農業環境技術研究所トップページシンポジウム・研究会・ワークショップの開催記録

第27回 農業環境シンポジウム
食料 vs エネルギー −穀物の争奪戦が始まった−
(2007年5月23日、東京)
開催報告と映像

開会あいさつ 基調講演 パネルディスカッション 閉会あいさつ シンポジウム映像

2007年5月23日、第27回農業環境シンポジウム 「食料 vs エネルギー −穀物の争奪戦が始まった−」 が、東京 (イイノホール) で開催され、バイオ燃料と食料を巡る国内外の動きと今後の対応について熱心な論議が交わされました。

このページでは、本シンポジウムの詳細報告として、レスター・ブラウン博士による基調講演の記録 (英語による講演の全体を独自に翻訳)、パネルディスカッションでのレスター・ブラウン博士と日本の専門家の発言記録 (逐次通訳も含め、話された言葉をほぼ忠実に文章化)、開会と閉会のあいさつの全文を掲載します。また、本シンポジウムの様子を映像で公開します。

 

開会あいさつ (農業環境技術研究所理事長 佐藤 洋平)

本日は、多数の皆様がたにこのシンポジウムに足をお運びいただきまして、まことにありがとうございます。私ども農業環境技術研究所は、折々にこうして農業環境シンポジウムを開催しております。本日は、にわかに政策の重要課題として登場いたしましたバイオエタノールをテーマにして、シンポジウムを開催いたします。

昨今の新聞を見ますと、バイオエタノールやバイオエネルギー、あるいはバイオ燃料という単語がない日がないほど、毎日というほど我々は目にするようになっております。たとえば、先だってローマ法王のベネディクト16世がブラジルを訪問し、ブラジルのルーラ大統領と会談したという記事の内容を見ましても、大統領はブラジルにおいてバイオ燃料の生産を拡大しており、それはアフリカを貧困から救うためだということで、法王の理解を求めたと書かれておりました。その背景には、カトリック教会が、バイオ燃料の拡大に対して環境保護や食料の安定供給の面から懸念を表明しているからだという書き方がしてありました。ことほどさように、いろいろな形で新聞記事にバイオエタノールやバイオ燃料がキーワードとして登場してきております。

一昨年、私ども農業環境技術研究所は、「モンスーンアジアの農業とフード・セキュリティ」というテーマで、本日のキーノートスピーチをしていただきますレスター・ブラウン博士をお招きして、東京でシンポジウムを開催いたしました。その折りにもレスター・ブラウン博士は、「バイオ燃料の需要増が食料問題を一層深刻化する」ということを指摘しておりました。

こういった動きは、2004年から始まりました原油価格の高騰と高値安定が背景になっており、そうした背景のもとにバイオエタノールの生産が増加しているわけです。そして、今日では食料とエネルギーとの間で、穀物を奪い合うという構図が明確になってきました。本日は、こうして明確化した「食料とエネルギー間での穀物の奪い合い」をテーマにして、シンポジウムを開催するということにしています。このシンポジウムが、バイオ燃料について考える際に多角的な視点を皆様に提供できれば、主催者として非常にうれしいと思っております。

最後になりましたが、このシンポジウムに基調講演をいただきますレスター・ブラウン博士、そしてパネリストを快くお引き受けいただきました嘉田良平さん、末松広行さん、阮 蔚さん、コーディネータを務める私ども研究所の秋山博子に、この場をお借りして感謝を申し上げます。同時に、会場にお集まりいただきました多数の皆様がたにも厚く御礼を申し上げて、私の開催のあいさつとさせていただきます。どうもありがとうございます。

 

基調講演 「バイオ燃料が食卓を脅かす」 (レスター・ブラウン博士)

基調講演を行うレスター・ブラウン博士(写真)

基調講演の日本語訳

(英語による講演を独自に日本語に翻訳したものです)

ご紹介の中にありましたように、今や私どもは、世界中の約8億人の人々が所有する車が、約20億人の貧困層の人々と、彼らが毎日の食糧として依存している同じ食糧資源を巡って競合するという、世界的な新しい食料経済の時代へと移行しつつあります。

米国では、アラブ産油国の石油禁輸から数年後、石油価格が上昇した時期の1978年に、化石燃料に代わる代替燃料の必要性が切実なものとなり、バイオ燃料のプログラムがスタートしました。しかし、当時はエタノール蒸留所への投資はそれほど多くはなく、その後の27年間の投資の増加は非常にゆっくりとしたものでした。それが2005年、特にハリケーンカトリーナの直後に石油価格が急上昇したときから、米国ではエタノール蒸留所への投資が爆発的に増大することになりました。この動きは、新たなゴールドラッシュとも言えます。

このことを説明するために、2つの数字をご紹介いたします。まず、現在米国で実際に稼働しているエタノール蒸留所の生産能力は年間61億ガロンです [ 注 1ガロン=3.785リットル ] 。一方、現在建設中のエタノール蒸留所の生産能力は年間64億ガロンです。それらが2008年末までに完成して稼働すると、米国でのエタノール生産能力は2倍以上になります。このことは同時に、エタノール生産に使われる穀物の消費量も2倍以上に膨れることを意味します。すなわち、2008年末には米国で生産される穀物の30%近くがエタノール蒸留所に送られ、車の燃料生産に使われることになると予想されます。

2〜3年前まで、アメリカのエタノールプログラムは、1ガロン当たり51セントという補助金の力で推進されていました [ 注 1セント=0.01ドル=約 1.2円 ] 。しかし、2005年9月のハリケーンカトリーナ後の石油価格の高騰により、エタノール蒸留所への投資は主として市場の力、すなわちガソリンの高価格により動くようになっています。

農業の観点から見ますと、穀物をベースにして作られる燃料に対する世界の需要はどん欲です。例えば、1台のSUV(スポーツ車)の25ガロンのガソリンタンクをバイオ燃料で1回満タンにするためには、1人の人間を1年間養うのに十分な量の穀物が必要です。繰り返しますと、25ガロンのSUV車を1回満タンにするエタノールを生産するのに必要な穀物で、1人の人間を1年間養うことができるのです。

これをより広い視点から説明しますと、現在の米国における穀物収穫量のすべてを自動車用のエタノールに変換したとしても、その量は米国で必要とされている自動車用燃料のせいぜい16%にしかすぎません。つまり、米国は石油に対する不安定さを克服しようとしながら、実際には世界における食料の不安定さを増大してしまっているのかもしれません。

以前は、食料経済とエネルギー経済は別々のものでした。しかし今やこの2つは融合し、一体化しつつあります。このように一体化した経済では、穀物の価格はそのオイルとしての相当の価格にまで上昇することになります。つまり、穀物の食品としての価格が燃料としての価格よりも低い場合には、市場は穀物をエネルギー経済に移動させる(エネルギー利用に向かわせる)ことになるのです。

今日の石油価格は、1バレル当たり約60ドルです [ 注 1バレル(石油)=42ガロン、1ドル=約120円 ] 。この価格は今後、正確にいつとは言えませんが、必ず上昇するでしょう。そうすれば、穀物の価格もまたそれに沿って上がっていきます。これが80ドルになれば世界の穀物価格をさらに引き上げ、100ドルに上がればさらに穀物価格が上昇することになります。我々は、この1年間でトウモロコシの世界中の価格が約2倍になるのを見て来ています。また、小麦についてもこのところ10年来の高値をつけていますし、米の価格も上昇を始めています。

米国においてエタノールの原料となっているのは、主にトウモロコシです。世界的に見ても、三代穀物のうち一番生産量が多いのはトウモロコシです。トウモロコシが約7億トン、小麦は6億トン、米は約4億2000万トンです。世界のトウモロコシの40%は米国で生産されており、トウモロコシ輸出の70%は米国からの輸出です。日本は世界最大のトウモロコシの輸入国であり、その大部分をアメリカから輸入しています。

米国の農家は、トウモロコシをエタノールの原料にするという考えに賛成しています。というのは、エタノール生産は彼らがコントロール可能だからです。一方、輸出に頼るのは、そのときの貿易政策や市場の力に大きく影響されることになります。

今や、米国のエタノール蒸留所と日本のミルク、食肉、卵等の畜産物の消費者との間で、競合が始まっています。エタノールのロビーストは、我々はトウモロコシは大して食べないと言います。それは事実です。しかし、我々が食べる食品の多くがトウモロコシから作られることに関しては、彼らは触れません。米国の典型的な家庭の冷蔵庫を開けてみると、牛乳や卵、チーズ、鶏肉、豚肉、牛肉、アイスクリーム、ヨーグルトなどを目にしますが、それらはすべてトウモロコシから作られるといえます。つまり、トウモロコシを鶏、豚、牛の飼料として与え、牛乳や牛肉が作られるのです。ですからトウモロコシは、世界の家畜や家禽(かきん)の経済の基盤になっているのです。トウモロコシの価格は、冷蔵庫の中のすべての食品の価格に影響します。

確かに米国ではトウモロコシを直接消費することは少ないかもしれません。しかし、世界の多くの国々でトウモロコシが主食となっていることも事実です。例えばメキシコやアフリカのサブサハラのほとんどの国々では、トウモロコシが主食となっています。アフリカのサブサハラでは、トウモロコシの消費の方が小麦と米を合わせた消費量よりも多くなっています。トウモロコシの価格は、メキシコやアフリカサブサハラの消費者に直接影響します。そしてアフリカのサブサハラには、世界で最も貧しい人々が住んでいるのです。

