\ 催青

 催青と云うのは管理した環境の下で蚕種を孵化させることである。蚕種が青み卵(Y2Bf) になることも催青と云うが、ここで云う催青は蚕種を青み卵にし、更に孵化させるための保護・管理である。
 これまでに述べてきた蚕種の保護・取扱いおよび人工孵化は、蚕種を最良の状態で催青に移し、最高の孵化能力を発揮させるための準備であって、これらの準備なしに、催青だけによって蚕種の孵化を良くすることはできないが、反面また、1年を費した蚕種保護の苦心も催青の失敗によって無になる訳であるから、蚕種の保護・取扱い、人工孵化および催青は一体になって初めて効果を拳げ得るものである。
 ただ、催青とこれらの準備過程との間には蚕種の保護、管理について原則的な違いがある。準備過程においては、越年性の管理(X1)と云うことが、直接または間接に、常に問題であったが、催青においては、越年性を全くはなれて、発育の管理が総ての問題である。
 不越年種または越年性の解消した蚕種は自然状態に放置しておいても孵化するが、これでは一般に孵化が不斉であり、何時孵化するかの予定も樹たない。例えば、越年種を自然温度で保護しておき、点青したときにこれを2分し、一半は25℃に移し、他半は自然温度のままにおいて孵化させると、第150表のような結果が得られた。

第150表 自然温度と点青後25℃とにおける越年種の孵化状態(和田)(1130)
調査
場所
日115号 支108号 温度差
平均
(自然温度
マイナス
25℃)
25℃区 自然区 25℃区 自然区
孵化
日数
(日)
総孵化
歩合
(%)
最多2日
孵化歩合
(%)
孵化
日数
(日)
総孵化
歩合
(%)
最多2日
孵化歩合
(%)
孵化
日数
(日)
総孵化
歩合
(%)
最多2日
孵化歩合
(%)
孵化
日数
(日)
総孵化
歩合
(%)
最多2日
孵化歩合
(%)
新庄
福島
飯坂
小淵沢



97
97
82
91
94
95
81
89



95
88
85
90
90
58
61
84



98
94
84
93
94
92
84
87



96
97
89
87
90
86
67
75
−5.5
−6.9
−6.8
−7.6
綾部
明石

86
77
85
71

87
84
82
64

98
68
93
65

95
73
86
47
−6.7
−7.8
四国
熊本
宮崎
山川


10
15
72
86
89
73
45
73
45
32
11
13
16
28
69
85
92
83

38
37
19



12
80
80
86
80
62
71
63
50
11
13
14
19
81
81
95
82

36
37
33
−7.5
−9.4
−8.2
−6.9

 これは農林省蚕糸試験場における支場の共通試験成績であるが、蚕種の保護および催青に開する種々な問題点を示している。
 試験場所を北から南へ、A、B、Cの3地帯に分けて考えてみると、AおよびBにおいては、冬の間の低温のために、早く活性化した卵の発育が抑えられ、その間におくれたものの活性化が進むので、春暖と共に発育が始まったときの胚が揃っていて、孵化日数が短かく、総孵化歩合と最多2日孵化歩合との開きも比較的小さい。これに対し、Cにおいては、冬の間の気温が高いため、活度化がおそく、また早く活性化したものが発育を始めるので、孵化が不斉になり、孵化日数が長く、総孵化歩合と最多2日孵化歩合との開きが大きい。
 新庄の気温が最も高い(25℃との差が小さい)のは意外な感じもするが、これは、暖地においては早くから徐々に温度が上り、気温は、25℃より、遙に低くても、胚の発育し得る最低温度以上には早く達するため、比較的低温の時期に点青卵になるのに対し、寒地においては、発育最低温度に達するのがおそい代りに、その後の気温の上昇が速いことを示すものである。
 ここで重要なことは、自然温度の下で孵化の不斉なC地帯の蚕種を、点青以後だけでも25℃に保護すると、総孵化歩合には変りがないが、最多2日孵化歩合が非常によくなり、孵化日数の短縮する現象である。この傾向は、自然温度での孵化の比較的よく揃うA地帯およびB地帯においても認められる。これは、先きに(Y3Da)、発育程度の揃っていない蚕種を高温で催青すると、発育の開きが大きくなると述べたことと矛盾するようにもみえるが、そうではない。例えば、第103表において、15℃では反転期から催青期までの発育に16日かかっているのに、25℃では4.18日で同じ発育をしていることからわかるように、発育に要する時間のではない。云わば見かけの上の揃いがよくなっただけではあるが、期限を切って孵化を揃える実用技術の上からは見逃がすことのできない現象である。
 催青は孵化試験とは違い、ただ孵化歩合が高いと云うだけでは意味がなく、予定の掃立日に予定量の蟻蚕を最も健康な状態で供給する期限付きの仕事であるから、不確定要素の多い自然環境に頼っていては目的が果し難く、温湿度その他環境条件の管理が必要になる。

1 催青の準備
 A 予備催青

 本催青の計画をきめるまでに結果がわかるように、予備催青を行なって、催青所要日数、孵化の斉否、初発2日あるいは3日孵化歩合などを調査し、本催青の参考にする。予備催青は抽出検査であるから、本催青の蚕種を正しく代表するように、品種、母体、蚕期、保護法別に材料をとって行なう必要がある。
孵化調査についてはZ3B参照。

