アジアへの安全性検査の普及活動
R5年11月 川瀨 芳順
アジアで統一した農業機械検査制度を目標としたAsian and Pacific Network for Testing of Agricultural Machinery:アジア地域農業機械試験ネットワーク(ANTAM)プロジェクトに、農研機構農業機械研究部門(農機研)は日本の検査技術担当として参加しています。今年の8月に、ANTAM プロジェクトの農業機械検査の研修で、講師として講演と実習を行ってきました。
研修は農機研(当時は農業機械化研究所)がJICAに協力して1979年に立ち上げた、タイ王国のカセサート大学カンペーンセン分校内National Agricultural Machinery Center(NAMC)で開催されました。アジアを中心に14カ国35名の各国の検査員などのエンジニアが参加しました。研修の内容はタイの国内基準Thai Industrial Standards(TIS)の講義と実習(カセサート大学の教授が担当)、ANTAMが作成している歩行型トラクタと背負式動力噴霧機の検査コード(日本が担当)、そして日本の安全性検査の講義と実習でした。
アジア各国の農業機械化は日本のようには進んでおらず、農業機械の検査制度が無い国が多いです。これらの国々で販売される農業機械は安価で、危険で質の悪い農業機械が多く、各国はこれに頭を悩ましているのが現状です。
講義では、日本の農業機械の発展とそれに伴う農業機械の安全性に関する検査・鑑定制度の変遷、更にはこのコラムを掲載している「農作業安全情報センター」の概要を紹介しました。特に強調したのは、検査制度で安全な機械を普及させても、危険で間違った使い方をすれば事故は防げないこと、検査制度と同様に重要なのが農業従事者の安全教育だということです。質問では検査結果の取り扱いや、農業機械のコスト、農業者への教育に関する質問がありました。
実習ではNAMCが保有していた1970年代と1990年代の日本製トラクタを比較して、日本の安全性検査の考え方について講義しました。各国の研修生は安全についての関心が高く、特に安全キャブ・フレームについて多くの質問を受けました。また、安全性検査には高価な測定機器が不要なため、導入費用が安価であることに感心していました。実習の最後には参加者から5名を選出して、実習に使ったトラクタとは別の1970年代のトラクタで安全上の問題個所を探すテストを実施しました。選出した5名の研修員はPTO軸カバー、始動安全装置、エンジン回転部の露出など適切な指摘ができ、日本の安全性検査が概ね理解されていたことがわかりました。
今回の研修は好評で、数カ国から来年も同様の研修を実施してほしいと要望されました。