我々はすでに、穀物価格の大幅な上昇を目にしています。今後さらに多くの穀物が車の燃料に使われると、大幅な価格の上昇が起こることになります。私が心配するのは、穀物価格の上昇、食品価格の上昇が、世界の低収入や中程度の収入の国々の政情の不安定さにつながるということです。例えばメキシコでは、トウモロコシの価格が2倍となることで、トウモロコシから作られる主食であるトルティーヤの価格が60%跳ね上がりました。この結果、メキシコでは何十万人もの人々が街頭で政治的なデモを行いました。こうした事態が起こることは、もはや決して仮説ではないのです。

最近、「失敗しつつある国家(failing states)」という言葉を目にするようになってきています。これは最近10年くらいの間に出てきた概念です。しかし今や、世界の「失敗しつつある国家」の数は年々増えています。それはソマリア、ハイチといった数カ国から始まりましたが、今やアフガニスタン、イラク、イエメン、スーダン、チャド、西アフリカのシエラレオネなどが含まれます。そして、低収入国は食料価格の上昇に対処できないため、崩壊国家が今後ますます増えることを私は懸念しています。我々が考えなくてはならない問題は、一体何か国が失敗したら世界的な文明の崩壊につながるのか、ということです。このことについては、来年出版する予定の『プランB3.0』で詳しく議論する予定です。

いくつもの低所得国では、人口増加、森林破壊、土壌侵食、砂漠化、地下水位の低下といった問題に苦しんで来ていますが、今やエネルギー価格の上昇、気候変動に伴う災害等に直面しています。こうした問題に加え、世界の穀物価格の上昇、そして世界の食料価格の上昇の可能性に突然直面する事態になっています。このことは、世界における政治の不安定さが大規模のスケールで起こり、その結果世界の経済成長が崩壊することにつながりかねません。

私は、米国において新しいエタノール蒸留所の認可を一時停止することを提案しています。すなわち一時凍結して、その間に、米国だけでなく世界全体でどういうことが起こっているか、このような状況が継続したらどのような結果をもたらすのか、分析する必要があります。現在私どもが見ているのは、世界の穀倉地帯が、米国の自動車所有者のための燃料タンクに変えられつつあるという実態です。

車と人々の間の競合により生じうる不安定な状況に対する解決策は、日本から始まっているのではないでしょうか。米国では、もし次の10年間に完全にハイブリッドカーに置き換えたとしたら、ガソリン消費量を半分に減らすことができます。

昨年販売された平均的な車の燃費は、1ガロンで大体22マイルでした [ 注 1マイル=1.609キロメートル ] 。それに対し、最も有名なハイブリッドカーであるトヨタプリウスは、1ガロン55マイルです。これらはEPA(米国環境保護庁)の公式な記録です。米国で販売されている平均的な車が22マイル、それに対しトヨタプリウスは55マイルです。

プリウスに代表されるハイブリッドカーにより、燃費は大幅に効率化したわけですが、ハイブリッドにはさらに、プラグインタイプのハイブリッドカーを造るというオプションがあります。例えば、ハイブリッドカーに、電気を貯蔵するための2つめの蓄電装置を造り、さらにプラグイン装置を付けます。そうすると寝ている間に充電することができます。そして、もし電気だけでも走るオプションをハイブリッドカーに装着すれば、通勤や買い物といった短距離のドライブは、ほとんど電気だけで走ることができます。そして、プラグインハイブリッドにシフトすると同時に、米国中で数千の風力発電設備の建設に投資し、電力エンジンに供給すれば、車を主として風力で動かすことができます。このコストは、1ガロン1ドルよりも安いガソリンで動かすときのコストに相当します。

このように、主として風力から電力を供給されるハイブリッドにシフトすれば、石油の輸入が必要なくなるだけでなく二酸化炭素の排出量も大幅に削減し、その結果気候の安定化に貢献することになります。

いいニュースがあります。トヨタ、日産、ゼネラルモーターズ、それにダイムラー・クライスラーの自動車会社4社が、このようなプラグインタイプのハイブリッドカーを数年以内に市場に投入すると言っています。

風力を使ったプライグインハイブリッドカーのアイデアは、もはや私だけのものではありません。現在は全米的にパートナーグループを得て、ハイブリッド、そしてプラグインハイブリッドの振興を、米国の輸送とエネルギー政策の中心として推進しています。このプラグインパートナーズという組織は、現在500以上のメンバーが加盟しており、その中には多くの電力会社やさまざまな企業、いくつかの州政府、多くの市、それに環境保護団体が入っています。特にいくつかの市や州政府、企業は、プラグインハイブリッドカーが市場に登場した場合には40台、あるいは300台というような決まった台数を購入すると明言しています。ということは、最初に市場にプラグインハイブリッドカーを出した自動車メーカーに発注される長い注文のリストが、前もって用意されているわけです。このことは、自動車メーカーにできるだけ早くプラグインハイブリッドカーを市場に出すように努めることを促す、インセンティブを与えようとする努力なのです。

米国にはすでに、ハイブリッドカーをプラグインハイブリッドに改造できる、二次的な貯蔵バッテリーその他必要な装置を備えたキットを製造し提供している企業がすでにあります。従ってこのことは不可能ではなく、優秀なカーメカニックがいれば改造することができます。興味深いことに、米国の路上を走っているプリウスの台数の方が、日本の路上を走っているプリウスの台数よりもずっと多いのです。アメリカでは大成功を収めており、皆さんもご存じのように、ハリウッドではプリウスを持っていなければ肩身が狭いのです、プリウスはまさにハリウッドの俳優や女優にとって、環境問題にコミットしているという姿勢を示すということでステータスシンボルとなっています。

1月末に世界経済フォーラム(ダボス会議)がダボスで行われました。その時、私は、世界の食糧と燃料の競合に焦点を当てたプライベートディナーに招待されました。このプライベートディナーは世界経済フォーラムの理事会が主催し、運送会社、ボルボのような自動車会社、BPのような石油会社、農場のグループ、そしてユニリーバのような食品加工グループが一堂に会しました。メディアは一切招待されていないこのディナーの目的は、ますます多くの農産物が自動車の燃料生産に使われた場合の結末について、集中して議論することでした。

私は本日のこの講演を終えるに当たり、最初に指摘したポイントに立ち戻りたいと思います。特に、車を所有し今後もその便利さを保持し続けたいと思っている世界の8億の人々と、とにかく生き延びたいと思っている20億人の貧困層の人々との間で、大規模な競合が起こっていることを、我々は今や目撃しているという点です。これは今まで世界が直面したことのない、全く新しい問題です。IMFの統計から計算すると、世界の8億人の平均的な自動車所有者の年間所得は3万ドルです。それに対して、20億人の貧困層の人々の年間所得は3000ドル以下、すなわち10分の1以下ということになります。これだけの差があることを考えると、どちらが勝つかということは明確です。

この、新たに出現した世界の食糧供給を巡る車と人の競合においては、この競合を制御することに責任を持つ仲介者や監査官、国連機関は存在しません。少なくとも現在は、完全に市場により動いているのです。車と人々の食糧の競合という問題に対して、我々はどう対処すべきでしょうか。これは政治的課題であると同時に経済的課題であり、また同時に道徳的課題でもあります。どう対処すべきか、この問題は我々の21世紀初期の文明の行く末について、多くのことを語りかけようとしていると私は考えています。

 

パネルディスカッション

パネリスト:

レスター・ブラウン 氏 (アース・ポリシー研究所 所長)

嘉田 良平 氏 (アミタ株式会社 持続可能経済研究所 顧問)

阮 蔚 (Ruan Wei) 氏 (農林中金総合研究所 主任研究員)

末松 広行 氏 (農林水産省大臣官房環境政策課 課長)

コーディネータ:

秋山 博子   (農業環境技術研究所 主任研究員)

コーディネータ 秋山博子 主任研究員(写真) パネリスト 嘉田良平 氏、末松広行 氏、阮 蔚 氏(写真)

パネルディスカッションで使用されたスライド
(PDFファイル)

第27回農業環境シンポジウム
パネルディスカッション 使用スライド
秋山主任研究員嘉田 氏Ruan 氏末松 氏

パネルディスカッションでの発言記録

(逐次通訳も含め、話された言葉をそのまま文章にしています)

(秋山) ただいまご紹介にあずかりました農業環境技術研究所、秋山でございます。バイオ燃料ブームの背景につきましては、すでにレスター・ブラウン先生にご紹介いただいたところですが、もう一度簡単に振り返ってまいりたいと思います。

まず、一つめには、地球温暖化対策として有効であると考えられていることが挙げられます。その次に、現在の石油価格の高騰と、今後の高値安定の見込みが挙げられます。90年代の石油価格は1バレル10〜20ドルで推移してきたのですが、2004年から上昇を始め、2006年には1バレル60ドル台、一時70ドル台をつけた時期もありました。次に国際情勢に左右されない自前のエネルギーを確保したいという各国の思わくが挙げられます。

次にアメリカにおけるバイオエネルギーブームの背景について見ていきたいのですが、先ほど挙げましたような背景に加えまして、アメリカでは中東への石油の依存を軽減したい、安全保障対策としての意味が大きいと考えられます。それから、農業保護といった側面も見逃せないと思います。すなわち、現在のトウモロコシ価格が高値で安定することで、農家の所得の安定、農産物の価格支持といった働きを持っていると考えられることです。これがどういう効果を持ってくるかといいますと、農業補助金からの切り替え、それから、WTO農業交渉の加速といった効果まで期待されています。といいますのも、今までアメリカでは多額の農業補助金をつけてきたわけですが、トウモロコシの価格が上昇することで、この補助金を削減できる。それから、WTO農業交渉でこの補助金は大変いろいろな批判を浴びてきたわけですが、これを削減することで、アメリカは農業交渉で優位に立つという可能性も出てきています。それから、農村部での雇用の創出、内需の喚起といった意味合いも持っています。

