農作業安全コラム

本当に大丈夫?

H29年3月 皆川 啓子

 作業事故の対面調査に行ってきた方からの報告で、トラクタのPTO軸に作業着が巻き込まれてしまったというものがありました。幸い着ていた作業着が古く、作業着がちぎれて事なきを得たそうですが、ユニバーサルジョイントのカバーが壊れて外した状態を放置していたことが事故の原因の一つでありました。しかしながら、お話を伺ったところ、草が詰まっても直ぐに止まるくらいだから、何かあったら手で握れば止まると考えていたため、カバーを更新しようとは考えていなかったようです。

 当たり前かもしれませんが、トラクタに限らず農業機械は我々人間ができない力仕事を何倍もの力で行ってくれるものです。ちょっと負荷がかかったら止まるから、と、人間の力でも止まるだろう等とは考えてはいけません。作業のために、カバーしきれない可動部などを備え付けた作業機を装着した状態の農業機械は、走行速度こそ自動車よりも遅いものの、作業時の動力部のパワーを考えると、使い方を間違えると動く凶器以外の何者でもありません。ゆっくり動いていても人間の力では簡単に止められません。また、何かが詰まったからと安易に動力を切らずに手を伸ばすと、詰まりがとれると同時にフルパワーで動き出すために巻き込まれる事故の事例も多数寄せられています。詰まりをとるときは、必ず動力の遮断(エンジンや電源の停止)をしてから行いましょう、と推奨しているのはこのためです。作業を効率的に行いたいから、簡単に取れそうだからということで、つい動力を切らずに手を伸ばしたくなるのはわかりますが、絶対にやってはいけません。

 今回の事例は、たまたま作業着が先にちぎれたので大事にならなかったため、聞き取り調査ができましたが、巻き込まれによる死亡事故も少なくありません。
 トラクタに限らず、機械の可動部にカバーがあるのは理由があるのです。壊れてしまっているもの、外してしまっているものはありませんか?自分は大丈夫と思っていませんか?

 気温が暖かくなり始め、そろそろ春の農作業準備を始める頃かと思われます。機械作業を始める前に、今一度カバー等の確認を行い、壊れている、点検・整備のために外したままだったというものがありましたら、新しいものに交換する、カバーを元の位置に戻すことを励行していただけますよう、お願いします。


 

キーワード:事故/安全装置・対策/乗用トラクター/点検・整備・清掃
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