 B 催青室および催青用具の準備、消毒
 催青室や催青用具に病毒が付着していると伝染の大きな根源になり、その被害は広い範囲におよぶから、消毒は普通の蚕具、蚕室の場合よりも厳重に行なう必要がある。
 しかし、催青室は締切って使用するので、木材などに浸込んて技け切らない消毒剤が、補温を始めてから揮発して障害を起こすことがある。消毒剤の種類によっては、使用前によく補温点検しておく必要がある。
 新築の催青室が、塗料や断熱材からの有毒なガスの揮発のために使用できなかった例もあるから、新築、改築、修理などの際には材料に注意すると共に、使用の日までに十分余裕のあるように工事を終えて、予備催青をしておくのが安全である。これは、同じく密閉状態で使用する蚕種庫や冷蔵庫についても同様てあって、洗浄が容易で、病菌や薬剤の侵入および結露を防止できる内面構造を考える必要がある。
 斎藤(789)は30×30×1cmの朴の木の板の表裏に各種の塗料を塗り、4月の室温で1カ月間乾燥させた後、30×30×40cmの厚紙製の箱の底に入れ、その上に蚕種をのせて上面をセロファン紙で密閉し、前期を24℃、後期を25℃で催青して孵化を調べた。催青着手のときに、水性壁塗料(2回塗り)、ポリニール(2回塗り)およびセラックニス(砥粉目止、3回塗り)では微かに臭気が残っており、油性調合ペイント(2回塗り)およびクリヤーラッカー(砥粉目止、3回塗り)では上記よりも強い臭気が残っていたが、セラックニスおよびクリヤーラッカー区において、1日目の孵化が幾分少なく、3日目孵化の多かった以外は対照区との間に孵化の差がなかった。発蟻して開封したときにも臭気が残っていた。8月に、塗装後の乾燥期間を15日および1週間にして、同様な試験を行なった結果においても被害は認められなかった。従って、これらの塗料は比較的短期間で無害になるらしいと云う。しかし、蚕種庫、冷蔵庫、催青室などでは乾き方も異なるから、十分に注意する必要がある。
 バラ種容器や催青容器、障子張りなどの糊に澱粉質のものを用いると、麹黴その他の菌類の繁殖源になる。このため、糊には防黴剤として、糊材料に対して1割(重量で)のベータ・ナフトール(β−Naphtol)を混ぜ、約10倍の水を加えて煮沸する方法(542)、または糊材料に安息香酸を1%加える方法(544)なども提案されたが、その後、黴の繁殖源にならないCMC、ポリビニールアルコール(W5Bc)などが糊料として用いられることが多くなった。更に、ボール紙製(1189)、またはプラスチック製のバララ種容器、催青容器、あるいはその兼用器が作られるようになった(459,796,1021)。これらを大量生産によって安価に作り、一度使ったものは再使用しないと云う考え方も進められているが、今後更に改善すべき点も多いように思われる。
 催青容器のホルマリン消毒は、普通の燻蒸では、積重ねた容器の内部までガスが滲透しにくいから、低圧消毒器を用いるのがよいと云われている(470)
 補温装置、冷却装置、補湿器、照明器具、温度計、湿度計その他の点検、室内各部の温度分布の調査を行ない、不良個所の修理をする。温度分布は、室内が空のときと、蚕種を収容したあととでは相違するから、その点の注意も必要である。温度は催青に最も大きな影響を及ぼすから、その調節には特にこまかい注意が大切である(Z1C)。

 C 蚕種および蟻蚕の消毒
 卵の外面にカビその他の病菌の付着しているおそれのある越年種は、出庫後ホルムアルデヒドの2%液(ホルマリンの約20倍液)に30分間以内浸した後、水洗、乾燥して催青する。催青中の消毒は、初期および末期に行なえば、出庫当時に行なった場合と大差がないが、中期、特に反転期に行なうと孵化歩合が悪く、孵化日数も延びると云う報告があるが(382)、末期の消毒によっても、呼吸障害のために孵化の1日ぐらいおくれることが多い。
 古く、小岩井(418)は、ホルマリン20倍液から発散するガス中に催青卵を5時間密閉すると、蚕種が消毒されて蚕作がよくなると唱えた。その根拠は明かでなかったが、山崎(1178)がウイルス病に対する蚕種消毒に関連して小岩井の業績を紹介し、古田(142)も亦最近、30-40℃に温めたホルムアルデヒドガスで20分間処理すると多角体が完全に不活化され、催青卵(孵化前日)に塗布した麹黴病菌は10分間で完全に消毒されること、20分間処理しても蚕種には害のないことなどを報告した。古田の研究は無菌飼育用蚕種の消毒のための小規模な実験ではあるが、古い業績が新らしい角度から再認識されてきたことは注目される。ウイルスの不活化については、なおXI2参照。
 催青中の蚕種に対するホルマリンおよびクライトの影響については梁池(1184)の試験が実用上参考になる(第151表)。

第151表 ホルマリンおよびクライトの臭気と蚕種の孵化(梁池)(1184)
試 験 方 法 供試卵数
(粒)
孵化に関する調査 蟻蚕の生命調査
容器の処理 催青方法 孵化卵
(粒)
催青死
卵(粒)
孵化歩合
(%)
供試蚕数
(頭)
生命時数
(時間)
指数
無処理 標準催青  20,262   20,115  147 99 105 108 100
 ホルマリン3%液  浸漬後直ちに
標準催青
20,018 244 98 115 88 82
クライト200倍液 20,001 261 98 126 90 83
歩合の小数点下省略。

 これは、催青容器を溶液に直接浸して消毒を行ない、その中に蚕種を入れて催青を行なった結果であるが、孵化におよぼす影響は殆どなかった。蟻蚕の生命時数はかなり短かくなっている。
 大場(724)は麹黴病菌に対する、10%テトライト石灰(テトライトの有効塩素量は45%)による蟻蚕消毒は、26-27℃、湿度90%の条件では、菌が付着してから7時間以内、特に3-5時間に行なうのがよいとしている。
 セレサンその他の水銀製剤の使用は今後は減少すると思われるが、前日にセレサン5%石灰を撒布した容器に蚕種を収容して、催青を行なった結果は第152表の通りであった。

第152表 セレサン石灰を撒布した容器による催青(梁池)(1184)
試験区 供試卵数
(粒)
掃立当日の
孵化卵数(粒)
孵化歩合
掃立日(%) 掃立後(%)  計(%)  指数
対照区
セレサン5%石灰尺坪2.0g
      〃      1.5g
      〃      0.5g
1,855
1,857
1,853
1,851
1,811
1,684
1,689
1,759
97
90
91
94



98
94
95
97
100
96
96
99
催青条件:温度25.1℃、湿度78.4%。歩合の小数点下省略。

 また、掃立ての際に催青容器にセレサン5%石灰を撒布して蟻蚕消毒を行ない、掃立後、残った未孵化卵の中から青み卵だけを選り出し、もとの催青容器に収容して、特に青み卵に対するセレサン石灰の影響を調べたところ、孵化歩合はセレサンを撒布しないもの95.6%、撒布したもの79.4%であったが、この場合には、掃立日の孵化歩合が、無撒布区77.5%、撒布区80.0%と後者の方が多かったので、最終孵化歩合は前者99.0%、後者95.7%で、大差はなかった。従ってこの青み卵についての孵化歩合の違いには、セレサンばかりではなく両区の孵化の遅速も関係しているように思われる。
 硬化病に対する蟻蚕消毒に用いるセレサンは、セレサン5%石灰が最も普通であるが(485,486,624)、セレサンの水溶液を吸収させて作ったPM加工紙で蚕種や蚕座を包んでおいても予防効果があると云う(487)
 同じく水銀製剤であるシンメルで掃立器を消毒する場合には、1,000倍溶液では差支えないが、それ以上の濃度になると被害があり、沈殿物が付着しているものを用いると消毒14日後においても悪影響があると云う(454)

2 催青条件
 A 温度

 Zで述べたような取扱いをして丙A−丙Bで冷蔵した越年種は、出庫後3日間15℃で保護した後、20℃以上の温度に移す。この15℃期間を予備催青と呼ぶこともあるが、先きに述べた予備催青とは違い、温度の激変を避けると共に、胚の発育を揃えるために必要な(Y3Da)催青の前段である。丙A−丙Bで冷蔵したとは云っても不揃いがあるから、この前段処理は必要である。
 越年卵性を確実にするためには、25℃前後の温度て催青する必要があるが、催青温度が越年卵性の決定に影響するのは胚に胸肢の発生する頃から以後であるから(X1Aa)、出庫後3日間を15℃に保護しても、そのために不越年卵性になる心配は殆どない。冷浸種も浸酸後15℃で前段処理をした後に本催青に移すのがよいと云う説があるが(654)、一般には行なわれていない。催青が適正に行なわれておればこの必要はない。
 15℃の後は、目的温度に上げて孵化までを一定の温度で保護する平進法、次第に温度を高めて行く漸進法など、種々な温度管理法があるが、最も普通に行なわれているのは平進法、および催青期間の後半を前半より2−3℃高めにする段階的な方法である(第153表)。