次にアメリカにおけるトウモロコシの生産、輸出、それから、バイオエタノール原料としての消費の推移を見ていきたいのですが、青い線が生産で、現在3億7000万トンぐらいあります。輸出はオレンジ色の線で、大体5000万トンぐらいで一定してきています。ピンク色の線がバイオエタノール原料として振り分けられる割合で、ずっとゆっくりと上昇してきていたのですが、ここ数年になって急速に伸びてきまして、昨年度は輸出に匹敵する量になっています。2007年度、今年には、この輸出の量を大きく超えてくると、レスター・ブラウンさんも予測されていました。ここで日本を考えてみますと、日本のトウモロコシはほとんどが輸入ですが、そのうち90%がアメリカから、その量は約1600万トンに上ります。すなわち、日本はこのようなアメリカの動きを大きく受けているということになってきます。

次にトウモロコシから見た穀物の相場の上昇を見ていきます。原油価格の高騰、環境意識の高まり、そのほかの要因もありますが、バイオ燃料の需要が増加しています。この中でもエタノールの利用の拡大が著しいのですが、エタノール原料としてのトウモロコシの需要が増加してきています。一方で、ブラジル、ロシア、インド、中国などのBRICs諸国の経済発展は著しいものがありますが、これらの国々では、食の洋風化、肉食の拡大が起きてきています。これによって、今度は家畜のえさである飼料が必要だということで、飼料の需要が増加してきています。これによって、飼料の原料となるトウモロコシの需要が増加してきています。このようなエタノールの面、飼料の面の二つの需要増を見込んだ投資資金の流入がすでに起こってきているようです。

これらの要因が相まって、トウモロコシの価格の上昇が起こってきています。これによって、トウモロコシを植えたほうがもっともうかるということで、今度は大豆からトウモロコシへの作付けシフトが起きてきています。これによって、今度は大豆が足りなくなってくるという見込みも出てきまして、大豆など、ほかの作物の価格も一緒に上昇してきています。これによって穀物相場全体が高騰することになりまして、最終的には、肉、油など、食料品の価格全体が上昇するというような流れになっています。すでに日本でも、マーガリンやマヨネーズなど、価格が上昇しているというニュースが毎日のように報道されている状況にあります。

ここで日本の食料自給率を見てみたいのですが、いちばん上の青い線は金額ベースで見たもので、金額ベースだと70%国産ということになるのですが、いちばんよく使われるカロリーベースの総合食料自給率を見てみますと、わずか40%となっています。いちばん下の青い点々の線、穀物自給率を飼料用を含んで見た場合、わずか28%となります。すなわち私たちは、主食であるお米は自給率は高いのですが、飼料といった形で間接的に大量の穀物を消費していることが分かると思います。ちなみに飼料の自給率は日本の場合、非常に低いものとなっています。

それから、バイオエネルギー生産と農業環境問題を考えてみたいのですが、バイオエネルギーのこのようなブームを受けて、バイオエネルギー作物の農地の拡大によって、以下のような環境問題が懸念されています。

一つめは、ブラジルにおいてサトウキビの生産が拡大することによって、貴重な生態系が残っているセラード地域の生態系の破壊が起きるのではないか。サトウキビはブラジルにおいてエタノールの主要な原料になっているわけです。

それから、オイルパームのプランテーションの開発によって森林破壊が起きるのではないかということが、インドネシアやマレーシアなど東南アジア諸国で心配されています。オイルパームから作られるパームオイルはバイオディーゼルの原料として大変有望とされています。

また、トウモロコシの連作により、病害虫が多発するのではないかといったことが、アメリカで考えられます。今までアメリカのコーンベルトといわれる地帯では、トウモロコシ、大豆、トウモロコシ、大豆といった具合に順番に植える輪作が広く行われてきたわけですが、これをやめて、毎年トウモロコシを作付けするとなってくれば、このようなトウモロコシの病気、害虫などが増える可能性も出てきます。

そして、高収量作物の栽培による水資源の枯渇、土壌資源の劣化といった問題も可能性が出てきます。これは現在の人口増加に対して食料を供給するだけでも大変心配されてきた問題ですが、これにバイオエネルギーの問題が加わることで、この問題がさらに加速するのではないかという可能性が出てきています。

このような背景を受けまして、本日、主な話題として二つ考えております。一つめは、世界におけるバイオエタノール生産と食料自給、すなわちバイオエタノールという新しい要因が入ってきた中での世界の食料問題について考えてみたいと思います。2番めに、日本におけるバイオエネルギー生産、食料事情の今後と、日本が果たすべき役割について考えていきたいと思います。すなわち、世界のバイオエタノール、食料をめぐる動きの中で、日本の方向と国際社会の中で果たすべき役割について考えてみたいと思います。

早速ですが、一つめの話題、世界におけるバイオエタノール生産と食料自給について考えてみたいのですが、まず嘉田さん、石油化学の将来動向、それから、バイオエタノールの原料となる穀物市場の動向について、今後の見通しなどをどのようにお考えでしょうか。

(嘉田) 今後の見通しということですが、石油業界の人間ではありませんので、詳しい分析はもちろんしておりませんが、多くの予測を今回調べてまいりました。専門家の多く見るところの共通した考えは、先ほどレスター・ブラウンさんもおっしゃいましたが、中長期的に上昇するということと、当面は高値安定、下げ止まりみたいなところが、やはりあるのではないかといわれております。

その最大の根拠は、やはり需要が堅調だということです。後でお話があると思いますが、中国、インド、ロシアはじめ、自動車の爆発的なブーム、石油に対する需要の拡大という新しい状況が、恐らくこれは後戻りしないだろうということです。つまり、第一次、第二次石油ショックのあと、かなり上がった石油価格がドーンと落ちてしまって、バレル15ドル前後で変動しながら、約20年近く続きました。それが今回、ここ4〜5年で急上昇した。これがまた元どおりに下がるかというと、多分そうはならないだろうということです。つまり需要の堅調さと供給余力がやはり徐々に失われつつあるということです。もちろん原油そのものが今世紀中に枯渇するのではないかという大きな問題がありますが、それに加えて、石油精製のキャパシティ、供給するという当面のキャパシティの限界、それから、在庫備蓄の施設を含めた限界があります。そういう意味で、供給の伸びがフラットに対して、需要がどんどん拡大するということであれば、変動を伴いながら高値安定ということになるのではないかということです。

そういう意味では、変動性というのが一つのキーワードになっているわけですが、私が申し上げたいのは、穀物市場がどうなるかというご質問もありましたので、もう一つのキーワードがここで出てくるのではないかと思っています。それは変動性に加えて、連動性という意味合いです。つまり、石油価格とバイオエタノール価格との連動性がますます強まってきたということです。これは一般的にいわれていますが、アメリカのケースを取りますと、分岐点が1バレル50ドル、55ドルというオーダーになると、バイオエタノールが経済的にペイする射程圏内に入ってきます。つまり、大きな補助金なしにバイオエタノール生産が、いわば市場メカニズムでどっと供給が増えるということになるわけです。そうしますと、今のような高値安定、例えばバレル60ドル、あるいはそれ以上ということになりますと、十分、食料との競合が明確になってきます。競合というのは言い換えれば、連動性が高いということです。

もう一つ忘れてはいけないのは、そのバイオエタノールの値段と我々の食料価格、これは直接食べる穀物と、えさとして間接的に我々の口に入る、両面あるわけですが、バイオエタノール価格と食料価格、あるいは穀物価格との連動性、そういう意味での二つめの連動性があるわけです。

ここで注意しなければいけないのは、世界市場というのはどういう特徴を持っているか。穀物にせよ、食料市場にせよ、この国際マーケットは非常に薄いという特徴があるわけです。つまり先ほどのデータもありましたように、世界各国とも、アメリカもそうですが、大半が国内市場向けにみんな作っているわけです。輸出に回されるのは残余の世界で、余っているから、残っているから出すということは、変動性が非常に大きくなるということです。

その付けは一体どこに来るのかということで、第一の発言で終わりたいと思いますが、実は日本農業、あるいは日本の我々消費者ということについて言うならば、今そのつけは、二つの大きな側面に来ております。恐らく今いちばん困っているのは、畜産農家ではないか。つまり、輸入トウモロコシの価格はここ1年でほぼ倍になりました。2倍に跳ね上がっています。牛肉価格はさほど上がりませんので、上げられませんので、当然経営を非常に圧迫しているということです。タイムラグを伴って、畜産物価格の上昇への転嫁が多分訪れてくるだろうと。

もう一つのしわ寄せが、日本の消費者に対する影響です。先ほどもご紹介がありましたが、オレンジジュース、マヨネーズ、その他、つまりバイオエタノール生産の拡大でしわ寄せを食った部分が、食料価格の上昇という形でじわりじわりとはね返ってきたということです。これは当然タイムラグはありますが、やがて全般に広がってくるということで、日本の消費者への影響と。

後ほど申し上げますが、これは日本の消費者だけではなくて、日本はまだお金持ちだからいいのですが、貧しい途上国の人たちは大変なしわ寄せ、割を食うわけです。この問題は新たな地球規模での食料安全保障の問題を惹起することになるのではないかと思います。そういう構図の中でとらまえていただければいいだろうと、連動性というところに非常に注目していただきたいと思います。以上です。

(秋山) ありがとうございました。国際市場が非常に薄い、世界市場が非常に不安定だということをご紹介いただきました。阮さん、中国の動きが世界市場に与える影響は大きいと思うのですが、中国から見たエネルギーの問題や、中国から見た日本のエネルギーについて、ご紹介いただけますでしょうか。

