求することができることを保証しなければならない。
 
4. 防止もしくは修復の措置を課すことを本指令に従って行った決定は、その根拠となる厳密な理由を述べなければならない。このような決定は、関係する事業者にただちに通知し、同時に、関係のある加盟国が施行する法律に従って事業者が使用可能な法定の修復措置および修復に必要とする期限を知らせなければならない。
 
12
処置の申請
 
1. 下記の自然人または法人*1、すなわち:
 
(a) 環境被害によって影響された、もしくは影響されそうな、または
 
(b) 被害に関係する環境政策決定に十分な関係がある、もしくは
 
(c) 加盟国の行政手続上の法律が前提条件として事業の申請を義務づけている場合、権利を損なうことを主張している、
 
これらの自然人または法人には、認識している環境被害もしくはその被害の差し迫った脅威の実例に関係するすべての意見を所管官庁に提出する権利、および本指令のもとに処置を取ることを所管官庁に請求する権利が与えられなければならない。
 
何が「十分な関係」および「権利を損なうこと」であるかは、加盟国が決定しなければならない。
 
このために、環境保護を促進し、かつ国内法令のもとにすべての要件を満している非政府組織の関係は、(b)の目的にとって十分とみなさなければならない。このような組織は、(c)の目的にとって損ないかねない権利もあるとみなさなければならない。
 

*1: http://www.meti.go.jp/policy/closed_loop/laws/basel/H15basel/H15basel_eng_ja.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
     第2条の14参照
*2: http://gec.jp/gec/gec.nsf/jp/Activities-Seminars_and_Symposia-Environment_Seminar-2000-lecture1 (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
2. 処置の申請には、問題の環境被害に関して提出された意見を支持する関連情報とデータを添付しなければならない。
 
3. 処置の申請と添付意見書が、環境被害が存在することを妥当な方法で申し立てている場合、所管官庁は、処置についてのその意見と請求を検討しなければならない。このような状況から、所管官庁は、関連する事業者に処置の請求と添付の意見書について周知の意見を述べる機会を与えなければならない。
 
4. 所管官庁は、公的当局に意見を提出した第1項で述べる自然人または法人にできるだけ早く、いかなる事情にせよ、国内法の関連規定に従って、処置を行うことの請求に応じるか、拒否するかの決定を通知し、その理由を示さなければならない。
 
5. 加盟国は、被害の差し迫った脅威の場合に対して、第1項と第4項を適用しないことを決定することができる。
 
13
審査手続き
 
1. 第12条第1項に記した者は、本指令に基づいて所管官庁の条例の決定、履行または不履行について手続き上と同時に実質的な適法性を審査するために、裁判所またはその他の独立した所管の中立的公共団体を利用しなければならない。
 
2. 本指令は、司法の利用を規制し、そして司法の手続に訴える前に行政的審査手続きを十分に使うことを義務づける国内法令のいかなる規定も侵害してはならない。
 
14
資金保障
 
1. 加盟国は、本指令に基づいて事業者の責任を担保する金融保証*1の利用および破産の場合には金融機構含む利用を事業者が可能にすることを目指して、適切な企業・個人*2および金融業者による資金保障手段や市場の開発を促進するための措置を取らなければならない。
 

*1: http://www.asb.or.jp/j_iasb/iasb_minutes/023th.html (対応するページが見つかりません。2010年5月) の4.保険会計を参照
*2: http://www.jmcti.org/C-TPAT/vol.1/1-49files/EU.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月) 欧州委員会の改革案の項

 
2. 欧州委員会は...(8)より前に、環境被害の実際の修復の点から、本指令の有効性、合理的な費用の入手可能性、および附則IIIに該当する活動のための保険やその他の種類の資金保障の契約内容に関する報告書を提出しなければならない。その報告書に照らして、委員会は義務的な資金保障の提案を提出することができる。
 

(8)本指令の発効から8年。

 
15
加盟国間の協力
 
1. 環境被害が複数の加盟国に影響を及ぼしているか、または影響を及ぼしそうな場合、これらの加盟国は、このような環境被害に関しては防止処置、必要な場合は、修復処置を行えるようにするために、たとえば適切な情報交換といったことによって協力しなければならない。
 
