研究者から一言 初めてVigna 属野生種を目にした時の感動を、私は忘れられません。海岸の砂浜に生えるもの、乾燥した砂地に生えるもの、湛水状態の湿地に生えるもの、むき出しの石灰岩に直接しがみつくようにして生えるもの…。塩に強いものは3%の食塩水に浸けても2カ月以上生き続け、乾燥に強いものは1か月以上水を与えなくても萎れもしません。石灰岩など、強度のアルカリ性のはずです。みんな同じアズキのなかまなのに、それぞれ全く異なる環境に適応して生き延びているのです。もしダーウィンがこれを見たら何と言っただろうか、と思わず呟いてしまいました。
同時に、この植物なら世界の食糧問題を救う鍵になってくれるかも知れない、と感じました。元々、私が農学部を志望したのは、スーパークロップを作って食糧問題を解決したい、などという青臭い夢を見たことが理由でした。その後、多くのバイオ技術が様々な問題に直面しているという現実を知るようになり、いつしか基礎研究で身を立てていこうと思うようになっていました。しかしVigna 属の植物たちは私に、昔のその青臭い夢を、思い出させるのです。
もし、このVigna 属の野生種がもつ適応機構を解明して、それらを組み合わせた作物を作ることができたら…? そう思わない日はありません。その一方で、やはり青臭い夢に過ぎないのかも知れないと思うこともあります。しかし、かつて緑の革命を起こしたノーマン・ボーローグや、その弟子で、国際的なジーンバンク事業を推進したベント・スコウマンといった偉大な先人たちは、大真面目に世界を飢えから救おうとしていました。今、彼らと同じ分野にいる私が、彼らと同じ夢を見てもいいはずだ、と自分に言い聞かせながら、毎日研究に励んでいます。
みなさんにもこの研究を応援して頂けると幸いです。よろしくお願いします。
|