第153表 普通に行なわれる交雑種催青の温湿度標準
蚕種 温度および日数   湿度  
  15℃ → 18〜20℃ → 23〜24℃ → 25〜26℃  
 越年種   出庫後    (2日間)     4日間      以後孵化まで
 3日間
75〜85%
 浸酸種   −        −      (3日間)      全期間
括弧内の日数を経由することも行われる。浸酸種でも冷蔵してあった
ものは、15−20℃に半日〜1日おいてから表のように保護する。

 催青温度と孵化歩合および胚の発育速度については既に述べたが(Y3Da)、最近の品種の25℃平進催青における胚の発育段階を第154一156表に示す。

第154表 越年種催青中の胚発育段階(北沢・高見)(387)
蚕品種 25℃催青
催青開
始の時
1日後 2日後 3日後 4日後 5日後 6日後 7日後 8日後 9日後 10日後
日122号
日124号
支115号
支122号(太)
支124号
15-16
14-15
14-15
15-16
14-15
16-17
15-16
16-17
17-18
16-17
18-19
17-18
19-20
19-20
18-19
20-21
19-20
20-21
20-21
20-21
21
20-21
21-22
21-22
21-22
22-23
21-22
22-23
22-23
22-23
24-25
23-24
24-25
23-24
23-24
25-27
24-25
25-27
25-27
25-27
27-28
25-27
28-29
28-29
28-29
28-29
28-29
初発

初発



日122号×日124号
日124号×日122号
支115号×支124号
支124号×支115号
日124号×支122号(太)
支122号(太)×日124号
14-15
14-15
14-15
15-16
14-15
14-15
16-17
16-17
17-18
17-18
17-18
17-18
18-19
18-19
18-19
19-20
19-20
19
20-21
19-20
20-21
21
20-21
20-21
21
20-21
21-22
21-22
21-22
21
22-23
21-22
22-23
23-24
22-23
22-23
23-24
23-24
24-25
24-25
24-25
24-25
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
28-29
28-29
28-29
28-29
28-29
28-29





原種は1960年6月採りを1961年4月に、交雑種は1961年6月採りを1962年4月にそれぞれ調査した。
数字は発育段階番号(Y2B)。ゴチックは反転期、イタリックは点青期。毎日の段階の巾は蚕種の発生の
揃いを示すものではなく、この範囲の胚は翌日にはどの程度に進むかと云う発育の巾を表している。催青
は25℃、湿度70−80%。15℃を通さなかった。15℃、2−3日の中間温度を通すと、その間の発育はほ
2階程(14から16、15から17)であった。                                        
第155表 即時浸酸種催青中の胚発育段階(北沢・高見)(387)
蚕品種 浸  酸  後
20時間 40時間 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日
日122号
日124号
支115号
支122号(太)
支124号
6-7
6-7
6
6-7
6-7
17-18
17-18
17-18
-
17-18
17-18
17-18
18
18-19
18
20
20
20
20-21
20
21
21
21
21
-22
21
22-23
22-23
22-23
23
22-23
23-24
23-24
23-24
24-25
24
24-25
25-27
24-25
25-27
25-27
27-28
27-28
27-28
28-29
28-29
29
28-29
29
初発
初発



日122号×日124号
日124号×日122号
支115号×支124号
支124号×支115号
日124号×支124号
支124号×日124号
4・2×5・4
5・4×4・2
6
6-7
6-7
6-7
6-7
6-7
6-7
6-7
17-18
17-18
18
17-18
18
-
18
17-18
17-18
17-18
18
17-18
18
17-18
18
17-18
19-20
20
20
20
20
19-20
20
20
21
21
21
21
21
-22
21
21
-22
21
22-23
22-23
23
22-23
22-24
23
23
22-23
23-24
23-24
24-25
24-25
25
24-25
24-25
24-25
24-25
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
27-28
27-28
28-29
28-29
28-29
27-28
28-29
28-29
28-29
29
初発


29
初発
初発




初発

産卵後25℃、19−22時間目に浸酸(15℃比重1.075、46℃、5分)。
催青は25℃、70−80%。その他は第154表の脚註参照。
第156表 冷蔵浸酸種催青中の胚発育段階(北沢・高見)(387)
蚕品種 浸  酸  後
1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日
日122号
日124号
支115号
支122号(太)
支124号
13-14
12-13
12-13
13-14
12-13
15-16
16-17
13-14
16-17
14-15
17-18
18-19
16-17
18-19
17-18
19-20
19-20
18-19
19-20
19-20
20-21
20-21
20-21
20-21
20-21
21-22
22-23
21-22
21-22
21-22
23-24
23-24
23-24
23-24
23-24
25-27
25-27
25-27
25-27
25-27
27-28
27-28
27-28
28-29
27-28
初発



日122号×日124号
日124号×日122号
支115号×支124号
支124号×支115号
日124号×支124号
支124号×日124号
13-14
13-14
13-14
12-13
13-14
12-13
16-17
15-16
14-15
15-16
15-16
15-16
18-19
17-18
17-18
17-18
17-18
18-19
20-21
19-20
18-19
19-20
19-20
19-20
21-22
20-21
20-21
21
20-21
20-21
22-23
21-22
21-22
21-22
21-22
21-22
24-25
24-25
22-23
23-24
24-25
24-25
27-28
25-27
24-25
25-27
25-27
25-27
28-29
28-29
27-28
28-29
28-29
27-28





産卵後25℃、40時間目から40日間5℃に冷蔵。出庫後2時間で浸酸(15℃比重1.10、
48℃、6分)。催青は25℃、70−80%。その他は第154表の脚註参照。

 松村らの結果(Y3Da)からわかるように、催青日数は20℃と24℃とでは約4日半、24℃と28℃とでは約2日違うから、催青室内の温度分布に注意し、蚕種の上下積みかえを行ない、位置による発育の遅速が起こらないように配慮する必要がある。催青期間は卵の大小によっても、幾分相違する。
 孵化を促進するために、催青末期の保護温度を27℃ぐらいまで上げることも行なわれているが、温度が高いと孵化した蟻蚕の体力消耗がはやい(第157表)。

第157表 催青温度と体重指数(杉山・高見)(878)
 催青温度 
(℃)
体重指数
 掃立直前    1日後     2日後  
25
27
100
101
434
388
1,151
957
25℃催青区掃立直前の体重を100とした指数。

