農作業死亡事故件数の半分は転倒・転落事故
H30年6月 手島 司
少し前の話になりますが、今年2月中旬に農林水産省から「平成28年の農作業死亡事故について」という調査結果が発表されました。これは「厚生労働省の「人口動態調査」に係る死亡小票の中から、平成28年1月1日から12月31日までの1年間の農作業死亡事故について、道府県職員が調査を行い、報告のあったものを取りまとめ」たもので(農林水産省HPより引用)、毎年この時期に発表されますので、我々としても注目しています。この調査では、死亡事故件数312件について、事故区分(農業機械、施設、それ以外)別や農業機械の機種別、原因別、男女別、年齢層別、月別、都道府県別という分類で取りまとめがなされており、農作業安全に携わっていない方でも何かを感じ取ることのできる興味深い内容になっているのではないかと思います。
これらの分類の中で「原因別」に焦点を当ててみると、乗用型トラクタやコンバイン、農用運搬車などの農業機械が作業者とともに転倒・転落したことによる死亡事故件数が92件と、全体の約3割を占めています。また、作業者自身が農業機械や施設の屋根等の高所から転落したことによる同件数は55件となっており、合計すると147件であることから、農作業中の何らかの転倒・転落事故が全体の約半分を占めていることになります。さらに驚くべきことに、ここ8年間は47~51%の間で傾向が何ら変わることなく推移しており、これらのことから、転倒・転落事故件数を減らすための取り組みが、農作業中の死亡事故件数削減に大きく影響する可能性があると考えられます。
多くの農業機械は見た目以上に安定性が低く、転倒・転落事故を未然に防ぐには、作業環境の改善(ほ場出入口の緩斜面化、路肩の草刈り等)や危険と思われる作業方法の改善、機械の改善等、日頃から対策を多面的によく考え、実行することが大事だと思います。また不幸にして転倒・転落事故が起こってしまった場合でも、例えば乗用型トラクタであれば転倒時保護構造物である安全キャブ・フレーム装備車の使用やシートベルトの徹底、高所作業であればヘルメットや安全帯等の安全装備が重傷化の防止につながります。さらに死亡事故に至らないようにするには、事故発生時の早期発見もカギとなります。各地域における農作業安全啓発運動の中で、携帯電話やスマートフォン等の連絡手段を携帯すること、単独作業となる場合は特に出かける前に家族等に行き先を告げておくこと等が呼びかけられています。 最近ではIoT技術を利用して、事故が発生した時に転倒・転落を検知し、自動で事前登録先に位置情報付きのメールを送信するシステムもちらほらと出てきているようですが、まずは連絡手段の携帯や家族内での行き先の共有なくして事故の早期発見には中々つながらないと思いますので、ぜひ皆さん実行しましょう。