農作業安全コラム

農作業は安全になったか?

H20年9月 森本 國夫

 結論から書けば、イエスであり、ノーでもあります。

 この問題については、農業従事者の年齢階層別に10万人当たり死亡事故数がどう推移してきたかという視点で考えてみることにします。この場合、後の解説で述べた事情があり、1989年までと1990年以降は数値の持つ意味が違うので、別々に見ます。

 まず図1(図2は図1を平滑化処理)をご覧ください。1989年までは、各年齢階層で減少傾向が見られます。50~59歳で減少に転じるのが若干遅れてはいますが。次に1990年以降を見てみましょう。15~29歳では横ばい状態ですが、30~49歳と50~59歳では減少傾向です。

図1
図2

 次に図3に60歳以上を示しました。この年齢階層では増加傾向が続いています。昔はこの年齢階層は補助的な軽い作業を担当していたのが、高齢化が進むことで農業機械の運転など農作業の中心的な役割を担わざるを得ない人が多くなり、この変化が事故の増加に表れていると考えられます。この傾向は、実は図1(図2)の50~59歳でも見られ、1990年以降の数値がそれ以下の年齢層より大きめになっています。

図3

 以上のことから、現在の農作業は昔に比べて、若い年齢層で安全になったが、高年齢層では危険になったと言えます。

 生研センター(現:革新工学センター)では、高齢者も念頭に置いて農業機械の安全対策の見直し等に取り組んでいますが、それだけでは事故対策としては十分とは言えないでしょう。自営の農業従事者に対しては、労働安全衛生法のような法律に基づいた国からの強制的な指導はできませんが、関係各方面それぞれの立場での事故低減に向けた取り組みが求められます。

《解説》
 農林水産省の統計における「農業従事者」の範囲が、1989年(1990年度発表)までと1990年(1991年度発表)からでは異なっています。具体的に言えば、1990年からは母集団が「販売農家」になり、零細な「自給的農家」が除かれました。これにより、2割程度は農業従事者の数値が減少したようです。事故件数には自給的農家のものなども含まれていますから、10万人当たりの数値を販売農家をベースに算出すれば引き上げる方向に作用します。

 

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