 バラ種の催青においては、早く孵化した蟻蚕が2夜包みまたは3夜包みになることが避けられないが、温度が高いと、特にこれらの早く孵化したものの体力消耗が大きいから注意しなけれはならない。
 原種の催青温度は25℃以上に上げないことが望ましい。
 仲野(659)が、支105号の越年種を、最長期以後、度度24℃、湿度75%で催青し、種々な期間異常温湿度を作用させた結果によれば(第158表)、反転期以前の温度を20℃にするとその間の湿度も低い方がやや良好であるが、反転後の20℃においては高湿度がよい傾向を示した。これに対し、温度を32℃に上げた場合には、何時の時期でも常に高湿度がよかった。仲野は、最長期−反転期24℃、反転期−孵化期25.6℃、湿度全期間75%の催青を合理的催青法と云っている。

第158表 催青中の異常温湿度と孵化歩合(仲野)(659)
異常温湿度 実用孵化
歩合(%)
不孵化卵歩合(%) 経過日数(日・時間)
温度
(℃)
湿度
(%)
接触時期 早期
死卵
催青
死卵
最長期

反転期
反転期

眼点期
眼点期

全青期
全青期

孵化期
20 25 最長期−反転期
  〃 −眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
反転期−眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
眼点期−全青期
  〃 −孵化期
全青期−孵化期
93
91
87
81
91
93
87
93
81
87


















5・00


5・00


3・08

3・08
3・08
3・00


6・00


6・00

3・00
3・00
1・00


1・16


2・00

2・00
1・08
2・02


1・10


1・18

2・02
2・10
11・02


14・02


13・02

10・10
10・02
20 95 最長期−反転期
  〃 −眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
反転期−眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
眼点期−全青期
  〃 −孵化期
全青期−孵化期
92
91
85
83
93
89
85
92
93
92


















5・00


5・00


3・08

3・08
3・08
3・00


6・00


6・00

3・00
3・00
1・08


1・16


2・00

2・00
1・08
2・02


1・10


1・18

2・02
2・10
10・02


14・02


13・02

10・10
10・02
32 25 最長期−反転期
  〃 −眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
反転期−眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
眼点期−全青期
  〃 −孵化期
全青期−孵化期
25
 7
 1
 0
92
77
73
93
90
88
48
78
79
69





25
12
17
30

11
24


3・16


3・16


3・08

3・08
3・08
3・08


3・08


3・08

3・00
3・00
1・00


1・08


1・08

1・16
1・00
2・02


1・18


2・02

2・02
1・18
10・02


10・02


10・02

10・02
9・02
32 95 最長期−反転期
  〃 −眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
反転期−眼点期
  〃 −全青期
  〃 −孵化期
眼点期−全青期
  〃 −孵化期
全青期−孵化期
48
21
22
20
72
85
79
90
93
94
3・08


3・08


3・08

3・08
3・08
2・16


3・00


3・00

3・00
3・00
1・00


1・08


1・00

1・00
1・00
2・02


1・10


1・18

1・18
1・18
9・02


9・02


9・02

9・02
9・02
20
22.8
25.6
28.3
75
75
75
75
5・00
4・00
3・00
3・08
5・00
3・00
2・16
3・00
2・00
2・00
1・00
0・16
2・02
2・02
2・02
2・02
14・02
11・02
9・02
9・02
最長期−反転期24℃、75%、反転期−孵化期25.6℃、75% 3・08 2・16 1・00 2・02 9・02
歩合の小数点下省略。

 一般に、高温催青は繭質をよくすると云われているが、蚕種に悪影響のあるような高温は収繭量にも繭質にもよくない(624a,580)。従って、化性に影響がなく、蚕種の生理上適当な催青温度は、自然に、23℃-25℃、これより上っても26℃ぐらいまでの範囲内に定まってくる。
 催青温度と繭質や蚕作との関係については多くの報告があるが、催青と云う出発点と繭質や蚕作と云う終末とを、中間過程を抜きにして直接結び付けることには、縷々繰返えすように、結果がどちらであっても無理が多い。
 絹生産に直接関係のある絹糸腺に問題を絞って考えると、絹糸腺の細胞数は催青中に決定するのであるから(695)、催青温度の高低によってその数が影響されそうに思われるが、実際にはその差が認められない(711)
 有賀(61)は、中部糸腺に縊れの生ずる不結繭蚕の発現と催青温度(25℃および15℃)との関係を調べたが、一定の傾向が認められなかった。但し、高橋ら(909)は不結繭蚕防止の催青温度としては24−25℃がよいとしている。
 15℃と25℃と云うような極端な催青温度の比較になると、化性の変化を通しての影響も考えなければならない。例えば、15℃暗催青においては、25℃明催青に比べて繭質は劣るがラウジネス繊維が少ない(679)、蚕児の食下量および消化量が少なく、尿酸の排泄が多い(212)、などは化性変化の影響によることが大きいものと考えられる。
 平山(200)は、毎日12時間毎に変温(20℃と30℃および22℃と28℃)させる区、22℃と28℃との12時間毎の変温を催青着手−反転、反転−点青および点青−孵化の間それぞれ続ける区ならびに25℃恒温区を設けて、孵化、収繭量および繭質を比較し、25℃恒温区が総べての点において最もよかったと報告している。
 催青中の高温接触については荒木・三浦(55)、鈴木ら(899-901)の試験もあるが、催青何日目とあるだけて、発生段階は明示されていない。なおY3Da参照。
大宮・中島(743)は31℃(孵化歩合60%を目標にする)と25℃(孵化歩合95%を目標にする)との催青を6世代続けて、その影響が後代の繭質その他に現われるか否かを試験しようとした。この種の試験には必らず淘汰の影響が加わるので結果の判定がむずかしいが、概して云えば、後代の形質に大きな影響はなかったと云う。
 催青温度が高いと蟻蚕の体色が淡くなる(Y3Da)。

 B 光線
 不越年卵性蛾を出さないためには、催青中、1日16時間以上の照明をするのが原則であるが、特に反転後から気管の形成される頃までの照明が大切である。照度は卵面で5lux以上とする。包み紙1枚を通すと照度が約8割に減ることも注意する必要がある。
 光の有無は、また胚の発育および孵化を促進したり抑えたりするので、これを利用して孵化をある程度揃えることがてきるが(Y3Dc)、これを特に大量のバラ種催青に応用したのが熊本県蚕業試験場で始まった改良暗催青法である。
 この方法は、点青の前日から催青容器に黒紙を覆って光を遮断し、まる4日間暗黒で催青を続け、5回目の朝、黒紙を除いて一斉に孵化させるもので、発育の進んでいるものも、暗黒のために孵化が10時間ぐらいまでは抑えられるので、発蟻が揃い、2夜包み、3夜包みの害も少ない。しかし、催青卵になると呼吸が盛んであるから、孵化は抑えられていても消耗は大きく、抑制しないものに比べると、蟻蚕の体重(第159表)、絶食生命時数(第160表)、食桑などにその影響がみられる(878,908,1058)。蟻蚕の取扱いおよび掃立てに当ってはこのことを念頭におく必要がある。

