農作業安全コラム

微笑ましい光景?

H27年5月 志藤 博克

 春作業もいよいよ本格的に始まる季節になりました。農業者の皆さんは、穏やかな日差しに包まれ、ヒバリの歌声を空高くに聞きながら、今年の豊作を祈りつつ、新たな気持ちで作業に臨まれているのではないでしょうか。

 こうした春作業の、のどかな情緒を感じさせる光景のひとつとして、お子さんやお孫さんをトラクタに乗せて耕うんや代かきを行っている、といった場面を思い浮かべる方はいないでしょうか。それは大間違いです。トラクタに乗せていたお子さんが転落して轢かれたり、ロータリに巻き込まれたりする悲惨な事故が毎年、起きています。春作業の喜びを、大切なかわいいお子さんやお孫さんと分かち合いたい、父や祖父の仕事に興味を持ってもらいたい、子供がせがむから、と理由はいろいろとあるかも知れません。しかし、大事が起こってしまってからでは取り返しがつきません。大抵のトラクタは一人乗りで、運転席は狭いものです。それに、小さなお子さんはじっとしていないものですし、その突発的な行動は予測困難です。バランスを崩すことだってあります。一瞬たりとも、お子さんから目を離すことができない状況で作業することは不可能です。よくよく考えて見ると危険極まりないのですが、「事故は他人事」と思っていると、危険であることに気付けません。これほどまでに多くの危険因子に囲まれた状況では、いくら気を付けていても事故はいつか必ず起こるものと言えます。

 農作業の安全は、事故の怖さを想像することから始まります。このような事故に遭われたご家族の、その後の人生はいかばかりだったでしょうか。思いを馳せてみて下さい。今年の春こそは、このような悲惨な事故を耳にしないで過ごしたいものです。

 

キーワード:事故/乗用トラクター/耕うん・代かき
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