生物研ニュースNo.49

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研究トピック:遺伝子診断を利用した豚肉生産技術の開発

背骨の数を決める遺伝子を利用し、肉量と肉質を改良

 生物研の美川智らの研究グループは、ブタの背骨の数を決める遺伝子を特定し、さらにこの遺伝子を利用したブタの遺伝子診断技術を開発しました。その意義と今後の展開についてご紹介します。

ブタの背骨の数はバラバラ

 多くのほ乳類では、背骨(椎骨)の数は生物種ごとにほぼ決まっていて、ヒトでは17個、ブタの祖先であるイノシシでは19個です。しかし豚肉生産によく使われるブタの改良品種では、椎骨数が20〜23個と個体によりバラバラであることがわかりました。ブタの胴体は椎骨数が多ければ長く、少なければ短くなります。また胴が長ければ、1頭当たりの肉量が増えます。つまりブタでは、「椎骨数」が「肉量」という農業上重要な形質に大きく関わっていたのです(下図)。

椎骨数と胴の長さの関係

ブタの胴は椎骨数が多ければ長くなり、肉量も増えます。

椎骨数を増やす遺伝子

 そこで私たちの研究グループでは、ゲノム情報を利用して「ブタの椎骨数を決める遺伝子」の探索に取り組みました。2つの遺伝子が見つかりましたが、片方の「VRTN」という遺伝子がブタ改良品種での椎骨数のバラツキの原因となっていることが分かりました。VRTN遺伝子は、イノシシ、椎骨数が少ないブタ、椎骨数が多いブタの全てが持っていましたが、椎骨数が多いブタではVRTN遺伝子のDNA配列が少し変化しており、これが「椎骨数を増やす遺伝子」の正体でした。

遺伝子診断への利用

 「椎骨数を増やす遺伝子」を利用して、椎骨数が多いブタ(=胴が長く肉量が多いブタ)だけを生産できないだろうか? そう考えた私たちは、椎骨数を増やす遺伝子の有無を簡便に調べる技術、すなわち「椎骨数の遺伝子診断法」を開発しました。遺伝子診断によりオス豚の「椎骨数を増やす遺伝子」の有無を判定し、実際に生産農場で「遺伝子有り」「遺伝子無し」と判定されたオス豚を使ってそれぞれ子豚を生産しました。その出荷時の肉量を比較たところ、狙い通り「遺伝子有り」のオス豚の子豚の方が肉量が増えていました。それだけではありません。肉量に加えて、肉質も改良することができました。「遺伝子有り」のオス豚の子豚の肉の方が、サシが多く、やわらかくなり、肉の格付けも上がっていたのです。

 将来的には、母豚の遺伝子診断を併せて行うことで、より肉量、肉質を改良したいと考えています。

ひとこと 枠
                  ひとこと
       この研究は、生物研だけでなく、国内の多くの研究所の
  協力により進められました。また生産農場にも協力していただき
  実証試験を行うことができました。これからも先端研究を生産
      現場に活かすことを目標に、研究に努めたいと思います。
写真

研究グループのメンバー

前列左から谷口雅章、荒川愛作、廣瀬健右(JA全農)、後列左から吉岡豪(岐阜県)、美川智(筆者)、枠内左から、新居雅宏(徳島県)、奥村直彦(JATAFF研)、両角岳哉(JATAFF研)。

[農業生物先端ゲノム研究センター 家畜ゲノム研究ユニット 美川 智]

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