第159表 改良暗催青と蟻蚕体重(高橋)(908)
区分 1g頭数(頭) 100頭重量(cg) 同指数 備考
当日孵化区
催青卵5℃冷蔵区
改良暗催青区
蟻蚕5℃冷蔵区
2夜包区
2,135
2,165
2,205
2,260
2,335
46.9
46.2
45.4
44.3
42.9
100
99
97
94
91
日122号×支115号
76−78゚F、84−89%
2連制
第160表 改良暗催青と蟻蚕の絶食生命時数(高橋)(908)
区分 2例平均(時間)  指数  備考
当日孵化区
催青卵5℃冷蔵区
改良暗催青区
蟻蚕5℃冷蔵区
2夜包区
93
90
88
83
69
100
97
94
89
73
支115号×日122号
78−80゚F、80−84%
2連制
時間の小数点下省略。

 暗催青は完全な暗黒で行なわなければ所期の目的を達し得ないから、この点の注意が何よりも大切である。
 暗黒にする時期は、実用試験においては、熊本式のように点青前日からの方が、点青期からよりも効果のある例が多い(324,383)。しかし、実験的には、完全な点青卵(Stage27)になってからでよいと云う成績も出ている。
 点青の1日前から暗黒にすると、気管形成期にかかるので、化性変化を懸念する意見もあるが、感温期の末期であること、高温催青であることなでから考えて、普通の品種においては心配する必要がないとされている。
 点青前日と云う時期の判定は、本催青よりも1日早く催青に着手する調査区を設け、その点青によって行なうのである。
 催青中に螢光灯を照射すると孵化が1日ぐらい早くなり、短期冷蔵浸酸種の孵化歩合も向上すると云う報告があり、点灯によって温度が上がるための影響ではないと云われていたが(359,1015,1016,1019)、螢光灯、赤外灯および普通電灯を照射して、その効果を比較した堀田・河端(228)の成績によれば、点青までは無照射区に比べて照射区の胚の発育が速いが、中でも赤外灯の効果が最も大きく、普通電灯と螢光灯とは大差がないが前者が僅かに速く、何れも熱線の影響と考えられる結果であった。点青から孵化までは光線照射区の発育がおくれ、孵化に至ると無照射区は一時抑止されるが孵化が揃い、照射区の孵化は不揃いであるなでのことも、一般の光線照射の場合と同権な傾向で、螢光灯の特異性は認められなかった。紫外線で蚕種を照射した古い成績(188)をみても、その影響は明かでない。
 催青室に螢光灯を使うと、紫外線が出て、蚕種に害があるかも知れないと云われたことがあるが、現在では広く催青室に使用されていて、害はない。普通の卵色の卵ならば、殺菌灯を連続照射しても正常に孵化する。殺菌灯の短期照射によって被害のないことは田辺・萩原(1017,1018)も報告している。
 催青卵に超短波を照射すると孵化がよくなり、蚕作も向上すると云われ、一時これに関する報告が多く(39,147,312,413,415,416,1009,1076)、人工孵化にも利用できると云われたが(414,1077)、その効果が一般に確認されないまま中絶の形となり、現在ではこの方面の研究は行なわれていないようである。

 C その他の条件
 催青温度については各所で言及した(X1Aa、Y3Db、\2A)。催青温度23℃−26℃の場合には75-85%が適当であるが、孵化の際には十分に補湿するのがよい。
 催青湿度は孵化後の蟻蚕の絶食生命時数にも影響し、催青温度25℃の場合に、60%区は75%および90%区に比べて生命時数が短かったが、75%区と90%区との間には差が認められなかった(514)。なお絶食生命時数は絶食中の湿度が高いほど長い(第161表)。

第161表 湿度と蟻蚕の絶食生命時数(指数)(松村・樋口ら)(514)
催青湿度
(%)
絶食中
湿度(%)
 日1号   支4号   欧9号   正 白   新 白   平 均 
60 60
75
90
100
112
118
100
119
124
100
108
110
100
101
109
100
114
113
100
112
115
75 60
75
90
100
111
107
100
117
117
100
109
112
100
102
103
100
107
112
100
110
110
90 60
75
90
100
108
109
100
109
111
100
107
114
100
106
113
100
109
106
100
108
111
保護温度は25℃

 大宮・大河内(744)は、催青温度25℃および30℃の場合における湿度100、75および50%の比較を行なったが、50%区は他の2区に比べて催青死卵が多発し、孵化歩合が劣り、蟻蚕体重軽く、稚蚕期の減蚕も多かった。低湿の悪影響は卵の小さい品種において大きかった。 100%と75%との間には催青死卵および減蚕歩合についての差はなかったが、後者の蟻蚕体重は幾分軽かった。
 催青に要する空気量については、炭酸ガス排出量を基にした計算も一応の基準にはなるが(Y3B)、催青中は、検知管を用いて簡易に室内の炭酸ガス量を測定し、許容量を超えないように管理することが実際問題としては必要と思われる。気圧および気流についてはY3Dd参照。
 秋蚕催青中に蚕種を水に浸して冷温を感じさせ、且水分を与えるとよいと云う説があるとのことで、荒木・三浦(56)は、2月5日から33−38゚F 、平均35.4゚F(1.9℃)に冷蔵しておいた前年7月採り越年種を7月18日に出庫し40゚F(4.4℃)内タトの水に1分および10分間浸漬した後に催青したが、別段に効果は認められなかった。
 発生の不揃いな蚕種を水につけ、催青卵を浮かせて選別する業者がある。このようにして選り分けた催青卵には、孵化の1日ほどおくれるものが多いが、総孵化歩合には差がない。経過、特に稚蚕の経過が幾分おくれ、稚蚕の減蚕も幾分多いが、他に悪条件が加わらなければ、その後の収繭量および繭質には差のないのが普通である(昭和38年度関東地区蚕業試験場協力試験)。
 催青中の蚕種の異常条件に対する抵抗性試験は極めて多いが、催青中のどの時期が強いとか、薬品の何%までは害がなかったと云うような成績はあっても、程度の問題に過ぎないのであるから、催青中は異常な条件には一切触れさせない注意が大切である。またこれらの試験には胚の発育段階を明示していない成績も多いが、数例を示せば、鈴木・山桝ら(898,902,903)の炭酸ガスおよび水、水井・稲熊(573)の呼吸障害、ホルムアルデヒドガス、石炭酸ガス、高温および低温、荒木・三浦(54)のアンモニア、長田(642,643)のメチルクロライド、平尾・五十嵐(199)のフレオン、辻田(1083)のDDT、中西(655)のBHC、大野(765)のアルコールなどがある。
 アルコールは実験の場合の卵面消毒に縷々用いられるので、大野の成績の要点を示すと次ぎの通りである。無水アルコールに10分間浸漬した場合の孵化歩合を無浸漬を100とする指数で示せば、即時浸酸種の催青第1日98、第2日(突起形成)90、第3日(反転前)94、第4日(反転後)65、第5日(剛毛発生直前)60、第6日(剛毛発生)79、第7日(点青)93、第8日(催青)93であったが、孵化歩合が0になる温度および浸漬時間から考えると、最も強いのが催青卵、最も弱いのは反転期、ついで点青卵で、冷蔵その他の場合に云われる強弱と一致している。越年性卵について云えば産卵当初が最も弱く、休眠期が最も強かった。 90%アルコールによる成績もこれと大差がない。
 野口ら(691)は、催青中にチリー地震による津波に襲われ、催青室に泥が入り卵面の汚れの甚しかった蚕種の孵化が悪かったことを報じているが、毎水や泥をかぶった蚕種の処置については記載していない。孵化したものの飼育成績は対照に比べて遜色がなかったと云う。