2. 環境被害が生じた場合、被害を起こしている加盟国は、影響が及ぶ可能性のある加盟国に十分な情報を提供しなければならない。
 
3. 加盟国が発生源でなく、その国境の中で被害が特定された場合、欧州委員会と関係のある他のすべての加盟国にこの問題を報告し、防止もしくは修復の措置を採用することを勧告し、防止もしくは修復の措置の採用に関して負った費用を回収することを本指令に従って求めることができる。
 
16
国内法令との関係
 
1. 本指令は、たとえば本指令の防止および修復要件に従わなければならない新たな活動の同定や新たに責任を負うべき関係者の特定など、環境被害の防止と修復に関してさらに厳しい規定を加盟国が継続または採用することを妨げてはならない。
 
2. 本指令は、たとえば本指令に基づいて所管官庁によって、そして環境被害によって所有地に影響を受けた者によって、同時に行われる処置の結果として、二重に回収することが起こりうる事態に関連して、費用を二重に回収することを禁止するなど、加盟国が適切な措置を採用することを妨げてはならない。
 
17
時制の適用
 
本指令は、次の被害に適用してはならない:
 
19条第1項に記した日付より前に行われた排出、事象または偶発事象に起因した被害
 
上記の日付より前に行われ、しかも終わった特定の活動に由来する場合、第19条第1項に記した日付の後に起こった排出、事象または偶発事象に起因する被害、
 
被害に結びついた排出、事象または偶発事象が起きてから30年を越えた場合の被害
 
18
報告と再調査
 
1. 加盟国は遅くとも...(9)までに、本指令の適用において得られた経験を委員会に報告しなければならない。この報告には附則VIで述べた情報とデータが含まれなければならない。
 
2. これに基づいて、委員会は...(10)より前に、欧州議会と理事会に報告書を提出しなければならないが、改正に向けたしかるべき提案が含まれなければならない。
 
3. 第2項に記した報告書には、次の再調査を含めなければならない:
 
(a)とくに国際海事機関(IMO)と欧州原子力共同体(Euratom)など、関連の国際的フォーラムおよび国際条約で得られた経験と、これらの手段が効力を持ち、および/または加盟国によって実施され、および/または修正された程度に照らし、またそのような活動に起因する環境被害の関連事象および用いた修復活動を考慮して、本指令の範囲から附則IVVに掲げた国際的手段が適用される汚染を除くことに関して、第4条第2項および第4項を適用することについて;
 
(b)とくに、生物多様性条約とバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書など、関連の国際的フォーラムと国際条約で得られた経験に照らして、遺伝子組換え生物(GMO)に起因する環境被害、ならびにGMOに起因する環境被害のすべての偶発事象の結果に対して本指令を適用することについて;
 
(c)保護種と自然の生息地に関して、本指令を適用することについて;
 
(d)附則IIIIVおよびVに取り込むことがふさわしいと思われる手段について
 

(9)本指令の発効から9年。
(10)本指令の発効から10年。

 
19
実施
 
1. 加盟国は、遅くとも...(11)までに本指令に従うために必要な法律、規則および管理規定を施行しなければならない。加盟国はそのことを、速やかに委員会に通知しなければならない。
 
加盟国がそれらの措置を採択する場合、加盟国は本指令の参照を入れるかまたはそれらの公報の折りにその参照文書を添付しなければならない。
 
このような参照文書を作成する方法は、加盟国が定めるものとする。
 
2. 加盟国は、本指令の規定が、採択される国内規定とどのように対応するかを示す表と一緒に、本指令が適用される分野において採択する国内法令の主要な規定の文書を委員会に通達しなければならない。
 

(11)本指令の発効から3年。

 
20
効力の発生
 
本指令は、欧州連合官報の公報日に効力を生じるもとのする。
 
21
受取人
 
本指令は全加盟国に送達される。
 
...で採択
 
欧州議会代表 欧州連合理事会代表
   
議長 議長
 
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