(阮) 中国のエネルギーの話はあまり詳しくないのですが、ただ、中国の問題というと、まずは食料、その次はエネルギー、さらに環境という大きな三つの問題を抱えています。ご存じのように13億人ですから、食べるもの、使う燃料、それこそが中国政府が今抱えているいちばん大きな問題です。一言でいうと、食料もエネルギーも同じように、これから需要が伸びていきます。この伸びた部分は国内の増産で賄う部分がありますが、やはり一部は世界市場から輸入、世界市場に頼るということです。ただ、輸入が増えるのですが、中期的には依然として高い自給率を維持していくと思います。

中国のエネルギーのことを少しだけデータで見ていきたいのですが、これは中国のエネルギーを100%にして見たものですが、依然として石炭が60%以上ということで最大のウエートを占めています。全体の伸び率は90年代の後半以後、国内の生産は伸びていますが、この石炭も急速に伸びています。日本の報道でも時々出てきていますが、炭鉱事件がこの数年間本当に多発しています。それは国内需要がとても旺盛であることが背景になっています。石油のウエートはトレンドとしては拡大しているということが、このグラフから分かると思います。

次に石油はどうなるかということですが、石炭は中国は100%以上の自給率、全部国内産ですが、石油は新たな需要の部分を輸入に頼っており、昨年輸入依存率は45%ぐらいです。これからモータリゼーションの関係で、輸入が増えると思います。この石油における自給率はだんだん下がっていくと思いますが、全体で見ると、中国は現在、エネルギーは依然として93%ぐらいの自給率を維持しています。ちなみに、日本は全体としては15〜17%ぐらいということで、日本に比べると、中国は自給を守る、自給を維持していくという考え方を昔から持っていますし、今も持っています。

ただ、石炭のところでは、これからも中国の主なエネルギーになるということで、石炭、または石油も同じように、効率がとても悪いということがあります。日本は世界でいちばん効率の高い国ということで、この面においては日中の協力、また、日本から中国だけでなくて途上国向けのそのような技術を発信して、この効率を高めていくことは、世界に対する大きな貢献だと思います。

(秋山) ありがとうございました。日本に比べて自給率が非常に高いということが印象に残ったのですが、わずかとはいえ石油の輸入が増えていくということは、中国にとってはわずかでも、世界にとっては大きな意味を持つと思うのですが、今後やはりどんどん増えていく可能性が高いとのお考えでよろしいですか。

(阮) 石油に関しては、あると思います。私は石油エネルギーに関しては詳しくないのですが、国内では採掘は大変コストが高いということで、これから輸入は増えていく。今も現実的に、ロシアなどいろいろな国との交渉が進んでいます。ただ、効率を高めることにおいて、現在の中国にとっては効果が高いということはいえると思います。

(秋山) ありがとうございました。化石燃料の見通しを教えていただいたのですが、中国でもバイオエネルギーをめぐる動きが出ていると伺いますが、バイオエネルギーをめぐる動き、それから、食料に関する事情などを教えていただけますでしょうか。

(阮) バイオエネルギーに関しては、8ページの資料です。中国は実は1999年から、エタノールを作るかどうかということを議論してきました。どうして議論してきたかというと、当時、在庫率が100%を超えていたのです。1年の需要分以上のものを抱えていました。90年代の後半、96年以降、なぜこの在庫率が急速に高まったかというと、今日ご在席のレスター・ブラウン先生が94年に「だれが中国を養うか」というレポートを書いていまして、中国はそれに合わせたように、実は95年から穀物を世界市場から大量に輸入しました。当時、途上国の指導者は相次いで北京を訪問して、中国政府に対して、中国はこれからも輸入が増えるのか、輸入が増えて国際価格が上昇したら、私たちが輸入できなくなるということで質問しました。そこで、96年のローマのFAOで、中国は初めて食料白書を出しました。自給率95%以上を維持するというメッセージを世界に出しまして、それに伴って増産政策に走りました。

増産の結果、大量の在庫を抱えまして、豊作貧乏ですか、市場価格の低迷、いろいろな問題を抱えました。そこで、補助金付きで輸出しました。もちろん世界からも批判されます。また、輸出するときは品質の問題もありまして、いろいろな国からクレームもつきました。それではどうすればいいかということで、エタノールを要するに燃料化していく。需要を創出して価格をコントロールする手段を手にしようということで、正式に生産が始まったのが2002年、最初は5つの都市で使用のテストが始まりました。もちろん補助金付きで、昨年は100万トン以上の生産量がありました。

問題は、昨年になって、石油価格の暴騰で、補助金がなくても採算が合うようになったということです。昨年、計画中のエタノールのキャパシティが、トータルで1000万トンを超えました。そこで、まさに食料かエネルギーかという問題が中国で発生しまして、中国政府はまず食料という選択をしました。昨年末にエタノールの製造、そこまでは4社、今も4社ですが、新たな工場の新設は許可しないという方針を出しました。これからのエタノールは、セルロースなど、人間が食べる食料ではないものや、キャッサバなど非主食を使うというような方針を示しました。

(秋山) ありがとうございました。嘉田さん、今、阮さんから中国の状況についてご紹介がありました。中国、それ以外の国、特に貧しい国の食料安全保障が大変問題になっているわけですが、ご意見をお聞かせいただけますでしょうか。

(嘉田) 中国は経済が発展していますし、しかも、国家がきちんと食料政策を国民に向けてやっていますから、中国国内における栄養失調や飢餓はないわけではないですが、非常に小さいと思います。むしろ世界全体で見た場合の問題は、それ以外の国々、とりわけサブサハラのアフリカ諸国というのが、先ほどレスター・ブラウンさんがおっしゃいましたように、そういう形で食料安全保障が、一部の最貧国といわれるところに非常に大きなしわ寄せを今もたらしつつあるという点が一点です。

それから、もう一つの副作用といいますか、思わぬ副次効果が環境面に出てきているという話を少しここでさせていただきたいと思います。映像がなくて恐縮ですが、ある程度皆さんイメージされると思いますが、まず価格高騰、バイオ燃料の価格が上がる。当然、食料の価格が上がるわけです。トウモロコシや大豆、サトウキビですから砂糖の価格が上がる。その他、先ほどレスターさんはメキシコのトルティーヤの話をなさいましたが、主食の価格が上がる国々において、相当これは貧困層を直撃する形になっております。つまり、飢餓、食料難という問題は、現代における人類最大のリスクです。この人類最大のリスクがもう今、現実のものになってきたということではないかと思うわけです。価格が上がるから買えない。あるいは、本来主食を作っていた農業生産の適地が、バイオエタノール生産その他の用途に転用されてしまう。プランテーションその他にです。ということで、それが今、アフリカの最貧層、最貧国を襲っていると、多くの国家の崩壊だという話を先ほどなさったとおりです。

私はアフリカの調査も最近させていただいたのですが、アジアをここのところ集中的に調査しておりまして、インドネシア、マレーシアを回ってきました。やはり非常に驚くのは、例えばサトウキビ、あるいは大豆もそうですが、巨大プランテーションが今次々と作られているということです。アマゾンも全くそのとおりで、ヤシ油でアブラヤシのプランテーションを作る。これはもうとりもなおさず熱帯林の破壊、崩壊に当然つながってくる話です。

EUがEUバイオ燃料指令を数年前に出しました。これによって、2010年までに約6%弱の燃料をバイオディーゼルに置き換えるのだという非常に勇ましい目標を立てたわけです。それは悪くはないのですが、そのことによって何が起きているかというと、原料がEU内で当然追いつかないわけです。アフリカにしわ寄せが行きます。東南アジア、たしかマレーシア、インドネシアにEUの資本でプランテーションが行っているわけです。当然、野焼きが始まります。熱帯林の伐採が起きるわけです。これはレスター・ブラウンさんがほかの報告書で盛んにおっしゃっておられますが、バイオダイバーシティ(生物多様性)の世界一の宝庫が実は熱帯アジアにあるわけです。熱帯林の崩壊とともに、生物多様性の非常に重要な部分が失われるということが、今、バイオエタノールの登場、あるいは間接的な影響によって、非常に広がっているということになるわけです。

だから、ここで我々が大事なのは、やはり環境への影響、そして食料安全保障への影響という二つの副作用をどう評価するのか。地球全体にとって、あるいは人間社会にとっての大きな外部不経済であり、社会コストですから、これをどのように見るのかという問題が問われていると思います。

と同時に、もう一つ注目しなければいけないのは、そのようにして途上国に拡大するのはいい、企業はそれでもうかるかもしれないけれども、果たしてそれで本当にCO2が削減できたのかという本質的なところが問われるわけです。つまり、バイオ燃料の利用によって節約される、節減効果が当然あります。あるいは、カーボンニュートラルといわれますから、CO2を新たに排出しないという効果があるわけです。しかし、それが生産、加工、流通、遠隔地まで運ぶことによって、相当オーバーしてしまうという、つまり純増のCO2が発生する。これが逆転しますと、本来の意図したことが全く満たされていないということがあるわけです。その点もどう考慮するかということが今問われているように思います。

(秋山) ありがとうございました。貧困層への問題、それから、環境への影響についてご紹介いただきました。ここでレスター・ブラウン先生にお伺いしたいのですが、パネルディスカッション、今までの議論を受けまして、基調講演でもご指摘いただいたことがたくさんあったとは思うのですが、もう一度付け加えていただけますでしょうか。

(ブラウン) 今、先生がたのプレゼンテーションを聞かせていただきまして、非常にリッチな内容であり、多くのさまざまな情報を提供してくださいましたことと、また、深い洞察に感銘を受けました。その中で、先ほどコーディネータのかたが、アメリカにおいて、これまで大豆を作付けしていた畑、農作地がトウモロコシ畑に置き換わってきているシフトが見られるとおっしゃっていました。それがさらに国際的な影響を与えていて、その一つがブラジルなわけです。実はアメリカとブラジルは世界の二大穀物輸出国であり、生産国であるわけですが、アメリカの大豆生産が下がってきたことで、ブラジルの大豆生産が実は増えてきている。それは補完関係にあるわけです。

