私たちの研究グループでは、3次元の培養モデルを開発して創薬などの薬学研究に用いることを目指しており、そのモデルの一つとして、「組織の切片(薄片)を利用した培養システム」の開発を進めています。本研究では、この培養システムのがん研究への応用を試みました。がんの大きな特徴の一つに、他の臓器への「転移」があります。転移の際には、がん細胞と周囲の組織の相互作用が重要な役割を果たします。そこで本研究では、ラットの様々な臓器から組織切片を作製し、その組織切片上でがん細胞を培養して転移に関する挙動を調べました。その結果、切片を採った臓器の違いにより、がん細胞の増殖や、転移に関わる遺伝子の発現に違いが見られること等がわかり、この培養システムが、転移をはじめとした「がんの特性」を解析する新たな方法として有望であることが示されました。竹澤上級研究員が開発した培養法をがん研究に応用する初めての試みだったため、既存の実験方法が適用できず苦労したこともありましたが、研究所・大学の皆様のご協力のおかげでこのような賞を頂くことができ、大変嬉しく思います。
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