 D 二化性種を不越年化させるための催青
 養蚕の実用上では、人工孵化種を用いるので、二化性種を不越年化させる催青の必要はないが、各種の実験のために不越年性卵の必要なことがある。
 以前は、このための催青法を究理催青法と呼んだが、今日の言葉で云えば低温暗催青である。二化性と云っても品種によって不越年化し易さが異なるから (第91表)、同じ処理を施こしても、全部が100%不越年卵性蛾になるとは限らないが、不越年化のための催青条件は次ぎの通りである。
 胸肢発生期(Stage17)以後、特に剛毛発生期(Stage24)以後を15℃に保護する。この低温期間は、日数にして10日以上必要である(X1Aa)。胚の反転(Stage21)から頭部着色の頃(Stage26)までを暗黒に保つ。極めて弱い光にも感ずるから、完全な暗黒にする。温度は70%以下、特に反転期以後を低湿に保ち、孵化のときだけ明るくし、孵化を促進するために温度を上げ、補湿する。ただし、点青期以後は乾き過ぎると催青死卵が多発するから、50%以下の湿度は避ける。孵化後の飼育条件、上蔟後の保護条件にも注意する。

 E 催青条件と眠性の変化
 三眠蚕は、一般に、低温暗催青によって発生し易いが(115,406,409,597,803)、不越年化の場合とは異なり、15℃よりも20℃催青に多く、反転までおよび胚完成後の高温明催青は低温暗催青よりも三眠蚕の発生を多くし、その中間の時期においては温度および光線の作用がこれと反対になると云われている。仲野(659)および佐々木(806)も反転期以後の低温催青が三眠蚕を多くするとしている。また不越年化の場合とは反対に、催青湿度の高いほど三眠蚕が多く出る。この三眠蚕の発生に湿度の影響するのは反転前であって、20℃で催青し、後期の湿度を低くした場合に三眠蚕が多く出たと云う報告のあるのは、低湿のために不越年卵性化した蚕の発育経過が短縮して三眠蚕になったのであろうと説明されている(806,807)
 点青卵を5℃で5日間、蟻蚕を10℃で3日間抑制しても三眠蚕が多くなると云う(805)。佐々木はこれら三眠蚕の発生を総べて、不越年卵性化した蚕の発育経過が短縮したために起こるものと考えており、一化性品種には上記の種々な誘発条件を作用させても三眠蚕が発生せず、二化性蚕に限って誘発されるとしている。佐々木は、また三眠蚕の発生は越年種よりも即時浸酸種に多く、冷蔵浸酸種と越年種との間には殆ど差がなく、浸酸後の台紙の乾きの遅速も関係がないと云う(804)。眠性変化には飼育条件の影響も大きい(808)(第88表)。
 五眠白は、反転以後点青までを20℃で催青しても(その他の時期は25℃)反転までを20℃にしたものよりも却って四眠蚕歩合が低くかった(714)。この場合、反転から点青までは20℃で4日18時間であったのに対して、催青着手から反転までは20℃で8日10時間かかっているから、五眠白のような一化性蚕においては、発生段階よりも20℃におく期間の長さが影響するのではないかと云う。また、五眠白においては、産卵直後から20日間30℃で保護した越年種には、この期間を20℃および25℃で保護したものよりも四眠蚕の発生が多いようであり催青卵および蟻蚕の冷蔵によっては四眠蚕が増加せず、冷蔵期間の長くなるほど却って減少するような傾向が認められた。

3 催青中の蚕種の冷蔵および蟻蚕の抑制
 A 催青中の蚕種の冷蔵

人工孵化種または不越年種を初めから計画的に冷蔵する場合([2C、[3C)とは違い、催青に着手してから急に掃立てを延期する必要の生じた場合には、胚に付属肢の生じ初めた頃ならば直ちに5℃に移すと10−15日間は冷蔵することができ(17,50,445,456,790)、これより催青の進んだ時期ならば、そのまま催青を続けて青み卵で冷蔵するのが安全である(580)。催青卵での冷蔵は5℃で1週間以内が普通で、越年種においては、完全な青み卵になり、僅かに走りの蟻蚕の孵化し始めたときに行なうが、不越年性卵ではこれよりやや早く、青み卵初期がよいと云われている。湿度は75-80%を目標にする。
 しかし、冷蔵成績は種々な条件によって相違し、また研究者によっても、細目では一致しない結果が出ている。
 斎藤(790)は、冷蔵期間15日までの試験を行ない、催青卵よりも反転直後の冷蔵がよく、従来、冷蔵に最も不適当とされている気管成期に冷蔵しても、孵化歩合は催青卵冷蔵に劣るが、飼育成績を考慮すると大差がないと云っている。
 これは重要なことで、孵化直前まで発育している催青卵は、生理的に障害を受けていても一応孵化はするのに対し、それより早い時期の冷蔵障害卵は孵化し得ず、冷蔵障害のなかったもの、あるいは障害の軽かったものだけが孵化する結果、孵化歩合と飼育成績とが反対になることも十分に考えられる。しかし、飼育には複雑な要素が加わって、結果を乱すおそれもあるから、飼育成績を考慮に入れて判定する場合には十分注意しなければならない。蟻蚕の強健性(例えば絶食生命時数など)を検討して、今後明かにしなければならない問題である。
 北沢(384)は、浸酸種について、気管発生の前後が冷蔵に弱いと云っている。
 小針・室賀(395)によれば、完全催青卵になった蚕種を5℃に冷蔵した場合に、孵化歩合付が95%を下らない冷蔵日数は、欧9号×正白が15日、欧9号および支4号×正白が10日、支4号および正白は5日で、品種によって大差があった。
 冷蔵に耐える強さは、また卵の大小によっても異なる。小野寺・鈴木(716)が、上蔟の際に尾角を切って出血させたものの産んだ卵(長径×短径1.35mm2)と無処理蚕の卵(1.50mm2)とを5℃で20日間冷蔵した場合の孵化歩合は、前者75.9 (95.6)%、後者87.5 (98.7)%で、後者においては初日の孵化も多かった。但し、材料蚕は五眠白で、括弧内の数字は無冷蔵のものの孵化歩合である。冷蔵中の湿度についての氏らの調査によれば、催青卵を5℃に20日間冷蔵した場合、湿度100%区の孵化歩合は支106号77%、支110号72%であったのに対し、湿度75区においてはそれぞれ77%および75%で、両区間に差がなかった。湿度40区においては孵化歩合が71%および69%で、上記より畿分劣っていた。
 目黒(526)は魚を入れた罐の上部に催青卵を納め、5℃で1−3日間冷蔵すると、魚臭によって孵化歩合の低下することを試験した。
 催青中の蚕種ではないが、平山・黒沢(201)は、内容2gのガラス器中に、互に接触しないようにして蚕種と薬品(溶液は500cc、粉末は30g)とを密封したものを冷蔵し、被害調査を行なった。蚕種は丙Bおよびそれ以前の越冬中のものを主として用い、薬品はホルマリン、テトライト、セレサン、DDTおよびウスプルンであったが、セレサンは殆ど無害、これに次ぐのがホルマリンおよびテトライトで、ホルマリッン(ホルムアルデヒド?)3%液は2.5℃では20日前後、5℃では15日前後で急に被害が顕著になった。テトライト(300倍)は2.5℃ 25日、5℃ 20日で被害が明瞭になった。 DDT粉末の影響は比較的少なかったが、乳剤は温度に関係なく5日前後で明瞭な被害を現わし、20−25日で全滅した。ウスプルンの害は更に甚しかった。
 梅津(1125)は、飼育可能な催青卵冷蔵の限度を知るために、5℃、60日間冷蔵の試験を行ない、眉蚕から孵化した15頭のうち5頭、アスコリー88頭のうち4頭がそれぞれ営繭したと報告している。
 催青中の蚕種の冷蔵については、なおY3Da、[4および第163表参照。