もう一つ中国のデータを先ほどおっしゃっていましたが、中国は大豆の最大の輸入国です。ブラジルは実際に大豆を供給している側になります。ブラジルはそれだけではなくて、アメリカに対しては食用のチキンや豚なども輸出し始めているわけですが、この中国とブラジルという観点を見ますと、後で皆さんがたも手に取って見ていただければと思いますが、私の本の中で食料の安全保障について書いているくだりで、中国とブラジルのことを取り上げています。世界の穀物の貿易の中で、最近この数年間で見られることは、特に農業におきましては、これまでアメリカと日本が、実は穀物に関しては一つの軸を成していると見られていました。それに加えて、現在、特に大豆を中心とした非常に大きな軸になっているのが、ブラジルと中国といわれています。

それから、先ほど蔚先生から、中国において、これ以上エタノールの蒸留所に対して認可を与えることを禁止された、いわゆる穀物からエタノールの原料を作ることに関して、これ以上の拡大をしないということが、12月だったと思いますが、禁止されたということです。実にこのような動きをしたのは中国が初めてであるわけです。昨年のエタノールに転化された穀物の量を比較してみますと、中国の場合は400万トンでした。これに対して、アメリカの場合は5500万トンといわれています。ですから、アメリカと対比しますと、それほど大きい量ではないけれども、その段階で食料安全保障の観点から非常に危惧を持たれたということで、最初の国として、このようなエタノール蒸留所の増設の禁止が図られたのだと思います。

それと、これは嘉田先生のお話でしたが、世界的な穀物の在庫量に対するストレスについて触れられていたかと思います。このような背景で、まず考えていかなければならないと思います。つまり、食料対燃料ということを考えた場合、過去7年間のうちの6年間に関しましては、穀物については需要を満たすほどの生産が得られていなかったということがありました。ということは、どうしても在庫で備蓄されていた量に手をつけなければならなかったということで、その結果として、穀物の備蓄量が30年来の低いレベルに達してしまったわけです。このような状況を考えますと、それに加えて、エネルギーに転換することによりまして、さらに価格が敏感になってくるということがいえるかと思います。

もう一つ、この問題を考えるうえで念頭に置いておかなければならないこととしまして、これだけの穀物の生産、これは十分ではないと申しましたが、それもさらに地下水をくみ上げることによって生産されているということを考えておかなければなりません。世界の人口の約半分に当たる国々では、すでに地下水位がその国の幾つかの部分、ある部分ではかなり低下してきてしまっています。その中には、世界最大の穀物生産国である中国、インド、アメリカが含まれているわけです。先ほどアメリカでは、5500万トンの穀物がエタノールになったという話をいたしましたが、それらの一部はネブラスカやカンザス州といった地域で、過剰な地下水のくみ上げをすることによって生産された穀物です。同じようなオーバーポンピングは中国の北半分の地域でも見られますし、また、インドのほとんどの州で同じような形で地下水が過剰にくみ上げられているわけです。このような揚水は、短期的にはそれでかまわないわけですが、長期的には大きな影響をもたらすものになります。

水の重要性は、幾ら強調しても十分とはいえないかと思います。まず、世界じゅうで70%ほどの水を河川から取るなり、あるいは井戸からくみ上げるなりして、かんがいのために使われているわけです。まず考えなければならないことは、我々人間は1日に約4リットルの水を消費しています。これはもちろん水という形もあれば、ジュースやお茶、コーヒー、ビールといった形で水分を取っているわけですが、それに加えて、我々が日々口にする食料、食べ物は、それを生産するために約2000リットルの水を必要とします。つまり、飲料で取る水の500倍もの水を使用しなければ、食料が生産できないということです。この点は私ども、農業に従事している者であったとしても、十分に認識していないのではないかと。いかに食料を生産するに当たって多くの水が必要とされているかということは、認識されておりません。しかしながら、これは確かに将来的に水不足がやってくるわけでありまして、このように水不足といったような点を実際につなぎ合わせて考えてはいない。しかしながら、これらをつなぎ合わせれば、水不足イコール食料不足ということになるのだと考えています。

さらに三つめの背景として考えたいものがあります。つまり、穀物の不足と地下水の過剰くみ上げに加えて、気候変動というものを背景に考えなければいけません。これは作物の研究をしている者、エコロジストたちの意見として一致していることですが、通常の作物の成長期の気温が1度上がれば、それだけ生産高、あるいは歩留まりが10%劣化するといわれています。これは小麦でも米でもトウモロコシでも同じ影響をもたらすといわれています。ということは、この食料の安全保障を考えた場合に問題になるのは、もはや過去の気候などのデータをベースに作物の成長の将来を予測することが不可能になってきたということです。つまり、過去のデータを将来のためのガイドとして使うことができなくなっている。これは保険会社が直面している問題とも同じことです。もはや保険会社も将来の保険料についての予測を、過去のデータでは立てられなくなってきてしまっています。と申しますのも、これだけ気候が変動してきているということは、過去のデータが将来の予測の材料にはならないということです。

(秋山) ありがとうございました。ここで会場からの質問を一つ取り上げさせていただきます。すでに先ほどまでの水の問題、それから、気候変動の問題を伺いますと、大変難しそうに感じるのですが、会場から、食料増産をする方策はないのでしょうかという質問が来ています。いかがでしょうか。

(ブラウン) 食料の増産をするということですが、これは農業の始まった時代から1950年ぐらいまでのことを考えますと、それを増産するということは、イコール作付面積を拡大するということで行われてきました。そして、1950年代以降になりますと、今度はいかに歩留まりを改善するかということに注目されるようになりまして、例えば品種改良をする、あるいはかんがいのシステムを改善する、例えば今やかんがいの利用が3倍にも膨れてきているわけですが、このような形で歩留まりを改善してきました。このように歩留まりを改善することに最も早い時期に成功したのは、日本だといえるでしょう。米に関しましては、1880年ごろから日本では常に歩留まりが上昇してきております。そして、他の国々、例えば米国の場合ですと、そのような歩留まり改善は、やっと1940年ごろから始まりました。

そのような歩留まりを上げる要素といたしまして、三つほど挙げられます。まずかんがい、これは先ほど申しましたように、50年代から見ますと、かんがいで水を供給している面積は3倍にもなってきております。それと肥料ですが、これは肥料を使っても、それほどもう歩留まりを上げることは難しくなっていると考えられます。例えばサウジアラビアやイエメンなどですと、この20年の間に生産量が5分の4ぐらいになってきているということで、もはや肥料でもなかなか生産性を上げることはできません。ある時期は、特に途上国では、まだまだ肥料を使うことによって歩留まりを上げられる可能性がある、ポテンシャルがあるといわれてきましたが、それは30年ぐらい前までは確かにそうだったかもしれませんが、今ではそうとは言えません。例えば、中国では米国の2倍の肥料を使っています。また、インドでは米国に匹敵するぐらいの肥料を使っているということを考えますと、さらに肥料を使って生産性を高めていくということについては、特に水の状況、あるいは今作られている品種をもって考えた場合には、それほどの可能性はないと考えられます。

この何十年間の間に非常に歩留まりは上がってきておりました。つまり、その土地、面積当たりの穀物の平均収量は、50年代から見ますと、恐らく3倍ぐらいになっているでしょう。そして、これが成功したのは、例えば日本で開発されたような稲や小麦の小型化、つまり背丈を低くすることによって、より収量が上がってまいりました。背を低くすることによって、光合成されたエネルギーができるだけ多く種の部分、実の部分に集まるということで、収量を上げてきたわけです。50年代の収量、あるいは歩留まりの改善は、このような小型化で得ることができたわけです。もう一つ、アメリカではトウモロコシのハイブリッドが開発されたということで、大きく歩留まりが改善されました。このように小麦や稲、そしてトウモロコシでは、飛躍的な歩留まりの改善を見てまいりまして、これ以上の飛躍的な増産は、恐らくないでしょう。遺伝子などの操作で幾らかはあるかもしれませんが、例えば50年代から90年代までに見てきた大きな増加は、もはや90年代から今日にかけてはその前の時代の半分しかこの増加率は出ておりません。

(秋山) まだいろいろあると思いますが、そろそろここで二つめのトピックに移りたいと思います。日本におけるバイオエネルギー生産、食料事情の今後と日本が果たすべき役割について考えていきたいのですが、まず末松さんにお伺いします。トウモロコシなど主要な食料がバイオ燃料の原料という新しい機能を持つようになってきたわけですが、このバイオエネルギーブームが日本の食料政策にどのような影響を及ぼすと考えていらっしゃいますでしょうか。また、自給率向上など、日本の食料政策はどのような方向を目指すべきとお考えでしょうか。

(末松) 二つありまして、まず一つは、我が国はたくさんのえさを輸入していますので、この価格の変動が我が国の畜産業に大きな影響を与えるということを踏まえて、行政は進めていかなくてはいけない。もう一つですが、我が国が、今の我が国の経済力から食料の輸入、えさの輸入を続けられたとしても、それが他の国の食料や、先ほどお話になりました生物多様性を奪うことになる可能性が高くなってきたという観点を、きちんと行政としても踏まえる必要があると思っています。そうしますと、やはり自国での食料生産の重要性を再認識する必要があると思います。日本の場合、耕作されていない土地や、まだ十分に使われていない土地もあるわけですので、そういうものをきちんと使うということをもう一度しっかりやっていかなくてはいけないと思います。

