生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

昆虫脱皮ホルモン合成系に着目した昆虫発育制御剤の探索

研究代表者氏名及び所属

片岡 宏誌(東京大学新領域創成科学研究科)

総合評価結果

  当初計画どおり推進

評価結果概要

 本研究課題は、昆虫前胸腺における脱皮ホルモン(エクジソン)合成系に着目した新規昆虫発育制御剤開発のための基盤として、脱皮ホルモン生合成酵素および生合成経路と、生合成を調節する前胸腺刺激ホルモン(PTTH)をはじめとする神経ペプチドホルモン受容体を明らかにし、生合成酵素類をターゲットにした阻害剤を探索するスクリーニング系を確立して、新たな昆虫発育制御剤開発への道を拓くことを目的とした。
 次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現解析により、エクジソン生合成への関与が期待されるCYP367A1酵素と、PDF-BNGR-B2系を介した新規エクジソン生合成調節経路を見いだした。また、LC-MS/MSによるステロイド類の微量一斉分析法を確立し、Nm-g変異系統のカイコからBlack Box解明の鍵となる2種の未知物質XとYの精製に成功して部分構造情報を得た。阻害剤スクリーニングでは、376種の化合物についてカイコのPhantom活性阻害能のスクリーニングを行い、17種の有力な化合物を選抜した。これらの選抜された化合物の阻害効果は、生物種や酵素間で違いが見られた。さらに、効果のあった17種の化合物の誘導体・類縁体から、より阻害効果の高い化合物を見出した。
 このように、脱皮ホルモンの生合成経路の解明には至らなかったが、その鍵となる未知物質X、Yを得て部分構造を推定したことは、今後の研究につながると考えられる。また、pigment dispersing factor (PDF)の受容体の同定と、PDFによるエクダイソン合成の刺激作用を見出したことは非常に興味深く今後の展開が期待される。阻害剤の探索とスクリーニング系の開発では、Phantomを一過的に発現したS2 細胞を用いて、LC-MS/MSで解析という手法で1年間で600近い化合物のスクリーニングを行ない、阻害効果の高い化合物を見いだした。
 このように、計画に沿った成果を上げてきているが、十分に達成できたとは言えない。しかし、これは目標設定が高かったためでもあり、全体としては意義のある成果を上げたと言える。特に、本研究で確立し、本研究の基盤となったステロイド化合物のLC-MS/MS解析系開発は科学的にも重要なものとして高く評価でき、今後の研究にも大きく貢献すると思われる。