 B 蟻蚕の抑制
 蟻蚕の抑制温度は50゚F(10℃)がよいと古くから云われているが(57)、小針・室賀(396)によっても確かめられた。これによると、抑制には10℃が最もよく、5℃ならびに7.5℃がこれに次き、蟻蚕の体重の重いものは軽いものより、交雑種は原種より、それぞれ長期の抑制に耐えるが、品種によって著しく異なり、正白×満月、正白×欧9号、欧9号×正白、欧9号、欧9号×支7号、支7号×欧9号および支7号においては、10日間抑制しても、蟻蚕の生存歩合は99%を下らなかったが、満月、満月×正白および正白においては、蟻蚕の生存歩合が99%を下らない抑制日数は5日であった。生存歩合が99%を下らない範囲の抑制口数ならば、掃立て後の発育のおくれは、1、2令中に回復し、壮蚕期の蚕児の体重には無抑制のものとの間に差がなかった。湿度が低いと抑制成績の悪いことを述べてはいるが、適湿を明記していない。75-80%を目標にするのがよい。
 吉田(1202)は、10℃で無補湿(湿度79%)、24時間の抑制よりも、25.7℃、 98%の催青室においたものの方が1−3令および4−5令の減蚕が共に少なく、収繭量も多かった例を報告しているが、これは当日孵化の蟻蚕を用いて試験したものであるから、普通に農家の飼育する蚕のように2夜包み、3夜包みの混っている場合には、このような結果にはならないと思われる。
 日129号および支129号についての抑制3日間の試験成績によれば(第162表)、抑制したものの径過のおくれは3令までに回復したが、1−3令の減蚕歩合が幾分多かった。

第162表 日129号、支129号およびその交付後の蟻蚕抑制成績(蚕種・原蚕種)(801)
蚕品種 試験区 供試蚕
数(頭)
経過日数(日・時間) 1〜3令
減蚕歩合
飼育中の
1令 2令 3令 温度(℃) 湿度(%)
日129号 対照
抑制
353
353
3・23
3・23
3・12
3・12
4・00
4・00
11・11
11・11

26.3
26.3
79
支129号 対照
抑制
441
441
3・23
3・23
3・12
3・12
4・00
4・00
11・11
11・11

26.3
26.3

日129号×支129号 対照
抑制
395
395
3・11
3・23
3・12
3・05
3・12
3・07
10・11
10・11
5*
26.4
26.4

支129号×日129号 対照
抑制
434
434
3・11
3・23
3・12
3・05
3・12
3・07
10・11
10・11

26.4
26.4

*原因不明。孵化後半日以内の蟻蚕を温度10.5℃、湿度75%で3日間抑制した後、
3令まで飼育した。対照区は、掃立日を同じにするため、催青を3日おくらせて準備した。
春採り冷蔵浸酸種を用い、晩秋期に試験した。歩合の小数点下省略。

 蟻蚕の抑制と催青卵での冷蔵との結果を蟻蚕の体重指数によって比較すると、第163表の通りで、蟻蚕抑制3日は催青卵冷蔵7日に劣る成績であった。

第163表 催青卵および蟻蚕抑制の影響(杉山・高見)(878)
抑 制 体 重 指 数
  掃立直前     1日後     2日後  
無抑制
  催青卵7日間  
蟻蚕3日間
蟻蚕7日間
100
 98
 96
 92
424
399
392
373
1,294
1,052
1,015
  934
交雑種数品種についての試験成績平均。抑制温度は、催青卵
5℃、蟻蚕7.5℃。無抑制区掃立直前の体重を100とした指数。

 田崎(524)は、掃立てをおくらせる方法として、発蟻前日の蛹、発蟻当日の蛾、即浸卵、孵化前々日の卵、および孵化当日の蟻蚕のうちのどの段階で抑えるのがよいかを試験している。これらの各時期の処理がそれぞれ適正に行なわれたか否か、例えば、何れの段階での冷蔵も総べて5℃で行なったこと、孵化前々日と云えば点青期と考えられるが、この時期の冷蔵が適当かどうか、また4令−化蛹の減蚕が冷蔵日数とは無関係に著しく多いこと、繭および蛾の場合には交尾歩合、産卵数なども考慮に入れなければ比較ができないことなど多くの問題点を含んではいるが、一つの比較として興味がある。(第164表)。

第164表 孵化歩合および次代蚕の成績による抑制時期の比較(松崎)(524)
冷蔵
日数
(日)
試験区 孵化
歩合
(%)
催青死
卵歩合
(%)
不受精
卵歩合
(%)
減蚕歩合(%) 繭重
(g)
繭層重
(cg)
 繭層 
歩合
(%)
稚 蚕 4令−化蛹
10

浸冷
青冷
93
86
95
97












41
37
48
52
45
1.59
1.72
1.63
1.66
1.67
33.5
35.3
32.8
32.5
33.1
21.1
20.6
20.1
19.6
19.8
20

浸冷
青冷
70
70
88
88




18
23


10
10
22
28
36
49
51
45
58
43
1.51
1.52
1.53
1.47
1.54
28.0
28.4
30.0
27.8
29.4
18.5
18.7
19.7
18.9
19.2
蚕品種名の記載なし。繭:発蛾前日の繭、蛾:発蛾当日の蛾、浸冷:即浸処理後30
時間の卵、青冷:孵化前々日の卵、蟻:孵化当日の蟻。冷蔵温度:5℃。
繭重、繭層重、繭層歩合以外の小数点下省略。