そういうことが、なぜバイオエタノールに関係するかということですが、日本でバイオエタノールを生産するということに関して、私たちは今年の2月27日に安倍総理に対して工程表を報告いたしました。国産バイオ燃料を大幅に生産拡大していこうということです。そこで留意していただきたいのは、日本の場合、目指すのは、食料かエネルギーかという選択ではなくて、食料の安定供給、食料の安全保障をさらに十全にする形、安全保障を高める形でバイオエタノール、国産バイオ燃料を生産していこうということです。

具体的にいいますと、ポイントが二つあります。一つは非食用系の稲わらや木材からのエタノールを作っていこうということです。もう一つは、今、耕作放棄されている土地、あまり使われていない土地に作物を作付けていこうということです。

もう一つ、我が国は現状、食料とえさを農地で作っているわけですが、人口の減少など、いろいろな関係で耕作放棄地が増えています。耕作放棄地は埼玉県の面積に匹敵するといわれるほどの面積になってきております。これは、こういう状況をなくして、我が国の農地には作物を作付けられるだけ作付ける。それで、エネルギー作物として活用するとともに、ここからが重要ですが、いざというときには、やはり食料として使えるようなことをしていきたいと考えています。

最初から食料をたくさん作ればいいとおっしゃられるかもしれませんが、私たちも例えば日本の場合、日本の農地、それから、日本の国民の食料としていちばん適しているお米を、もっとたくさん作ればいいと思いますが、お米を作っても食べるか食べないかは国民の選択に任されています。残念ながら、今、日本の国民は、昔、赤ちゃんからお年寄りまで平均で120kg食べていたお米を60kgしか食べません。そういう中で、農地をきちんと維持していくことが、これからの日本の食料安全保障をしていくために重要だということです。したがって、こういう観点で、バイオエタノールの生産、バイオ燃料の生産も進めていきたいと考えているところです。

(秋山) ありがとうございました。今、日本の食料政策、それから、バイオエネルギー政策についてもご紹介があったわけですが、嘉田先生、いかがお考えでしょうか。

(嘉田) 基本的には、末松さんがおっしゃられたとおりですが、一点付け加えますと、輸入価格が上昇してきた、特に畜産の市場価格が上がってきたことに注目していただきたいと思います。今後とも食料価格、あるいは農産物価格は上昇傾向をたどるとすれば、これは経済的に何を意味するかということです。いわば、農業経営学的な発想で恐縮ですが、「公共が広がる」ということを我々は言います。つまり、限界値が広がっていく。ですから、今、課長がおっしゃられた、耕作放棄地を使うのだと、さまざまな未利用資源、食品残渣を使うのだと。そのとおりなのですが、と同時に、これまではできなかった部分、いわば経営的に成立しなかった農業が可能になってくる。つまり、ピンチがピンチだけではなくて、チャンスに置き換われる一つのいい機会ではないかと。そういう意味で、今回、日本にとって非常にネガティブな情報が多いのですが、私は自給率回復の一つの大きなチャンスとしてとらえて、そういう戦略を有効に農水省も力を入れてやっていただければいいのではないかと思っております。

(秋山) ありがとうございました。中国では自給率が非常に高いそうですが、阮さんから見て、日本の政策はいかがでしょうか。

(阮) ちょっとその辺はあまり詳しくないですが、個人的な感想を申し上げたいと思います。中国の大学で日本語の勉強をしたとき、日本人の先生が私たちに教えてくれましたが、そのとき先生がよくおっしゃったのが、日本は国土が狭い、資源不足の国だとずっとおっしゃっていました。しかし、15年前に日本に来たとき、飛行機が中国の上空を飛んでいるときは山の色はイエローか茶色で、日本の上空に来たときは何か山の色が違う。初めて来たので、どうして日本の山の色は違うのだろうと。近づいたら、山の上には全部木が生えています。後ほど日本全国を回りました。どこへ行っても、山に木がたくさんあって、しかも、水がどこへ行っても豊富にあります。中国にとって、水は最大の資源、最も貴重な資源です。それでは、どうして日本は資源がないと先生がおっしゃったのか、ずっと疑問に思っていました。

この山の資源をどうすればいいか。これから、アジア、世界において、日本から発信することが多いのではないかと私は思います。

(秋山) ありがとうございました。国産のバイオ燃料の導入拡大に向けて、積極的な政策を執っていかれるとのお話が末松さんからあったのですが、稲わらや麦わらといったセルロース資源の利用ができれば大変いいと思うのですが、技術的な課題などありましたら教えていただけますでしょうか。

(末松) 国産のバイオ燃料を推進するときの課題は二つあると思っています。一つは、今お話があったセルロース資源の利用技術を確立するということです。これはもう世界各国でしのぎを削っていて、日本でも研究が進みつつあり、もうすぐ実用化になるのだと思って期待をしております。もう一つは、日本というのは、例えば水田を中心とした農地、2000年使い続けても生産力の落ちない生産装置があります。こういうものをきちんと次の世代まで残しておく。その生産装置を、今、阮さんからも話がありましたが、水をちゃんと使い続けて、水がちゃんと行き渡るような形で生産装置を残すということは、これからも大切だと思います。それから、もう一つは、日本はある時期から、おいしいものを手間をかけて少し作る、それで高付加価値をつけて農家がたくさん収入を得るというか、農業生産を上げるようにしてきたと思います。これからもそういうことは大切だと思いますが、一方でエネルギーなど、今の状況を考えれば、味は関係なく、まずいものでも低コストでたくさん作るという技術開発をもう一度進めて、バイオ燃料のような分野にも技術を使っていくことが大切なのではないかと思っています。

(秋山) ありがとうございました。先ほどもちょっと聞いてしまったのですが、会場からも、木材、廃材などの非食料資源からエタノールを得ることが可能なのではないか、ぜひそういうことを進めるべきだというようなご質問、ご意見がたくさん来ておりました。今後積極的に進めていくということでしたので、ぜひ期待したいと思います。

(末松) それで、日本の場合は、廃棄物の利用が非常に重要だし、効果的だと思います。というのは、我が国は廃棄物にはお金がついてくるということです。エタノールを作る事業者として考えれば、エタノールを作って売る代金、売る収入と、それから、廃棄物を処理して得る処理収入と、二つが考えられますので、そういう意味で、我が国においては、廃棄物の活用は経済的にも非常に成り立ちやすいものだと思います。日本はごみの問題が非常に重要で、5年前、生ごみについてもリサイクルの法律を作るという国ですから、こういう廃棄物の活用をぜひ進めていくべきだと思いますし、技術の面でも、若干コストが高くても、最初の走りだしはできるということで、そういうところにも力を入れていきたいと思っております。

(秋山) ありがとうございました。ここでちょっと嘉田さんにお伺いします。このように積極的なバイオエタノール政策を執っていくことで、日本農業に与える影響などがありましたら、教えていただきたいのですが。

(嘉田) 日本農業に、さほど直接的に特効薬になるという影響は私はないと思います。むしろ今、末松課長がおっしゃられたように、未利用資源とか、今、使っていない、例えば耕作放棄地、遊休地はたくさんありますので、そういったものをいかに生かすか。間伐材、食品残渣、すべてそうですが。そこで、私は今の課長のご意見に付け加えて、次の点が非常に大事ではないかと思っています。

やはり問題はコストなのです。競争力なのです。かりにエタノール生産につなげたとして、海外からエタノールを輸入することはもちろんできますから、今などは国内で作るよりもはるかに安く手に入るわけです。ですから、これは当然国際競争力を持ちえません。では、未来永劫、補助金でそれをやるのか。それもできません。ならば、どうするかということなのです。そこをやはり見極めなければいけないだろうと。

そういう意味で、私は2点申し上げたいのですが、一つは、優先順位をきちんと考えるべきではないかと。やはりエネルギー安全保障より前に、食料安全保障、自給率を少しでも高めるという優先性を、それぞれの地域、適性、作物に応じて考えていくということを、やはり政策として取り組むべきことだろうと。それをやったうえで、廃棄物はどうであるとか、あるいはバイオエタノール生産についてはどうだということになります。

この第2、第3の道を考える、コスト問題を考えるうえで、私は地産地消という概念がエネルギーの場合にも当てはまるのではないかと。これまで中山間地域のいろいろなお手伝いを私はしてまいりました。そのときに分かったことは、エネルギーも遠くまで運んでしまうと、フードマイレージ、ウッドマイレージのほうが大きくなりすぎるのです。そうではなくて、なるたけ近場で地産地消的に使う。その場で取れたものをなるべく近場で使うことが、より効果的だということです。カスケード利用ともいいますが、多段階、多目的に使うということと併せてやれば、これは輸入にも負けないゾーンが広がっていく。そういう形のものを技術開発とセットにして、早く軌道に乗せていただきたい。そのために各地域で頑張る、努力する、その工夫に対して補助金を導入するということは、私は非常に意味があるのではないかと思っております。

(秋山) ありがとうございました。まだたくさんあると思うのですが、国際社会で日本が果たすべき役割について、そろそろ次の話題に移りたいと思います。まず、末松さんにお伺いしたいのですが、発展途上国において食料問題が深刻化する可能性が、先ほどからたくさん指摘があったところです。日本として国際的な食料問題への貢献は、どういったことができるでしょうか。

(末松) 今まで、ともすると日本は、とにかく、ただ援助すればいいということで、途上国との関係は進んできたという反省が少しありまして、やはりその国が食べることで自立できるような形での協力というのが、これからさらに大切になっていくと思います。近代的な生活をしていただくような援助も必要なのですが、やはり日本の場合は、今まで培った農業に関する技術で、その国が食料において自立できるような協力をできるだけ進めていくことが大切だと思います。それとともに、我が国もきちんと、ただ、門戸を閉ざすという意味ではなく、食料を国内で自立できるような生産体系を作れるように努力していくことが重要だと思っています。

(秋山) ありがとうございました。先ほど末松さんからご紹介があったところですが、このような方針について、嘉田先生、いかがでしょうか。

(嘉田) 日本がどんな国際貢献ができるのかというご質問ですが、構図としては、これは食料もそうですし、バイオエネルギーの生産に関しても、需要は増加する。しかし、生産性はさほど伸びない。あるいは、キャパそのものが限られている。地球環境変動という与件の変化は予断を許さない。あるいは、むしろマイナスに作用する。では、どうなるか。やはり食料自給、エネルギー自給がひっぱくするとともに、先進国と途上国の対立が激化するというシナリオが浮かび上がってくるわけです。あるいはエネルギー対食料の奪い合いということで、そのしわ寄せが途上国に行ってしまうということです。

そこで、私は今回このシンポジウムに参加できるということで、いろいろ考えてまいりましたが、いちばん言いたかったことは、つまり、バイオエタノールを作る、あるいは国際貿易をするうえで、きちんとしたルールが必要ではないかと私は考えております。先ほどモラトリアム論から始まって、レスター・ブラウンさんが調整役がいないとおっしゃいました。全くそのとおりです。市場任せでは、この環境問題、食料安保問題は解決できない。そのとおりです。ならば、どうするか。私は日本が世界一の食料輸入大国であり、資源利用、および輸入大国である。だからこそ、私はこういうルールをきちんと明確にすべきではないかと。つまり、バイオエタノール生産ないしは取引について、三つの基準を明確にしたうえで、日本が率先してこれを提起していく、あるいは環境ODA等々で利用していくのはいかがであろうかと考えております。

その1です。LCA評価と書いてありますが、ライフ・サイクル・アセスメントです。つまり、生産、加工、流通(輸送)プロセスで、かなり化石燃料を使います。これがもし節約できるCO2を上回るならば、実は意味がないわけです。したがって、追加排出につながらないかどうかをきちんと評価したうえで、どういう技術を採用するか。ただし、これは技術革新がありますから、短期的、短絡的には決められない話ですが、そこに十分配慮したうえで、これは赤だ、青だと判定するような形がある程度必要ではないかと思っております。これが1番めの基準です。

2番めは環境破壊問題で、農地転用、特に広大なプランテーションのために森林を伐採し、焼いたりして、大変なCO2の排出になっている。生物多様性を奪う。森林伐採、生態系の破壊、土壌劣化。これはもう、アジアでは相当深刻な現実があります。したがって、それがもしバイオエタノール生産のために起きているとすれば、とんでもない話です。新たな環境破壊につながらないという担保がどうしても必要ではないかというのが2番めの原則だと思います。

3番めは、せめて主食は優先順位が高いだろうと。貧しい人であっても、いわば最低限の生きる権利として、ヒューマンセキュリティというのは最も大事にしなければいけない。ならば、主食の確保という観点から、零細農民や貧困層の食料安全保障を脅かさないというルールを設けてはどうか。

つまり、環境を破壊しない、貧しい人々から食料を奪わないという条件を満たす限りにおいて、バイオエタノールを進めていきましょうと。決して悪いものではありませんから、環境にとってプラスになる面は多々あるわけですから。ただ、特効薬で無前提によいと、市場に任せておいてよいというわけではないと思います。そういう意味で、LCA基準、環境基準、食料安保基準という三つの最低限のルール、文言はこれから農水省で練っていただくとして、このあたりを日本が輸入大国であるがゆえに、それこそ率先してこれを打ち出して、日本ですぐできることはあるわけです。例えば日本政府は、世界一の環境ODAの投資をやっております。JICA等々でやっているわけですが、その場合に、バイオエタノール絡みの話はたくさんあるわけです。そこで、こういう問題を実は引き起こしていないかどうか、きちんとチェック、評価したうえで、日本はこのようなシステムを編み出しましたというものを世界に向けて発信していく。レスター・ブラウンさんにご紹介いただくというのがいいのではないかと私は考えている次第です。以上です。

(秋山) ありがとうございました。拍手も出ていたようですが、そろそろここでレスター・ブラウン先生にお伺いしたいと思います。会場からの質問と併せて、私から伺いたいのですが、会場から、日本の食料自給率が40%であることについて、どんな感想を持ちますかという質問が来ています。これと併せて、日本の食料政策、バイオエネルギー政策について、ご感想、ご意見などをお願いいたします。

(ブラウン) まず、この食料自給率につきまして、日本の場合については、さまざまな議論があります。特に他の国から、アメリカの政府などからも日本に対して、米への補助を削減しろ、あるいは、自給率を下げてももっと輸入しろといったような圧力がかかっております。私の見方ですが、日本は今現在、この穀物について言うならば、約30%の自給率です。米に関していえば、ほとんど100%自給しているわけですが、それ以外の小麦、あるいは動物用の飼料などには非常に多くの輸入をしております。もし私が日本の総理大臣であったとするならば、私はこれ以上の日本の食料自給率の低下はやはり望まないでしょう。食料安全保障といった面でも、これよりさらに自給率が下がってしまったのでは、余りにもリスキーであると思います。ですので、少なくとも今のレベルの自給率を守るということについては、ぜひとも強調したいと思います。

また、この自給率の問題とともに、日本における食料安全保障、あるいはバイオ燃料の問題など、いろいろ考えてみますと、確かに、先ほど末松先生もおっしゃいましたように、かなり耕作放棄地があるのではないかということに、私も気がつきました。先ほど一つの県に相当するぐらいの耕作放棄地があるということでしたが、昨日、京都、東京間を列車で移動したときに、本来であったら稲が育っているべき土地に雑草しか生えていないような土地を見てまいりました。これには一つに、日本の農家の高齢化という問題も絡んでいるのではないかと感じました。恐らく他の国に比べても、日本の農家は特に高齢化が進んでいるのではないかと見て取ったわけです。これもやはり日本における自給率を維持する問題を考えた場合に、一つの大きな脅威になるのではないか。特に米の自給率を維持する問題を考えたときに、この高齢化が一つの大きな課題になるのではないかと思います。

そこで、一つのパッケージとして考えられないでしょうか。つまり、バイオ燃料のことも、耕作放棄地の問題と加えて、例えば、若い人たちに農業を続ける、あるいは新たに農業に従事することへの何らかのインセンティブをつけることによって、自給率を維持していくことも考えるべきではないかと思います。この農家の高齢化の問題というのは、恐らく米の自給自足に関しては大きな課題となると思います。

これらの点は、それぞれがパズルのピースのように組み合わされていかなければならないと思っております。それによって、将来に向けての農業政策を構築していく必要があるのではないかと思います。先ほど阮 蔚先生から、日本の上空を飛んでみると、非常に青々としている、緑だという話がありました。これはもちろん日本には非常に多くの森林があるということもありますが、それと同時に、日本では非常に洗練された高度な技術をもって雨水を保存する、あるいはそれをためて管理するような技術がありますので、それによって水資源を有効に利用しています。これは多くの場合は、農業者によって行われていることですが、これに加えて、さまざまな水資源の利用の方法、水を備蓄する方法、あるいは治水のシステムがあり、これらのものが環境に対してもサービスを提供しているわけです。

もし農家の高齢化によって農業が衰退するようなことになってしまっては、せっかく今提供されている環境サービスも失われてきてしまうわけですので、やはり農業政策の中では、高齢化の問題、それから、環境サービスの問題、水の利用の問題、かんがいの問題など、すべてを考慮していかなければならないでしょう。また、放棄された耕作地などに関して、一つにはこれをバイオ燃料を作るために使うという考え方ももちろんあるでしょうけれども、とにかくこれらを何らかの形で統合していって、全体的な政策に築き上げていかなければならないと思います。その方法は、私にはまだ明確には分かっておりませんが、ぜひともその点に焦点を当てていっていただきたい、それによって農業政策を構築していただきたいと思います。

(秋山) ありがとうございました。非常に参考になるご意見だったと思うのですが、そろそろ終了の時間が近づいてきてしまいました。質問もたくさん来ていまして、全部を取り上げられないことを大変申し訳なく思うのですが、最後にパネリストの皆さんから一言ずつお伺いしたいと思います。

まず、阮さんからお願いします。

(阮) 私は2点ほど申し上げたいのですが、一つは、先ほど末松課長がおっしゃったように、資金の援助よりは技術の援助という言葉がありまして、農業は先進国型産業ということで、日本は先進国ですから、農業は競争力を持っているのが当たり前だと思います。品種の改良から、いろいろなそういう面において、途上国は遅れています。この例でいうと、トウモロコシの反収ですが、中国はアメリカの6割ぐらいです。品種の問題があるのですが、例えば栽培技術に関しては品種と絡んでいるのですが、アメリカは密植していますが、中国はまだそこまでなっていません。要するに品種、あとは栽培技術によって、その部分、増産の余地がまだあるということです。そういうところでは、先進国からのそういう協力がまず一つあるのではないかということです。

二つめは、日米中の協力関係ということです。先ほどトウモロコシからエタノールということで、中国は昨年末にはすでに方向転換し、トウモロコシそのものではなくて、トウモロコシの茎ということです。もちろん小麦や稲も含めまして、年間6〜7億トンくらいのそういうものがあります。半分以上はそのまま焼かれているのです。それをどのようにエタノールにしていくか。要するにセルロースをどのように商業ベース化していくかということで、同じことをやるなら、別々に研究するよりは一緒に交流を深めていったほうが早いのではないか。アメリカも2012年から商業化していくという方針もあるようですが、その点についても、アメリカともそういう協力をしていったらどうかと思います。