 梅律(1125)は、蟻蚕を5℃に冷蔵し、飼育し得る限度の冷蔵日数を試験したが、M195×元2の蟻蚕129頭を32日間冷蔵した場合に、生存していた40頭を飼育して5頭が営繭し、国一XLg支109の蟻蚕を同じ期間冷蔵した場合には、80頭を掃立てて20頭が営繭したことを報告している。
 鈴木・鈴木(892)は、蟻蚕を5℃に冷蔵中、機械の故障のため、冷蔵庫内の温度が−6℃まで低下した場合の成績を報告しているが、蟻蚕を室温に1昼夜放置したもの、および5℃に5昼夜冷蔵したものとの減蚕歩合(第165表)、繭質並に収繭量(第166表)の比較によれば、特別な被害は認められない。

第165表 異常低温に短時間接触した蟻蚕の減蚕歩合(鈴木・鈴木)(892)
区別 保護室の温度
と保護時間
掃立蚕数
(頭)
減蚕歩合(対掃立蚕数)(%)
1−2令 3令−結繭 死 籠  計 
室温放置区
異常低温区
5℃区
14−20℃、1昼夜
6〜−6℃、1昼夜*
5℃、5昼夜
506
483
496






12
15
13
*庫内温度0〜−6℃に接触した時間は約10時間。そのうち−4〜−6℃は約
5時間。但し、蟻蚕は24×38×10cm2の罐に入れてあったので、蟻蚕の直接
に接した温度は庫内温度よりは幾分高かったと思われる。品種は支122号×日
122号(5℃区はその反交)。小数点下省略(従って計が合わない)。
第166表 異常低温に接触した蟻蚕の繭(鈴木・鈴木)(892)
区 別 繭  質 対掃立1万頭収繭量
(繭重×健蛹数)(kg)
 繭重(g)  繭層重(cg) 繭層歩合(%)
室温放置区
異常低温区
5℃区
2.16
2.16
2.27
47.7
47.9
49.9
22.1
22.2
22.0
18.8
18.3
19.7

 C 蟻蚕の2夜包み、3夜包み
 蚕種の保護、人工孵化、催青なとについて述べた問題は総べて孵化歩合を高め、孵化を揃えることを目的にしているのであるが、現実の問題としては、バラ種の催青において2夜包み、3夜包みの蟻蚕のできることは避けられない。
 2夜包み、3夜包みの蟻蚕が孵化当日のものに比べて体力の消耗していることはその体重の減少によっても明かであるが(第167表)、保護条件ばかりではなく、卵の大小、健否などによっても消耗に多少がある。これらの蟻蚕は食桑、行動なども不活溌で、初期の発育がおくれるが(第168表)、弱いものは1−3令の間に減蚕になって除かれ、強いものはこの間におくれを回復し、残ったものだけについて比較すれば当日掃きに劣らない蚕作を示すのが普通である。

第167表 2夜、3夜、4夜包み蟻蚕の体重(大場・中島)(727)
蚕品種 保護温湿度 孵化当日 2夜包 3夜包 4夜包
温度(℃) 湿度(%) 実数(g)  指数  実数(g)  指数  実数(g)  指数 実数(g)  指数 
支115号×日122号 15
25.7
76.3
77.7
0.200
0.200
100
100
0.191
0.186
95
93
0.183
0.174
91
87
0.179
0.163
89
81
銀嶺×秋花 15
25.7
76.3
77.7
0.200
0.200
100
100
0.191
0.186
95
93
0.182
0.175
91
87
指数の小数点下省略。
第168表 2夜包み、3夜包み蟻蚕の体重指数(杉山・高見)(878)
区 別 体 重 指 数
   掃立直前       1日後       2日後   
   孵化当日   
2夜包み
3夜包み
100
 93
 88
100
 91
 76
100
 88
 73

 4−5令減蚕は、2夜包み、3夜包みよりも却って当日掃きのものに多いことがあるが、これは、2夜包み、3夜包みの区においては弱い蚕が稚蚕期減蚕として除かれてしまうのに対し、当日掃きの区においてはこれが生残り、壮蚕期の減蚕になるのではないかと云う(376)
 2夜包み、3夜包みによって体力の消耗している蟻蚕を更に弱らさないために、蟻蚕配給の手順や方法および掃立てに注意し、落伍するものを少なくし、早く回復させる配慮が大切である。酒井・石阪(791)は、2夜包みの蟻蚕は食桑不活溌であるが、軟葉を与えると当日孵化のものに近い食下量を示すと云っている。
 現行品種として、日129号および支129号についての試験成績を第169表に示す。

第169表 2夜包み、3夜包みの影響(蚕種・原蚕種)(801)
蚕品種 試験区 掃立蚕
数(頭)
経過日数(日・時間) 1−3令減
蚕歩合(%)
飼育中の
1令 2令 3令 温度(℃) 湿度(%)
日129号 対 照
2夜包
3夜包
353
353
353
3・23
3・23
4・01
3・12
3・12
3・07
4・00
4・00
4・00
11・11
11・11
11・11
 0
30*
 2
26.3

79

支129号 対 照
2夜包
3夜包
441
441
441
3・23
3・23
4・04
3・12
3・12
3・07
4・00
4・00
4・00
11・11
11・11
11・11
 6
 6
16




日129号×
 支129号
対 照
2夜包
3夜包
395
395
395
3・11
3・23
4・04
3・12
3・05
3・00
3・12
3・07
3・07
10・11
10・11
10・11
 5
 9
20
26.4

26.5


支129号×
 日129号
対 照
2夜包
3夜包
434
434
434
3・11
3・23
3・23
3・12
3・05
3・05
3・12
3・07
3・07
10・11
10・11
10・11
 1
 1
 6
26.4



*原因不明。孵化後半日以内の蟻蚕を温度25℃、湿度70%で24時間(2夜包)および48時間(3夜包)
保護した後、それぞれ3令まで飼育した。対照、2夜包および3夜包を同時に掃立てるために、各区の催青
着手をそれぞれ1日ずつ違えた。春採り冷蔵浸酸種を用い、晩秋期に試験した。歩合の小数点下省略。

 これによってみると、2夜包みまでは当日掃きに比べて1−3令減蚕歩合に差がないが、3夜包みになると明かに差がある。3夜包み以上にならないように注意する必要がある。
 掃立前の蟻蚕ではないが石井(249)は、掃立後凍霜害その他の事故のあった場合には、春蚕期1令2日目(初晩秋は1日目)までならば、直ちに7℃に冷蔵すれば7日以内は利用価値のある程度の冷蔵ができると云っている。小野・斎田(710)は蟻蚕を2−4日間常温に放置する試験を行なったが、無給桑で放置したものよりも、2回給桑して後放置したものが、減蚕歩合、収繭量共に勝る場合が多かった。
 湿度については298頁参照。


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