(秋山) ありがとうございました。末松さん、お願いいたします。

(末松) レスター・ブラウンさんがお話しされた、農業の果たす環境サービスの価値というものが、日本でもだんだん国民にも理解されるようになってきたと思います。食料を供給するという大切な役割を果たすとともに、いろいろな役割があると。そこのところにちゃんと目を向けて政策を進めていかなくてはいけないと、今日は思いました。

それから、当然、日本でエタノールを作ったりしていくためには、セルロース系の話が最も重要になります。研究を一緒にやるという話、世界でみんな協調して早く食用と競合しないものを作っていくことが大切だと思いますし、日本がアジアに貢献するときには、そういうこと、その国の食料をちゃんと供給したうえで、さらにエタノールも作れるような協力というのは非常に大切ですし、日本が協力するのにふさわしい案件だと思います。アジアの国々が環境に優しいエネルギーをまたこれから作るとしたら、それは食料と競合しない形で作っていく、そのために日本もできるだけ努力をしていくということを進めていければと思います。

実は日本でバイオ燃料を新しく作っていこうということで、農林水産省でプロジェクト予算を取りまして、公募をしたところ、6か所から手が挙がりました。なかなか日本では採算でできないのではないかと、いろいろな声がありましたが、日本の国内でも将来を見通して進めていこうという機運が盛り上がっています。これを食料との奪い合いの形ではなく、食料と調和する、また、何度も言って恐縮ですが、日本の食料自給力、食料安全保障を強化する形で進められたらと思っています。

(秋山) ありがとうございました。嘉田さん、よろしくお願いします。

(嘉田) レスター・ブラウン先生とこうやってご一緒するのは、壇上に一緒に立つのも3回めなのですが、5〜6回になります。いちばん最初に出会ったのが、1992年、ブラジルのリオデジャネイロでの地球サミットの会議で激論を交わしたことがきっかけでした。以来ずっと、レスター・ブラウンさんの目といいますか、思考がどこにあるのかというのは、絶えず私は感動といいますか、びっくりしているのですが、非常にやはり先見性を持っている。先をきちんと見ておられる。そして、地球規模で考えておられる。今日の講演もまさにそういうものだったと思って、今日はメモを取りましたので、またじっくり考えさせていただきたい。大変貴重な機会が与えられて、ありがたかったと思います。まずそれを申し上げたいと思います。

一点、最後に感想をということですが、私自身、経済学者ですので、社会にとって何が最も望ましいかという観点で考えた場合、やはり市場経済、市場原理を有効に活用するということがベースとしてあります。しかし、自由貿易にすべて任せてうまくいくかといわれると、やはりさまざまな矛盾や問題があることも事実です。自由貿易に任せれば、食料安全保障は達成されるという一般的な風潮の中で、バイオエタノールもしかりですが、違うのではないか。環境面で、あるいは食料安保面でいろいろ問題があるではないかという、経済学でいう市場の失敗がそこにあるわけです。この市場の失敗 (Market failure) をどうやって是正するのか。あるいは国民に訴えて、社会運動として意味のある形に組み換えていくのか。それこそがまさに国なり、あるいは公共事業体の大きな役割です。

ですから、末松さん一人に覆いかぶせるつもりはありませんが、農水省を挙げて、あるいは、できれば環境省、国交省あたりとセットになって、この一連の問題をとにかく全精神を注いでいただいて、日本としてのベストソリューションをやはり見いだしていただきたい、そして、世界に発信していただきたい。日本には技術があります。世界に誇れる蓄積もあります。あるいは、知恵もあります。そういったものをぜひ生かして、先ほど末松さんがおっしゃられた方向で、調和的に問題解決できるだろうと、私も期待を持っております。どうかよろしくお願いしたいと思います。今日はありがとうございました。

(秋山) ありがとうございました。最後にレスター・ブラウン先生より感想などを頂きたいと思います。

(ブラウン) 先ほどコーディネータのかたからもお話が出ましたが、中国でのトウモロコシの収穫高は、現在中国におきましては、まだアメリカの60%であると。これからも生産性を伸ばせる余地が非常にあるということが出ておりました。実際に中国の場合には、トウモロコシは二毛作の片方に使われていて、トウモロコシが収穫されたあと、冬小麦、秋まき小麦がすぐに作付けされるという形だと思います。アメリカの場合は1回だけで、年間を通してトウモロコシを作るということなので、実際にアメリカのコーンの収穫高と中国とは、必ずしも単一的に比較はできないと思います。そういった意味では、これからどれだけ歩留まりといいますか、収量が上がるかという可能性としては、中国の場合は二毛作という点から考えると、アメリカの場合とはやはり少し違うのではないか、潜在力としてはそれほど大きくないのではないかという気もします。

もう一つの点として、先ほどから出ている点でちょっと申し上げたかったのは、アメリカの穀倉地帯、特にコーンの穀倉地帯では、その中でも幾つかの州が非常に大きなコーン地帯になっていますが、アイオワ州だけのトウモロコシの収穫高が、カナダの穀物の収穫高全体よりも多いといわれています。実際に、それくらい非常に収穫高が多い、生産性も高いということが挙げられるということが最初のコメントです。

それから、2点めですが、トウモロコシの茎の部分を使ったらどうかということも、一つの可能性として出ておりましたが、これは二毛作をされるということで、実際には、すぐに秋まき小麦、冬小麦をまかなければいけないことになりますので、大体はほとんどが焼くということで処理をされるか、あるいは、家畜に対して一つのえさとして使われています。中国の北部の場合には、トウモロコシの茎はタンパク質の含有量もあるということで、実際にはほとんど牛肉の生産のために使われているということがあります。これをエタノールに使うということでしたが、可能性として、私がもし選択をするのであれば、トウモロコシの茎を家畜用の飼料にするか、あるいはエタノールの原料として使うかという選択肢を迫られるとすれば、私はこれは家畜用の飼料として使ったほうが効率的にはいいのではないかという印象を持っています。以上が、今までおっしゃられたことに関してのコメントです。

最後のコメントといたしまして、今日は本当に最優秀のパネリストのかたがたと一緒にこのようにパネルディスカッションができて、コーディネータのかたの司会も素晴らしかったですし、このようなパネルのかたがたとディスカッションをする機会は非常に久しぶりで、私としては非常に感銘を受けております。さらに佐藤様、それから主催者の皆様にも、このような機会を頂きましたこと、また、聴衆のかたがたにも心から御礼申し上げたいと思います(拍手)。

(秋山) ありがとうございました。本日はパネリストのかたがた、それから、レスター・ブラウン先生、本当にありがとうございました。それから、第1部の基調講演に引き続き、このパネルディスカッションにご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。これにてパネルディスカッションを終了したいと思います。ありがとうございました(拍手)。

 

閉会あいさつ (農業環境技術研究所理事 上路 雅子)

ただいま非常に心強い司会者のかたのコメントがありまして、このシンポジウムを開催いたしまして、本当によかったなという感じがいたしました。本日は第27回環境シンポジウムということで、皆様たくさんのかたがたにご出席いただきまして、本当にありがとうございました。レスター・ブラウン先生の基調講演に続きまして、嘉田先生、末松さん、阮先生を迎えて、パネルディスカッションということで、多くの非常に広範なことがらにつきまして、示唆に富んだ意見交換ができたということに、本当に感謝したいと思います。それと、会場から皆様のご質問すべてについてご紹介することができませんでしたが、たくさんの意見を頂きました。これもシンポジウムの主催者を代表いたしまして、感謝申し上げたいと思います。

本日のシンポジウムでは、地球温暖化を解決するための方策などということで導入されますバイオ燃料の活用の方法、そして、バイオ燃料に必要な穀物の需給に関しまして、今後、世界的な環境問題や食料確保の観点から、十分な検討が必要であるということが確認されたと思います。

ところで、先ほど来、農水省の末松課長のほうから紹介がありましたが、農水省関係研究機関が中心となりまして、本年度から23年度まで5年間の計画で、地域活性化のためのバイオマス利用技術の開発というプロジェクトを実施することになっております。この研究では、国産バイオエネルギーのためのトウモロコシ、豆類、木質など、各種資源作物の育成、あるいは栽培技術の開発、エタノールに変換するための技術開発、バイオマスマテリアル製造技術の開発などを目指しております。

それで、私ども農業環境技術研究所といたしましても、このプロジェクトに少し関係しております。例えば、バイオマスを利活用する場合の環境への負荷、例えば、肥料をまいたときに窒素、リンなどが入ってくるわけですが、その中の地下水への汚染はどうなっているのか。あるいは、有機質肥料の施用によって、土壌肥沃度の持続性がどうなのか、あるいはエネルギー収支がどうなのかというような、各地域に適用できる影響評価手法の開発を我々が担当することになっております。バイオマスエネルギーの利用において、環境への負荷や食料危機をもたらすようなことがあってはなりません。プロジェクト研究が所定の目標を達成するように、皆様からのご指導、ご支援も賜りたいと思います。

最後に当所のシンポジウムにお忙しいところ基調講演をいただきましたレスター・ブラウン先生、パネリストの諸先生がたに厚くお礼申し上げたいと思います。今後のバイオマスエネルギーの利用に多方面の論議をしなければなりませんし、また、研究の発展も期待したいと思います。本日のシンポジウムをこのような形で成功させていただきました、出席いただきました皆様がたに厚くお礼申し上げまして閉会といたしたいと思います。本当にありがとうございました(拍手)。

 

シンポジウムの映像(Windows Media Player用)

第27回農業環境シンポジウムの映像
開会あいさつ: 佐藤洋平 農業環境技術研究所理事長
基調講演(逐次通訳): レスター・ブラウン アース・ポリシー研究所長

パネルディスカッション (前半部)
パネルディスカッション (後半部)
閉会あいさつ: 上路雅子 農業環境技術研究所理事

シンポジウム・研究会・ワークショップの開催記録農業環境技術研究所